フィーロ育成計画・破
「ここに来ていらっしゃったのですね」
更に基本的にテントなどで雑務をしているシルトヴェルトの使者がやってきましたぞ。
「盾の勇者様、今日はよくぞセーアエット様の娘であるエクレール様を連れ帰って下さいました。シルトヴェルトは今回の事に関して大々的に感謝の意を示すと思います」
「そんなにも大事な人なんだね、エクレールさん」
「ちなみにメルロマルクでお義父さんが名声を稼ぎ過ぎると獄中死しますぞ」
俺の言葉にお義父さんが困ったように眉を寄せました。
「聞いたような気はするけど早めに助けることが出来てよかったと本気で思うよ。俺の立場が悪くなったとしてもね」
「はい。何やら奴隷売買に関してお気になさっていらっしゃるようですが、私が説明しておきましょうか?」
「じゃあ……お願いしようかな」
「承知しました。しかし……シオン、リベラシオン様と言うべきでしょうか。彼がまさかセーアエットの懐刀とも言われた方の遺児だったとは」
「やっぱり有名人なの?」
お義父さんの質問にシルトヴェルトの使者が頷きますぞ。
「はい。なんでも亡きセーアエットから聞いた話によると古の盾の勇者様に忠義を尽くしたリザードマンの原種にして末裔であるとか……ただ、長き歴史の中で数を減らし、最後の一人だったとか」
「わー……」
「確かにリザードマンと呼ばれる種族の中では今では見ない体躯をしているのは間違いないですね。私も前に少しだけ見た事がありますが、あの方によく似てますよ」
ワニ男姿のワニ男をシルトヴェルトの使者は見覚えがあると何度も頷いておりました。
「雑種って言われてたけど……」
「ええ、人間の嫁との間に子供が出来たとの話だったはず。ですので盾の勇者様の影響が強く表に出て彼の獣人としての血が現れたのでしょう」
良い事です、とシルトヴェルトの使者は言ってますがお義父さんは複雑な心境と言った表情をしてましたな。
ワニ男の形成された環境というのも大事にすべきという考えのようですぞ。
思えばお義父さんはお姉さんたちにもそうでしたが自ら選ぶことに重きを置いていらっしゃいます。
クラスアップなどもそうでしたぞ。基本的に自分で選べと仰るタイプですな。
ワニ男の中に流れる人間の部分をワニ男はどう思っているのかを気にしているのでしょう。
「とはいえ……因果というものはあるのでしょうかね。まさか紹介された奴隷の一人にそのような末裔が混じっているとは驚きです」
「そうだね……」
前にワニ男だけをお義父さんが購入したループがありましたな。
お姉さんもお義父さんとの出会いを思い出して戦慄してました。
一歩間違えたら俺はワニ男をお義兄さんと呼んでいたのかもしれません。
ですが……注意しなければいけないのは奴とお義父さんでフィーロたんを育ててもらうとアメリカンな感じのフィーロたんになってしまいます。
なんとなくお義父さんもその手のタッチの顔立ちに見えてしまいそうで怖いですな。
逆にお義父さんがマスコット枠になるのかもしれません。
俺の脳内フィルターであのループのお義父さんはペックルサイズになっていますぞ。
ぬいぐるみなお義父さんですな。
あのループにもいずれ行くのでしょうか……できればフィーロたんはフィーロたんにしたいですな。
「シオンがそうなんだし、実はラフタリアちゃんやテオも何か特別な出生とかあったりしてね」
あはは、お義父さんは笑ってますが俺の脳内でお姉さんが冗談じゃないって顔をしてますぞ。
アレですな。アークやホー君なら分かるかもしれませんな。
教えて物知りほーくーんですな。
記憶の中のホー君が「僕に何を期待してるの? しないからね!」と仰ってますが頼めばしてくれるのがホー君だと俺は信じてますぞ。
「ヴァウ?」
「ヴォルフもね」
「ヴァウ!」
そのような謎が明らかになるのでしょうかな?
わかったらわかったでループ時にお義父さんに情報提供できるようにしておきましょう。
「エクレールさんにリベラシオン……か」
「エクレアの親はフランス語をどこかで学んだのですかな?」
名前の流れからしてそうなのでしょうと思えるくらいに法則がありますぞ。
ワニ男の説明からして命名はエクレアの親だったのでしょう。
「まあ現代人が結構来ている世界らしいからね。エクレールさんの方はそうなんだろうなって思ったけどシオンの方もその繋がりなの?」
「ですな。リベラシオン、意味は解放や釈放、自由化を意味しますぞ。リベレイションと意味は同じですな」
勇者の魔法に属するリベレイションと重ねてあるのは変わった名前ですぞ。
「血筋からの解放を意味する子か……俺と出会ってよかったのかな」
ワニ男自身も因果と言ってましたな。
出会わなければ盾の勇者の配下という血筋が抱えた呪いを継ぐ必要はなかったのかもしれないとお義父さんは何やら遠い眼をしてますぞ。
「盾の勇者様、リベラシオン様自身が勇者様の配下であることを誇りにしているのです。そのような悩みは彼を侮辱することになりますよ」
「わおーん」
「……うん。わかったよ。さ、悩むのはこれくらいにして、今日はぐっすり休もうか」
そんな訳で俺たちは明日から始まるフィーロたん計画の為に就寝したのですぞ。
翌日ですぞ。
「ではお義父さん。しっかりと匂いを取るのですぞ。お姉さんを始めとした匂いに敏感な連中もしっかりとお義父さんの匂いを嗅ぐのですぞ」
「あらー」
朝から俺たちはてきぱきと行動してますぞ。
まずはお姉さんのお姉さんに今回はお義父さんの付き添いをして貰ってリユート村に滞在して貰う事になっております。
被害は最小限に抑えましたが多少復興の手伝いをするとの話ですぞ。
普段はゼルトブルかパンダの村でお姉さんたちのお世話をしているお姉さんのお姉さんですが今回はしばらくお義父さんと付きっ切りで一緒に居て貰う手はずになっております。
「キール、出発前にお義父さんの匂いチェックですぞ。フィロリアル様の匂いが付かないように配慮するのですぞ」
「わかったけどなんで匂いが付いてちゃダメなんだ?」
「最大限の懸念を避ける為だそうですぞ」
そう、前回のループでのお義父さんの助言ですぞ。
フィーロたんとなるサクラちゃんに他のフィロリアル様の匂いがお義父さんからしたら予測とは異なるフィーロたんになりかねないそうですぞ。
「それとお義父さん、わかっていますな」
「わかってるって。フィロリアル達には預けられた卵が孵化しても近寄らない。孵化後は気難しくて不機嫌そうな姿を意識するんでしょ。サディナさんとは仲良くしてる感じで」
「ナオフミちゃん、お姉さんとどれくらい仲良くするー?」
お姉さんのお姉さんが甘えた声でお義父さんに絡みますぞ。
「冗談にならないような事はどうかなーって思うんだけど?」
「あら? お姉さん、ナオフミちゃんとなら楽しい事をしても良いわよー」
「そこは問題ないですぞ」
何せ最初の世界に戻るために通ったフィーロたんと再会できたループでお義父さんとお姉さんのお姉さんは関係があった可能性は十分ありますからな。
「いや、それもどうなの?」
「あらー」
クスクスとお姉さんのお姉さんは笑っていますぞ。
こういう時のお姉さんのお姉さんはどこまでも冗談で済ましてるのが多いですから信用できないですぞ。
思えば……フィーロたんと再会できた時のお姉さんのお姉さんはお義父さんを抱き上げて歩いて行った時……手が震えていました。
お姉さんの消息がつかめず、大事な人はお義父さんだったのでお姉さんのお姉さんは関係を求めたのかもしれません。
前回のループのお義父さんもお姉さんのお姉さんは寂しがり屋だとぽつりと仰っていたことがありましたからな。




