イヌルトの受難
で、次の演目が行われるのですぞ。
そんな舞台裏ですな。
「なんだこの演目は! ふざけるな!」
錬が剣を抜いてプンスカ怒っていますぞ。
「俺も同意見だぞ兄ちゃんたち! 出してくれるって言ってもこれはねえだろ! なんだよコレ!」
「だから何度もやめた方がいいって確認したんだけど……酷いのは否定しないよ。まあ、メルロマルクはさ……亜人獣人への偏見が強いからこう言った演目の受けが良すぎるんだよ。さっきの歓声聞こえたでしょ?」
「クズの国だ! 人間くたばれ!」
「錬……完全にイヌルトが身に染みてきちゃって……」
錬の罵倒にお義父さんが可哀想なものを見る目で呟きましたぞ。
「ルナ、落ちてくるキールくんとアマを優しくキャッチしたよー。可愛いかったー」
ルナちゃんは非常に艶のある恍惚とした表情で大満足の演目だったようですぞ。
「でもキールくんとアマにもの投げるの酷いールナ、帰りがけにあの人たちに魔法使う?」
「それはやめてほしいなー」
「尚文、お前……わかってて俺たちにこんな演目させたのか!」
なんですかな? 不満とはどういう事ですかな?
せっかくお前らのおぜん立てをしてやったのにその態度は感心しないですぞ。
「酷いのはわかってたから何度も確認したんじゃないか」
「キール!」
「俺だってこんななんて知らなかったんだよ!」
「でもキールくん。裏で俺がテオやシオン相手にやってた演目見てたでしょ? わかってたはずじゃないか」
「うー……わかってたけどよー……もっと俺と剣の兄ちゃんのカッコいい演目とかしてくれるんじゃねえかって思ったんだよ!」
「そういうのはゼルトブルの方でやる奴だなぁ……ただ、二人の場合は演目じゃなくて触れ合いコーナーになるかな、もしくは火の輪くぐりとか」
今のキールと錬はどう頑張っても派手な演目には参加できませんな。
精々、今回のような哀れな犠牲者役が精々ですぞ。
「えー……他にはねえのー?」
「あるとしたらラーサさんの投げナイフ術でルーレットにくくられる役だけどやるかい?」
「う……あれマジでこえーから当たらないでもやだ」
「いや、数本は当てられる役だよあれ。人間側は絶対失敗しないようになってるの」
獣人は痛い目や失敗をする役目をさせられるのですぞ。
ある程度は健全な流れがあるにはあるのですがメルロマルク内でも差別の入らない演目が通るのはごく一部なのですぞ。
まあ、パンダの場合は腕が良いので結構普通になって拍手を貰えるようになってますがな。
一芸は身を助けるですぞ。
「ラーサ姉ちゃん達良いなー……」
「器用さって大事なんだろうね」
「なんなら幻術でもかけてやろうではないか。客は自分の望む演目を楽しんだと錯覚するぞ?」
今まで黙ってみていたラフミが提案しますぞ。
「それって観客がみんな恍惚とした表情で笑ってそうな挙句、みんな見てるものが違う結果になってヤバイ薬とか幻覚で売ってる店になる流れだよね? 営業停止になっちゃうよ」
所詮はラフミですな。提案するネタで没を喰らってますぞ。
「ふむ……まあ、良い。アゾットも良い思い出になっただろう」
「よくない! こんな恥をかかされて良いわけあるか!」
「時に笑われるのも人生だぞアゾット。お前の孤独なクリスマスこそ惨めで周囲の笑いものになるものはない」
「だからなんだそのワードは! 俺をぼっち扱いするな!」
ラフミの製造理由なので俺も文句は言いませんぞ? そもそも孤独なクリスマスというのはよくわかりませんな。
「尚文、お前のサーカスはこれでいいのか?」
錬が演目にケチをつけ始めますぞ。
「気持ちはわかるよ。だけど、こういったのじゃないと……メルロマルクじゃ許してもらえない流れなんだって、じゃないと……錬には素直に言うけど襲撃に来る連中を奴隷としてシルトヴェルトに売る方が実入りが良くなっちゃうんだよ」
「……実に酷い話だ。こんなのを楽しんでいる奴が悪い! 奴隷落ちしろ!」
と、錬が何やら怒りに震えていますぞ。
「何にしても助かったよ。後でお礼に特別にご飯を作ってあげるから機嫌治して」
「マジ!? 剣の兄ちゃんやったな! 兄ちゃんが特別に料理作ってくれるってー!」
「おい。何を懐柔されてるんだ」
「でもしょうがねえじゃん。文句を言ってもよくねえみたいだし」
「く……」
そんなに嫌なら出て行けばいいのではないかと思うのですが、錬はなぜかサーカスからあまり離れなくなっているのですぞ。
俺の分析ですがラフミに居場所を盗られ、かといってイヌルト姿では行く先があまりなく、どこへ行ってもルナちゃんが追いかけてくるとの話で半ばあきらめているという所でしょうな。
居心地が地味に良いとかもありそうですぞ。
最初の世界の錬もお義父さんの村にすみ着いたら居心地が良かったようですからな。
「剣の兄ちゃん、確かに酷かったけどよ。これで稼いだ金で村のみんなを買い集めることが出来るし、似たようなひどい目に遭ってる子を助けれると思うと悪くないかもしれねえぞ」
「ふん! クズな連中を売り払った金で買え。そっちで良いだろ尚文。立派な奴隷商人だ」
「錬が悪い方向に染まっていく……」
なんて感じに今夜のサーカスも盛況だったのですぞ。
やっと軌道に乗って来た流れですな。
そうして演目が終わった後の打ち上げですぞー。
「ヴォルフー、キールくーん、錬ー、ご飯ができたよー」
「ヴォフ!」
「おー! 兄ちゃん飯出来たかー?」
「その呼び順に悪意を感じたぁあああああ!」
お義父さんが打ち上げでお礼の食事を作って呼んだ際に錬がひと際叫びましたぞ。
一体どうしたというのですかな?
せっかくお義父さんが特別に料理を作ったというのに抗議の声を上げるとは、錬がワガママすぎますぞ。
「どうしたの錬?」
「どうしたじゃない! ヴォルフだったか。お前も何が「ヴォフ!」だ。しっかりと受け答えしろ!」
「そうは言ってもさっきまで演技をしていたし今までもこれで食事を貰っていたんだが……何が不満なんだ?」
「そうだぜ剣の兄ちゃん。一体何が不満なんだ?」
ですな。俺も錬が何に抗議しているのかまるで分りませんぞ?
「えーっと……あ! 錬、キールくん、ヴォルフ?」
「ヴォフ!?」
今度はヴォルフが不満そうですぞ。
どうやらヴォルフは序列が気になるようですぞ。
「そうじゃない! 順番じゃない! 一番じゃないから言っている訳ないだろ」
錬は不満なままですぞ。
「その枠に入れるのをやめろ!」
「え?」
「まあ……言わんとしている事はわからなくもないが……」
と、今日のサーカスで人間組として参加をしていたエクレアが錬の不満に理解を示していますぞ。
「だが、アマキ殿、それはそれで……まあ、差別に該当するのでな」
「俺はこんな姿になったが人間だ!」
「もしかしてヴォルフとキールくんと一緒の組で呼ばれるのが嫌だったの?」
錬が不満そうに腕を組んでますぞ。
もちろんその姿をルナちゃんは大喜びで見つめていますな。
ま、この三者は文字通り犬ズですぞ。
ヴォルフが立派な狼男と言った形ですがキールと錬は揃って犬姿ですぞ。
「イワタニ殿の気持ちはわかる。三人で一緒にいると仲が良さそうに見えるのでな。何かそれで演目になりそうではないか」
「確かにねーヴォルフとキールくんと錬で何か出来たら良いかもとは思うよ」
「うむ」
「うむ、じゃない!」
「無難な演目だとあれかな? 鼻の良さとかをアピールする感じでこの三人の中でだれが一番いいかとかを競わせるのが面白いかな?」
「良いかもしれん。見えないようにしてどれが良いとか」




