映像水晶レター
錬と樹が俺の呼び出しに応じて、俺の家へとやってきましたぞ。
「あれ? 錬、樹、こんな所でどうしたの?」
そこにお義父さんまでやってきましたぞ。
やや想定外でしたが、まあ良いでしょうな。
ライバルと一緒に来ていたら俺も冷静ではいられませんでした。
「ああ、なんか元康が俺と樹をそれぞれ言付けで呼びつけてな」
「何なのでしょう? と思いながらやってきたんですよ」
「へー……」
と、錬と樹がコンコンと俺の家の扉を叩きますぞ。
「……返事が無いね?」
「まったく、人を呼んでおきながら何なんですか」
「鍵は掛かって無いみたいだぞ?」
「では、先にお邪魔しますか。何か急用でしょうかね」
錬と樹はそのまま俺の家へと入りますぞ。
室内には俺がテーブルの上に置いた映像水晶と、置き手紙があるのですぞ。
「何ですかね……」
「俺達宛てだな。映像水晶を再生させろと書いてあるみたいだな」
「本当、何なんですかあの方は」
うんざりした口調で樹が映像水晶を起動させますぞ。
すると椅子に腰掛けた俺がユキちゃんを膝に乗せている映像が映し出されました。
『ウェ-イ! 錬、樹、見てるー?』
「……」
「……」
無言無表情で見つめる錬と樹が印象的ですぞ。
「なんだろう。誰か寝取られてそうな台詞だね。間男は元康くんって事になるけど寝取られているのは誰なの?」
「この映像的にはユキさんではないですか?」
「ユキは元康のフィロリアルだけどな。それにしても随分と寝取り男が似合うな」
「まあ元康くんはイケメンだからねー」
『わー何やってるのキタムラーコウも混ぜてー』
『クロもー』
撮影中にコウとクロちゃんが乱入ですぞ。
ちなみに撮影時間は呼び出しをお願いする少し前なのですぞ。
ぴょんぴょんと二人がユキちゃんを膝に乗せた俺に絡んで来ております。
「寝取りビデオから一転してホームビデオになっちゃったね」
「本気で何なんでしょう?」
「訳がわからんな」
『ちょっと今、撮影をしている最中なのですぞ。ちょっと我慢ですぞ』
『イエーイ、尚文様見てますかー?』
ユキちゃんが勇者の中で呼ばれなかったお義父さんに気を遣って呼びますぞ。
「なんでユキちゃんがこのタイミングで俺の名前を? それはどういう意味なのかな?」
「ユキさんに深い意味は無さそうですよね」
「そうだな。間違い無く意味が分かってないだろ」
仕切り直しですぞ。
再度撮影するのが面倒だったのでそのまま継続ですぞ。
『さて、お前達を呼んだのは他でもありません。とある真実を話さねばなりませんぞ。重大発表ですな』
「何なんですかね。僕たちに正面から言わずにいるってどういうことなんでしょうか」
「直接言ってもアイツは何も怖く無いって顔をしてるだろ」
「一応恐いものはあるらしいけどね」
「病んだ女性でしたっけ? 僕達じゃ無理な話でしょうに」
お義父さん達の会話に映像の俺は間を考えて答える等ありませんぞ。
想定しているのは樹と錬がこの映像を見ている姿だけですからな。
『何を隠そう、お前達に国の真実を教えるために暗躍した……ウサギのウサウニーの正体は……』
パッとここで俺はウサウニー姿に変身ですぞ。
『この俺! ウサウニー元康ですぴょん! 錬、樹、この国と仲間の腐った所は身に染みてわかったぴょん? そろそろ頃合いだと思って教えてやったぴょん!』
バーン! っと俺がポーズを取りますぞ。
映像水晶を編集して集中線も入れてありますぞ。
『ウサウニー元康、分身の術ですぞー! シュシュシュシュ!』
そう言って映像水晶内の俺は高いステータスによる高速移動で残像を見せますぞ。
「……」
「……」
『この映像水晶が少しでも面白いと思った勇者のみんな!』
『忘れずにチャンネル登録』
『高評価していってくれるととっても嬉しいぴょん!』
そうして分身を解除し、俺の変化に若干驚いていたユキちゃん達にお出かけの合図を送りますぞ。
するとユキちゃんは察してフィロリアル姿になりましたな。
『それでは俺はしばらく出かけて来るので、さらばですぴょーん! クロちゃん、コウ。後で二人を呼んできて欲しいですぴょん』
『おー……妖のウサギが漆黒の剣士を愛玩の犬に変えた真実を暴露して逃げ去る様を漆黒の爪牙に伝達<メッセンジャー>をさせるー。血塗られた真実<ミステリア>が開示された時、愛玩の犬は本来の姿に戻るー』
『わかったーコウ、カワスミを呼んで来るねー』
『出発ですわー』
『しゅっぱーつ!』
『クロちゃんは錬に内容は内緒にしておくのですぞー。その後、お楽しみですな』
『わかったー闇聖勇者が覚醒して一緒に遊んでくれるだよねー後でキールも誘うー』
クロちゃんにそろそろラフミではなく本物の錬が元に戻るのかもと期待していますぞ。
そんな所で映像水晶に込められた映像は終わりました。
映像を見てお義父さんは顔に手を当てて嘆くように頭を振りましたな。
「いや、登録ボタンも評価ボタンも無いけど……元康くんに動画サイトの決まり文句を教えたの誰だろう」
流れるように手を前に出した樹が弓を引き絞って映像水晶を撃ち抜きました。
粉々に映像水晶が砕け散って消し飛びましたな。
「そうじゃないかとは思っていましたが……ね、錬さん」
「ああ、そっちの姿でやる事をして黙っていたなら見逃してやろうと思っていたがな」
「見逃していたのにこんな挑発までするとは……何が何でも見つけ出し、磔にしましょう」
「ああ! ウサギ狩りの時間だ!」
と、錬と樹は俺の家を飛び出して行ったのでした。
「まあ……最近の出来事からそろそろ何かを白状しないといけないって暗に言われてたのはわかってたけど、こんな挑発をしなくても……」
飛び出して行った錬と樹の背中を見送ったお義父さんが呟きました。
「……」
何やらお義父さんが静かになりました。
それから、室内を見渡してしばしお義父さんは考えてから言いました。
「もしかして元康くん……隠れて見てない?」
おお、よくわかりましたな!
サッと俺は隠蔽を解除して姿を現すのですぞ。
もちろんウサウニーの姿ですな!
「よくわかりましたな、お義父さん! この元康、お義父さんの観察眼に感服致しました」
「うわ、本当にいた。まあ……間違いなくいるだろうなとは思ったんだけどね。元康くんってこういう挑発するならしっかり確認取るタイプだろうしね」
そうですな。
しっかりと錬と樹が見に来ないとこちらも対処できませんぞ。
「ユキちゃん達は別の場所で遊んでいてもらっていますぞ。錬と樹がもしも来たら俺のダミーを背負って走って行ってもらう予定ですピョン」
俺は裁縫が得意なのでぬいぐるみだって作れるのですぴょん。
今頃飛び出した錬と樹が無様にユキちゃん達を見つけて血眼になって追いかけているかもしれないデスピョン。
「そう……なんかガエリオンちゃんがいい加減、白状しろって言ってた意味は分かったけどさ」
「どうでしたかな? 全く意外でしたですぴょん」
「いや、割と元康くんだろうなってみんな思ってたと思うよ。樹だって察していたじゃないか。勇者たちが次々と被害を受けて行った状況下で俺と元康くんだけ無事とか出来すぎでしょ」
「そうでもないと思いますピョン」
気の所為だと思いますピョン。
錬と樹がそんな勘が良いはず無いですピョン。
ならなんであそこまで道化になってしまうのですピョン?




