余計な事は言わない
「樹、これを聞いてまだ尚文が犯罪者だという気か?」
「……」
「ブブブヒ! ブブブ! ブブブブブ!」
豚がさらに喚いてますな。
何を言っているのでしょうかな?
お義父さんに後で聞いた所、人さらいだとか家族や恋人を返せ! と騒いでいたそうですぞ。
「尚文さん! だからと言って他に罪が無いとは言い切れません。僕は信じる者たちに再度尋ねますよ。どちらが真実か、改めてね。両方の意見を聞いてから判断するとしましょう」
「――!!」
で、鎧が怒りの形相で俺を睨みつつ樹の背後に回り込みましたな。
騒がないように黙らせましたからな。
そうして樹は分が悪いと判断したのかそのままその場を去ったのですぞ。
「ふん……この国を拠点にするのは程々にすべきだな」
「わー……闇聖勇者カッコイー……」
キラキラおめめのクロちゃんが国へ吐き捨てた錬を期待のまなざしで見つめますぞ。
それを見た錬は困った顔になりました。
「その目をやめろ。とにかくここじゃお前のクラスアップは出来ないから諦めろ」
「わかったー」
「それで良い」
「じゃあクロが闇聖勇者と共に新たな闇を覚醒させる祭壇<ダークサンクチュアリ>の所に行くんだよね?」
「……違う。尚文、こいつをちゃんと押さえつけておけ」
「はいはい。錬、クロちゃんの事で怒ってくれてありがとね」
「えーでもー……」
「ふん」
錬はそう言ってその場を去って行きましたぞ。
俺たちもクラスアップが出来そうな雰囲気ではないですな。
三勇教の連中も喚きたてるだけですな。
意味もなく兵士たちが集まってきているようですしな。
「ブー……」
「……帰ろうか」
お義父さんがそう切り出しました。
そうですな。
波の到来時間の確認と登録は済みましたからな。
何より連れてくる者たちの違いや場の流れを黙っているだけでいろいろと違いが出るのですぞ。
「そうですな」
「随分と騒いだものだな」
「まあ……そうだね。ちょっと国内で暴れすぎちゃったかな……余計な恨みを買って機会を逃しちゃった気がする。樹の説得は巡り巡って失敗しそう」
「そうだな。だが、奴らがした事でもある。盗賊共の中で見覚えのあるやつもいたからな」
「……奴隷狩りかな?」
「ああ……」
「そう」
雑種のリザードマンが奴隷狩りに関して知っているようですな。
「樹の説得は最終手段がありますから安心ですぞ! 別ループの樹には最後の手段として許可してもらっていますからな」
最終的にフレオンちゃんに任せればなんとでもなりますぞ。
「何をするか激しく不安だけどわかったよ」
「全く……あれが勇者とは嘆かわしいものですね」
そこでお義父さんは黒いオーラが立ち上ってそうな氷点下とも取れる満面の笑みをウサギ男に向けました。
「テオは後ですこーし話があるからね。誰が強姦される側だって?」
「あわわ……ボ、ボクはま、間違ったことは言ってませんよ!」
「君も樹みたいにあの手この手で弁明する口は回りそうだね」
「ヒイイイー!?」
と、ウサギ男が青い顔をしながら俺たちは帰路につきますぞ。
「元康様、助かりましたわ」
「やりましたな。言わずが仏とはこの事なのですぞ」
そうですぞ。
ユキちゃんを止めねばあそこにいたのは俺たちだったのですぞ。
ウサギ男よ、お前も暴走して自業自得ですな。
俺たちが思った分までお義父さんにお叱りを受けるのですぞ。
「闇聖勇者……」
クロちゃんは錬に興味津々なのですぞ。
とても気に入ってくれて何よりですな。
建物の外に出ると錬を三勇教の豚が必死に呼びかけていましたな。
龍刻の砂時計の砂を配布の為に戻ってくれとお願いしているようでしたが、錬はそれすら拒否し、受け取りは仲間に命じて立ち去っていましたぞ。
「バウバウ!」
外で待っていたヴォルフがお義父さんに駆け寄って来て尻尾を振り振りとしてますぞ。
そんな様子のヴォルフにお義父さんは苦笑してましたぞ。
ウサギ男の顔が青い事に気づいたヴォルフが小首をかしげていますな。
「くーん?」
「ああ、テオはちょっと建物内で余計な事を言いまくったからね。反省してるんだよ」
「まったく……ただ、あんまり無防備に出歩かれるのもまた不安なものだ。ヴォルフもそう思っているだろう。な? 守りたいのだろう?」
「くーん? バウ!」
雑種のリザードマンの言葉にヴォルフは小首を傾げつつ頷くように鳴きましたぞ。
「はいはい。まったく……どっちが主人かわかったもんじゃない。攻撃が出来なくても逃げる事くらい出来るよ。今の俺を止められる人なんてそんな居ないんだからさ」
攻撃は出来なくても押すことや押さえつける、つかむなどはお義父さんは出来ますぞ。
きっと敵の攻撃や掴みなどを無視して歩き続けるなども今なら出来るでしょうな。
そういう意味では安心ですぞ。
ですがお義父さんが妙な連中に囲まれて襲われる心配はありますな。
「あちらの国の方でも注意してくださいね。むしろあちらの方がより怖いかもしれないです」
「そうだな。あっちは人間よりも本能に従う者が多い。必ず周囲に……盾の勇者にとって武器となる者を連れていてほしいのだ」
「ボクもシオンもヴォルフも力になりますよ。ボクは懐刀かロッドですかね」
「斧とでも思え」
「わおーん!」
奴隷たちの頼ってほしいとの言葉にお義父さんはさらに苦笑しますぞ。
ふむ……俺も負けていられませんな。
「では俺はお義父さんの槍とでも名乗りましょうかな? 矛盾という言葉はありますが無敵の鉾と盾は争う必要は無いのですぞ」
アークが俺の槍を握った際に盾を出して構えたのが印象的ですぞ。
「みんなありがとう。元康くんもね。非常に助かってるよ。うん……まあ、頑張るさ。ただまるで人をか弱い乙女みたいな扱いはやめてね」
お義父さんも気にしますな。
「三勇教に目を付けられてしまってないかな?」
「可能性はありますな」
この影響がどの程度広がるかは生憎と未知数ではありますが錬と樹には国のおかしい所を突き付けられたと思いますぞ。
「これまで以上に注意しないといけないな……ただ、思ったのは錬って子供には優しいんだなー結構クロちゃんに優しかったね」
「年下への面倒見は良い方ではないですかな? 後輩育成はするそうですぞ」
「そう言ったプレイもあるね」
「今までのループ内でお義父さんは悪い意味で後輩育成プレイをしていたんだろうと仰ってましたぞ」
「まあ……仲間たちへの指示を聞いた感じそれっぽかったね」
お義父さんだからこそわかるという話ですな。
和解した際の錬がその手の話をした際、晩年では認めていましたぞ。
あの頃は俺も未熟だった的な返事でしたな。
「これで余計な争いとか犠牲が出ないと良いけど……」
フィーロたん実験の邪魔だけは絶対に阻止したい所ではありますな。
それ以外は今までとは異なる行動をしていますぞ。
その結果が悪い事になっても俺はお義父さんとフィーロたん、フィロリアル様を絶対に守り通して見せますぞ。
「何にしても……」
お義父さんは殺気の感じられる笑顔でウサギ男へと微笑んでおりました。
それを察してウサギ男は誤魔化せなかったことに青い顔をしていましたな。
もちろん帰った後のお食事中、お義父さんはウサギ男に説教をしていました。
説教の内容は俺とユキちゃんの時と同じ内容でした。
俺とユキちゃんは学んだのですぞ。
心で思っても余計な事は言わない、という事をですな。
尚、一部で雑種のリザードマンも説教の対象として待機させられておりました。
同意の上での押し倒しをお義父さんは望んでおりますがー……お姉さんのお姉さんの場合は押し倒されてませんかな?
どうもお義父さんの感性はよくわからない所があるのですぞ。
ライバルを押し倒した? そんな事実はありませんぞ。
やはりその点で言えばパンダは必要なのかもしれませんな。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。




