リスーカボーイ
「俺がどうしてここにいるのか気になるデスピョン?」
「ええ、ですからさっきからそう聞いてるんですよ!」
「それはデスピョン……」
内緒とばかりに指を一本立てて口元に当てた後に目にもとまらぬ速度で樹にパラライズランスⅦで麻痺させてやりますぞ。
「ぐあ!? な――何を――」
大声をあげられると面倒ですからな。
もちろん大声を上げようとしたら即座に麻痺させるつもりだったのですぞ。
樹が麻痺してそのまま座り込みましたぞ。
「国に良いように踊らされて調子に乗っている君にこの国の真実を教えてあげようと思ったんデスピョ~~~ン」
『力の根源たるウサウニーが命ずる。森羅万象を今一度読み解き、彼の者の姿を変えよ』
「フォーフェアリーモーフ! ですぴょーん!」
っと俺は開拓妖精の姿にするフェアリーモーフの魔法を樹にかましてやりました。
この段階の樹に使うとどうなるかも気になりますな。
「樹くん、バカだからお勉強デスぴょーん!」
「な――ああああ……!?」
ボフっと樹が見覚えのあるリスーカ姿になりました。
服が脱げましたな。
これでお前はリスーカ樹ですぞ。水に入って頬袋が膨らみ、火炎放射器で空を飛ぶのですな。
お義父さんがどれだけ辛い境遇であるのか、人間であるからわからないのならば人間ではない姿でしばらく過ごせばきっとわかるでしょうな。
そうすれば赤豚のかました嘘が一目で見抜けるようになると思いますぞ。
「な、なん、ですか……これ、は!?」
樹も自身の姿の変化に驚いているようですぞ。
何もかもが変わったように感じるでしょうが、背の高さと姿以外は案外変わらないですぞ。
まあ、様々な特殊能力は開拓地のダンジョンを攻略しないと手に入らないでしょうがな。
この姿の方がいろいろと出来たりするのは面白くありますな。
二段ジャンプなんかも出来ますぞ。
「リスーカになったんデスピョ~ン。その姿でこの国を見れば何が真実かわかると思うデスピョン」
俺は悠々と痺れて動けない樹の横を通って行きますぞ。
「ま、待て……ううう……」
麻痺したリスーカ樹が俺の服の裾を掴みましたが俺はサッと払ってそのまま立ち去りますぞ。
「それでは、さようならデスピョン。ぴょーんぴょんぴょんぴょ~ん!」
HAHAHA! とばかりに俺は笑いながらその場をゆっくり立ち去ったのですぞ。
樹は麻痺しているのでそのまま仰向けで倒れていたのですぞ。
そっと扉を閉めました。
これで麻痺が解けるまで樹は動けず、誰にも見つかることは無いでしょう。
ちなみに俺は部屋から出た後にクローキングランスで即座に隠密状態になって宿から脱出しました。
これで少し憂さも晴れましたな。樹の曇った目もどうにかなるでしょう。
何が真実かわかるか見物ですな。
後はそうですな……。
「隙だらけデスぴょん!」
藪に隠れていた俺は背後から錬を襲撃しました。
「ん? ぐあ!?」
クロちゃんが寝ている隙に狩りに出かけたつれない態度の錬を不意打ちのスリープランスⅩで昏倒させてやりました。
もちろん居場所の特定は錬の追っかけをしていたクロちゃんですな。
魔物紋様々ですな。
クロちゃん、申し訳ないですが錬も通常通りに動かれると面倒なのですぞ。
「……くー……」
熟睡してますな。
隙だらけだったので姿すら見られていません。
では喰らえですぞ。
「フォーフェアリーモーフですぴょ、じゃなくて、ぞですぞ」
錬は眠りながらイヌルトに変化しました。
樹だけ開拓妖精にしたら不自然ですからな。
ついでに錬もイヌルトにしてやりました。
あれですぞ。勇者が次々と謎の生き物に変わって行っている?
次のターゲットは俺かお義父さん!? って流れになると思いますぞ。
後はそうですな。
犯行が明らかになるのを少し遅らせましょう。
どうせ錬はこの後ゼルトブルに行くのが毎度のパターンですからな。
意識の戻らないイヌルト姿の錬を掴んで俺は港に行きました。
そしてゼルトブル行きの積荷の箱の中にお義父さんとパンダの養父が使っている包丁と一緒に入れてやりました。
助手とライバルの親を仕留められると面倒ですからな。結果的に第二のライバル等出来たらシャレになりませんぞ。
いえ、ループを跨ぐことでライバルが増える等もってのほかですぞ。
今までのライバルのほかにもう一人増えるなんて勘弁ですな。しかも初期のライバルはより直線的で気色悪いのですぞ。
今のライバルは知能犯で厄介ではありますがな。
……まだ、初期のライバルの方が処しやすいですかな?
ガラガラっとイカリが引き上げられてゼルトブル行きの船が出発しましたぞ。
「お前はお義父さん達の包丁で闇の料理界でも牛耳っていろですぞ。フハハハハハ!」
という訳で俺は錬と樹をしっかりと処理し、その日は枕を高くして寝入ったのですぞ。
スピー……ですな。
いい仕事をしましたな。
……
…………
………………
おや? ここは……。
「いやー……認識したからって寝るだけでここまで降りてくるとかどんだけ潜ってくるかなー」
気づくと槍の精霊の世界に俺は居て、槍の精霊が呆れたように姿を現して声を掛けて来ました。
「一体どういうことですかな? もうループするのですかな?」
「まだ途中だよ。君が深く眠っているからここに落ちてきただけだよ。あの二人に酷いいたずらをしてどんだけ気持ち良くなったんだって呆れるよ」
まったく、と槍の精霊が何やらブツブツと愚痴ってきました。
知りませんぞ。
「では起きたら戻れるのですな」
「まあね。しかし、これまでにない事をしろと言ったら随分と自由に行動してくれるもんだね」
「どうですかな?」
「……お好きにどうぞ」
むう……車軸にしても全く堪えてないようですぞ。
では片っ端から野郎の穴に槍を突き刺してやりますかな?
などとと思いつつ早くここから出たいと思っていた所、少し離れた所で何やら賑やかな光の集まりがあるようですぞ。
「あれはなんですかな?」
「ああ、アレはこの世界出身の精霊が俺のような聖武器に宿れるくらいの上位精霊になったのを祝ってる最中だよ」
ほう……そのような催しがあるのですな。
「ここはお前の世界で、配下の精霊という事ですな?」
「ちょっと違う所に君が落ちてきたのですぐに合流したんだよ。丁度俺も祝いの席に来てただけ」
ほう……そうなのですな。
というか、精霊も何やら祝いをするのですな。
そう考えていると祝いの主賓となっている精霊の光が二つほど、こちらに気づいて近づいてきますぞ。
「槍の精霊様、この度は祝いの席に来ていただきありがとうございます」
「うん。俺としてもこの領域にまで至るのは素直に賞賛に値するね。いずれ旅立つ時が来るだろうけれど君ならしっかりと出来ると信じてるよ」
「はい……何卒、よろしくお願いします」
で、槍の精霊は二つのうち片方の精霊の方へ語り掛けているようですな。
「で、そっちは槌の精霊としてしばらく神狩りの武器として修行に行くんだったね。あっちの精霊はこっちに休養に来る感じで」
「はい。懐かしい方々との再会を楽しみにしてます。まあ……話は出来るとは思いますが」
槌の精霊となる精霊は……声からして男性のように感じますな。
なぜでしょうな? どこかで聞いたような声ですぞ。
「え、えっと……隣にいらっしゃるのはもしかして槍の勇者様でしょうか?」
で、主役らしき精霊が俺に気づいて槍の精霊に聞いてますぞ。
なんですかな? この精霊は……こっちも何やら聞き覚えがあるような気もしますぞ。