モグラの巣穴
「何!? そんな文字がどこにあるのだ?」
「ここですぞ」
装飾のように見えて文字になるような模様が刻まれているのに気づきましたぞ。
ただ、この文字は見覚えがありますがポンと読める文字ではなかったのですぞ。
俺はそっと文字になる所を火の魔法で軽く焦げ目をつけてエクレアに見せてやりました。
「これは……シルトヴェルトの文字に見える……」
「こんな文字が隠されていたのか……知らなかった」
「ふむ……領地の……民の為の秘密を、この額縁の中に――」
「何か地図があるのか?」
「かなり小さいがよくよくこの図形を見ると父の領地を模した形になっている。ここに穴が意図的につけられていると考えると……ここだ」
額縁の一部をエクレアが細かく確認するとどうも場所が分かったようですぞ。
全く知りませんでしたぞ。
もしもですな。もしもお義父さんが奴隷としてワニ男を購入していたループだった際、エクレアなりワニ男と一緒にこの謎に遭遇したらこうして調査に行くことになるのかもしれませんぞ。
「確認に行こう」
「わかった。まずはイワタニに報告しよう」
「俺が居ますぞ? お義父さんに頼る案件ですかな?」
お忙しいお義父さんに声をかけるほどの問題ですかな?
ワニ男とエクレアは俺をチラッと見ましたがすぐに視線を戻しましたぞ。
「父はシルトヴェルトとの友好を望み、亜人と融和政策を進めていたのだ。盾の勇者であるイワタニ殿がこの件に関わるのは重要な意味を持つだろう」
「そういう訳だ。まずは確認をする」
ううむ……とりあえず必要な事らしいですな。
そんな訳でエクレアはお義父さんに相談に行くことになったのですぞ。
「何かエクレールさんのお父さんが残した秘密があるんだって?」
「ああ、父が何かあった際に言われた事があったのだ。どうも記されている文字と小さな地図が仕込まれていたようで……」
「へー、いざって時の準備はしてたんだね」
「俺にも見せて欲しいのですぞ」
エクレアとお義父さん達が額縁の淵に小さく掘られた地図とやらを虫メガネで確認しているのですぞ。
なので俺も見せて貰うのですぞ。
「はい。元康くん」
エクレアやワニ男が地図を見終わった後に俺も見せて貰う事になったのですぞ。
そうしてみた所……確かにエクレアの領地の範囲のようですな。
お義父さんが領地を貰うと範囲が変わりますが間違いは無いですぞ。
地図範囲はセーアエット領の東側にある山奥……ってモグラの巣穴ですぞ。ここ。
「ここに何があるのだ?」
「モグラの巣穴ですぞ」
「え? 元康くん何か知ってるの?」
「知ってますぞ。ここはモグラの巣穴なのですぞ」
「イミアちゃんの故郷?」
だからそうですぞ。
俺は頷きました。
「イミアちゃんに地図の確認をお願いしたらいいかな? いや、イミアちゃんとお話した時、家の場所はメルロマルクの何処か、よくわからないって言ってたから難しいか……よく考えたら元康くんが知ってるのは当然なのかな」
お義父さんが納得したようですぞ。
そうですな。フォーブレイに向かった際のループで一度メルロマルクに戻った所でモグラの巣穴が襲撃されていて、モグラをお義父さんが助けたのでしたな。
そんなモグラの巣穴に何があるのですかな?
「イミアちゃんなら何か……って聞いてもわからないよね。元康くんも何か知らない?」
「知りませんな。あそこに何かあるのですかな?」
モグラの巣穴しか覚えてませんぞ。
何よりモグラたちが何か言う事はありませんでした。
「必要な時以外で言わずにいる事かもしれん。なんにしてもまずは調査に行くのが良いだろう」
「ああ、まずは確認に行くのが先決だ」
「そうなるか……じゃあイミアちゃんに……行くかどうか聞いておくよ。辛い場所かもしれないからね」
お義父さんはそう言ってモグラに声を掛けに行きましたぞ。
するとしばらくしてモグラがお義父さんと一緒に来ました。
どうやら同行するつもりのようですな。
キール達が話を聞きつけて聞き耳を立てているようですぞ。
「今回の調査はエクレールさんとシオン、それとイミアちゃん。俺と案内の元康くん。後はユキちゃんとー」
「ごしゅじんさまー、フィーロはー?」
おお! フィーロたんですぞ!
最高の調査になりますな!
「フィーロたーん!」
と言う所でラフミがサッと現れました。
くっ……本物かわからなくなりますぞ。
ラフミがニヤニヤしているのに黙っていますぞ。
何か言えですぞ。
あるいは久々の出番とか思っているのかもしれません。
飛びつくなと言うのですかな? 愛の抱擁なのですぞ。
くうう……。
「コウはー?」
ここでコウも立候補ですぞ。
「じゃあユキちゃんにコウにフィーロちゃんに乗って出発しよう。ユキちゃん、元康くんの手足をしっかりと掴んでね? 出来れば降りられないくらいギュッとしてて良いよ」
「わかりましたわー!」
なんですとー! お義父さん、ユキちゃんになんて指示を出すのですかな?
ユキちゃんが俺を背に乗せて手足を羽毛でギュッと掴みました。
くうう……フィーロたんと一緒にお出かけになるのにユキちゃんに手足を掴まれてしまいました。
「わーい。ごしゅじんさまとお出かけー」
「お出かけーイミア、コウに乗ってくー? あーエルメロ、ラフーやリファナともお出かけしたかったなー」
おお、コウがモグラを背に乗せるのは安心する光景ですぞ。
モグラを食べたいとお義父さんに怒られるコウは居ないのですからな。
ゾウやお姉さんたちに感謝なのですぞ。
「コウはイミアちゃんを乗せたいみたいだね。じゃあ俺はー」
「ごしゅじんさまー」
「うーん。フィーロちゃんが俺を乗せたいみたいだからな……」
「では私がイミア殿と一緒にコウに乗るとしよう。シオン、イワタニ殿を任せた」
「承知」
「錬はヴォルフと一緒に待機しててね。何かあったら呼ぶからさ」
「ここでなぜ俺に話が行くかはわからんが……わかった。そもそもどこかに出かけるなら俺はウィンディアと一緒にガエリオンに乗る!」
妙な派閥が形成されているように見えるようになってきましたぞ。
錬が助手とドラゴンに協力するとはですな。
ルナちゃんがライバルの体を操る親を恨めしい目で見ていますぞ。
注意しないとルナちゃんから恐ろしい気配が出かねませんな。
場合によっては寝ている錬をライバルの親から奪って渡す事態になりかねませんぞ。
と言う訳で俺たちはモグラの巣穴へと調査に行くことになったのですぞ。
「この山にイミアちゃん達の生活していた場所があるのか……」
山奥にあるモグラの巣穴近くまで俺たちは来ました。
お義父さんを乗せたフィーロたんも同行しております、ラフミはついてきてませんが飛びついたらやはり偽者なのでしょうか。
神出鬼没のラフミの所為で安易に飛びつけないのが歯痒いのですぞ。
「あ、見覚えがある場所です……」
モグラがコウの背中に乗って周囲を見渡しながら呟くように言いましたぞ。
「どうやら間違いは無い様だ。キタムラ殿」
「だから言っているでは無いですかな? こっちですぞ」
俺としてはモグラの巣穴よりもフィーロたんとお義父さんが気になるのですが、しょうがないので向かいますぞ。
「うわ――ですわ!」
という所でユキちゃんがガクーン! っと前のめりに転倒しました!
釣られて俺も転がり下りてしまいました。
「ですぞー!」
ゴロンゴロンですぞ!
直後に何かに引っかかったかと思った所で植物で編まれたスパイクボールのような物が勢いよく俺を叩きつけてきました。
ドシーンと土煙が上がりますな。
「も、元康様ぁあ!?」
驚くユキちゃんの声が聞こえました。
「罠か!?」
「罠がこんな所に!?」
エクレアとワニ男、それに続くようにお義父さんが驚きの声を上げてますぞ。
「みんな足元を見て、なんか草結びされた代物が沢山ある! しかもよく見ると細い紐まであるよ!」




