旗を刺す場所
樹が何を言っているんだ? って顔でお義父さんを見てました。
何がおかしいのですかな?
『使い終わったら精製しなおしてから石鹸にするからお風呂入る時に使ってね』
『……そうですか』
こうやって作るんだよーっとお義父さんは鍋に水を少し入れた後、どんどん魔物の脂身を投入して大量の油、ラードを確保しておりました。
さすがの俺もラードの確保はドロップ品か店で購入するしか知りませんでしたぞ。
ちなみに最初の世界のフィーロたんも馬車の減摩剤の材料にお義父さんが作っていた魔物脂を使っていましたぞ。
ああ、お義父さんが作った食べる魔物ラードはご飯のお供にピッタリでしたぞ。いろんな食材と挽肉が入った代物でした。
「油なんて食材次第で作れるよね。バターに始まりラードとか……油成分が多い目の種があるならそれでも作れるし」
「そんな息するように普通に作るものか疑問ですがね」
「出来立てならラードとか風味も良くておいしいけど冷めたら味が落ちるからなー……結局は相性だよ」
「油は錬金術とかでも使われるから売れるさね。ね? ラーサ」
「そうさね……はぁ」
「美味しい料理の能弁を聞きたいのに妙な所に話が飛んで行きましたね……」
「さてー後はー」
お義父さん達の料理は続きますぞ。
大きな皿にゾウを模した料理が出来たように今度は白黒のうつ伏せで寝転がっているパンダの姿が形作られて行きますぞ。
これは餅かゼリー……いえ、お団子ですかな?
プルンプルンですぞ。
「ハイ完成! たれラーサさん」
「おープルンプルーン!」
フィロリアル様たちが揃ってプルプルとしているパンダを模した料理に目が奪われてますぞ。
「はいはい! ったく……よくやるさね」
「ここに可愛いリボンを頭に載せるとあら可愛い」
「こっちはサーカスの衣装バージョンさねー」
と、何個も作られて、みんなのテーブルの上に運ばれて行くのですぞ。
ゾウの時もよく出来てましたがパンダも中々の作りですな。
しかもプルッとしていて口当たりはとても良いのですぞ。
白い部分は……ミルクかと思いましたがライスプディングっぽいですぞ! ですがドロッとはしていません。
中にも具が入っていて味わいが深いですな。
実に不思議でありながら味がとても良いのですな。
俺だったら不味くなってしまう組み合わせなのに不思議と美味しいのですぞ。
さすがお義父さんですぞ。
黒い所は……甘いですな。こちらは何でしょうか……コーヒーゼリーかと思いましたが黒蜜のような味な気もしますぞ。
総じてよくわからないですがとても美味しい料理なのですぞ。
「おーいしー!」
「ふむ……凝った作りで目を楽しませてくれる」
「赤いソースを途中で付けて食べると見た目悪そうですね」
「笑えない冗談はやめてくれ」
「ヴォフー」
と、各々好評なようで何よりですぞ。
「ふむ……」
ペチンペチンと樹が尻の部分を何度もスプーンで殴打してますぞ。
その度にプルンプルンとパンダを模した料理が揺れますぞ。
「尚文さん。ウサギ型に出来ませんか?」
「叩きたくてしょうがないって感じだけどさ……そのデザインで出すと上から叩き潰して粉々にしそうだよね?」
「いえいえ、こんな感じに殴打を繰り返したいだけですヨー」
「いい加減食べるか捨てるかしてほしいさね。何回アタイを模した奴の尻を叩けば気が済むんだい」
パンダが不快そうに眉を寄せて樹を注意してますぞ。
「ではストローに刺して啜るのはどうですかな?」
半液体なところがあるので中に具もあるので美味しいですぞ?
俺の台詞に何故か周囲の者たちの顔が凍り付きましたぞ。
「何言ってんだいアンタは!? 何処に刺す気さね!」
「何処って背中辺りにブスっと突き刺すと良いのではないですかな?」
「あ、元康くんは何とも思ってない反応みたいだね」
「ほう……ここは刺す所など一発ではないか」
と、突如ラフミが現れましたぞ。
「余計な一言を言うためだけに姿を現しましたね!」
とか言いつつ樹はスプーンでペシペシと叩いてますぞ。
「フ……それが私だ。槍の勇者よ。面白い事を先に言ったではないか、褒めてやるぞ」
「俺が何を言ったのですかな!?」
何か妙な事を俺は言いましたかな?
「そうだ! 子供向けにこの手の料理に刺すのはここに決まっているだろう?」
と、ラフミはパンダの頭の部分にお子様ランチ等の旗を刺しましたぞ。
「どうだ? 子供にはこれがピッタリだろう? 私のオリジナルもこういうのが好みだ。おや? なんだ? 他の所が良いとでも思ったのか? おい、どこを私が刺すと思った? 言ってみろ、ホラホラ」
ラフミがパンダや樹に挑発気味に尋ねてますぞ。
「こいつ……」
「実に性質が悪いですね」
「そう思うならいい加減、遊ぶのをやめな!」
「しょうがないですね」
樹がそのまま普通にスプーンで食べ始めましたぞ。
「これは酷い……また作る場合、無難に切り分けてから出すのが良いか」
「ではさらばだ! フハハハハ!」
と、お義父さん達が作った食事の時間でした。
「ギャウ」
奴隷売買の馬車は雰囲気でフィロリアル様は引いてくれないのでライバルの親が引く形になりましたな。
お義父さんと怠け豚が奴隷売買担当で他に魔物商の配下がお付きをしますな。
時々、護衛と商品見本としてワニ男やウサギ男がついて行く事もありますぞ。
今回は俺も気まぐれに同行ですぞ。
「今日の相手は貴族ですか? それともどこぞの商人で? 何処に行くのか教えてくれませんかね」
樹が興味があるとばかりに出かけようとするお義父さんに尋ねますぞ。
「今教えたら後で乗り込みに行きそうだけど……」
「いえいえ、参考程度ですよー」
激しく棒読みで樹は答えました。
顔が明後日を向いてますな。
「乗り込んだ現場に尚文さんが居たら気まずいですからね。今夜は下調べ程度にしますよ」
「結局する予定なんじゃないか……」
何だかんだ樹は立ち寄った町々で貴族や商人の屋敷に忍び込んで亜人獣人を拷問していないか等を観察しているのですぞ。
完全に黒だと判断すると天誅とばかりに仕留めて奴隷を連れて来るのですな。
最近では正体不明の貴族殺しとしてメルロマルク内で賞金が掛けられているようになったとの話ですぞ。
もちろん保護した奴隷はシルトヴェルトやゼルトブルへと転送するとの話ですがな。
樹曰く、不愉快だからやりたいようにしているだけだそうですぞ。
お義父さんはため息をしながら今夜回る屋敷や商店を樹に教えて居ましたぞ。
「じゃあ行ってくるよ。樹、出来れば良い子にしててね」
「子ども扱いしないでください。僕は僕がやりたいように行動するだけですよ」
「錬、こう……エミアさんやキールくんとで樹を説得できないかやってみて欲しいんだけど」
「なんで俺がそんな真似をしなきゃいけない。それは尚文、お前がする事だろ」
「あんな事のあった樹の矯正とか無理でしょ……前の樹なら話し合いでどうにか出来たけどさ」
もはや樹は世界を憎んでいるとばかりにメルロマルクの貴族連中を暗殺するのに夢中なようですぞ。
もちろん亜人を拷問しているかどうかの判断をしているようですがな。
「知ってますか? メルロマルクの貴族は女性が多くて、部下に亜人を拷問させて苦しむ様を微笑んで聞いているんですよ? 僕が見た中でも特に反吐が出たのがレストランのような場所で叫び声を食事のBGMにしている貴族が居ましたからね」
「店内BGMが拷問で苦しむ声とか嫌だなぁ……」
耳障りが非常に悪いのは間違いないですぞ。
豚の鳴き声を聞きながら飯を食うようなものですからな。
「ウサギの亜人や獣人を苦しめながらウサピル料理を食べる気持ちは理解出来ますけどね」
樹は見送りに来ている獣人姿のウサギ男に視線を向けつつお義父さんに言いましたぞ。
ウサギ男は眉を寄せながら樹を睨みましたな。
「樹、その辺りは恨みがあるのは理解するけどダブルスタンダードになりかねないから程々にね」
「さすがに冗談ですよ。この前は尚文さんに色々と厄介になってしまいましたね。メルロマルクの連中は何処まで腐っているんでしょうね……亜人獣人、拷問パーティーなんて開いて……呆れましたよ」




