会場を抜けて
「まあ、どっちでも良いとは思ってたし、良いよ。むしろ元康くんの話じゃここからが本番だしね。テオ、悪いね」
「いえいえ、何があるのかわかりませんが、どこまでも行きますよ」
「うん。とはいえ……ヴォルフ、さすがに城には君は入れられないから我慢してね」
「ヴァウヴァウ! わおーん!」
いやだいやだと駄々を捏ねるヴォルフをお義父さんはしばらくなだめていました。
結果、城に行くまでの間……ヴォルフを相手にお義父さんは木の棒を投げて取りに行かせる遊びをして我慢して貰う事になりました。
「よーし! フィロリアル様! 城で出される豪勢な食事を総なめしてやりますぞ!」
城の倉庫を空っぽにしてやりましょう。
「「「わー!」」」
なんて所で、リユート村の連中が声をかけて来ましたぞ。
「あ、あの」
「何? 俺達に何か用?」
ここはメルロマルクに留まったときと同じですな、気さくにお義父さんは答えますぞ。
「ありがとうございました。あなた達が居なかったら、みんな危なかったと思います」
「ど、どう致しまして。怪我人は出ていない?」
「大丈夫です。特に死傷者は出ず……村も無事に済みました」
「そ、そう? それならよかった。復興は大変だと思うけど、がんばってね?」
「はい、ありがとうございます! えっと……」
村人が雑種のリザードマンとウサギ男を見てからお義父さんに顔を向けますぞ。
ああ、一応この両者は虐待組でサーカス内では有名で覚えられているのですな。
「今度来てくださった際には良い場所でサーカスを開いて貰えるようにします」
「うん。よろしくね。被害に遭って復興もあるだろうから、安くするよ」
「その……この国に合わせたものではない演目を楽しみにしてます」
おお? 感謝からの虐待じゃない演目を望まれるのですな。
ここで波で活躍した者たちの虐待ショーを望むのは俺もどうかと思いますぞ。
深く頭を下げた村の連中はそれぞれ自宅に帰って行った様ですぞ。
その様子は安堵の一言でしたな。
「じゃあ行こう」
と、俺たちは開かれる宴に参加するために城へと向かったのですぞ。
ちなみに道中でお義父さんが宴から帰ったらみんなの為に色々と料理をしないとねーとむしろそっちの方が疲れるだろうと愚痴ってました。
パンダの養父に先に仕込みはして貰っているそうですな。
「フィロリアルのみんながお城で沢山食べてくれると助かるね」
「みんな頑張るのですぞ」
「「「わー!」」」
ふふふ……赤豚とクズ、俺の最大限の嫌がらせとフィロリアル様の胃袋を満足させる作戦を受けるのですぞ。
「いやあ! さすが勇者だ。前回の被害とは雲泥の差にワシも驚きを隠せんぞ!」
日が沈んで宴が開かれましたぞ。クズが毎度毎度飽きずに同じような事を言ってますぞ。
おや? 記憶の中のお義父さんと樹が、ループしてるんだから当たり前だと言ってますが気のせいですな。
樹、この周回のお前はウザいのですぞ。今回はどう処理してやりますかな?
フレオンちゃんを紹介する前に色々と試せと頼まれましたが、今一ピンときませんな。
何か……樹に心を入れ替える程に、且つわかりやすい何か報いを受けさせる手立ては無いですかな?
お義父さんがボコボコにしても折れない神経をしてますからなー。
「おお、中々いい味ですね。ヴォルフや皆さんに食べさせられないのは残念です。こんな場にボクが来るというのも考えられない事ですね」
ウサギ男が城の宴で興奮気味に食事を食べつつお義父さんに声を掛けてますぞ。
「卑下する割に、地味にテーブルマナーとか出来るよね、テオ」
「ボクもその辺りはピンとこない所なんですよね。どうも幼いころに覚えたような気はするのですけど……」
「……」
雑種のリザードマンもテーブルマナーは問題ないようですぞ。
ちなみにお姉さんはこの辺り、後で覚えたという話ですぞ。
箸は使えるそうですな。
「「「わー! いっただきまーす! おかわりー!」」」
バイキング形式で出される食事を思い思いにみんなで食しております。
「あれー? もうないー? もっとー」
どんどん食事が供給されていきますが、フィロリアル様達が補給されるその場で食べつくしていきますぞ。
「わー闇聖勇者ー食べれる時に食べないと闇が来た時に後れを取るよ?」
「うぷ……」
錬はまだ気持ち悪いのか隅に設置されている椅子に寝転んでいてクロちゃんがそんな錬に絡んでいました。
「レン様はお前の所為で体調を崩されているのだぞ」
「主人の元に戻るんだ」
「えー……」
錬の仲間がそれとなく咎め、俺たちの方へと帰るように注意してますがクロちゃんはどこ吹く風ですな。
なんとなくですがフレオンちゃんと再会した周回の錬とブラックサンダー、そして錬の仲間たちが思い出されますな。
最終的には神鳥騎士団の一員として戦っていたのですぞ。
「みんなよく食べてるね」
「豪勢な食事ですからね。岩谷様が作った料理も楽しみです。出来る限り再現して貰うと皆さん喜ぶと思いますよ」
「テオも地味に食いしん坊だね。シオンくらい静かに食べたほうが良いんじゃない?」
「はは、それは無理な話ですよ。今日は疲れましたからね。そういえば……そのシオンはどこに?」
雑種のリザードマンは料理を皿に盛りに行ったかと思いましたが戻ってきませんな。
どこで道草を食っているのでしょうな。
そろそろ樹が正義面して近寄ってくるかもしれないのですぞ。
まあ、奴隷云々は龍刻の砂時計の所で語ったのでそれ以外の難癖を赤豚やクズがする可能性はありますな。
「……何かあるっぽかったからね。俺たちもドサクサに紛れてシオンを探すとしようか」
「ハッキリと言伝をしておいてほしいですね」
「シオンは色々と抱え込んでいる所があるからね。少しは頼りにしてほしいね」
お義父さんが奴隷紋を開いて雑種のリザードマンがどこに居るのかを確認しているようですぞ。
「こっちだね」
「では行きますかな?」
フィロリアル様のお腹を満たす宴を何時までも見ておきたい気持ちはありますがお義父さん達がどうやらお出かけするので同行をしますぞ。
「ユキちゃん、みんなを見ていてほしいのですぞ。存分にお食事をするのですぞ!」
「任されましたわ! クロももっと食べるのですわ」
「うん! 闇聖勇者ーこの飲み物はー?」
「うう……」
錬はまだ連結した椅子で横になっていますぞ。
いつまで寝ているのですかな? クロちゃんの要求に応えて食べるのですぞ。
などと思いつつ俺たちはソッとパーティー会場を足早に出て庭へと移動し、お義父さんの進むままに進んで行きますぞ。
すると……地下牢へと続く道へと俺たちは来ましたな。
雑種のリザードマンは一体どこへ向かっているのですかな?
そう思っていると後ろ姿が堂々と見えてきましたぞ。
「見張りの兵士とか居そうなのに居ないですね」
「そういえばそうだね……シオンもその辺り警戒してるような動きだけど……」
確かにいませんな。
どうせお義父さんを辱める為に画策している光景を見たいからとメルロマルクの兵士共は持ち場を離れているのではないですかな?
奴らがやらかしそうな事ですぞ。
そんな画策をしている間にお義父さんと俺はそそくさと会場を出てこうして歩き回っている訳ですがな。
パーティー会場がにぎやかで静かに抜けた手前、俺たちを監視する連中の目が緩いのですぞ。
ちなみに何か後ろめたいことがありそうで隠れねばならない場合、俺がクローキングランスや隠蔽魔法で隠れて行けば堂々と進むことだってできますな。
「しかし……このような行動もするのですな」
「元康くんの知るループだとシオンはこんな行動してない感じ?」
「そうですな」
お義父さんの最初の奴隷を雑種のリザードマンがした場合で波を終えたパーティー会場で何をしていたかと言えばお姉さんと同じくお義父さんの隣で淡々と食事をしていたのですぞ。
逆にこんな歩き回るのが予想外ではありますな。
「まあ、元康くんやテオ、フィロリアルのみんなが居るから抜けても大丈夫って思ってるんじゃない?」
で、雑種のリザードマンが向かう先は……。




