婚約者と奴隷商人
「ん?」
この流れは間違いないのではないですかな!?
「なんだ? 城の兵士か?」
キールの発言を錬がしてますぞ。
見た目がよく似てる奴が代わりにしているとは滑稽ですぞ。
「最近有名になっているサーカスキャラバンだな! 我等の姫君が非常に関心を持って謁見を許可したのだ」
聖人行動はアングラでしているのでお義父さんの手柄にはなっておりませんぞ。
どちらかと言えば錬に化けたラフミが色々とやっているのですな。
「姫って……」
「勘弁してくれ。ここであの女の醜悪な所を見せつけられるのか?」
お義父さんと錬がうんざりした口調で馬車の中で呟きますぞ。
樹は目を細めてノーコメントと言った様子ですぞ。
既にあの赤豚に関して見限っているという態度ですな。
嫌々お義父さんは馬車の隙間から相手の馬車を確認してますな。
「姫とは大層な方が私共と話をしてくださるのですね」
「そうだ。身に余る光栄だと思う事だ」
交渉役としてシルトヴェルトの使者が前に出て交渉してますぞ。
やはりというか高圧的な態度とはこの事ですな。
とはいえ……この流れで来る姫ですから赤豚では無いでしょうな。
さすがの俺もここで赤豚と遭遇するとは思いませんぞ。
「元康くん、何か知ってる?」
「一応成り行きを見守ると良いですぞ。姫の名前に注目ですな」
「わ、わかったよ」
お義父さんがそっと戻って来たシルトヴェルトの使者にそう伝達しましたぞ。
「で? そのお姫様とはどんな方で? 名前をお聞きしたい」
「聞いて敬服するがいい。かの御方はメルロマルク第二王女、メルティ=メルロマルク様であらせられる」
やはり婚約者でしたな。
ラフミの態度とタイミングから間違いないとは思ってましたぞ。
「えっと……」
「知らん名前だな。あの王女とは別人か」
「なんか聞いたような気がしますよ。あの王女に反りの合わない妹がいるとか……」
「エクレールさん!」
と、後ろの方の馬車に居るエクレアをお義父さんは呼び寄せますぞ。
そういえばここにいましたな。
メルロマルクに留まった際には獄中死するエクレアが既に保護済みなのですぞ。
ここで顔合わせをすれば話はすんなりになるのでしょうかな?
「普通にサーカスをしているだけで挨拶に来るとはどういう状況なのかわかりませんな」
神鳥の聖人として有名人になっているわけでもないのに三勇教が暗躍して婚約者をこんな所に連れてきているのですぞ。
一体何を企んでいるのですかな?
「確か元康くんから聞いたような気がする……フィーロちゃんと仲いい子とかそういう感じの子じゃなかったっけ?」
「概ね間違いは無いぞ。ああ、陰謀に巻き込まれるだろうからしっかりと守ってやらねば大変だぞ、勇者たち」
ラフミが勿体ぶって注意してきましたぞ。
ムッとする錬と樹ですな。
蚊帳の外とばかりに後ろでは奴隷たちが警戒を強めてますぞ。
というより、これだけの人員がいる中で婚約者の抹殺を画策するとは愚かにも程がありませんかな?
兵士が足りずに徴兵をしている状況、且つ波が近い時期にこんな事件を起こすとは何がしたいのか理解に苦しみますぞ。
一体奴らは何を考えているのかまるで分りませんな。
「この国の姫ですよ?」
「悪い意味で信用が無いよね」
「こと信用に関してだけは俺も問題が無いと言える人物ではありますぞ。あまり理想的な立ち回りをすると発情する可能性がありますが、基本的にはお義父さん達に損な事はしないですし、フィーロたんと非常に仲良く出来る奴ですぞ。ある意味、俺の恋のライバルなのは今でも変わりませんぞ」
「よくわからないけど元康くん並みの変態?」
「尚文……お前も言うよな」
「あの王女の妹ってだけで論外ですがね」
と、樹は否定的な態度で居ますぞ。
「メルティ様が来たと聞いたのだが!」
エクレアがやってきましたぞ。
婚約者の奴は、ちゃっかり馬車から降りてフィーロたんは元よりフィロリアル様方の所へ声を掛けて居ますぞ。
「フィロリアル?」
「んー?」
「ひ、姫様!」
で、フィーロたんの顔に手を伸ばして優しく撫でてますぞ。
そんなフィーロたんは撫でられて気持ちよさそうに目を細めております。
ふ……婚約者よ。そいつはラフミのはずですぞ。
俺が抱き着くとボフっとラフミになるのですからな。
「不思議な鳥の魔物に馬車を引かせてメルロマルクの暗い雰囲気を無くそうと回っているキャラバンが居るって耳にしてたけどやはりフィロリアルなのね」
「んー……ざーこ?」
「お、おしゃべりするの?」
うーむ……メルロマルクに留まったループでサクラちゃんに絡む婚約者のやり取りが思い出されますぞ。
今回はフィーロたんなのですぞ。推定ラフミなのですがな。
「うん。フィーロお話出来るよーこっちのみんなもお話しするよー」
「わー……私、フィロリアルと話すのが夢だったの! もっと……貴方の事を教えて」
「いいよー。フィーロの名前はフィーロ! で、あっちのがコウでねー。あそこで虎視眈々と剣の犬を狙ってるのがルナーあ、なんかリーダーをしてるユキにお話通さないとーユキが五月蠅いんだよーザーコって言ったらすごく怒られたー」
「ザーコって口癖なのかしら?」
「言うとねーラフミがチョコくれるんだよーザーコー」
凄く楽しげに婚約者はフィーロたんとお話してますぞ。
「フィーロはねーごしゅじんさまのお手伝いで馬車を引くのがお仕事だけどみんなで引いてるんだよー」
「そうなんだ? 私は貴方のご主人様と大事なお話があってきたの。これから良い関係を築きたいわ」
「ふーん……」
「ね、ねえ、もっと撫でて良いかしら?」
「良いよー、ルナの方が胸がフカフカだよ。あ、でもごしゅじんさまがみんなの羽毛の手入れしてるからみんなフカフカかなー?」
「それでもあなたを撫でさせて」
「良いよー」
く……ラフミめ! いつまでフィーロたんのふりをしているのですかな?
それともあれは本物のフィーロたんだとでもいう気ですかな!?
「あのフィロリアルが無警戒で集まって来てますね」
「微笑ましい姿を見せてるじゃないか」
「というかルナが俺を狙っている!?」
錬が警戒を強めてますぞ。
それは通過儀礼ですな。
「うふふ……フィーロちゃん、ありがとう。私の名前はメルティって言うのよ」
「どういたしましてーメルちゃん」
婚約者とフィーロたんが楽しそうな雰囲気を纏い始めましたぞ。
「見た感じ悪い子じゃないみたいだし、問題無さそうだね」
お義父さんは馬車から降りて婚約者の方へと行きますぞ。
「その子……フィーロを気に入ってくれたのかな?」
「はい! あ……」
お義父さんがローブで顔を隠して声を掛けると婚約者はハッとなって一礼しますぞ。
「姫様!」
エクレアがワニ男と一緒にやって来て婚約者に向けて敬礼をして頭を垂れました。
「無礼者! おめおめと――」
「やめなさい!」
騎士が間に入ろうとして婚約者が注意しましたぞ。
忌々しいと言った顔で騎士が婚約者を睨んでますな。
「メルティ王女! 私、エクレール=セーアエットは国の命令に背き、王女の前に姿を現す無礼をお許しください」
「此度の件、母上も重く見ています。こちらも言付けを仰せつかっているわ。貴方の処遇に関して不問としますとの事です」
「おお……寛大なお言葉、感謝を申し上げます」
婚約者の言葉に近くの騎士の眉が思いっきり不快そうに跳ねてますぞ。
「その件も大事ですが、本題はこちらです」
と、言って婚約者はエクレアに代表が誰であるのかと視線で合図を送りますぞ。
エクレアは代表とばかりにお義父さんに顔を向けました。
「私の名前はメルティ=メルロマルクと申します。此度はこのような場所での訪問になってしまった事、どうかご容赦ください」
今回の周回ではお義父さんが理想の勇者として良好過ぎる関係を築かせないようにしなくてはいけませんぞ。
まあ、お義父さんはサーカスを運営していて奴隷たちの世話をするので苦労してますから、あの時のような王子様的な立ち振る舞いはしなくて良いでしょうから大丈夫でしょう。
今でも思い出せますぞ。
お義父さんに恋する乙女な顔をしていた婚約者の姿ですな。
おいラフミ、まさかお義父さんを婚約者で童貞を卒業させようなどと考えてませんかな?
絶対に阻止して見せますぞ。
フィーロたんは元よりお義父さんまで婚約者になどやれませんぞ!




