世襲名
「ちなみに夜景とかも綺麗だけど……星の光しか見えない夜の海とかも綺麗だったよ。なんか引き込まれる魅力があるよね」
ふと、なぜかアークが思い浮かびましたな。
お義父さんが少しばかりアークとの出会いの場所を語っておりました。
確か波で滅んだ世界らしき場所で出会ったとの話で、そこは無数に星のようにいろんな世界が見えたとか。
もしかしたら星空……いえ、宇宙空間のような場所なのかもしれないですぞ。
アークはそんな場所を今も移動していらっしゃるのでしょうか。
ホー君はそんな所を迷わず飛んで行ってしまっていそうで安心なのですが、アークはそういった場所を淡々と進んでいる気がして心配ですな。
「まあ、今日はこれって出来事は無さそうですし僕もそろそろ出かけますかね」
「メルロマルクで大暴れって事じゃないよね?」
「ご安心を、そこまでじゃ無いですよ。昨日の今日ですから羽を伸ばしますよ。どうも尚文さんと一緒に居ると愚痴って甘えてしまうようですから」
「限度はあるけど、甘えても良いんだからね」
「ええ、頼りにしてますよ。それでは」
と、樹は樹で何か決めて出かけて行きました。
「ん? あれ? ガエリオン?」
そんな感じで解散していくと……普段は助手につきっきりのライバルの体に宿った親ですが、今日は不自然に立っていて、俺とお義父さんの方を見て近づいてきますぞ。
……こいつ! ライバルの体に宿った親ではないですな! ライバル本人ですぞ。
長い付き合いなので一発で俺も見抜けるようになったのですぞ。
こんな堂々と目の前に立っているとはどういうことですかな?
というより昨日の姿と違うのはどういう事なのかとか、その成り代わったのかとか色々と言いたくなりますぞ。
「……? 君……ウィンディアちゃんのお父さんとは違わない?」
するとふわっとライバルは浮かび上がりキザったらしく一礼しましたぞ。
「ご明察なの。さすがはなおふみなの。ガエリオンはガエリオンなの」
「いや、名前変わってない」
「そうは言っても継承した名前を名乗っているから同名なの。ガエリオンは槍の勇者とラフミと同じくループしている存在のガエリオンで、このループのなおふみが知るガエリオンの娘、この体の本来の持ち主なの」
「世襲名で別ループの同名人物って事? ややこしいなー」
「どうしても呼び変えるのならガエリオンちゃんと呼んでも良いなの。他のなおふみだとメスリオンとも呼んでたからそっちで今回は名乗っても良いなの。ガエリオンと同名の弟も居たからそっちとの呼び分けだったなの」
「結構ファジーな対応してくれるのね」
「お義父さん! 気を付けるのですぞ! こいつの野望はお義父さんの童貞が目的なのですぞ! 一度奪われてしまったのですぞ」
俺が補足をするとお義父さんが目を細めて俺を見てますぞ。
「あー……何かあると俺に童貞を卒業しろとか騒いでいたのはその子が原因なのか」
「なおふみと相思相愛になったループ以降、既に狙ってねえのに根に持ち続けて幾星霜、いい加減うんざりしてきているなの」
「元康くんに恨みを持たれると根深いみたいだからなぁ」
「近づいては行けませんぞお義父さん! こんな堂々と出て来るとはどういうつもりですかな! もっと準備するのではないですかな!」
「そんな事は言ってねえなの」
一体今回は何を企んでこんな堂々と出てきたのですかな!
なんて思っていると本当の姿のラフミまで出てきましたぞ。
「そんな訳で私の先輩にして槍の勇者の天敵が正式に登場だ。ふふふ……中々に面白いものを見せてもらえたぞ」
やや満足げのラフミがライバルを紹介するように言いましたぞ。
逆にライバルは深くため息をしてましたな。
「な、なにかラフミちゃんから被害を受けてるみたいだね。まあ、そこは良いとして錬やウィンディアちゃんに気付かずに良く一緒に居られたね。というかガエリオンさんは?」
「そこも順序立てて説明するなの。まず剣の勇者……に関しちゃ――」
ライバルは俺とラフミを困った物を見るようにじっと見てから視線を反らしてお義父さんに顔を向けました。
「こっちを説明すると脱線するから後回しにして、成りすます事が出来たのはガエリオンの親から情報を引き出したし長年の蓄積もあるからそんな難しくないなの。むしろ……はぁあああああ」
ライバルは深々とため息をしましたぞ。
随分とテンションが低いですな。
「どうしたの?」
「今回のループ、初手から色々とやらかされているのはこの際大目に見るとして、この案件に関しちゃ本気で気色悪かったとしか言いようがないなの」
「ふふふふ……貴様の状況を理解した時の顔は随分と滑稽だったぞ。飼育されている小型の魔物が大事な巣を飼い主に清掃された時のショックの表情に匹敵する面白さだ」
ラフミが随分と機嫌が良さそうですぞ。
「何そのハムスターの巣を留守中に掃除した時の反応を楽しむ飼い主みたいな言い回しは……何があった訳?」
「そりゃあなおふみ、わかってほしいのだけどガエリオンはループする際、ガエリオン本人が増えるのは好ましくないから色々と調整してガエリオン自身の卵が孵化しない、後で乗り換えられるように細工をしてたなの」
ここでライバルは自身がループする際に、俺を経由して自身の卵が孵化しないように細工をしているという話をお義父さんに語りましたぞ。
卵の魂を引き寄せてから別の場所で孵化するという話ですぞ。
「ああ、ウィンディアちゃんに任せた卵が孵化しないって、君が原因だったのか」
「なの。なのに事もあろうに親がガエリオンの体を使っている気持ち悪い姿を見せられたなの。男親の女言葉に思わず嫌悪感が湧いてきたなの。まったく……ロックを無理やり突破してとんでもない真似をしてやがったなの」
「うーん……思春期の娘の部屋に父親がカギがかかっているのに無断で入り込んで制服とかで女装している現場に遭遇したとかそう言う嫌悪感だろうか?」
うげ……ライバルの事なんて微塵も理解する気はありませんでしたがお義父さんの具体的な言葉に俺も思わず鳥肌というか気色悪さがこみ上げてきますぞ。
何でしょうかな……過去の俺が居た日本で似たようないかれた親がいたような気がしますぞ。
周囲は笑い話にしてましたが、当人の豚と俺は本気であきれ果てる出来事だったようなですぞ。
少しばかりライバルに同情の気持ちが湧いてきましたぞ。
「それで君の親は?」
「そりゃあ隙を見て乗り移って体の支配権を取り返した後に結晶化させて閉じ込めているなの。その際にこの周回で孵化後の記憶をボディから引き出してそのまま継続してお姉ちゃんたちと協力しているって事なの」
と……ライバルは手慣れた様子で親が閉じ込められているらしい結晶を見せますぞ。
「そこにウィンディアちゃんのお父さんが?」
「ガエリオンの親でもある変態なの」
「その辺り、元康くん達にも突かれてるから気にしないでいて上げて欲しいんだけど」
「それでも変態なの。いつまでもお姉ちゃんを卒業できない情けない竜帝なの!」
「うーむ……体の持ち主に怒られてしまった訳だけど……ループしてる事なんてわからないのだから理不尽も良い所なのではないかと思う」
「女言葉を使わないで良いように後でガエリオンが良いように加工してやるから大丈夫なの」
またコンパクト化するのでしょうな。
俺でもわかりますぞ。
ライバルの得意な技術ですからな。
「これの事だろう?」
ポイっとラフミが見覚えのあるコンパクトを出しました。




