モグラの子供
「ヴォルフ、テオがウサギ姿になったからって本能が刺激されたとかで襲ったりしないでよ?」
「ヴォフ、わかってる。何よりテオは槍の勇者に育てられて頑丈だから毛皮固い」
「前に甘噛みしてきた事ありましたね。結構強めに噛んで来ましたけど確かに痛くなくて助かりはしました」
フィーロたんに蹴られても大丈夫なようにしたお陰ですな。
「あたいや爺さん以外で客寄せ役もしてくれると楽なんだけどねぇ……」
ってだらけているパンダがそんなにぎわっている場を見て呟いていたのですぞ。
その日の夜の演目後ですな。
お義父さんが奴隷の買い付けに出かけ……買い付けた奴隷の中にモグラが商品に紛れていたのですぞ!
「お義父さん! モグラですぞ!」
檻で震えるモグラを指さして俺はお義父さんに言いますぞ。
「ああ……そうだね……」
手当をしていたお義父さんはそんな震えるモグラに同情的な視線を向けて頷きましたぞ。
痛々しい鞭の跡があるモグラですな。
「うう……」
モグラは何やら毛布を被って震えておりましたぞ。
どうやらお義父さんもモグラが子供であるのを察したようですな。
付き添いに同行していたシルトヴェルトの使者や魔物商の配下に任せるか悩んでいるようでしたぞ。
檻から出たお義父さんがモグラに聞こえないところまで移動したので再度提案しますぞ。
「お義父さん、あのモグラは保護するのですぞ。そして大事にケアしてあげると良いのですぞ」
「何かあるの?」
「最初の世界は元よりいろんな世界でお義父さんが保護しているモグラなのですぞ。いろいろと器用で役に立ちますぞ」
何よりお姉さんみたいな成長をして死後精霊となってしまうらしいモグラですからな。
あの時の夢の内容も考えてしっかりとケアして恩を売るのですぞ。
最悪、お義父さんのお相手として育て上げるのも良いですが……お義父さんの好みに育つのはお姉さん並みに難しい気がしますな。
ですが……何かでお姉さんに勝ったのを聞きましたぞ。
なんで勝ったのかがよくわかりませんが。
どうやらモグラ本人の証言からすると幼い頃のお姉さんに似ているからのようですな。ですがそれ以外にもあったような気がしますぞ。
精霊となったモグラと出会った後に思い出せそうになっておりますぞ。
記憶の中のお姉さんが「思い出さなくていいです」と冷徹な顔で仰っていますぞ。
ちなみにライバルが助手以外で姉と呼ぶのがモグラですな。
「そっか……あの子、俺が保護してもいい子なんだね。それは良かった」
お義父さんがモグラのいる檻を見てホッとしてましたぞ。
どうしたのでしょうな。
俺が小首を傾けるとお義父さんが苦笑しましたぞ。
「いやね……奴隷商人としていろいろと売買に関わっているとどの子も世話してあげたくなっちゃうんだよね。みんな……望んで奴隷になったわけじゃないだろうってさ」
お義父さんはお優しいので奴隷商人としての活動を非常に気にしていらっしゃるのですな。
ですがすべての奴隷を救い上げることはできないと自粛しているのですぞ。
「確かにあの子は、こう……ほかの子よりも気になっていたし……名前はまだ聞いてないけど、あの子は保護するね」
「良いですぞ。ただ……フィロリアル様とお話するのは注意しないといけないのですな」
コウがよく地雷を踏みぬいておしおきされていたのは元より、ほかのフィロリアル様も時々モグラを美味しそうと仰って注意されたりおしおきされてしまう子がいたのですぞ。
ゾウやお姉さん達にその辺りを教えてくださるようにお願いしておきましょう。
これでも聞き入れないフィロリアル様の場合は……うう、ですぞ。
ですがモグラを雑に扱うことができなくなりました。
ここは多大な恩を与えるのが得策なのですぞ。そう、お義父さんとできる限り仲良くできるようなくらいの恩を今後もできるように考えねばなりません。
ですがふと考えるのですぞ。
このモグラ……お義父さんをお助けした際、どうやってめぐり合わせればいいのでしょうかな?
モグラの巣穴はフォーブレイへみんなで向かったループでわかっておりますがメルロマルクでの騒動を女王などを帰還させて解決した際は奴隷狩りの取り締まりをするので被害に遭わないようなのですぞ。
そうなったらモグラは親が生存するので巣穴住まいなのですぞ?
そこからどうやって勧誘すればいいですかな?
仮にお助けしたお義父さんをモグラの巣穴まで案内して……連れていける気がしませんぞ?
あれですぞ。奴隷として最初に売り出された時に購入して輸送、冤罪を受けて荒れているお義父さんに斡旋するのですな。
ここで記憶の中のお姉さんが複雑な表情をし始めましたぞ。
『助けられるなら助けるでいいと思います。あなたが戻れる時間に両親が生きているのですから』
と仰っている気がしますな。
ううむ……ですぞ。かといってお義父さんと仲良くさせるのは良い手ですぞ。モグラを親が生きている状態で加入させるにはどうするのが良いでしょうな。
そういえば勇者は童話などの王子枠という話をどこかで聞いた気がしますぞ。この前ウサギ男が知る童話を聞いた際にお義父さんが言っていたのでしたかな?
となれば唐突にモグラを勧誘しても親は問題なく差し出すかもしれないですぞ。
地味で自己評価の低い子を育て上げるというのを俺もしたことがあります。
自信を持って言いたいことを言える豚へと成長して周囲の男たちを魅了するようになってましたな。
豚としての等級があがったのでしょう。
まあ、その時になったら考えればいいですな。お姉さんによく似ている精神をしているとの話なので場合によってはお姉さんの代わりになってもらう案も考えましょう。
時期的に奴隷であるか激しく微妙なのですぞ。かといって早く奴隷落ちさせるために奴隷狩りにモグラの巣穴を教えてやるのはダメですな。
そんな手を使ったら間違いなくお姉さんに通報されてしまうのですぞ。
「元康くん?」
「どうしましたかな?」
「いや、なんか随分と考え込んでるからさ、フィロリアルたちにあの子狙われちゃうのかな? って」
「そうですな……ゾウやお姉さん辺りにお願いするのでそれまではお義父さんのそばを離れないようにお世話してあげてほしいですぞ」
「うん。わかったよ。ほかのみんなも優しいからしっかりとケアしてあげよう」
というわけでモグラをお義父さんはお世話するようになったのですぞ。
ウサギ男が完全に大きなウサギとなりモグラを保護してから少し経った頃の事ですぞ。
錬の影武者をしているラフミがたまたま俺たちがサーカスをしている町の近くにいる所で、錬の仲間がクロちゃんと共に稽古中のサーカス内に駆けて来てお義父さんと錬に声をかけてきたのですぞ。
「はぁ……はぁ……レン様、盾の勇者様! どうか一緒に来てください!」
確か錬の仲間でリーダーではない二番目の魔法使いらしき奴と不愛想な木こりみたいな奴ですぞ。
「……どうした?」
どの面下げてという目で錬は心の距離がある様子で仲間へと返事をしました。