情けないドラゴン
「いたー!」
と、ここでキールが助手を指さしました。
「兄ちゃん! この子だよ。この子が魔物に浚われた子だよ!」
なんと! キールが言っていた魔物に浚われたとは助手の事だったのですかな?
く……脳内ライバルが「だから言ったなの!」と抗議してますがまさかそんな事があるとは思いもしませんでした。
「ウィ、ウィンディ、ア。ど、どうして、ここに――」
「私が、私が、賑やかそうな村の音に近づいたのがいけないんでしょ! 帰るところを見られちゃった所為で」
どうやらライバルの親の巣穴に避難していたけれど、俺たちが山狩りした原因は自身にあると察していたのですな。
「おい元康」
錬が俺に詰問するような目を向けてきましたぞ。
こんな子供がいるなんて聞いてないとばかりですぞ。
もちろんお義父さんも同様の目をしておりました。
「殺したらまあ、敵になる所でしたな。よかったですなぁ、錬」
「うるさい黙れ。知ってたんだな?」
「そうですぞ」
一応錬はお義父さんから俺がループしているというのを半信半疑で理解しているのですぞ。
強化方法も一部使える状況ですぞ。
どうやら俺が下見していたのだろうと思っているようですぞ。
「えーっと……どうやらいろいろと誤解があったようで……その、申し訳ない」
お義父さんがここで代表を務めるとばかりに喋ったライバルの親へと謝りましたぞ。
「戦闘をやめてくださればこちらも手出しはしませんし傷の手当てもします」
そう言ってからお義父さんは助手へと視線を向けますぞ。
「うー……」
「大丈夫だから、ね? もう戦わないよね?」
そうですよね? と、お義父さんは助手を理由にライバルの親へと流し目を向けました。
「はぁ……良いだろう。その子に免じて我の縄張りに侵入した事と……我を嬲った事は不問にしてやる!」
後者のセリフがずいぶんと怒りとトゲのある声音に聞こえましたな。
ノコノコと出てきたお前が悪いのですぞ。
死なないようにするのにどれだけ苦労したと思っているのですかな?
「じゃあ……とりあえずみんなに伝達ね。件の子は見つかったって。お願いするよ」
「こちらもだ。縄張りの者たち、侵入者共と戦わないように」
お義父さんとライバルの親が各々命令してこうして騒動は落ち着きを見せたのですぞ。
そうしてライバルの親の手当てをしおえましたぞ。
助手はライバルの親がボコボコにされた事を根に持った視線で、見つめていましたが傷が治ったのを確認してから笑顔になりましたぞ。
「魔物に連れ去られたからすっげー心配したんだぞ」
「余計なお世話よ」
「誤解を与えたお前が悪い」
キールと錬に助手は注意されてましたな。
「ドラゴンの巣に住んでるのかー?」
「うん。お父さんと兄弟と住んでるわ」
「おー」
「……」
錬はそんな助手とライバルの親を見て汗を拭うような動作をしてホッとするような顔をしてました。
イヌルトにならなければライバルの親を殺してこの子に恨まれるところだったと安堵しているのがわかりますな。
「山の下の方から賑やかな音が聞こえたから内緒で見に行って……」
先ほどの話を詳細に語るようですぞ。
どうやら助手は祭りの賑わいを聞きつけて様子を見に行った際、楽し気に遊んでいるキール達を隠れてみていた所、キールに気づかれて遊びの輪に誘われたとの話ですな。
「あなた達が楽しそうに遊んで、みんな帰るって言うから近くで待ってたお兄ちゃんに乗せてもらって帰ろうとした所で見られちゃって急いで帰ったら途中でお父さんが拾ってくれて怒られちゃった。で……みんなが山に入ってきたってお父さんにみんな殺されちゃうと思って抜け出して来たら」
「親が俺たちにボコボコにされていたのか……」
錬が気まずそうですな。
ですが助手、お前の親は最弱の竜帝なのですぞ。
「う、うん。えっとね! お父さんは事情を知ってたから手加減、手加減してたの! 本当はもっと強くてみんなをブレスで皆殺ししちゃうくらい強いんだよ!」
ガオー! と助手が誇るようにライバルの親を自慢してますが、ライバルの親はそんな自慢を顔を反らしてますぞ。
ぼこぼこにされるのは当然の結果なのですな。
それくらい、実は弱いのですぞ。
「ふむ……先程の会話からして……あっちの二人はともかく、盾の勇者か……」
で、何やらライバルの親はお義父さんに向けて視線と言うか魔法を使っているのがわかりますぞ。
会話を聞こえないように魔法の念話で話しているのですかな?
ちなみにあっちの二人というのは俺と錬なのは視線でわかりました。
ボコボコにされた事を恨んでいるのでしょう。ざまぁないですな。
「あー……うん。え? えーっと……そうですね。あの子は孤児でサーカス営業をしながら育てて居ます。いろいろと事が済んだたら故郷の村の復興をするつもりで」
どうしたらいいでしょうね? とお義父さんがそんなやり取りをしている助手とキール達を見てからライバルの親へと視線を向けました。
「え? ですが……わかりました。そういう事なら」
この流れ……嫌な雰囲気が漂ってますぞ。
「ウィンディア」
「なーに? お父さん」
「このような事態を招いたのはお前の責任だ。その責任をとってお前を追放とする!」
「え?」
助手が絶句した表情でライバルの親へと返しますぞ。
「ではさらばだ。二度と我の縄張りに足を踏み入れることは叶わん。親子だと思わんことだ。お前は所詮人の世の者なのだからな」
「そんな……」
ライバルの親は踵を返し巣へと帰ろうと羽ばたき始めましたぞ。
「いやぁああああ! お父さぁああああん! 置いてかないでー!」
必死に縋り付く助手をライバルの親は尻尾で弾きましたぞ。
まあ、いわゆる演技なのでしょう。ケガしない程度に加減した弾き飛ばしでしたからな。
「お父さぁああああああああん。いや! 私行かない! ごめんなさい! お願いだから許してぇええ!」
そんな悲痛な叫び声にライバルの親は……まあ俺でもわかるほどに後ろ髪をひかれてるのがわかりますぞ。
なんだかんだループでよく村に居るのでこの辺りは不服なのですがわかるのですな。
情けない竜帝ですぞ。演技もまともにできないのですな。
脳内でお義父さん達が俺を見て複雑そうな顔をしてますな。
おや? 前回のループの錬と樹が睨んでいるような気がしますが、気のせいですぞ。
このループのお前らが致命的な失敗をしないようにウサウニーで魔法をかけてやっただけデスピョン!
「おい、いくら何でもそりゃあねえだろ!」
キールが追放を言い渡された助手をかばう様にライバルの親に抗議したのですな。
「そりゃあ最初はウィンディアちゃんが原因かもしれねえけどよ! ボコボコにされたのを根に持つとか大人げないぞ!」
キールのセリフにライバルの親の顔が引きつりました。
「ふん。貴様等獣人とは言え人の世の者たちが我の縄張りを荒らしたのだ。その原因であるウィンディアにはしかるべき罰を与えねば我の面子も保てぬというもの。身の程知らずな蛮勇は命を散らすことになるぞ」
「そうは言ってもコテンパンにされてたじゃねえか!」
「ぐ――」
まあ、ライバルの親ですからな。
しかも醜態を晒した後なのでキールにすらも言い負かされてしまうのですぞ。
命を散らしそうだったのはお前の方ですぞ。
「どう言おうと結果は覆らん。ウィンディア、人の世へ帰れ! ここに帰って来る事は禁ずる! ギャオオオオオオオオオ!」
と、咆哮して助手を威圧してましたな。
「ヒィ……ああ……おとうぅさぁあん……」
まあ、助手はまだ鍛錬をしていないので効果は高いでしょうな。
震えるように声をこぼしてポロポロと泣いてうずくまっていますぞ。
逆にキールは……いざって時に備えてそこそこお義父さん達が育てているので効果は薄そうですぞ。




