鞭を弾く筋肉
「ああ、まあね……なんていうのかな……一度は廃止したシオン達に鞭打ちをする始まりのショーなんだけどさ。シオン達が屈強になりすぎててエレナさんの鞭打ちだと嘘臭くなっちゃって来てるんだよね」
ホラ、とお義父さんが怠け豚とむち打ちをされるワニ男たちを指さしますぞ。
確かにそうですな。ワニ男たちの筋肉が盛り上っている所為なのか鞭打ちしても筋肉の守りで弾かれてしまっていますぞ。
痛がっているような演技をしていますし、鞭に仕込まれた血糊で赤くはしてますが傷跡がほぼ無いので目の良い者は怪しんでしまうでしょう。
「うん。テオなんてさ、デモンストレーションを獣人姿でやった時なんて毛皮が防いじゃって赤く毛皮に色がついちゃっただけだからショーの最中は亜人姿になって受ける事になっても尚、鞭打ちでダメージが無くなっちゃってね。ヴォルフに至っては勇者だからなぁ」
ウサギ男はフィーロたんに蹴られる大任を任せた影響もあってタフにしておきました。
その影響ですぞ。
「確かに茶番をしてますね。演目自体に反吐が出ますが……騙しているという姿なので僕としては笑えますよ……騙しきらないとこっちが面白くないですよ」
樹は相変わらずの人間嫌いの様ですぞ。
「怠け豚の強化をしなくてはいけませんかな?」
「エレナさんもLv上げさせたんだけど、三人の成長がね……成長率を上げて意図的に低Lvにして誤魔化してたんだけど限界が来てるよ」
完全に茶番だと見破られるのも時間の問題のようですぞ。
うーん……と、お義父さんは悩んでおりましたぞ。
ワニ男たちもこの演目に執着しているのですかな? お義父さんに鞭打ちして貰えるご褒美という事なのは理解できますぞ。
何よりメインで出演できる演目だし、愛着もあるという事でしょうかな?
「僕に注意していた彼が本気で打ち込む演技ですね。結構真剣に鞭打ちされる練習をしてましたね。鞭打ちをしている彼女の攻撃力をもっと上げてあげないといけないでしょうか」
元々お義父さんはこの演目を減らす方針ではあるのですが、やらないとメルロマルクでは引き込めないとの事で行われていたのですな。
「シオン達にはこの演目から降りてもらうのが良いんだろうけど、それはそれで嫌な顔させちゃうから別の演目に参加させないとなぁ」
「難儀な物ですね……まあ、鞭打ちに関して僕も色々と助言は出来ますが、彼らも元々慣れたものでしょう」
「まあね……テオもシオンも経験済みだからなー」
「この演目を残すとして、他に担当を作るとしたらいったい誰が適任でしょうかね……」
「とか言いつつ樹、拍手して心の底から笑っている人の顔を殺気が籠った目で脳裏に焼き付ける作業をそろそろやめてくれない? 夜中に殺しに行きそうで怖いよ」
「ハハハ。よくわかりましたね」
「……冗談にしてね? 本気でやられるとこっちに容疑が掛けられちゃうから」
お義父さんが樹の扱いに困っているようですぞ。
何処までお前はお義父さんの手を煩わせるのでしょうかな?
「ブヒィ! ブヒブヒ!」
ん? 怠け豚が両手を上げて何か宣言をすると観客席の方に魔物商の配下が石の入った籠を持ち込んできて観客に売りつけておりますぞ。
その石を腕に覚えのあると言った連中がワニ男たちに向かって投げつけてましたな。
ゴスっとワニ男たちに投擲された石がぶつかっていきますぞ。
「エレナさん、アドリブで上手い事煽ったなぁ……まあキールくんたちの演目用に用意した奴でもあるんだけど」
「みんなで石を投げろーって奴ですね。実に胸糞悪い。皆殺しにして良いですか?」
うぐ……お義父さんをどこまでも追い詰めたループでの記憶で俺の胃から吐血してしまいましたぞ。
ああ、あのループのお義父さん、申し訳ありません。
いずれ俺が贖罪に……行けるのでしょうかな?
「デストロイですぞ」
俺の罪を償いたい気持ちが湧いてきたのでここは樹と一緒に暴れるのも悪くないですな。
「だからダメだって」
「こんな演目で喜ぶ連中が腐っているんですよ。滅ぼすのが世界の為ではないですか?」
「元康くんはともかく樹、発想が物語のラスボスとかになってるって」
世界の為とか言いながら虐殺を推奨する敵とか物語に多いでしょ?
と、お義父さんが仰ってますぞ。
確かになんかそのような話を俺も日本に居た頃に見たような気がしますぞ。
「それでも良いと思いますけどね。そうですね……無難に行くなら尚文さんが援護、補助ですかバフを掛けて僕や元康さん辺りが奴隷たちにデバフを施せばそのまま行けるのではないですか?」
「ああ、なるほど……確かにその手が無難かな。デバフに対する耐性とかもシオン達は結構あるけど樹が本気になれば掛けられなくは無いだろうし」
お義父さんは援護が得意なのですぞ。
まだカルミラ島には行ってませんが攻撃力を引き上げる魔法の習得は出来るでしょうから、しっかりと強化した補助を怠け豚に施して置けば当初の想定通りの演目に出来るでしょう。
「後で実験をしてみるかな。樹、手伝ってくれる?」
「あまり協力はしたくないですが厄介になっていますからね。良いですよ」
「お義父さん、俺はダメなのですかな?」
「元康くんがデバフ掛けれるなら良いんじゃない?」
「適性は無いですが遠回しに使う事は出来ますぞ。そもそも樹も適性外では無いのですかな?」
確か樹はカルミラ島で学ぶ魔法がお義父さんのオーラの反対であるダウンだったはずですが、樹自身の適性は風と土だったはずなのですぞ。
「僕も管轄外ではありますが能力ダウン系の方は属性魔法で覚えやすかったんですよね」
「錬は補助の適性あるらしいけど、アップ系だったはず……まあ防御ダウンでシオン達が多少ダメージを受けるように出来れば良いだけかな」
そういえば錬は補助が適性にあったのですな。
ふむ……ふと思うのですがお義父さんが能力ダウン系の魔法を使う姿が思い浮かびませんな。
上げるのが得意でも下げるのは苦手だったのかもしれません。
いえ……カルミラ島でオーラを習得した後はとりあえずこれで良いとお義父さんは認識していたのかもしれませんな。
ダウン系は相手が抵抗すると掛かりが悪いと言えば悪いですぞ。
樹のダウンはその点で強力だったのもまた事実なのですぞ。
なんて改善点の提案をしながらショーを俺たちは見ておりました。
そうして最初の演目は終わり、次々と次の演目に移って行くのですぞ。
ちなみに最初は虐待ですが後半の演目に成ればなるほど人間と亜人が仲良くやらないと出来ない演目になっていくようにお義父さんがプログラムしております。
という訳で次の演目はパンダによるナイフ投げですぞ。
「ふわぁあ……出番だねぇ」
片方の目の模様を星にさせたパンダがピエロの衣装で俺たちの横を通って行きますぞ。
サーカスに参加してからだるそうにしている時が非常に多いパンダですが、仕事と割り切ってやる時はやるスタンスですぞ。
思うのですが今回のお前は怠け豚並みにサーカス内で昼寝してませんかな?
とは思ったのですがどうもお義父さんが癒し枠として休んでいるパンダを背もたれに作業をしているかららしいのですぞ。
祖父や養父の監視を切り抜けてだらけられるのが習慣化しているとの話ですな。
もちろん、祖父と稽古には毎日付き合わされているとの話ですぞ。それ以外は休んで居たいのですな。
「ラーサさん。頑張って」
「失敗なんてしないさね」
もはや日常とばかりにパンダは軽く手を振ってノシノシと歩いて行きますな。
で、的に括り付けられるのは日替わりの奴隷たちですぞ。
時々キールなども出演しますな。
表に出たパンダは喋る事はしない様に指示されているのでそのまま身振り手振りで観客にアピールをしますぞ。
照明がパンダに当たってそのまま前転やバク転をしながら会場の真ん中に立って手を広げている間に後ろの方で大きな的とその的に括り付けられた奴隷が運び込まれてきましたぞ。
今日は……パンダの配下がやるみたいですぞ。
パンダは更に大きな玉に乗ってフラフラしながらナイフ投げをするのですぞ。




