番外編 先出し槍の勇者2023
「ふぐう!」
新たなループに飛ぶかと思った直後、急速落下して地面に叩きつけられてしまいました。
「あらま……ランダムに設定して飛ばそうと思ったのに、まさかこれを引くとはね」
「ど、どうしてなのですかな?」
「そこはアレだよ。アーク先生が君が傷つかないようにね……良かったね、あのまま行くと君にとってかなーり辛いループに飛ぶ事になったよ。具体的には最も恐怖するフィーロちゃんの――」
「ヒィイイイイ!?」
何処へループするのかそれだけで分かりました。
アークはそれを阻止するための仕掛けを施しておいてくれたのですかな!?
「他にも君が徹底的に彼を追い詰めたループとか、君や彼にとって良くないループも同様の処理が施されてて構築されてないからその分岐は無いよ。そんな訳で再抽選をするのも良いんだけど……いや……そうだ」
槍の精霊が何やら考え混んでから閃いたような顔をしました。
「うん。あれを利用すれば……ふふ、面白い事が出来るね。君の世界でも誰かがやった仕掛けの痕跡があるし、うん。面白いし丁度良いからやってみよう。これくらいの幅はあっても良い」
「ブツブツと独り言では分かりませんぞ」
「まあ、君を驚かせようとしてるんだから当然でしょ。そうだなー……この際、勇者召喚ってなんで人間側が行わないといけないかって話もしておこうか。あれはね、元々は任意、俺も好きなタイミングで呼べたんだよ」
ほう、確かに精霊に意志があるのでしたら好きに呼べた方が召喚された方も良いでしょうな。
変な場所……お義父さんもその所為で苦労したのですぞ。
「だけど世界が融合する毎にそう言った事が出来なくなっていくんだ。本来別々のモノがくっついてしまう訳だしさ。規格が合わなくなってく感じでね。人間側の召喚で開いた穴を利用して呼べるときに呼ぶ感じになっていくの」
「そうなのですな」
だから勇者召喚が存在するのですな。
では最初の聖武器の勇者は精霊にとって必要な時に呼び出して配置出来たと言う事ですぞ。
ふむ……精霊も好きに呼べないとは面倒なのですな。
ん? ではこの際聞いて見るのも良さそうですな。
「ふと気になったのですぞ」
「なに?」
「本来は盾の精霊と話が出来たら聞きたい話ですな」
「ああ、君は会うことは無いだろうから俺に聞いた方が良いよ」
「では聞きますぞ。どうしてお義父さんはあんなにも攻撃力が無いのですかな?」
盾の精霊が決めたビルドなのだろうと思っていたのですが改めて確認ですな。
「ああ、それ? まあ、盾の精霊の所為じゃないよ。実際、過去に盾の精霊に選ばれた勇者は居たけど、攻撃能力も備わっていたからね」
なんと……お義父さん以外の過去に存在した盾の勇者は攻撃が出来たのですな。
「単純に彼の性質だよ。元々、夢幻に属する彼だからさ」
「無限ですかな? 確かにお義父さんは無限大の慈悲を所持してますが」
「そっちの無限じゃなくて夢と幻の夢幻、アーク先生が嫌いな無限な訳ないでしょ」
夢幻? 槍の精霊は専門用語を使っている自覚があるのでしょうか。
よくわかりませんぞ。
「彼女の予言にすらなかった、俺が君ではなく彼を選んだとしても攻撃力は相当低めなんだよね。覚えているかな? 昔、盾の聖武器を一時的に奪われて、杖の精霊が力を貸してた時があったでしょ? あの時だって元々の所持者の攻撃力を借りて戦ってたんだ。まあ、相手が不正者だったから多少は攻撃力がプラスされたみたいだけどね」
どうやら精霊の宿った武器を持つだけで攻撃力にマイナス補正が働くと言う事らしいのですぞ。
話からしてお義父さんがクズから武器を借りた際の事を話しているのでしょうな。
なんでも虎男と協力してタクトに地獄を見せたとか。
さすがお義父さんですな。
で、盾の聖武器ではお義父さんが所持すると攻撃力を引き出せないと言う事の様ですぞ。
「お前がお義父さんの手に宿ることは出来ないのですかな?」
「俺が何の精霊か分かってるでしょ? 盾も防具として補助的に出来なくは無いからさ。ただー……その場合は君を通してになるし、そのループの場合、君の記憶とかステータスの接続がね。ああ、交換すると君が路頭に迷う挙げ句、良い結果にならないね。彼の状況を君じゃ乗り越えるのは難しいと思うよ?」
何やら槍の精霊が計算して無理と仰いました。
くっ……ですぞ。
それだけお義父さんの状況は厳しかったのでしょう。
考えて見ればお義父さんほどのサバイバル能力をあの頃の俺は所持してないですぞ。
「なんにしても話はこれくらいにして……君がこれから行く世界は、言うなればボーナスステージみたいな所かな」
「ボーナスステージですかな?」
「まあ君にとってのボーナスステージかどうかはわからないけどね? けれど、君の言う通りみんながみんな、後悔を無数に繰り返してきたからこそ辿り着ける場所もあるって事さ」
そうしてふわっと、俺の体が再度浮かび上がり始めました。
「さて、北村元康、次の世界で君がどんな行動に出るかを見させてもらおうかな」
槍の精霊は俺を試すかの様な事を言っていますぞ。
「君の事だから大丈夫だとは思ってるけどね。心の命ずるがままやってみると良い。誰かの為に頑張るのが君だろう?」
「勝手に何を抜かしてるのですかなー!」
「ただ、助言を一つ。次に召喚される勇者は固定だ。覚えておくんだよ」
絶対にまた車軸にしてやりますぞ!
と、こうして俺は再度ループする事になりました。
フッと気付いて周囲を見渡しますぞ。
何処かの街道……いえ、見覚えがありますな、フィーロたんと愛のランデブーをした街道ですな。
ではあの時のループに飛んだのかと思いましたがフィーロたんはおりません。
ステータスで登録しているフィロリアル様を確認するのですが誰もおりませんぞ。
何より服装が異世界に来た直後の私服なのですな。
???
一体どうなっているのですかな?
場所はともかく状況がまったく想像出来ませんぞ。
何分、ループ直後はどうなっているのか推測しなければいけないのですぞ。
ですがまるで想像が出来ませんな。
フィロリアル様がおらず、近くにお義父さんも居ない。
考えられるのはフィロリアル様を育てる前でお義父さんを助けるために行動中だったとかでしょうか。
いえ、シルトヴェルトに行くループだったとしてもその場合は夜になって居たはずですが生憎と昼間なのですぞ。
エクレアを置いて行って追いかけるにしても場所がおかしいですな。
ハッキリ言って今までのループ内でこんな状況になった事は一度もありませんぞ。
何かしらの判断材料を探すべきですぞ。
槍の中に何かドロップ品などが無いかも確認しましたがありません。
一体、何処のループに俺を置いたのでしょうかな?
ループする前に聞くべきですな。ボーナスステージと言ってましたが何処か教えろですぞ。
何やら思わせぶりな態度でしたので答えなかった可能性は高すぎますぞ。
絶対に車軸にしてやりますぞ。
ついでに野郎の尻に刺してやりますかな? いえ、それはご褒美になりそうですな。
何にしても情報収集をしてから判断しましょう。
「ポータルスピア!」
と言う訳で手始めにメルロマルクにポータルで移動する事にしました。
メルロマルクに到着した俺は城下町を確認しますぞ。
特にコレと言った変化は見受けられませんな。
正面から城に乗り込んでクズを脅しに行くのも良いですが下手に暴れるとお義父さんに怒られるかもしれないのですぞ。
なので偵察とばかりにクローキング状態で城内を確認しますぞ。
ふむ……よく分かりませんな。
おや? 城内でクズを見つけました。
赤豚は何処でしょうかな?
先手必勝でぶち殺してやるのも良いですぞ。
そう思ってクズに付いて行くと……何やら会議室のような所で誰かと話をするようですぞ。
「もうすぐ学園の長期休暇期間で帰って来るマルティの為に珍しい食材を使った料理を食べたいと手紙が来ているので用意しようと思っている」
「……」
相手は……なんでしょうかな?
見た事があるような無いような、見覚えがあるけれど初めて会ったような覚えのある人物ですぞ。
「なんじゃ? これくらいもダメと抜かす気か!」
クズが何やら機嫌を伺うような台詞を言ってますぞ。
「貴様とて娘が居る身であろうが。そんな事もワシは許されていないと言う気か!」
「……わかり申した。用意しましょう。私の領地の者に漁に出られるか声を掛けてみよう」
「うむ! 任せた。ああ、あの子の顔を早く見たいものじゃ」
相手の返事にクズは満足したと言った様子ですぞ。
そうして相手が部屋から出て行くと……おや? 部屋の前にエクレアがいるようですぞ。
「……」
命令を待っているかのようですな。
「今回は私が行く。無理を承知で頼まねばならないのだからな。お前は城の方に居てくれ」
「は!」
と、エクレアは相手の命令に素直に従っているでようですぞ。
「折角の領地へ戻るのです。どうかしばし羽を休めて下さい」
エクレアがそう言うと相手は微笑んで居るようですぞ。
「ああ、あまり留守には出来ないが羽を伸ばすとしよう」
ううむ……? エクレアが当たり前の様に城内を歩いていると言う事は三勇教の騒動後という事ですかな?
いえ、クズが改心した後は元より波の出来事の平和な時に来てしまったのかも知れないですぞ。
城内を探しても婚約者がおりません。
どうにもピンと来ないのでお義父さんの領地の村に行ってみましょう。平和になった後ならば基本的にあの村の復興をさせてますからな。
していない場合はシルトヴェルトに向かったループである可能性が浮かびますぞ。
何分、お姉さんが生きているのを確認出来ていなかった頃なのですぞ。
そんな訳でお義父さんの領地兼お姉さんの村へと行きますぞ。
……?
「いらっしゃい。旅の方ですか?」
お姉さんの村へと行くと村人らしき人達がいました。
こんな村人居ましたかな?
見覚えの無い連中がチラホラいますぞ。
ですが俺の知らない人員が来るのはよくある事なので卒無く返事をしますかな?
「ちょっと立ち寄ったのですぞ」
「そうですか。小さな村ですがどうぞごゆっくり」
とは言いつつ村人は警戒気味に去って行きました。
俺はテクテクと村を適度に歩き回りながら確認をしておきます。
ふむ……? 復興した割にはそこそこ古い建物がありますな。
一体いつ頃の時期にループしてしまったのか分かりませんぞ。
波が起こってからどれくらいでしょう。
「失礼しますぞ」
「はい? 何でしょうか? 旅の方」
少々引っかかりますが気にせず聞きますぞ。
「波が起こってどれくらい経ったでしょうかな?」
「はい? 波ってなんの事でしょう? この前の少々海が荒れた頃の事でしょうか?」
……?
どうにも話がかみ合いませんぞ。
「ではお義父さん……盾の勇者はどこに居るか分かりますかな?」
「盾の勇者様? 是非ともお会いしたい伝説の人物ですよね。何処かで私達を見守って下さっているのでしょう」
この反応は知らないと言う事ですかな?
単純に宗教的な神様的な返事ですぞ。
槍の精霊、一体何処に俺を置いたのですかな?
遙か未来ですかな?
いや、クズやエクレアのそっくりさんが未来にいるとでも?
「こんにちわ!」
「はいはい。こんにちわ、ラフタリアちゃん」
っと、そんな話をしている横を……幼いお姉さんが楽しそうに駆けて行きました。
「ブブブー!」
「やっほー」
そこに居るのはキールとお姉さんのご友人ですぞ。
どちらも幼い姿ですぞ。
いえ、幼いお姿であるのは別に何も不思議では無いですが……波の話をしてもピンとこない村の者たちですぞ。
「ブブ! ブブヒ?」
「ボール遊び!」
「おいかけっこ」
「海で泳ぐのも良いなー」
「ブブー!」
「ブー!」
と、キール達は何をして遊ぶかを決めて村の外の方へと向かって行きますぞ。
「おーい。ラフタリア。元気なのは良いけれどあんまり遠くに行かないようにね」
「あ、お父さん。はーい」
と……そこでお姉さんと同族らしき大人の男性が和やかな笑みで手を振っておりました。
……?
お姉さんがお父さんと呼ぶ……?
どう見てもその人物はお姉さんとの血を感じさせる耳や尻尾、顔立ちがありました。
ですが……お姉さんの実の両親は波で確か亡くなったと聞きました。
ハッとなって波の到来時間を確認しますぞ。
118:32
まだ波は起こる……いえ、もしかしたらこれから起こると言う事という事なのですかな!?
と言う訳でどうやら俺は……まだこの世界が波を認識する前に、ループしてしまったようですぞ。
お義父さんすら召喚されていないこのループで俺は……何をすべきなのですかな!?