弓の勇者が見たモノ
「逃げながら矢を放つ事しか出来ないのか? 芋だな。コンシューマーゲームだったら良い攻撃なのかもしれないが程度が知れるぞ、樹。ほら……ここだ。ま、お前は当てれないかな? へたっぴ」
お義父さんが自身の胸を指さして当ててみろとばかりに樹を挑発しました。
しかし芋ですな……前にも思いましたが後方で射撃ばかりしている奴を呼ぶ蔑称ですぞ。
些か悪い言い方ではあるのですな。
単純に芋は好きな作物ですぞ。
ジャガイモに始まりサツマイモも好きですな。
お義父さんの作る芋料理は絶品ですぞ。大学芋に肉じゃが、こふき芋でさえも美味しいのは一種の才能ですな。
そういえば記憶の中の豚共は何故か肉じゃがを妙に作ろうとして失敗していました。
何故ですかな? 胃袋を掴めというやつをしたがるのでしょうが謎のアレンジで妙な代物が入るのですぞ。
それに引き換えお義父さんはシンプルな肉じゃがなのにとても美味しいのですぞ。
最初の世界のお義父さんも肉じゃがは作っておりました。
俺は聞いてました。
肉じゃがやカレー、シチューは適当に作れて良いから楽だな、と。
ですが知ってますぞ。お義父さん秘伝のダシであるフォンが惜しげもなく使われているので村の者たちが奪い合うほどの代物になっていたのですぞ。
残ることはありませんでしたが意図的に別に確保して肉じゃがコロッケもお義父さんは作っていました。
これも絶品でしたな。
「肉じゃがが食べたくなってきました」
「……」
「何故そこで……ニクジャガなる食べ物が?」
ワニ男とウサギ男が俺へと顔を向けました。
「言いましたね! これでも喰らいなさい! バンカーショット!」
記憶の通りお義父さんの挑発に怒りを露わにした樹が近づいてお義父さんの胸目掛けてスキルを放ちました。
ドスンと衝撃がお義父さんに通って行きましたぞ。
ワニ男たちがハラハラとしてますので痺れさせるか見張るのですぞ。
「後一歩踏み出したら痺れさせますぞ」
「これでは動けませんね」
「ああ、なんで自分たちが槍の勇者に見張られているのか理解できん」
余計な事をするとお義父さんが困るからですぞ。
ここはお義父さんを信じて待つのがジャスティスですぞ。
「どうしたら良いのでしょうね」
「黄色い声援で応援するのですぞ。キャー! お義父さん素敵ー! なんて頑丈なのー! ですぞ」
「……」
ワニ男が半眼で呆れ果てた様子で俺を見てきました。
なんですかな?
まあ、豚がよくやる頭の悪い応援ですぞ。
「ではウサギ男、お前はウサギらしく可愛い姿になってお義父さんを応援するのですぞ。パンダと同じく可愛い枠で応援すればお義父さんは微笑んでやる気になってくれますぞ」
ラフ種に応援されるとお義父さんは微笑んでおりましたからな。
もちろんフィーロたんたちも応援してたのですぞ。
ですのでウサギ男はウサギっぽく応援すればいいのですぞ。
「具体的にはこんな感じで小首を傾げつつ瞳を出来るだけキラキラさせるのですぞ。フィロリアル様程ではありませんがやり遂げろですぞ」
「なんで僕がそんな風にしなくちゃいけないんですか」
「お義父さんが喜んでくれるのですぞ」
「それは本当ですか?」
「本当ですぞ」
俺がウサウニーになってお義父さんなでてほしいですぞー! って近づいたら微笑んでなでてくれたのですぞ。
ですのでウサギ姿であればお義父さんを元気にする効果は絶対にあるのですぞ。
「おい……正気か?」
「そうは言っても何も出来ないならせめて応援したくなるじゃないですか」
ワニ男がウサギ男に注意してきますぞ。
なんですかな?
「まあ、確かにワニ男にはこの可愛さは出来ないと思いますがな」
「……」
「嫉妬してると思ってますよ、この人」
何やらワニ男が深くため息をしますぞ。
「……確かにちょっとだけお前が羨ましいかもしれないとは思う」
「いやいや!? まったく嬉しくない誉め言葉ですよ! 試合に集中しましょうよ」
と言った所で樹がお義父さんに耐えきられて絶句しておりました。
ああ、お義父さんの耐えきれなくはないなって台詞を聞き逃してしまいました。
「次は……こちらの番だ」
「盾で何が出来ると思っているのですか!」
お義父さんは受け止めた衝撃のまま、盾を樹にくっつけますぞ。
すると盾が反撃効果で針がするどくなって刺さりましたな。
「ぐ……これは……」
樹がめまいを起こしましたな。
そのまま押し倒して拘束ですぞ。
「なるほど……その手があったか」
「考えましたね、岩谷様。初めて会った時から不安でしたがこのような手立てがあるとは……感心します」
ワニ男たちも何をしたのか察したようですぞ。
「さて、ここで降参するならやめてあげるけど?」
「だ、誰が降参なんてする物ですか!」
「そうか……じゃあお前が降参するまで俺はお前を組み伏すだけだ」
「ふ、ふん。盾の尚文が何をしたって僕の勝利は揺るぎません!」
「いつまで言っていられるか」
この問答も覚えがありますな。
お義父さん、この後どうするつもりなのですかな?
まさかそのままという事では無さそうですぞ。
「う……く……」
毒が回って樹の動きが鈍くなってきてますな。
更に抵抗する樹の動きで別の盾の反撃が作動、魔法すら使えなくさせてますぞ。
そろそろ赤豚が余計な動きをするころ合いになってきますぞ。
魔法を放って来たら妨害してやりますかな?
飛んでくる魔法を迎撃してやるのも手ですぞ。
と、赤豚を目で追っているとお義父さんが俺の方を見てウインクをしてました。
それから一瞬だけ赤豚へと視線を向けてますぞ。
どうやら来ることがわかっていたご様子で、俺を見たのは何もしないで良いからという合図のようですぞ。
同様にワニ男たちにも視線で合図をしてますな。
ワニ男たちも何かするのだろうと黙って見ることにしたようですぞ。
で、樹の動きが鈍くなった矢先、赤豚が群衆の中から紛れて風魔法を放ちました。
「よっと」
「な――フグゥ!? な、なんですか今の!?」
樹を押さえつけていたお義父さんが樹の頭を掴んで赤豚が放った風魔法を当てました。
どんと衝撃が樹の顔に命中して殴られたように顔が歪みつつ吹き飛ばされそうになったのをお義父さんが衝撃を逃がして再度地面に樹を組み伏しますぞ。
おお……知っていたらこんな事が出来るのですな。
さすがはお義父さんですぞ。
「ブゥー……」
ん? あれは怠け豚ではないですかな?
怠け豚の分際で小賢しくも非常に存在感を消していますが、俺には見えました。
何やら映像水晶で撮影していますぞ。
樹はタクトではありませんぞ。
ちなみにお義父さんにも見えていた様で、携帯で動画撮影している現代人みたいだったそうですぞ。
「今……あ、ヒュー……」
「おのれ……おお……」
ウサギ男とワニ男が何が起こったのかを察して拳を力強く握った後、お義父さんの巧みな作戦に口笛を吹きました。
「さて、何が見えた? 教えてよ、樹」
「ど、どうし――いえ、放しなさい!」
樹の戦意が下がりそうな状態ですが即座に抵抗を再開しましたな。
もちろんお義父さんは無傷ですぞ。
赤豚を見ると、しまった!? って顔をしてますな。
ザマァないですなぁ! どう言い訳するのか今から楽しみであると同時に不愉快になるでしょうな。
もちろん審判は見て見ぬふりをしてますが……樹本人に見せているので言い逃れはもう無理だと思いますぞ。
「げ、幻覚を見せるなんて卑怯な」
現に樹は目を白黒させているのか混乱しているのか無理くり理由をひねり出してますな。
まあ、そう信じたいのでしょうが、声音から疑念を抱いてるのが伝わってきますぞ。




