ステルスウサウニー
「スーパー樹とか巨大化できそうなデザインのキノコだね……それでも毒キノコみたいだよ」
「キノコ大好きか樹」
「ちなみにキノコって栄養はあるけどカロリーは無いからサバイバル時にはあまり良い食材では無かったりする」
「尚文、お前も妙な豆知識を知っているな。猟師から教わったのか?」
「ううん? ネットで聞いた知識。だから聞きかじりだよ」
お義父さんは博識ですな。
何処でも生きて居られそうではあるのは間違いないですぞ。
「なんか当たりが強くなった弓の兄ちゃんだな」
「この国で色々と辛い経験をしてるんだよ。キールくんからみんなと仲良く出来ないか取り持ってくれない?」
「わかったぜ。ひどい目に遭ったならみんな覚えがあるし話が出来ると思うぜ」
お義父さんがキールにお願いして樹を奴隷たちの輪に誘って色々と経験談をみんなで語り合ったようですぞ。
樹は拷問を受けた影響でお義父さんの奴隷たちへの仲間意識が芽生えて行ったようですぞ。
「で、樹もここに厄介になるんだ。尚文が国内でサーカスをしているのは知っているな?」
錬が妙に親し気にウサギ男からやっと降りた樹の肩に手を回しますぞ。
「一緒にある演目に参加しよう。何……簡単な綱渡りだ」
「錬……君って子は。今の樹に出場はさせられない演目だよそれ……下手にさせようものなら客席に何をしでかすかわからないんだからさ」
「なんだと! 樹、何があっても大人しくしろよ」
「錬さん、僕に何をさせようとしているんですか!」
さすがの樹も不穏な気配を察したのか露骨に嫌がって居ますぞ。
「ならばしょうがない! 行け! ルナ! 樹をモフモフにするのだ!」
「わーい!」
ルナちゃんが錬の命令を受けて錬とキールを抱き上げますぞ。
「おわ!? ルナちゃん、剣の兄ちゃんに言われた事聞いてるのか?」
「おい! 俺とキールじゃない! そこに居る樹にやるんだ! おい! ルナ、聞けええええ!」
ノシノシとルナちゃんは錬とキールを抱きしめて頬擦りをしてからギュッと抱きしめて歩いて行ってしまいますぞ。
「どこへ連れて行く気だ! 早く! 早く樹を抱きしめろぉおおお」
完全に樹を盾にしようとした流れですな。
「錬……なんだか可哀そうになってきたよ」
「一体なんなんですか……随分と愛でられているようですが」
「ルナちゃんは錬とキールくんがお気に入りのフィロリアルでねー……」
「黒い子に絡まれてませんでしたっけ?」
「クロちゃんは……錬に化けたラフミちゃんの方について行っちゃってね。錬の仲間と一緒に活動してるよ」
樹に錬の現状をお義父さんは説明しましたぞ。
「そうですか。錬さんは随分と贅沢な悩みのようで……」
「勇者は平等にひどい目に遭うべきだとか思ってない?」
「思ってませんよー」
樹の棒読みな返事にお義父さんは深くため息を吐きましたぞ。
「尚文さんを糾弾した件は、僕が一番悪いのはわかりましたよ。その報いとは言いません。単純に錬さんを羨ましいと思うだけです」
「隣の芝生なんじゃないかなー……」
「どうでしょうね」
「んー」
そこにトコトコとコウがやってきましたぞ。
「みんな、お話終わったー?」
「終わりましたわ。とても大変な経験をしたというお話でしたわよ」
「そっかー」
今まで黙っていたユキちゃんが説明した所でコウは樹の前まで来て顔を下げて樹をキョロキョロと見て居ますぞ。
「なんです? まさか錬さんみたいに僕に興味を持って誘拐しようとでもする気ですか? させませんよ」
警戒する樹にコウは半分に切断されている尻尾を可哀そうな者を見る目で心配そうに翼を添えて聞きますぞ。
「大丈夫? その尻尾、痛かったでしょ?」
ふとここで、シルトヴェルトに行った、シルドフリーデンの復興に尽力した俺の為にライバルの生贄となってしまったお義父さんのループでのコウを思い出しましたぞ。
確かあのループのコウは迷子になったリスの獣人を心配して親に届けるような優しい成長をしたのですぞ。
ゾウがコウに色々と思いやりを教えてくれたお陰なのですな。
思えばリス繋がりで樹を心配しているのですな。
あのコウが樹の心配をするとは……ですぞ。樹のもさもさの髪に興味津々で最終的にお義父さんに叱られてしまったループもあるというのに、樹に思いやりの気持ちを抱けるのは良い成長ですぞ。
やはりゾウは良いゾウですゾウ。
「そりゃあ死ぬかと思う程痛かったですが今は別に痛くはないですよ」
「でも辛かったでしょ。痛いのによく頑張ったね。偉いー」
コウが樹の頭を撫でましたな。
本当、フォーブレイに向かった時のコウとは全く違う反応ですぞ。
「子ども扱いしないでください!」
「んー? でも尻尾ー……」
コウは樹のちぎれた尻尾が非常に気になるご様子で、遭遇する度に声を掛けるので樹にウザがられるようになってしまったのですぞ。
「とりあえず樹はここで厄介になるとして……賞金首になってるからどうしたもんかな。何かあったらとりあえず姿を隠すようにしてくれると助かるよ。うちは本当、よく監査が来るからね」
三勇教が常時目を光らせてテント内に人間の奴隷が居ないかを確認に来るのですぞ。
基本的にすぐに出荷するのでいませんがな。
そして樹は現状、人相書きが出ている賞金首という事になるのですな。
まあ、リスの獣人という扱いなだけなので確定は難しいと思いますがな。
「協力者という意味では助かりますからね。場合によっては尚文さん達の安全な拠点とやらに隠れるとしましょう」
そんな訳で樹とリースカ、モグラが新たに加入することになったのですな。
リースカもキャラバンに馴染むように活動するようになり、メイド服を着こみ、樹の身の回りの世話をしているそうで夜になると仕入れた情報から樹の出撃のサポートを行うのだそうですな。
そうして三日ほど過ぎ、コウが心配するのを非常にウザがるので俺も一肌脱いでやることにしました。
草木も眠る丑三つ時ですな。
お義父さん達がしっかりと就寝するのを確認した俺はキャラバンの仮設テントの一角、樹に割り振られた寝床へと……入り込むのデスピョン!
ウサウニー姿に変身してクローキングランス等を駆使しながらのステルス行動ですぞ。
時々見張りとばかりに交代で奴隷たちが出歩いているので注意が必要ですな。
道中……。
「うふふー……可愛い」
ルナちゃんが寝ている錬を抱っこしてキールの寝床へと連れて行く光景を目撃しました。
どうやらまた捕まって運ばれている様ですな。ライバルの親と助手が居たはずですが今晩はルナちゃんの勝利だったようですぞ。
ちなみにお義父さんは早めに就寝するようにお願いしているので既に休んでもらっております。
今夜はワニ男が補佐をしていたのでしたかな。
「こんばんはですぴょーん」
そんなこんなで樹の寝床に到着ですぞ。錬の寝床も近くにあるのですがルナちゃんにお持ち帰りされたので空きスペースですぞ。
「ん……んん、ああう……うう……」
樹の妙な寝言が聞こえますな。
「お邪魔しますデスピョーン」
小声で樹に挑発デスピョン。
バッと起き上がったら多少は相手をしてやろうかと思いましたがぐっすりと就寝しているようですな。
ふふ……もしも最初の世界のお義父さんでこんな事を言おうものなら即座に跳ね起きそうですぞ。
樹、警戒が甘いのではないですかな?
おや? 脳内で最初の世界のお義父さんが「喋ってないだろ、嘘を言うな」と指摘してきましたな。
そうですな。口パクに近いくらいに非常に小さな声で言いました。
ほら樹、お前の探しているウサウニーは目の前に居るデスピョン。早く気配で起きないと大変ですピョーン。
ベロベロバーと変顔をしていましたが樹は全く起きる気配はしませんな。




