小さいのが好き
「よかったですな」
「……これは天木様の計画の邪魔をボクはすべきでしょうかね?」
「離れろ。そして大人しく愛でられろ」
「ヴォフ……ナオフミ様の背中は任せろテオ」
「ちょっと、シオンとヴォルフ! ボクを見捨てる気ですか! 何が何でも可愛い何かにして盾にしますよ!」
「ヴォフー!?」
と、何やらウサギ男たちが問答を始めました。
「なんかどこまでも脱線していくなぁ……別に錬もそこまで嫌がらなくても良いと思うんだけどな……」
「……頼る相手を間違えたか? 何にしても後戻りは出来ん。しばらく我はこの地を留守にする。後は任せたぞ」
そういって前にも似たような事があった覚えのあるやり取りでライバルの親は、大柄の魔物、どうやらライバルの兄弟にいろいろと仕込みをしてから後を任せて卵に宿ったようでした。
「魔物紋まで仕込んでくれているね」
「尚文だけをご指名だったな。俺も手伝うと言ったのに」
「まあ、その辺りは代表として俺がね」
「良いだろう。責任を取るのは好みじゃない」
錬はお義父さん曰く、責任感が強いからこそ安易に責任を背負うような事をしないそうですな。
ただ、一度決めるとどこまでも貫く責任感なのだそうですぞ。
まあ、その責任感で最初の世界の助手は錬を煙たがっているようでしたがな。
トクントクンと卵が揺れ動き始めましたな。
「そういえば名前をガエリオンと言ったか……ラフミが言っていた名前じゃないか」
「ただ、なんかこのドラゴンとは違うような含みがあったよね」
「あいつは何も言わないだろ」
「そうだね……まあ、これを運んでウィンディアちゃんの元へ持っていくのね……妹として監視と保護をすると」
「養子が可愛いから妹に成り代わって赤ちゃんプレイですか……とんだ上級者ですね」
「テオ、黙っていた方が良いぞ。下手をしたら後で焼かれるぞ」
ウサギ男の意見には全くの同意ですな。
どうやらライバルのボディに親だけが宿る状況になるようですな。
……そういえばライバルが体の中に居た親をコンパクトに入れたのを思い出しましたぞ。
このループでもいずれライバルが戻ってきて似たような末路になりそうな気がしますな。
どちらにしても要警戒ですぞ。ライバルが襲来する前にお義父さんには童貞を卒業してもらわねばいけないのですな。
ですがどうも上手くいかないのですぞ。とりあえずパンダとは仲良くしていますし、ウサギ男がレクチャーしたようにパンダを背もたれにしているお義父さんは見たことがありますので様子を見ておきましょう。
ですがお姉さんのお姉さんもお義父さんは背もたれにしていたり、されていたような気がしますが……どうなのですかな?
「ヴォフ、ドラゴン……注意が必要、ナオフミ様は気を付けて」
「わかってるよ。だけどウィンディアちゃんを心配するお父さんみたいだし大丈夫でしょ」
「上位のドラゴン、性別関係なく子供産ませる。その性質……俺の……いや、何でもないヴォフー」
ヴォルフが何か言いかけましたが途中で切り上げましたぞ。
何を言う気だったのですかなお前は?
なんとなく俺のセンサーがわずかに警報を告げた気がしましたぞ。
「孵化するのはドラゴンのヒナとなるのか」
「ルナさんってドラゴンのヒナが可愛い場合は絡むんでしょうか?」
「絡みませんな」
ライバルが子竜姿でも全く反応しませんぞ。
まあ、奴は不気味な姿であるのは否定しませんがな。
「ストライクゾーンがキールさんと天木様って事ですか」
「厄介極まりないぞ。お前らも可愛い判定に入れば良いんだ!」
「ちなみに、なんとなくだけどテオは可愛い範囲だろうけどルナちゃんの好みの大きさじゃないから二軍か三軍じゃないかな?」
「そうなのか?」
「うん。ルナちゃん、自分が大きいから小さい子が好きなんだよ。だから大柄のウサギ獣人になったテオは可愛い範囲でも下だと思うよ」
「なるほど、一安心ですね」
「何が一安心だ。迷惑を受けている方の気持ちも理解しろ」
錬はその後もぶつぶつと言いながら山を下りて行くのでしたぞ。
そうですな。ルナちゃんは小さいかわいい子が好みですぞ。大柄が好きなのはむしろお義父さんではないかと思いますな。
何にしてもライバルの卵とそれに宿った親に俺は近寄らないようにしないといけないのですぞ。
じゃないといつライバルが宿るかわかりませんからな。
なんて感じに俺たちはサーカステントに戻ったのですぞ。
翌朝ですな。
「あ、起きた。起きたよ。盾の勇者様」
泣きつかれて寝ていた助手が目を覚ましたのを様子を見ていたモグラがお義父さんを呼びましたぞ。
もちろん助手の枕元にはライバルの卵が置かれておりました。
キールと錬も一緒に寝てますぞ。
ルナちゃんはライバルの卵を嫌そうに見てましたが黙ってキールと錬の隣で寝ていますな。
「ここ……は……あ……」
寝る前の事を思い出して助手が泣きそうな顔になった後、枕元にデカデカと置かれた卵に目が向かいました。
「おはよう。ウィンディアちゃん」
「……」
助手は前にも見たようにお義父さんをやや不快そうな視線を向けつつ、卵に視線を戻しましたな。
「キミのお父さんはキミを追放処分にはしたけれど身の回りの物を俺に預けに来たんだ。その卵もね」
「でもこの卵……孵らなくて……あれ?」
鼓動を感じられる卵に触れて助手は首を傾げていますぞ。
「どうしたんだい?」
「この卵、全然孵らなかったんだけど鼓動が聞こえる」
「そう。それは良かった。改めて自己紹介をしようか。俺の名前は岩谷尚文。このサーカスの持ち主だよ。で、君を助けに追いかけてくれたキール君たちは俺が世話をしている子たちなんだ」
お義父さんはどうやら勇者である事は伏せつつ、パンダの村の方に助手を連れて行く方針らしいですな。
平和な村で過ごして貰いつつ適度にLvを上げて自身の身を守れるようにする、キール達と同じ教育をするとかなんとかですぞ。
「……」
泣き疲れて寝てしまったのを心配して添い寝をしたキールに助手は視線を向けましたぞ。
「えっと……その……」
モグラも助手の事情を聞いているので何か言おうとしているようですぞ。
「ここはみんな良い人たちだから、大丈夫、だよ。わたしもお母さんとお父さんが……だけど、ここの人たちに拾われて、みんな優しいの」
お義父さんがそんなモグラを優しく撫でますぞ。
撫でられたモグラが心地よさそうに目を細めておりました。
モグラの親戚たちは追跡調査で身元を探している段階ですな。
ゼルトブルにいずれ連れていかれるのはわかっていますがまだ届いていないのですぞ。
「この子は知っているかな? イミアちゃん。本当の名前はすごく長いんだけどね。で、寝ているのはキールくんに錬、ルナちゃん。少し離れた所でこっちを見てるのは元康くん」
お義父さんが助手にこの場にいる者たちの名前を教えているのですな。
「私の名前は……ウィンディア」
助手は自己紹介を終えると卵の方に意識を向けましたぞ。
「鼓動が聞こえる。もうすぐ孵化するみたい。だけど……何かしないと孵化しないのがわかる」
「魔物紋の登録をしないといけないみたいだね」
「そう、みたい。反応があなたもかかってる。私とあなたが登録すれば孵化出来そう」
と、助手は答えた後に卵を大事そうに抱えましたぞ。
「お父さん……私、悪い子だったから……」
「うーん……」
お義父さんが助手を諭す理由に困っているようですぞ。
前にあった似たような状況ではライバルの親の所に戻る方法があると教えて会話のきっかけをつかんでいましたな。
「ウィンディアちゃんも心当たりがあったんじゃないかな? ウィンディアちゃんのお父さんは何時までも、ドラゴンの世界にウィンディアちゃんを置いて置きたくなかったってさ」
「……」
「だからあのお父さんはね。全く怒ってないんだよ? 俺たちだって殺すつもりはなかったんだけどー……その、俺たちが強すぎちゃった所為でね」
「お父さんを虐めた……」
「えーっと……」
お義父さんは困ったように苦笑いをしてますぞ。
「殺さないようにこっちも加減はその、してたんだよ?」
「……お父さん、ドラゴンは強いと言うのと同時に最弱の竜帝だから何時果てるかわからないとも言ってた。お父さん、あんまり強くないのがわかったから心配……」
「あはは、その……カッコ悪い所を見せちゃったよね」
助手はそこで悲し気にうつむいてしまいますぞ。
「追放……縄張りから追い出された、巣立ちをさせられちゃった」
「まあ……うん。そうなるよね。寝る前に話したこと覚えてる?」
お義父さんの質問に助手は頷きましたぞ。
行く当てが無いなら世話をするという話ですぞ。
「出来る限り俺たちも手伝うよ。余計な事をしちゃったかもしれないから……」




