ツメの行方
「なんか実家の方と連絡を取っているみたいだよ。色々と話さないといけないこともあるし、完全な治療もしないといけないって事であっちで精密検査してる」
「ワーバルト家の面子に泥を塗られたのですからタクト一派に関して秘密裏に、且つ確実に報復をするとの計画が練られています」
「それは俺がする事ですぞ」
「十分承知しております。マガルム様もその辺りの説明に苦戦しているようでした」
「ヴォルフの実家かー……なんか今度来てほしいって熱心に誘われたけど大丈夫かな?」
「マガルム様がいらっしゃいますから大丈夫でしょう。本来のマガルム様はルハバート様より強かで妙な権力者を介在等させない手腕をお持ちでしたので」
「実はインテリ系?」
「そこまでではありませんが、一族を黙らせるくらいには権力があります。何よりツメの勇者として新たに任命されたので逆らえませんよ」
フィーロたんのツメではありますが……ライバルに奪われるくらいならいいのかとも思えますな。
「ツメはフィーロたんの武器ですぞ。後でしっかりと相談してフィーロたんの手に収まるべきなのですぞ」
「元康くんは相変わらずだね」
ちなみにツメはヴォルフの手からフィーロたんの手に移ることはありませんでしたぞ。
くっそですぞ。
ライバルの手に渡ったり、状況次第でコロコロ変わって落ち着きが無さすぎなのですぞ。
「ちなみに真相は分かりませんがワーバルト家は初代の盾の勇者に忠誠を誓った血族とも呼ばれていましてね。リベラシオン様のリザードマンの血筋とはまた別の盾の勇者様の従者の血族ということになります」
「わー……なんか、メルロマルクで俺が出会う奴隷だった人たちってみんなすごいなーあ、でもラフタリアちゃんとテオは違うか。もしかしたらテオも凄い血筋だったりしてね」
お姉さんはどうなのでしょうな?
生憎とその辺りはよくわかりませんが、お姉さんの村は波の被害を受けたという場所なのでそれはそれで物語性はあるのかもしれませんぞ。
「何にしても狂犬として盾の勇者様と一部の者にしか心を開いていなかったヴォルフ……マガルム様が理性を取り戻して下さったのでこれからの仕事もだいぶ楽になってくれるでしょうね」
ゾウの台詞はサーカス業ですな。
「まあ、元康くんの演舞の相手をしてもらったりしていたけど、より制御はしやすくなってくれるかな? エルメロさんもヴォルフの実家から協力とか受けたら心強くなるかな?」
「じ、自分に関してはお気になさらず、本当に……どうしようもない方々ですので」
ゾウは謙虚ですな。
タクトを含めた豚共に見習わせたいですぞ。
まあ、俺の知る元の世界での豚共も感情論で頑張れ! で、結構どうにかしてましたがな。
その程度でどうにか出来るのをウジウジと悩むのは良くないのですぞ。
「ゾウ、力は全てを解決するのですぞ。パワーですぞ!」
「元康くん、それって悪役が言うセリフじゃない? タクトって人と同じになっちゃうよ?」
「違いますぞ。タクトのようなのは正義無き力である暴力であり、ゾウの力は正義のパワーなのですぞ? 力なき正義は無力なのですな。力を振るわずに殴られっぱなしを良いとは思いませんぞ」
「えー……」
ゾウが言葉がうまく練られずにいるようですがこれが真理ですぞ。
アークとホー君も仰っていました。
誰かの為に戦えるのは尊く大事なことなのだと。
タクトの力は自らの為だからダメなのですぞ。
ゾウは尊敬する者とそれに連なる者たちの為に力を振るうのですから正義なのですぞ。
「なんていうか……元康くんって時々想像以上に冷静だよね」
「照れますな」
「褒めてるのでしょうか……」
ゾウとシルトヴェルトの使者が苦笑してますが、おかしなことを言ったつもりはないですぞ。
「纏めるとヴォルフは精密検査の後にお義父さんと合流するのですかな?」
「うん。ツメの勇者として秘密裏にメルロマルクで俺と一緒に活動するって名目になるからシルトヴェルトの方の戦争ムードはある程度ガス抜きさせられるらしいよ? 逆に攻め込むムードになるかと思ったんだけどね」
「元々、理性的に立ち回っていますからね。セーアエット領の者たちの保護をしているという広報の効果が大きく出ています」
善行は極力避けている状況ですからな。
一応メルロマルク国内での支持は錬と樹に固まってますぞ。
ラフミが影武者をしていろんな問題を錬よりも問題なく解決させているとの話ですな。
逆に樹の方は最初の世界やメルロマルクに留まったループに似た感じで悪徳貴族が有利になる世直しをしているようですぞ。
自然と影武者をしている錬への支持が集まっている流れが見えております。
「まあ、結果的に戦力は確実に整ってきてるけど……穏便に済めばいいな」
そんな訳でヴォルフの因縁はある程度収まりを見せてきた流れのようですぞ。
もちろんタクトは惨たらしく処理してヴォルフに見せてやりましたがな。
まだまだ苦しめ足りないのですぞ!
後は赤豚ですな! どうやって苦しめて仕留めてやりますかな? 第二の肉塊にしてやるのも手ですぞ!
タイミングが大事ですな。下手をするとクズの暴走を招くので成り行きを見守るしかありませんな。
そうしてタクトとヴォルフの問題を処理している日常の中ですぞ。
「あー……みんなが自我を失っていた俺と付き合ってくれていたのは覚えている。記憶とか色々と取り戻したんだ。俺はマガルムという名前であるけれどここではヴォルフと今まで通り呼んでほしい。これからよろしくお願いする」
ヴォルフが戻って来て改めて自己紹介をみんなにしたようですぞ。
メルロマルクでのサーカスキャンプでの出来事ですな。
「へー……噂には聞いてたけど驚きさね」
「そうだな」
パンダの養父と祖父はヴォルフへのエサやりと稽古をしていたのでそこそこ顔なじみなのですぞ。
「あたいは全く知らないさね」
パンダは蚊帳の外ですな。
「改めてよろしくお願いします」
「よろしく頼む……盾の勇者の元で最初に奴隷をする仲間だった訳だが、一番年上になるか」
ウサギ男とワニ男が各々ヴォルフに改めて自己紹介ですな。
「ああ……自我を取り戻したからには改めてよろしく頼む」
と、ヴォルフはワニ男とウサギ男に挨拶をしてましたぞ。
お義父さんの次に信頼する仲間と言った感じで親し気に見えますな。
「確かツメの勇者になったのでしたよね。あの時の展開は実にドラマチックでしたよ」
「テオドールは……物語が好きだな」
「ええ」
「俺も憧れていた。兄が勇者になってその従者として共に腕を磨き、不器用な兄の代わりに交渉はしていた」
「同類ですか」
「元々はな」
ウサギ男とヴォルフは握手をしてますぞ。
で、次はワニ男へと視線を向けましたな。
「伝承で聞いた事がある。最初の盾の勇者の従者をしていたリザードマンの末裔、こちらもそういった伝承がある。これから共に力を合わせて盾の勇者であるナオフミ様へと忠義を尽くそう」
「ああ……忠義で負けるつもりはないぞ。例え七星勇者だとしても」
「もちろんだ。この運命を俺は感謝する。何が何でも兄を超えた立派な勇者になってみせる」
何やらツメに決意を固めていますが俺としてはフィーロたんにフォーユーしたいですぞ。
おいツメ! 俺の命令でフィーロたんに宿れですぞ。
密かに眷属剥奪を命じたのですがツメは全く動きませんでしたぞ。
ライバルの手に宿った時もそうですが頑固な爪なのですぞ。
もしもまたアークが遊びに来て下さったらお願いしてみますかな?