ざぁこ
「ヴォルフ、昨日は何をしてました? 岩谷様の所に行ってませんよね?」
「昨日はシオンの順番、俺は夜の見回りに行ってたし、途中までテオと勉強してたの忘れてる? ヴォフ?」
ウサギ男はヴォルフの返事に考えるように顎に手を当ててましたぞ。
「やはりあれは夢だったという事で良いのでしょうか……しかし、うーん……」
ラフミの誤魔化しが不十分なのですぞ!
「俺が女体化とか寝言は寝てから言おうね、テオ」
「ヴォフ! 女体化!? そんな事しなくても良い」
ん? っとお義父さんはヴォルフを見てましたぞ。
こいつは何を抜かしているのでしょうかな?
「樹! 尚文! 元康! 無視するなぁあああああ! お前らぁああああ!」
と、ルナちゃんに可愛がって貰っている錬のやかましい声がライバルの親と助手との攻防で聞こえてましたぞ。
もはやウサギ男やヴォルフでさえもスルーですぞ。
日常ですな。
「原因は不明だけど樹、尻尾が治って良かったね」
「元々所持していなかった部位なんでどうでも良いですけどね」
「尻尾を回転させて飛べるようになるのかな?」
「尚文さん、貴方は僕を何だと思っているのですか?」
「え? 元康くんが槍を回転させてヘリコプターとかやってたりするから樹も出来るのかなーと」
「そこの訳の分からない方と一緒にしないでください!」
そういえばお義父さんはリスーカになった樹に尻尾で飛べないかと聞いてましたな。
むしろ火炎放射で飛んでいるのが印象的でしたぞ。
ちなみに最初の世界のお義父さんはラフ種の尻尾でヘリコプターとかできないか期待していたような話があった覚えがありますな。
お姉さんも飛べないか見ていたのですぞ。
「まあ、リスの尻尾は木登りやジャンプの為にあるらしいから上手く使えるようになると良いと思うよ」
「はいはい。しかし……ここにきていきなり生えるのは実に不自然ですね……」
等と述べながら樹は尻尾が再生したことに関して警戒はしつつ深く調べる事はありませんでしたな。
まあ、調べるだけ無駄なのですぞ。
「あれー? 尻尾治ったのー?」
コウがここで樹の尻尾に気づいて近づいてキョロキョロと確認してますぞ。
その様子にお義父さんはコウと俺を何度も見てましたな。
「ええ、なぜか治りましたよ。これで満足ですか?」
「よかったね!」
コウが満面の笑みで樹に我が事のように喜んでおります。
そうでしょうそうでしょう。だからこそ治してやったのですからな。
「……優しい方の様ですね。そのまま大きく……いえ、ここなら心配するまでもないでしょうね……」
「またケガしないように今度は注意しないとね」
「そうですね。まあそんな真似をするような奴は迷わずぶち抜きますが。貴方も僕の尻尾が目当てですか?」
「食べないよー」
「食べる気ですか」
樹はコウにも敵愾心を持ってますぞ。
そんなつもりはコウは微塵も無いのに当たりが強すぎですぞ。
助けることが出来なかったお義父さんのような警戒心が強すぎですぞ。
「あ、でもフィーロがね、ラフタリアちゃんの尻尾を美味しそうって言ってたからカワスミも美味しそうって言うかもー」
「所詮はフィロリアルですか。返り討ちにしますよ」
「大丈夫だと思うよー。エルメロとリファナがねーダメって教えてたー」
ゾウとお姉さんの友人はコウにしっかりと教育をしてくれる方々なのですぞ。
なので安心ですな。
「リファナはねー尻尾食べたいなら手羽先をくれたら良いよって答えてねーみんなブルブルってなったんだよー」
助ける事が出来なかったお義父さんが育てた際のお姉さんみたいな返事をお姉さんの友人はしますな。
フィロリアル様の教育の為に必要なやり取りなのでしょうが恐ろしい話なのですぞ。
お義父さんを怒らせるよりも温和な方法なので我慢ですな。
「あ、でも最近のフィーロはなんかぼーっとしてるからそんな事言わないかも?」
「何にしても要警戒ですね。エミアさん達は守りますからね」
「うん。大丈夫だよーコウが守るよ?」
「任せますよ。何をするにしてもあのような優しい人たちに危害が及ぶような事が無いようにしないといけませんからね」
「おー。カワスミと頑張るー」
と、コウは樹に妙に絡むようになっているのですな。
「樹、俺もルナの被害から守ってほしいんだが?」
錬はルナちゃんに抱えられたまま何やらぶちかましてますぞ。
ルナちゃんは錬とキールを愛でているだけなのですぞ。
「なんか賑やかを越えて騒がしい次元になっちゃってるなー……」
「そうですね。もう少し静かにできないのでしょうかね。勇者様方は」
「原因はフィロリアル達だヴォフ」
「騒ぐ錬と樹が悪いのですぞ」
「……訂正、ヴォフ」
何やら無言でウサギ男とお義父さんが頷いてました。
朝から樹と錬は騒ぎ過ぎなのですぞ。
フェアリーモーフ姿だからと言って大げさすぎですな。
「さてと、今朝のこっちは俺の担当だから料理を頑張らないとね。元康くんはルナちゃんを説得して錬を解放させてあげてね。ヴォルフとテオは他の子達に朝の点呼、後は――」
と言った形で朝の時間、お義父さんの指示で騒動はすぐに静かになったのですぞ。
お義父さんの命令ですからな……ルナちゃんを説得するのに苦労しましたぞ。
それから時間が過ぎた昼過ぎですぞ。
「ちょっと元康くん」
ショーが始まるのは夕方からなのでまだ時間がありますぞ。みんな各々作業や練習をしている。そんな時間にお義父さんが俺を呼びに来ましたぞ。
ちなみに樹はLv上げとばかりにお義父さんの提案でゼルトブルの方でモグラ達と狩りに出たそうですな。
ユキちゃんはサーカス内で芸をするフィロリアル様の練習のお手伝いをしてますぞ。
今はゾウと一緒に歌の時間なのですぞ。
それとも俺がウサウニーである事を探りに来たのでしょうか。
どうしましょう。お義父さんと言えど時が来るまで話せませんな。
「はいですぞ。どうしましたかな、お義父さん」
「えっとさ、元康くんが認知しているかわからないから確認にちょっと来てくれない?」
「わかりました」
何やらよくわかりませんがお義父さんの案内でついて行くと……。
そこにはフィーロたんがおりました! そしてそのフィーロたんの前の岩に腰かけているラフミがおりました。
このフィーロたんは本物でしょうか。それともラフミなのですかな?
「ざーこ、ざーこ?」
「煽りが足りんな。小さい『ぁ』を入れろ」
「ざぁこ、ざぁこ?」
「よし」
ピン! っとラフミが指を弾くとチョコレートの破片がフィーロたんの元へ飛んでいき、それをフィーロたんはパクっと食べました。
「わーい!」
「ほれ、もっと練習をするのだ。今度はもっと相手を小ばかにしたように言うのだぞ」
「わかったーー! ざぁこ、ざぁ~こ!」
「いいぞ、その調子だ」
「何をしているのですかなー!」
よりにもよってフィーロたんに妙な事を教えて居ますぞ。
昨夜の件でウサギ男を誤魔化すのに協力をしてくれたのは助かりましたが、フィーロたんになんてことを教えているのですかな!
「ああ、やっぱり元康くんは把握してなかったんだね。ラフミちゃんがフィーロちゃんに妙な芸を仕込み始めたなと思ってさ」
「ラフミ! フィーロたんに何を教えているのですかな!」




