恥ずかしさ限界突破
「一体何があったのですか?」
「ああ、メルティ王女が尚文と話をしようとした所で同行していた騎士が正体を現して攻撃をしようとしたんだ。どうも映像を撮って捏造までするつもりだったようだが、手の早い樹がな……」
と、錬の仲間に錬は色々と話しつつ樹へ視線を向けましたぞ。
樹は知らん顔で顔を反らしてますな。
「お前らは随分とラフミと楽しく冒険しているようだな?」
恨みがましい目で錬は仲間たちへと嫌味を言ってますぞ。
「その……事情は分かりました」
嫌味を受けて錬の仲間たちは苦笑してるようですな。
「まったく……こんな事をしている事態ではないだろうに」
サブリーダーらしい奴が嘆いてますぞ。
「何と言いますか、国はレン様とカワスミ様を懐柔出来ていると思い込んで居るからこそ、このような手に出ていると見て良さそうですね」
「ああ」
「その実、愚かな面を前面に見せつけていますけどね。ははは」
樹がずっと軽蔑の目を向けた態度ですぞ。
逆にお義父さんが宥めているくらいですな。
「では……ラフミ様がレン様に変わりこのような事態の収束に動くのですね」
「あれだけ発破をかけられて鎮圧出来るのか見物ですね」
「フッ……俺に任せろ。身勝手な正義<アロガント>は漆黒のキングアゾットがこの国を支配する邪教<スリーセイバー>に真なる制裁<ラグナロク>を引き起こしてくれる」
「おー!」
クロちゃんがキングアゾットの台詞におめめがキラキラですな。
とても楽しんでおられますぞ。
「ラフミちゃん。クロちゃん受けを狙ってよくわかってない単語を連発するのはどうかと思うよ。錬が恥ずかしさで限界突破<リミットブレイク>しちゃうよ」
フルフルと錬がルナちゃんに捕まったまま震えてますからな。
もはや悶絶して顔と耳を隠してますぞ。
ルナちゃんはそんな錬が可愛くてしょうがないという顔で見守ってますぞ。
「くぅ……ガエリオンとウィンディアが役に立たない!」
「あのガエリオンではな」
ライバルが来るのも時間の問題だと俺も危機感を募らせてますぞ。
ちなみにライバルの親は助手と一緒に一応、サーカス内に居ますぞ。
今回の騒動でも馬車を引いてはいたのですが、前に出る前に樹が全て片付けたのですぞ。
「えーっと……勇者様方、本当にご苦労をおかけします」
「此度の騒動、王女様をお送りして誤解だったと証明してまいりますね」
錬の仲間たちは空気を読んで喋ってましたぞ。
「錬様、お土産を持ってきたのでどうかご機嫌を直して下さい」
「そう言いながらなんの骨かわからんものを土産として持って来るな!」
「ではこちらを……」
「骨の形のクッキーを持って来るな! キールじゃないんだぞ!」
錬の仲間たちも本物の錬は完全に犬扱いとなり果てているようでしたぞ。
そんな訳でフィーロたんとラフミ一行に連れられて婚約者は共に行く事になりましたな。
少々心配なので俺も隠蔽状態で同行する事に相成りましたぞ。
「じゃあメルティちゃん。えーっと……錬が来たから城に送って貰うね。剣の勇者の錬なら安心して城に行けるはずだし、フィーロをしばらくお願いするよ」
「はい。此度はご迷惑をおかけしました。迅速に勇者様方の手配を取り下げさせて見せます」
「うん。それは良いのだけど……あの王女が城に居ると思うと不安だなぁ……こっちも手練れを同行させるから危なかったら急いで逃げてね」
「姉上の事ですか? そういえば城に居ませんでしたよ?」
「え? 居ないの?」
「はい」
なんと……赤豚は城に居ないとはどういうことですかな?
「それなら少しは安心だけどいったいどこに……妙な真似をされたら冗談じゃすまないんだけど」
「よくわからないのですが、私が帰国する前に国外へと出たと耳にしてます。どうも……親しい勇者に助力を申し出ると父上には伝えていたようですね」
「……なるほど、道化とはこの事だな」
赤豚の知っている勇者と言ったら間違いなくタクトの事でしょう。
「大方、前回の波後の決闘で懇意にしていた弓の勇者は無様な姿を晒し、盾の勇者には蔑まれ、槍の勇者には罵倒、剣の勇者には見破られた状況……鞭の勇者の元へと走ったという所だろうな」
ちなみに現在はタクト残党処理の為に、タクトが既に勇者では無く世界の敵として処理された情報は秘匿されていますぞ。
赤豚の事ですから寄り道で贅沢しながらフォーブレイにでも向かっているという事ですな。
しかし、それではこれまでのループでの赤豚と動きが少々違う事になりますぞ。
何が原因ですかな?
まあ、お義父さんがこれまで以上に赤豚を煽りましたから、そのような動きをしても何の疑問も無くはないですがな。
考えられるのはエクレアを取引に出したとかでしょうかな?
いえ……樹が割とすぐに消息不明であまり会わなかったとかもありそうですぞ。
錬もラフミが相手をして近寄って来るのを興味が無いとばかりに追い散らしたとかもあり得ますな。
赤豚は愚かですが時々勇者たちにモーションを掛けてうまく誘導できるか確認をしていたのかもしれないですぞ。
それが全て不発となればタクトの元へと行く手はずだったとか……あり得ますな。
「タクト残党の包囲網にどこかで捕まるのが関の山だ。放っておいて問題ない」
「一安心だね」
「実に無様な姿を僕は晒しましたよ! ハハッ!」
「樹も自虐ネタをしない」
「ほらほら、尚文さんの盾ですよー」
樹がお義父さんの盾に引っ付いて自虐し続けてますぞ。
卑屈が極まってますな。
「どうして樹はこんな風になってしまったのか……」
「尚文に甘えてるんだろ」
錬が呟くと樹は冷静になったのか定位置のお義父さんに肩車して貰いましたな。
「さてさて、これで尚文さんへの妙な指名手配は取り下げになりますかね」
「指名手配自体はこの国の女王の命令ですぐに収まるはずだ。何よりメルティ王女が帰還するのでな、キングアゾットの証言もあるので問題なかろう」
「キングアゾット様様ですね」
「樹……お前」
錬が殺気を樹に向けてますぞ。
「何にしても出発だ。王に手土産も準備出来て居るしな。では行こうか。このキングアゾットがしっかりと王の元へと届けてやるぞフハハハ……」
「じゃあごしゅじんさま行ってくるねーメルちゃん。いこー」
そう言いながらラフミはクロちゃんの背に乗り、フィーロたんと共に婚約者は城へと帰る事になったのですぞ。
心配なので俺も隠蔽状態で同行しますぞ。
「ぶー……近くで槍の人の気配がするー」
「フィーロちゃん。大丈夫だから、行こう」
こうしてキングアゾットを先頭に俺たちは移動を始めたのですぞ。
途中で……もう一体、用意していたラフミが合流したのですな。
手土産とは……それですかな? 大丈夫なのですかな?
俺も少々心配になりつつ向かったのですぞ。
「おおおおおお……メルティ! よく無事に帰って来てくれた! 兵士たちが盾の元に向かって行方知れずだとの情報が来てワシは気が気じゃ無かったぞ」
「父上、この通り、私はケガ一つなく帰還することが叶いました。どうか盾の勇者様の指名手配を撤回してください」
「じゃが盾はメルティ! お前の善意を無下にしたのではないか!」
「いいえ、盾の勇者様は陰謀を巡らせて私を亡き者にしようとした騎士から私を守り、こうして……剣の、勇者様に私を引き渡して城に送り届けてくれました」
「フッ……その通り、この俺、美形の剣の勇者天木錬が尚文からメルティ王女を預かって届けたまで」
今の錬がこの場に居たらカンカンに怒りそうなセリフですな。
城までの道中でラフミが化けた錬はイケメン度アップで周囲に色目を振りまきながら城下町を凱旋するかのように通って行きましたぞ。
フィーロたんの背に乗った婚約者を守るように錬の仲間たちも陣形を組んでの凱旋で三勇教の連中も奇襲は完全に不可能と言った様子でしたな。




