ウサギとタヌキ
「あー……夜までかったりー」
町で張ったテントですぞ。
夜の演目でサーカスをするために準備をしていますが今は休憩中ですな。
そんな中でパンダが椅子に腰かけて足を上げてだらけておりますな。
お義父さんはそんなパンダの近くで帳簿の整理をシルトヴェルトの使者と一緒にしているようですな。
ワニ男が居ませんな。エクレアの所で稽古でもしているのですかな?
ヴォルフも帳簿を見ているようですぞ。
事務能力も出来るようになったとの話ですな。
獣人姿で知的な作業は今までの様子から見ると違和感をかなり受ける者も多そうですぞ。
「お義父さん、ただいま帰りました!」
「あ、元康くんおかえり、ユキちゃんが探してたよ?」
「おお、そうでしたか。では後でユキちゃん達とひとっ走りしてきますぞ。お義父さんは何か予定はありますかな?」
「ああ、もうすぐ屋台の仕込みに入る所かな。夜のサーカスの後、今夜は奴隷の買い付けもあるから少し遅くなる予定」
最近は大分お姉さんの友人たちの保護は済んだ段階ですな。
それでもお義父さんはサーカスと奴隷売買でお忙しいのが続くようですな。
「でー……」
お義父さんが顔を上げて俺の背後にいる獣人化したウサギ男を見ましたな。
視線に気づいてウサギ男が恐る恐ると言った様子で前に出ますぞ。
「もしかして、テオ?」
「は、はい。岩谷様……この方々に絡まれてボクの病を治せると無理やり治療させられたんですが……ど、どうですか?」
「おおー……」
「これはまあ……」
お義父さんの返事よりも前にヴォルフとシルトヴェルトの使者が声を漏らしましたな。
「無理やりって大丈夫なの?」
「問題ない。この私が出来ると言っていて、こうして実践してみせたのだぞ?」
どうだ! とラフミが胸を張ってますぞ。
「ラフミちゃんが凄いのはわかってたけどー……ウサギとタヌキ」
何となくですがお義父さんの脳内でカチカチ山を思い浮かべているような気がしますぞ。
「徐々にラフミちゃんみたいになったりしないよね?」
「それ、ボクも思って聞きました」
「盾の勇者、貴様も言うのか? 主人と奴隷で同じ発想だな。そんな結果になるはずあるまい」
「いや、人種が人間しかいない世界から来た俺からすると何処まで変身の幅があるのかわからないし、錬がイヌルトになっちゃうくらいだからさ」
確かにそうですな。
正直俺もお姉さんの例もありますし、変身の幅というのは使いきれない所はあると思いますぞ。
タクトの豚に居るシルドフリーデン豚のように、獣人姿のほかに龍姿を持っている奴もいましたからな。
虎娘の兄も最終的にそういった変身が出来たとの話を聞きましたぞ。
お姉さんのお姉さんに至ってはお義父さんの改造の治療を受けたのにその姿に変身する能力をそのまま保持しておりましたからな。
あれもある意味、ラフ種化ともいえるかもしれませんな。
トドみたいな姿でもありましたが。
「テオドール様も完全に獣人化できるようになって良かったですね。遺伝病の克服おめでとうございます」
「ヴォウ。おめでとう」
「しっかりと獣人姿に成れてよかったね。どう? 完全な変身が出来るようになった気分は」
「あっさりと出来て、どうにもピンと来ていない所ですね」
「こいつはな、最近奴隷仲間に色々とおいて行かれている気持ちになり、盾の勇者にモフモフして貰いたいとため息を吐いていたのだ」
「お義父さん。ウサギですぞ。どうですかな? タヌキとウサギ、どちらが好みですかな?」
脳内でお姉さんが「突然なぜタヌキが出るのですか! 私への挑戦ですか!?」って抗議しているような声が聞こえた気がしますが違いますぞ。
「だから違うと言ってるじゃないですか! しつこいですねあなた達は! というかタヌキってラフミさんも土壌に上げる気ですか!」
「む? 私も参加すればいいのか? 良いだろう。私のモフモフとしたこの最高級の毛皮の感触を味わわせてやっても良いぞ? そんなに競いたいのならばな? 負けて泣いても知らんぞぉおお?」
ラフミが髪を掻くように流し目で妙なポーズをとりましたぞ。
「何やってんだいアイツ等」
「毛皮の良さを俺に見てほしいって事なんじゃない?」
「ああ、あんたがあたいの健康状態とかを気にして毛並みを見るのと同じ感じかい? 爺さんや親が妙にフカフカして光沢のある毛並みになってたけど」
「ヴォウ」
ヴォルフも負けじと櫛を取り出して髪を整えるように通してますぞ。
不良が髪を整えるポーズに見えますぞ。
リーゼントなどがあったらそれを整えている感じですな。
「なんか妙な空気になってるような……ヴォルフ、あなたも年甲斐もなく張り合わなくて良いからね?」
「あなたより君とかお前って言ってほしいです。ナオフミ様、少し距離感を感じる」
キリっとした表情でヴォルフがお義父さんの顔に手を添えて答えてますぞ。
その後ろで苦笑気味なのがシルトヴェルトの使者ですな。
「ヴォルフ?」
「確かに歳は俺が上かもしれないですが、今まで通りに接してほしいのです。ヴォフ……フフ」
む……ヴォルフが妙な誘いをしている気がしますな。
俺も負けずと前に出てサッと間に入りお義父さんの意識をしっかりとこちらに向けさせましょう。
「お義父さん、こちらの話を聞いてほしいですな」
「え? あ、うん。なんだろこの女性向けな空気? 気のせいかな……?」
お義父さんが首を傾げてますぞ。
そのような要素がここにいるのですかな?
さて、この中で俺は誰を推せばいいですかな? 俺としてはパンダにお義父さんの童貞を卒業させてほしいのでお姉さんのお姉さんっぽくササっと推すのも良いですが、今回はウサギ男の悩みの解決という要素がありますからな。
何よりウサギはかわいいのですぞ。
なのでその部分を先に押しておきましょう。
「ラフミよりもウサギ男のブラシ掛けをして毛並みを堪能してあげると良いですぞ」
ため息を吐かれるのも面倒ですからな。
「ほら、ウサギ男。早く来いですぞ」
フィーロたん再現計画で蹴られる代役をして貰った礼もありますからな。
お義父さんに撫でて貰いたいのならば存分に撫でられるのが良いのですぞ。
「おい。私を無視するな」
「ラフミは下がっていろですぞ。他のお義父さんがよくラフ種は撫でていますので今回は譲るのですぞ」
「ふん。まあ良いだろう。今回の目的であるからな。おら、行くのだ」
ラフミが腕を組み、ウサギ男の背中を蹴ってお義父さんの方に突き出しました。
「あいた! 本当、あなた達は人の話を聞きませんね!」
「まあまあ、へー……これがテオの獣人姿なんだね。触っても大丈夫?」
「は、はい」
ウサギ男がお義父さんに触って良いかと尋ねられて素直にうなずきましたぞ。
それから撫でられやすいように腰を低くして頭を突き出しました。
他にも撫でてほしいとばかりに腕を差し出してますぞ。
どこからでも触ってほしいという動作ですな。
ふむ……頭を差し出すのは大事ですぞ。
ヒヨちゃん直伝のモフモフ時の甘え術を俺も覚えましたぞ。
ウサウニーの時にお義父さんに撫でて貰おうとする際に頭を出して出来る限り目をキラキラさせましたぞ。
ウサギ男、教えたキラキラお目目はどうしたのですかな?
ほら、必要な動作がありますぞ。
もちろん可愛く顔をくしくしと後でするのですな。
「おー……」
お義父さんがモサモサとウサギ男の毛並みを確認しますぞ。
まずは顔からですな、頬とか額を撫でた後は優しく耳を触るのですぞ。
その手並みは心地いいのを俺も知ってますぞ。
もちろん撫でてほしい所を差し出せばそこを撫でて下さるのがお義父さんなのですな。
俺もフィロリアル様の求める撫でポイントを見極めるのに日夜研究をしているのですぞ。
中々に必要な技能を要求されるのをウサウニーになってより理解しました。