出身地域
「何かあったの?」
「その……どう説明したらいいのか悩む案件なのですが、あいつの為にどうか来てくださると助かります。何よりラフミという方を止めてください!」
「えっとねー闇聖勇者二式が、漆黒の愛の伝承者二世に伝承法を伝授しようとして拒絶されてるけど無理やり生贄にささげようとしてるー?」
お義父さんと錬が各々見合ってからしょうがないので行く形になったのですぞ。
ラフミが何をしたのですかな? 弱みを握れそうでもあるので行くことにするのですぞ。
クロちゃんはおっしゃっていることがよくわかりませんぞ。
「ではフィロリアル様を出しますぞー! ユキちゃん!」
「はいですわー!」
フィーロたんを呼びたいですがお姉さんたちの方へと遊びに行っているのでいませんぞ。
「ルナは呼ぶなよ!」
錬に念押しされてしまいました。
どこまでルナちゃんが苦手なのですかな。
「よくわからないけどとにかく行こう」
というわけで俺たちは錬の仲間たちの案内で現場へと向かったのですぞ。
その道中で聞いた話だとギルドからの依頼で受けた護衛依頼の最中に盗賊と出会ったのが原因だったようですぞ。
「いいから早くお前は実家に戻るんだ」
「死んでも嫌だ! 俺は……あの家に絶対に戻らないと決めてるんだよ!」
「あの親父さんだから気持ちはわかるけど盗賊はダメだろ!」
で、現場に行くとラフミが何やら捕らえた盗賊に向かって命令をしている現場だったのですぞ。
その近くでは錬の仲間のリーダーが眉を寄せて盗賊を心配そうに見つめておりますぞ。
ほかの盗賊も訳が分からないとばかりに縛られて転がされておりますな。
「これは一体、どういう状況?」
「あ、レン様、盾の勇者様!」
「ウェルト、俺たちを呼んだみたいだが何があったんだ?」
イヌルトの錬がここにきてどうにかなる状況なのですかな?
激しく疑問ですぞ。
錬は拒否を繰り返す盗賊と尋問のごとく殺気を振りまくラフミを見ますぞ。
「いえ……その、護衛依頼をしている最中に盗賊に遭い、それを返り討ちにして生け捕りにしたのは良いのですけど、その、見知った奴が盗賊に紛れていまして」
「見逃してほしいとでも?」
錬が腕を組んで知り合いであろうと盗賊は犯罪者なのだからさっさと突き出せとばかりにため息をしますぞ。
「えー……そういう所が無いわけではありません。まあ見逃す代わりにしっかりと、その、夢に向けて心を入れ替えてくれるなら擁護もしてもよかったのですが、とは思います。応援というか一緒に村を出た仲だったので」
錬の仲間のリーダーをしている者とこの盗賊は知り合いで同郷なのだそうですぞ。
「さっきも言ったがどうして盗賊なんかに身を落としたんだお前は……冒険者として成功を収めるって夢を持ってたじゃないか……」
「うるせえ! 俺だってなぁ……俺だって……」
悔し気に盗賊はラフミに睨まれながら錬の仲間のリーダーへと言い返しますぞ。
片や盗賊、片や勇者の仲間では立場にずいぶんと差があると言いたいのでしょう。
「俺はお前みたいに出世できなかったんだよ。誰でもうまくいくと思うんじゃねえ!」
最初の世界ではお義父さんの子飼いの義賊として有名になってましたぞ。
うまくは行っていると思いますな。
「で、彼がどうして……こう、ラフミちゃんに絡まれている訳?」
「どうもよくわからないのですが、反省がないなら自警団に突き出そうと思っていた所でレン様に化けていたはずなのに本来の姿に戻り、これから実家に帰るのだとしつこく言い始めまして……こう、暴走を」
「ラフミちゃん、どうしたの?」
お義父さんがラフミに尋ねますぞ。
するとラフミは振り返り盗賊を睨みつけながら口を開きました。
「盾の勇者か。ちょうどいいのでこいつを実家へと連れ戻すのだ」
「嫌だ! あんなところに戻るなら死んだ方がマシだ! 俺は殺されたってあの家に戻らない!」
「ふふふ、貴様は何があっても殺さんぞ……槍の勇者がタクトを処刑するかのように貴様にはしてもらわねばならない事があるからなぁ」
「な、なんか元康くんを底なしに怒らせた地雷と同じものをこの盗賊もしたのか」
お義父さんが引き気味に盗賊を見つめますぞ。
「お前ら、こいつよりも偉いのか! 家に戻されるくらいなら自警団でも国でもどこでもいいから連れていけぇえええ! どんな罰でも受けるからよ!」
助けを求める盗賊ですぞ。
ふむ……錬の仲間のリーダーとは知り合いなようですが一体何なのですかな?
「ウェルト、お前というかこいつの実家は何なんだ?」
「えーっと……こいつの実家はいたって普通のチョコレート農家でして」
「まずチョコレート農家って所で普通とは程遠いものであると思うんだけど」
「そうだ! なんだチョコレート農家というのは!? カカオじゃないのか!」
お義父さんが控えめに言い、錬は強めに指摘しました。
「え? チョコレート農家っておかしいですか?」
錬の仲間のリーダーが周囲に尋ねますぞ。
するとみんなして頷きましたな。
「おかしいとまでは言わないけど、あまり無い専用農家であるのは間違いないだろう。少なくともごく普通では無い」
「栽培が難しいと聞きますよね」
と、錬の仲間の魔法使い達が頷きました。
「そうなんだ。珍しいけどあるにはある業種なんだね。さすがは異世界なのかな? カカオならわかるけどチョコレートを農業ねぇ……」
確かにそうですな。チョコレートが実る木を育てている農家はこの世界独自でしかもバレンタインイベント時の専門業者ですぞ。
お義父さんがシーズンになると買いにいったらしいのを聞いた覚えがありますぞ。
ラフミの元となったチョコレートモンスターの生息地でもあるそうですな。
村に居たのを覚えておりますぞ。
あの時の騒動は相当でしたな。
挙句ゼルトブルにまで現れかなりの被害を出したのですぞ。
その最中にライバルがチョコレートモンスターの体を使って最初の世界に出現し、俺に一度仕留められたのですぞ。
「イベント地域といえば錬はわかるのではないですかな? バレンタインイベントの場所ですぞ」
「ああ……あのイベントか。ウェルトはその地域出身なのか」
「それでわかっちゃうのかー。俺はまるで分らないけど」
「大昔に勇者が作ったチョコレートの実る木があり、その近くでの魔物はチョコレートから生まれる。そして私は元々バレンタイン由来のイベント精霊も兼ねているのだ」
ラフミはぼっちを拗らせた錬が作り出した刺客ですぞ。
長年の研究の結果生み出されたのでしたな。
「で、ラフミちゃん。この人、実家に帰るのを相当嫌がってるけど……」
「ああ、こいつの父親はバレンタインは元よりチョコレートで遊ぶ、実に愚かなジジイだ。槍の勇者がタクトを処分するように私からすると何が何でも報いを受けさせねばならない対象である。あいつを野放しにしているコイツも同罪なので嫌がらせをしてやらねば気が済まん」
「わー……大変だ」
「この顔を見て思い出してな。捕まえたので丁度いいからこいつの家に行くぞと言っている」
「だから嫌だ! もうアイツなんかと関わりたくない!」
そんなにも嫌なのですな。
実の父親だと聞いた覚えがありますが、まあ俺の世界でも豚共がクズな親族とこじれてしまう事は多かったのでよくある事なのでしょう。
お互い行き違いがあって和解出来る事もありますが、どうしようもないクズ親など、こればっかりはケースバイケースですぞ。