リザードマンとエクレア
「おや? この先に覚えがありますぞ」
「元康くん知ってるの?」
距離を出来る限り取りつつ小声で俺はお義父さんに言いますぞ。
ちなみに雑談したら聞かれそうな範囲から距離を取り、俺の耳とウサギ男の耳で雑種のリザードマンがどこに行ったのかを判断しております。
もちろん牢獄なので牢屋には色々と獣人や亜人が捕らえられております。
ウサギ男がそっと牢屋に目を通してますぞ。
「そうですな。この先に居るのはエクレアですぞ」
何を隠そう、エクレアが捕らえられている部屋がこの先ですな。
「エクレア? お菓子を捕らえる……? 人の名前かな?」
「ですぞ。奴隷狩りをした兵士を私刑にした罪で捕らえられているのですな」
「亜人と友好関係を持つ貴族が居たとの話ですし、そういった方が居ても不思議じゃないですね」
「確かお姉さんの住んでいた地域の領主の娘で後で引き継いでいたそうですな。一部はお義父さんの領地になっていましたがな」
お姉さんの村は一応、エクレアの親の領地だったとかそんな話らしいのですぞ。
「リユート村でシオンと何か話している子が居たけど……」
お義父さんも心当たりがあるのか思い出しながら仰いますぞ。
「もしかしたらそのエクレアさんって人が捕らえられている牢屋を探して入り込んだのかな」
「困ったものですね。単独行動して見つかり、咎められたらどうするつもりだったのでしょうか?」
ヤレヤレとため息をするウサギ男にお義父さんが苦笑しますぞ。
「言ってあげないでよ。居てもたっても居られなかったって事だろうさ……まあ、後で注意はしておかなきゃダメかな」
お義父さんの慈悲深いお言葉ですな。
雑種のリザードマン、感謝するのですぞ。
と言った所で雑種のリザードマンは予想通りエクレアの牢の前で立ち止まり牢屋の中をマジマジと確認した後にエクレアに声を掛けているようでしたぞ。
「エクレール……エクレール様」
「ん? そこに居るのは……―――シオンか、はは……幻覚でも見ているようだな。波で……死んだはずのお前がここに居るなんてな」
若干疲れたような声のエクレアが雑種のリザードマンと会話をしているようですぞ。
「いえ、俺は死んでなんかいない。あの時俺は親父に任された所で戦い、空が晴れた後に合流しようと領主様と親父の元へ行こうとした際、味方のはずの兵士に不意打ちを受けて意識を……失う前にあいつらは領主様と親父が死んだと笑っていて……気が付いた時にはLvリセットされ奴隷にさせられていた」
何やら雑種のリザードマンはエクレアと知り合いであるのは確定だったようですぞ。
「このまま放置してると牢を壊して脱走させそうじゃないです? そんな事をされたらさすがにマズイですよ」
「……まあ、状況が状況だし、そろそろ声を掛けた方が良いかな」
「黙って見ているのも手ではありますが……こういった状況ならば岩谷様が理解のある主として寛大な態度をするんですよね?」
「テオ、君はちょっと物語に毒され過ぎてるような気がしてきたね……まあ、この流れだとしてあげるけどね」
期待の眼差しをウサギ男がしてお義父さんを見つめてますぞ。
俺も真似しましょう。
ウルウルですぞ。
「元康くんがなんでテオと同じような目で俺を見てるのかはともかく……」
カツカツとお義父さんがあえて足音を鳴らしながら明かりを点けて声を掛けますぞ。
「シオン」
「!? お前は……くっ」
見られたくないものを見られたと言った様子で雑種のリザードマンはお義父さんから顔を逸らしますぞ。
「その牢屋の先に居るのは君の知り合いかな?」
「い、いえ……」
「別に隠さなくても良い。こんな国なんだし、そんな事があっても不思議じゃないさ」
「俺は……エクレール様を逃がそうとしている訳ではありません」
「シオン、別に俺は君を咎めている訳ではないよ」
お義父さんは演技が掛ったため息をしますぞ。
「この程度で騒ぐような主だと思われているのなら心外だな。これまで君とテオがどれだけ命令違反をしても寛大に許していたか忘れたかい?」
「そ、それは……」
雑種のリザードマンは言い返せないとばかりに言葉を濁してますぞ。
「誰か来たのか?」
お義父さんはそこで雑種のリザードマンに道を開けるように視線でどかして牢屋の中を確認したようですぞ。
「ふむ……」
雑種のリザードマンの方に視線を戻したお義父さんが微笑ましいとばかりの目になりましたぞ。
「あ、あの方はエクレール様だ」
「そう、エクレールさんか、シオンの好きな人?」
「……はぁ……違う」
小声で確認するお義父さんに若干、呆れとも嫌悪とも混ざったようなため息をしながら雑種のリザードマンは答えましたぞ。
「近いのは姉だ……親が親しかったのだ」
「へー……微塵も思ってないの?」
「ああ、言ってはなんだがそういった事とは無縁の堅物だぞ。お前の周りみたいな状況じゃないし、囲うつもりならやめておけ」
「ちょっと心外な事言わないでくれない? 元康くんが強引で困ってるんだからね?」
お義父さんが視線を向けると雑種のリザードマンは静かに接近していた俺とウサギ男に気づいて眉を寄せますぞ。
「何の話をしているのだ?」
牢屋に居るエクレアが聞いてますな。
そこでお義父さんはコホンと軽く咳をしましたぞ。
「見慣れない奴だな、お前はメルロマルクの兵……では無さそうだな。何者だ」
エクレアはお義父さんにそう尋ねてますぞ。
「シオンの主人と言えば良いか、それとも盾の勇者と言えば良いかな?」
「何!?」
エクレアがお義父さんの返答に声を上げて顔を向けました。
「逆にこちらが尋ねるのは……シオンや他の人たちから聞いているから良いとしよう。奴隷狩りに走った兵士を私刑にした罪で収監されているエクレールさん」
「盾の勇者だと!? 一体どういう事だ! 私が牢に入れられている間に何があったのだ!」
エクレアが雑種のリザードマンを睨んで尋ねますぞ。
「どうやら……あの後、我らが国メルロマルクは勇者召喚を行い、四聖勇者が四人揃って召喚されたのだ」
「召喚……その召喚された勇者が何故ここにいる? 一体何が起こっているのだ」
「エクレール様、今夜は再度発生した波を勇者たちの協力の元に抑えられた」
「そ、そうか。いや、そうではない。勇者達が居るのは良い……」
「まあ色々と立て込んでいるのが正解かな。俺もここでシオンと一緒に居るとあまり良い立場には無いからさ」
内緒で来てるとお義父さんはエクレアに答えているようですぞ。
「あまり納得は出来て無さそうだね。さて……積もる話はあるだろうけどあまり席を外してるとあいつ等がここを見つけ出して面倒な事になりそうな気はする。どうしたものか……いや」
ニヤッとお義父さんが不敵に笑いました。
どうやらお義父さんは何か閃いた様ですな。
「どうせ面倒な事になるんだからこっちも色々と引っ掻き回せば良いか。これを知った樹がどんな行動に出るかの確認を取るのもいい」
「な、なにをする気だ! 私は、女王が帰還するまでここで待っているだけだ。いや……勇者が召喚されたとあれば急いで報告をせねばならない。何より貴殿が本当に盾の勇者ならばこの国に居るのは非常に危険だ! 急いで亜人の国へと向かうべきだ」
「そこはまあ……こちらにも色々と複雑な事情があってね。最初はシルトヴェルトに行こうと思ったんだけど、亜人獣人の神様、盾の勇者がこんな理不尽を見過ごしてオメオメと逃げるってのもどうかとね」
いたずらを思いついたような顔でお義父さんは雑種のリザードマンとエクレアに微笑みました。
「召喚されて数日で冤罪を吹っかけられるわ。盾の勇者だからって差別されるわ。散々だったからね。その辺りは……まあ、おいおいシオンの口から聞いてくれれば良いさ。失敗したら大急ぎで逃げる準備かなー……ラフタリアちゃんたちに何て説明したらいいかな。急いで女王に頼んだ方が早いかもしれないね」
ゴクリと雑種のリザードマンは唾をのんだようですぞ。
 




