MVP
「では素材ですな!」
「後から来て何ですか」
「俺とお義父さんは避難誘導を優先してクロちゃんとお義父さんの配下に攻撃を任せましたが? 分け前は貰えるのではないですかな?」
「そうだな。それなりに戦えたと思うぞ?」
「ヴァウ!」
雑種のリザードマンとヴォルフが樹に向かって言いますぞ。
さすがの樹もそこは否定しようがない顔ですな。
「ああ……まあ、そうですね。ですが勇者が先陣を切らなくてどうするんですか」
ちなみに錬は気持ち悪いのを我慢する為に会話に入る余裕は無いようですぞ。
「俺は大事なフィロリアル様達を助けることを優先したのですぞ。そもそもここまで早く仕留められれば十分ではないですかな?」
タイムアタックに近いくらいには次元ノキメラをやりすぎない火力で仕留めてますぞ。
本気になればブリューナクやリベレイション・プロミネンスで一瞬ですぞ。
ですがこの次元ノキメラや魔物の肉が必要なので出来る限り確保しようという事になったのですな。
「……良いでしょう。どう分けましょうかね」
「錬はドラゴンの頭が欲しいのではないですかな?」
「あ、ああ……うっぷ」
吐くのをどうにか堪えて錬は頷きましたぞ。
「では樹、どこが欲しいですかな?」
「……では獅子の頭と言いましょう」
「わかりました。では残りの頭と尻尾を俺とお義父さんが貰いますぞ。それ以外は山分けですな」
「異議はありません」
「……」
無言でコクコクと錬はうなずいていますぞ。
「では運びますぞ」
「これを持っていけばいいのか?」
「わう」
雑種のリザードマンとヴォルフが話を聞いて落とした山羊の頭と蛇の尻尾を運ぶ為に手を伸ばしましたぞ。
「コウも運ぶー」
「クロは闇聖勇者を見てるー」
「良いですぞ」
「帰れ……本気で帰れ……」
錬が何やら呪詛を放っているような気がしますが気の所為でしょう。
満更でもないはずですぞ。
そんな訳で俺たちはそのまま来た道を帰ってお義父さんに報告ですな。
「……この力、あの時にこそ欲しかった」
雑種のリザードマンがぽつりと独り言をしてました。
後悔はいくらでもあるものですな。
俺も霊亀に挑む際に今の力があったらと思う事はありますが挫折をしなかったらフィーロたんの真意に気づかずにいたのですから大事なことなのですぞ。
まさに後悔なんて無数にしても後で必要な事だったんだと思えば良いのですぞ。
今の俺を形作る大事な欠片であるのですからな。
「ただいま帰りました」
「おかえりー、それって戦利品?」
「そうですぞ。目玉の戦利品ですな。ほかは後日にですぞ」
とは言いつつ実は少しだけキメラの肉を確保してますぞ。
万一に備えてですな。
「お義父さんに献上ですぞ」
山羊の頭と蛇の尻尾ですぞ。
「元康くんは?」
「どっちも所持してますぞ」
キメラ自体、どこかで戦ってすべて解放済みですからな。
「それならいいのかな? じゃあ頂いておくよ」
お義父さんが持ち帰った素材を盾に入れましたぞ。
これでお義父さんの盾の変化の幅も増えましたな。
この後、起こるかもしれないお義父さんの戦いを考えると蛇の尻尾から出る盾は使える代物ですな。
強化素材の方は密かに集めていたので直ぐに強く出来ますぞ。
「とにかく、どうにか波を乗り越える事が出来たね」
「快勝のようですね。聞いた話よりもずいぶんと簡単に終わりました」
「……前の波は地獄のような状況だった。こんな簡単に終わる程じゃない。勇者が居るというのはそれだけ……凄いという事なんだろう」
雑種のリザードマンが被害の無かった村を見て複雑そうな顔で呟きましたぞ。
「それは……安堵ですか? それとも……」
「嫉妬だ。だが被害が無くて良かったという気持ちも本当だ。この件はあまり触らないでくれ」
ウサギ男の質問に雑種のリザードマンはお義父さんの方を見て一礼して答えました。
おや? 助けた村人の中に亜人が混じってますぞ。
そういえば最初の世界でお義父さんに志願して二度目の波に参加した兵士が居たそうですぞ。
その仲間に亜人が混じっていたと聞きましたな。
思えば確かに平和になった村で時々お義父さんが交流していた兵士に混じっていました。
ともかく、その亜人が何やら雑種のリザードマンに近づいて声を掛けていますぞ。
雑種のリザードマンは顔見知りだったのか何やら話をしてますぞ。
「やり遂げましたわ!」
ですが俺はユキちゃんたちが報告したのでそちらに意識を向けました。
お義父さんとフィーロたん、フィロリアル様が第一なのですぞ。
「みんなけがはなかったー?」
ユキちゃんたちが誇らしげにしているので俺も笑顔になりますぞ。
被害は完全にゼロですな。
俺が一気に仕留めたりせずとも被害はゼロに出来るのですな。
縛りを少し入れた状態での完勝……素晴らしい結果ですな。
「ボスMVPはクロちゃんでしたな。避難誘導MVPはユキちゃんですぞ。保護MVPはコウですな――」
俺は参加したフィロリアル様全てを褒めていくのですぞ。
「「「わーい!」」」
「兄ちゃーん」
ここでキールがゾウ達と一緒に駆けつけてきましたな。
「もう終わっちまったー?」
「うん」
「そっかー空が青くなったからそうなんだろうって思ったけど本当、スッゲー早かったな」
「けがはありませんでしたか?」
ゾウが村の状況を確認しつつお義父さんに尋ねました。
「うん。みんな問題ないよ。兵士たちが駆けつけるよりも早く終えたね。シオンもヴォルフもみんな頑張った」
「ボクもやりましたよ」
「はいはい。テオもね」
「ブブ……ブブ」
「エレナさんは早く帰って寝ようとしないでね? 君の仕事はこれからじゃないの?」
怠け豚は本当怠け者ですぞ! 赤豚にウロボロス劇毒を服用させた時のように完全に離脱させるにはどうしたら良いですかな?
それとなく赤豚を抹殺したのを察しさせて次はお前だと脅せば行けますかな?
「皆さん強くなりましたね」
ゾウはこれからが大事なのはわかっているとばかりに頷きましたな。
「ではキールさん、帰りましょう」
「えー……もう帰るの?」
「帰らないの? じゃあルナとキールのお散歩?」
キールを乗せたルナちゃんが提案するとキールは城下町の方を見ますぞ。
「よーし! テントに帰るぜ。じゃあなー」
「国の兵士たちに睨まれてるので失礼します」
と、キールとゾウ、ルナちゃんは足早に帰って行きました。
義勇兵という扱いですな。
しかし……応援で駆けつけた兵士は少ないですな。
早めに補充しろですぞ。
などと話をしていると錬と樹の方へ行っていた身なりの良さそうな兵士……次の騎士団長らしき奴が大きな声で宣言しますぞ。
「よくやった勇者諸君、今回の波を乗り越えた勇者一行に王様は宴の準備ができているとの事だ。報酬も与えるので来て欲しい」
お義父さんが頭を仕留めても次の頭が生えてくると仰っていたのを思い出しますな。
傲慢そうな顔つきが別人であっても同様な精神をしていると教えてくれますぞ。
嫌がらせをするために呼び寄せているのによくやりますな。
「まあ……どうしたものかな。俺は行かなくてもいい?」
お金に困っておらず、ループをなぞる必要は無いので欠席も手ではありますな。
「然るべき活躍をしたのに名を告げずに去る。実に物語みたいですね!」
ウサギ男が興奮気味にお義父さんの提案に同意しますぞ。
「面倒なことがありそうだからなー。まあ、ちょっとすっきりもしそうだけど」
お義父さんにはこれから起こることは報告済みですぞ。
「……すまないが城の宴とやらに俺は興味がある。見に行っても良いか?」
雑種のリザードマンがここでお義父さんに提案ですぞ。
「それはお願いかな?」
「……ああ」
お義父さんの問いに雑種のリザードマンは頷きました。
ウサギ男はそんな雑種のリザードマンを怪訝な目で見てましたな。




