交換条件
で、お義父さんは雑種のリザードマンにくる様に視線を向けました。
「……自分達が行きたい、波に参加して力になりたいから参加を要求したのだ。無理強いはしていない」
まあ、お約束ですが正義を確信した樹は話を聞く気は無いようですぞ。
「そう言わないと死ぬ様に奴隷紋という紋様で操作しているのはわかっています。安心してください。僕があなた達を救ってあげますよ」
「はあ――」
ウサギ男が我慢できずに喋りたくてしょうがないようですな。
では俺が一肌脱ぎましょう。
「サイレンスランスⅤ」
チクリと一発、うるさい奴を黙らせる沈黙スキルですぞ。
「な!? 何を――」
しょうがないので黙らせました。
「樹、ここは異世界なんだ。郷に居れば郷に従って、奴隷が存在するのはしょうが無い事なんだ」
「しょうがなくなんかありません! 尚文! 貴様は間違っている! 彼女を再度傷つけた件もあって確信しましたよ!」
「そこの頭のイカれた女に関しちゃ知ったことじゃない。けど、奴隷に関しちゃ俺は間違っているね。そこは否定しないよ。普通の日本なら樹の言葉はとても正しい言葉だ。だけど、この国はそれで回っている。同様に亜人の国にも人間の奴隷がいる。君は何様かな?」
「――!」
ウサギ男が間に入りたくてしょうがないとばかりに前に出ようとするので俺が襟首を掴んでおきますぞ。
ボフっと手足がウサギ化してますな。興奮しすぎですぞ。
お義父さんがウサギ男に落ち着けと手で合図してますぞ。
変身しすぎて発作が悪化しないようにと注意しているのですな。
面倒ですからここは一旦寝かしつけますかな?
「何様とはどういう事ですか!」
「言った通りの意味だよ。知っているかい? この世で最も人間が残酷になるのは自分を正義だと確信した時って言葉があるんだ。何せ自分が正しいと確信している訳だからね。何をしても許される。そんな確信が人間をどこまでも残忍にするんだよ」
おおう……お義父さんの言葉が俺に突き刺さりますぞ。
確かにあの時の俺は正しいという確信の元にお義父さんを糾弾しましたぞ。
まあ……お前は常に自分が正しいと思って行動してるな……と脳内のお義父さんが仰っているような気がしますが俺は罪人なのですぞ。
フィーロたんとお義父さんの定めた正義に忠誠を誓って行動しているので間違いは無いのですぞ。
いえ、そこが残忍になっている原因では……と脳内お姉さんが言いますが違いますぞ。
お義父さん達は絶対正義、疑うなどしてはいけませんからな。
「ふん……よく口が回りますね。貴方のその言い分を真似して彼はあんなに喧嘩腰になったのではないですか? 悪い教育までしてますよ!」
「どうだろうね」
樹とお義父さんがバチバチとにらみ合いと舌戦を繰り広げております。
お義父さん、何が目的なのでしょうかな?
「イツキ殿の話は聞かせてもらった!」
ここでクズがやってきましたな。
よくやりますぞ。
難癖も極まった嫌がらせに特化した老害ですな。
このループではどう料理してやりますかな。
正直な所、フレオンちゃんがクズも気に入っているようなので地獄を味わわせるのは程々にするかと考えるようになってますぞ。
フィロリアル様の卵を破壊する作戦を考えたのはクズではありましたが実行には移さないように指示していたとの話でもあるそうですからな……。
やったのはタクトであり、クズの許可なく行った暴挙であるのですな。
樹をフレオンちゃんと遊ばない場合の予備案としてクズを宛がわねばいけません。
今回はいい加減ウザく感じていた樹に嫌がらせをしてやりたくなってますぞ。
赤豚を調理しつつクズをフレオンちゃんの遊び相手にさせる作戦を考えねばいけません。
前回のループでのフレオンちゃんは樹があまり遊んでくれなかったので少々寂しそうでしたぞ。
今回はクズが居るので樹を洗脳しない場合はクズを相手に遊んでもらいたいですな。
フィロリアルクロスでしたかな。
何にしても最初から決めていた茶番をよくもまあやりますぞ、クズ!
ちなみに今回のお義父さんは『よし……』と小さく呟いていますぞ。
樹と口喧嘩して時間稼ぎをしたと言った所でしょうな。
「ではこうしたらどうじゃ? 勇者同士が戦い、勝った者の主張が正しいとするのは?」
「へえ……」
お義父さんが待っていたとばかりに不敵な笑みを浮かべますぞ。
そんな態度に赤豚をはじめ、クズも眉を寄せました。
ハッタリとでも思ってそうですな。
お義父さんの作戦は分かりますぞ。反撃効果のある盾で樹を毒でじわりじわりと弱らせて勝利する作戦ですな。
アレを見た時、俺は感動に震えましたぞ。
出来ることは何でもする、実にお義父さんらしい勇ましい姿でした。
「勇者ともあろう者が奴隷を使っているとは……噂でしか聞いていなかったが、イツキ殿が不服と言うのならワシが命ずる。決闘せよ!」
「……」
雑種のリザードマンとウサギ男が揃って拳を握ってゴミを見る目をしているクズを睨みますぞ。
「イツキ殿が勝てば盾の勇者の奴隷は全て解放、盾の勇者が勝てば不問に処す」
「……話にならないと思うけど?」
「何処がですか! 正義が証明されるのですよ」
メルロマルクに留まった時のループによく似た流れではありますが、今回のお義父さんは獲物が罠に掛かったとばかりの不敵な態度ですぞ。
「それは樹の理屈、俺のメリットは?」
「メリットなら十分あるでは無いですか。好き勝手に奴隷を使役する権利ですよ」
「元からある権利を、褒美の様に授かる意味を良く考えろよ。何より俺が使っている奴隷は預かり物だよ」
メルロマルクに留まったループと同じ流れではありますが……お義父さんの勝気な様子が異なる展開へ持って行こうとしているのを感じますぞ。
何をするつもりなのですかな?
お義父さんは俺に大丈夫と視線を向けております。
「まあ、そんなに決闘がしたいのなら受けて立とうじゃないか」
掛かって来いとばかりにお義父さんが樹を手招きして挑発しますぞ。
奴隷たちを捕縛するために兵士たちが雑種のリザードマンとウサギ男を囲っていますぞ。
ギロっと雑種のリザードマンとウサギ男が飛び掛かっても迎撃できるように構えてますぞ。
ちなみにユキちゃんをはじめとしたフィロリアル様達は兵士たちを威嚇して追い散らしてますな。
「乗ってきましたね! 良いでしょう! 勝負です!」
「ただし!」
大きく通る声でお義父さんはクズを赤豚と指さし、笑いました。
「俺が勝ったらこの国の牢屋に収監されているエクレール=セーアエットを解放し俺の配下とさせてもらう」
「くっ――!」
「ブブブヒィイイ!」
クズが狼狽え、赤豚が即座に泣き叫びました。
不利な提案を提示されて口を噤むわけにはいきませんからな。
「そんな条件を受け入れられると思っているのか! 愚か者が!」
「ブヒャアア! ブヒブヒ!」
「その方は一体……」
え? って顔を樹はしてクズと赤豚の方を見ますぞ。
誰だそれって感じですな。
「重罪人じゃ! ならんぞ!」
「おやおや、これから亜人の奴隷達を解放する為に戦おうって弓の勇者様が決闘をするのに、この国が最初に波の被害を受けた時に被災地で奴隷狩りを行った兵士から亜人達を守る為に戦った騎士は重罪人なのか……」
「……どういう事ですか?」
首を傾げた樹が視線を向けると雑種のリザードマンはそのまま頷きました。
確かに決闘の相手が俺や錬であれば誤魔化せそうですが、正義感の強い樹にエクレアの行動は正しい物に映るでしょうな。
そんな正しい行いをした者が重罪人として扱われているという情報を与えれば、樹でなくてもこんな顔になりますぞ。




