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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 真・槍の勇者のやり直し
1118/1272

十周年記念・儀典・もふもふ勇者冒険記

「ん?」


 俺は町の図書館に読書をしにやってきていた。

 俺、岩谷尚文は大学二年生だ。人よりも多少、オタクであるという自覚はある。

 様々なゲームにアニメ、オタク文化と出会ってから、それこそ勉強より真面目に取り組んで生きている。

 俺は古いファンタジーを扱っているコーナーへ目を通していた。

 何分、人類の歴史に匹敵する程、ファンタジーの歴史は古いからな。聖書だって突き詰めればファンタジー小説だ。


「四聖武器書?」


 そんな本を読んでいた所、意識がスーッと遠くなって行った。

 まさかこれで異世界に行くことになり、直後の出来事からとてつもない経験をするなんて夢にも思わずに。




『力の根源たる槍の勇者が命ずる。森羅万象を今一度読み解き、彼の者達の姿を変えよ』

「アル・フォーフェアリーモーフ!」


 気が付くと同時にボフン! という音が響き渡り盛大に煙が立ち込める。


「ゲホ! ゲホ!」


 思わず咽て急き込んでしまう。

 気づいたらいきなり煙とか火事か? と思ってしまうだろう。

 そんでどうなっているのかと思って周囲を見渡すと体に何か布が巻き付いている。

 急いでその布をはぎ取ろうとするのだけど上手く行かず這い出る形で抜け出す。


「ゲホ……ゲホゲホ」

「一体何なんだ」

「まったく……何が……」


 そうして煙が晴れ始めた頃の事……。

 俺の周囲には……ウサギにイヌにリス? なんていうか某女の子向けのファミリーな人形みたいな生き物が居た。

 みんな揃ってサンタの帽子みたいなものを被っている。

 ウサギは槍を持ち、イヌは……シベリアンハスキーの柄違いみたいで剣を持っている。

 リスは弓……俺が読んでいた四聖武器書の勇者たちと同じ武器?

 その謎の人形というかぬいぐるみみたいな連中が各々見つめあう形となっている訳だが……。

 こう……二足で立っている姿は実にファンシーな感じだなぁ。

 ただ、状況的に異世界召喚という奴だろうか? それとも何か俺が寝ている間に謎のイベントとか?

 周囲を見渡すと石造りの壁で地面には蛍光塗料で描かれたような魔法陣、状況だけなら異世界召喚っぽいんだけどなー……。

 夢かな? と思って顔をつねろうと思ったんだけど手が……見慣れた手ではなく別の……なんだろ? 羽にしては固そうな、フリッパーみたいになっていて俺の視界の先にくちばしみたいなものがある。

 ……もしかして俺もこのウサギやイヌやリスと同じく何か別の姿になっているって事なのか?

 腕には謎の盾が付いている。

 もしかしてコレって異世界転生って奴の魔物転生をしてしまったとか? 召喚時に魔物の姿で召喚されてしまったとかそんな感じ。


「これは一体……」


 どうなっているんだ? と気になった所で剣を持ったイヌの奴がローブを着た男に尋ねた。

 あ、俺たちの身長……ものすごく縮んでる。

 相手が人だと仮定するとかなり小さくて見上げる形だ。


「おお……」


 状況を説明してくれる流れかな? こう……よくわからないけどウサギとイヌとリスの彼らはなんか仲間意識が俺としては芽生えてるし、状況的には召喚者が何か説明してくれると思う。


「みんな! 召喚は失敗だ! こいつらを殺せぇええええええ!」

「「「は!?」」」


 いきなり殺せ宣言!?

 と思った刹那に槍を持ったウサギが槍を構えて力強く一突きした。


「グハ――」


 それだけでローブを着た男が串刺しにされて壁に叩きつけられて動かなくなった。


「はあああああ!」

「しねええええ! 召喚失敗作共!」

「お前らを勇者として認める訳にはいかない!」

「ここで尋常にしねええええ!」


 と、部屋に居た者たちが揃って俺たちに襲い掛かってくる。

 その殺意の籠った声に肝が完全に冷えてしまった。


「はああ!」


 ウサギの次に動けたのは剣を持ったイヌの彼だった。

 咄嗟に剣で切り付けて俺とリスの方へと駆け寄る。


「早く逃げるのですぞ!」

「そうだ。こいつらはいきなり俺たちを殺そうとしてきた。逃げなきゃ殺されるぞ!」

「え、ええ……そ、そうですね」

「お、おう」


 状況が飲み込み切れない俺とリスの彼がウサギとイヌに声をかけられて我に返り転びそうになっていた態勢を整える。


「行きますぞ! 大車輪ですぞ!」

「「「うわあああああ!?」」」


 ウサギの彼が槍を振り回すと竜巻が巻き起こり室内に居た人たちが薙ぎ払われた。

 一体何なんだその攻撃、いや、状況的に異世界召喚とかそんな感じなのかもしれないけどさ。

 ずいぶんと身長が縮んでるんだしさ。

 不思議な力がもう使えるようになっているのかもしれない。


「早く逃げますぞ!」

「死にたいなら置いてくが来るよな?」


 ウサギとイヌが俺とリスを見て尋ねる。


「置いてなど行きませんぞ」

「ふん」


 ウサギとイヌが意見の相違でにらみ合いをするけれど、イヌの彼も仲間割れをするつもりはないようでそれ以上の言い争いはする気はないようだ。


「俺が先行していきますぞ。オト――みんなは俺の後に続くのですぞ」

「道は分かるのか?」

「この耳が音を聞き分けているのですぞ。どこに何かあるなど見るまでもないですな」


 と、なんとも頼りになりそうに胸を手でたたく彼の姿だけはファンシーだ。

 ……血まみれなのを除けばだけど。


「では一気に行きますぞ! 元康ジャーンプ!」


 バーン! っと扉を蹴破ったウサギ……元康って子なのかな? が周囲を見渡しながら手招きしてきた。


「なんだ!?」

「しょ、召喚は失敗……だ。あいつらを――」


 と、部屋を出た直後に甲冑姿の騎士っぽい人に向けて室内で倒れていた奴が大声で呼びかける。

 直後に騎士っぽい奴が笛を吹きならす。


「緊急! 緊急! 場内に獣人が侵入! 急いで殲滅――」


 ドス! っとウサギが槍を騎士の腹に突き刺した。

 その槍……なんか伸びてない?


「あ――!?」

「やかましいですぞ。黙って転がっているのですな」


 騎士は腹部と槍を交互に見た直後。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 恐ろしいほどの絶叫を上げる。


「ヒ!?」

「うわ……」


 俺とリスの彼が小さく悲鳴を上げてイヌの彼は眉を寄せる。

 カーン! カーン! と何やら場内に響き渡る鐘の音が緊急事態だと告げる。


「失敗でしたな。こいつは絶叫するのですな」


 ガスっとウサギの彼が絶叫を上げる騎士を壁に投げつけて黙らせた。

 一体何なんだろうか彼は、戦いなれているというのだろうか?

 イヌの彼も経験があるような冷静さを感じる。

 ザッザッザと大量の人の足音が聞こえて来る。

 このままだとここに居る兵士とかが集まってきそうな状況だ。

 一体どこに逃げれば……。


「行きますぞ」


 ウサギの彼が道を示すので俺たちはその案内のまま駆け足で進む。


「ちょっとあなた。もっと早く走らないと捕まりますよ」


 リスが俺を振り返って注意してくる。


「そうは言っても俺の姿を見てから言ってくれよ!」

「まあ……ペンギンですものね。この中では一番足は不安ですか……地上では不利でしょう」


 その同情辞めてくれないか?

 というか俺……やっぱりペンギンだったんだ。

 なんか手とか腹とか足を見てて思ったんだけどさ。


「大丈夫ですぞ!」


 ウサギの彼が振り返り、廊下の窓を開ける。


「ちょっとどうする気ですか、そこから外に出るとでも?」


 壁をよじ登って外を見ると……中世ヨーロッパと言ったらこんな街並みだよねって光景が広がっていた。

 本当だったら夢みたいだと思う状況なんだろうけど、いきなり殺されそうな言葉を投げつけられて追われているのだから感動できる状況じゃない。


「その通りですぞ」


 ウサギの彼が、よじ登ろうと頑張って窓にどうにか顔を載せることが出来た俺の腕を掴んで引き上げてくれた。

 そして俺の腕を握ったまま窓へと案内する。

 けれど窓の先は高く飛び降りれるような場所じゃない。縁から移動してとかは無くそのまま窓だぞ。小動物な姿だから人間では移動できない所に行けるとかじゃない。

 そのまま飛び出したら間違いなく落下死しかねない。


「いや、死にますよ。そこから飛び出したら!」

「なんですかな? イ――お前は壁でも伝っておりますかな? リスー……なら出来ますかな?」


 む……とウサギの挑発にリスがムッとしている所でイヌがきょろきょろと周囲を見渡しますぞ。


「ここから逃げるしか……無いかもしれないが。正面突破をするしかないか」


 ザッザと、足音が通路の両方から聞こえてきた。


「いいから――」

「うお! 尻尾をつかむな! 離せ!」

「いだだ! ほほを掴まないでください!」


 ウサギがイヌとリスの尻尾とほほを掴んで引っ張っていた。


「オト――君は俺に捕まるのですぞ」

「あ……うん」


 なんかすごく自信ありげな彼は何か考えでもあるのかな? と、俺はウサギが首辺りに手を回してほしいように後ろ目で合図を送ったので上手く動かない体で捕まる。


「では行きますぞー!」


 ぴょーん! っと俺とイヌとリスを乗せたウサギが窓から飛び出した。


「わあああああああああああ!」

「おおおおおおおおおおお!」

「あああああああああああ!」


 俺たちが各々悲鳴を上げつつ振り返ると大きな城から飛び出した。

 そのまま庭の草地が近づいてきたと思った直後。


「とう! ですぞ」


 ピョン! っと、何を足場にしたのかウサギが再度ジャンプというか物理法則を無視して城の庭へと落ちる。

 某配管工のヒップドロップで高い所から落下する際のダメージを無くすような動きだったぞ。


「ちょっと我慢ですぞ」

「え、ちょっと――」


 ウサギはリスのほほを掴むのをやめたかと思うと足で頭を挟み込み片手で槍を高速回転させる。

 するとプルンプルンとヘリコプターみたいに俺たちはゆっくりと……着地出来た。

 スタッと着地して転がるイヌとリス、俺はそのまま地面を踏みしめる。


「いたたた……」

「死ぬかと思いましたよ! 殺す気ですか!」


 まあ……空中で足で頭を挟み込まれるリスには同情を禁じ得ない。


「まだまだ逃げ切れてませんぞ」

「そ、そうだな! 急いで逃げよう!」

「こっちですぞ」


 と、俺たちはそのまま庭らしき所から続く地下への道を進み……どうにか逃げ切る事が出来た。




「いたか?」

「いや……次に行くぞ!」


 地下室の物陰で俺たちは息を潜めて探しに来た兵士たちをやり過ごし……やっとのこと一息つく事が出来た。


「どうにか……追っ手を撒くことが出来たようですね」

「そうだな。それも直ぐに見つかる可能性はあるが……」


 呼吸を整えたイヌとリスが小さくため息をして告げる。


「はぁ……少しだけ休ませてください。こう……休む暇なく行動してちょっと……」

「同感だな。まだ城の中だろ。どうにかして外に逃げないと」


 物陰で俺たちは一息を付きつつ各々見合う。


「大丈夫ですかな?」


 息も乱れていないウサギが俺を心配そうに声をかけてくれる。

 この中で一番頼りになりそうなのは彼……なのかな?

 一番戦いなれていて逃げ道は奇想天外だけどこうして逃げ道を確保している訳だし。


「えっと……ありがとう。ウサギの……」

「俺の名前は北村元康ですぞ」

「そ、そうなんだ。よろしく、元康。俺は岩谷尚文って言うんだ」


 ウサギは北村元康という人らしい。ウサ田ピョン太って感じだけど名前はあるんだなー。


「わかりました。尚文……くん。あなたは俺の知るお義父さんに似ているからお義父さんと呼んで良いですかな?」

「いや、いきなりなんで!?」


 何処をどうしたらウサギの元康が俺の事をお義父さん呼びになる訳?

 いや、理由を言ってるけどそれを許可するにはちょっと厳しくない?

 それともウサギの彼、異世界召喚シチュだったとして召喚前もウサギだったとかそんな感じなの?

 北村家のウサギで元康とかそんな感じでウサギが召喚されたとかさ。

 飼い主をお義父さんと思う流れなら納得できるけど会話が出来る状況でお義父さん呼びを受け入れるのは……。


「ダメですかな?」


 きゅるーんって感じに小首をかしげてお願いしないでくれ……断りづらい。


「ええっと……」


 話題をそらそう。元康……ウサギだから、くん付けして呼びやすさを意識しよう。

 リスの彼に助けを求める。


「……状況が状況ですが、自己紹介をした方がよさそうですね。じゃないと見た目で呼び合うことになりそうです。僕の名前は川澄樹、これでも人間でしたよ。高校生二年生で17歳です」


 あなたは? と言った様子でリスである川澄樹はイヌの彼に名前を尋ねる。


「天木錬だ。高校一年16歳だ。もちろん人間だぞ。気づいたらこんな姿になっていた」

「で、先ほどの自己紹介からするとあなたは尚文さんでそちらは元康さんですか。で、人間ですか?」

「もちろんですぞ。何だと思ったのですかな?」


 いや……君、俺をお義父さん呼びしようとしただろ? ウサギが異世界に召喚された疑惑もあっただろうに。


「ああ、ペンギンをお義父さんと名付けて飼育していたのですね。なんかの漫画にありそうですね」


 あー……なるほど、確かにそれなら……あり得るのか?


「違いますぞ。お義父さんはお義父さんですぞ。ちゃんと人間ですな」

「いや、そっちの方が謎」


 本気でなんで俺がお義父さん呼びなんだよ。


「じゃあ声が似てるという事にしましょう」


 あ、樹と錬の顔見て分かる。絶対違う。



「それでお二人は幾つで?」


 話題を続ける気だ。


「俺は21歳、愛の狩人ですぞ!」


 愛の狩人って……何だろ。元康くんとは話がし辛い。凄く頼もしいんだがさ……。

 で、樹が俺へと顔を向けたので名乗ることにする。


「20歳。大学生だよ」

「なるほど、それで皆さん……なんとなく察している段階ですが異世界に召喚されたで良いんですよね?」

「そうだけど……気づいたら人の姿じゃなくてなぜかこんな姿に」


 俺が片手をあげて自身の姿を見せつける。


「僕も同じですね……塾の帰り道に――」


 と、樹、錬がそれぞれどんなシチュエーションで異世界に来たのかを教えてくれた。

 塾帰りにトラックにはねられたのと下校途中に幼馴染を通り魔から助けて異世界召喚……転生なのかな?

 で……元康は何故か俺の匂いを嗅いでる。

 何をしてるんだお前は、俺に絡むのは程々にしてくれ。


「元康……北村くんは?」

「元康、と気楽に呼んでほしいですピョン」

「……」


 いやー、絶妙に呼びたくない。

 見た目は可愛いとは思うんだけどね。俺をお義父さんと呼ぼうとするし匂いを嗅いでくるし君は一体何なんだ。


「で、元康さん、あなたはどんな状況でこの世界に?」

「ふむ……」


 なぜそこで考え込む? 忘れたのか?

 なんかパチパチと瞬きしながら俺と樹と錬を元康は見る。


「……俺に勝手に付きまとう豚共が家に乗り込んで来て、無理心中しようとして来て刺されたらこの世界に来たのですぞ」

「豚?」

「豚は豚ですぞ。身勝手で気に食わないとへそを曲げて思い通りの返答がないと悪い噂を風聞する身勝手な生き物なのですぞ」


 元康が人間だと仮定して……豚、説明からして会話が成立する相手……。


「人だと仮定すると女性ですかね」

「ああ、やっぱりそうかな? 女性に付きまとわれて無理心中に巻き込まれて死んで異世界のウサギに転生か」

「そうですな」

「随分とあなた、口調はおかしいですが戦い馴れしてますよね」

「昔取った杵柄ですぞ。不穏な気配に体が咄嗟に動くのですな」


 そんな異世界召喚を題材にした小説じゃあるまいし……とは思うけどまさにその状況か。

 俺も読んだことがある。

 こう……召喚された者が気に食わないから何かしようとしているのを即座に察して周囲を皆殺しにして逃げ切る謎の殺人馴れした主人公。

 そんな状況把握能力あるわけないだろと思うけどさ。

 まあ、俺たちの場合はいきなり殺せ! って叫ばれた訳だから体が動いても不思議じゃないか。

 イヌの……錬も元康の次に構えていた訳だし。


「錬も動けていたよね」

「ある程度、心で考えていた状況だったからな」


 警戒するのって当たり前か?

 リス……の樹に顔を向けるとさすがにそこまではって感じで両手を上げて体でこたえられる。


「尚文さんはどんな状況で?」

「本を読んでいたら意識が遠くなって気づいたら召喚されてた」


 そういえば……なんか気づいた直後に声がしたような気がする。

 煙が立つ直前だった。

 聞き覚えがあるような……咄嗟だったからさすがに覚えきれない。

 そもそもあの布……俺が着てた服だったよな。


「本って……」

「ああ、四聖武器書って本で、剣、槍、弓、盾の勇者が波という世界の危機に召喚されて波に挑むって物語、その盾の勇者の記述の所で白紙でさ」

「剣」

「弓……」


 錬と樹が各々所持している武器を手に見ている。


「確かに状況は合ってますがこんな姿でしたか?」

「いや……小説だったからあんまり人物の造形は……けど動物姿だったって記述は無かったと思うけど」

「なんとも微妙な状況ですね。一体どうしてこんな姿になってしまったのか皆目見当もつきませんよ」

「そうだね。こう……ゲームみたいと言うより異世界転生ってのが正しい状況だ」


 それは錬も樹も同意なのか黙って頷いて居る。


「異世界に転生で動物姿ですか」

「アイツら、獣人とか言ってたな。確かに俺達の状況的に獣人が召喚されてしまったと思うのも納得か」

「それをいきなり殺そうとするってどういう事? 何か都合が悪い事だった訳?」

「わかりませんよ。ただ、勇者として認める訳にはいかないと言っていた所から考えて僕たちは勇者って事になるのでは無いでしょうか」


 確かに……この盾、外そうと思っても外れない。

 体に引っ付いたままだ。

 で、ウサギの元康がここで黙っている。考えて喋るタイプなのかな?


「まあ……ゲームっぽい所としてステータスがあるみたいだがな」

「え? そうなの?」

「それは俺も気付きましたぞ! 視界の隅にアイコンが無いですかな?」


 言われるまま、俺は何処を見るでもなくぼんやりとすると視界の端に何か妙に自己主張するマークが見える。


「それに意識を集中するようにしてみろ」


 ピコーンと軽い音がしてまるでパソコンのプラウザのように視界に大きくアイコンが表示された。


 岩谷尚文 状態 ペックル

 職業 盾の勇者 Lv1

 装備 スモールシールド(伝説武器)

 スキル 無し

 魔法 無し


 さらっと見るだけで色々な項目があるけれど割愛する。

 妙にゲームっぽいな。


「状態って所がペックル……ってなんだ?」

「俺はイヌルトと出てるな」

「リスーカですね」

「ウサウニーですピョン」


 そこでポーズを取るなよウサギの元康、絶対にこの状況を楽しんでるだろ。


「よく分からないがどうやらペックルって状態らしいのは分かったけどLv1とか色々とあるみたい」

「ああ、何らかの手段でLvを上げれば強くなれるんじゃないか?」

「そうですね。ただ、このシステム……見覚えがありますね」

「先入観を持つのは危険ですぞ。仮に似ていても視野を広く持つべきですな」

「……そうだな。俺達の知るゲームだったとして初手でいきなりこんな姿になって殺されそうになるなんて無い」

「そうですね。武器の強化方法とか見覚えがありますが」

「えっと……これだよな」


 と、ヘルプをみんなに尋ねると頷いてくれる。

 で、みんな各々教えてくれた。


「尚文の強化方法が少ないな」

「断片でみんな使えるものだと思いますぞ。俺のヘルプには錬と樹のもありますからな」

「それだと途方も無い量の強化ですね」

「では樹は少ない強化で納得するのですな?」


 ウサギの元康の挑発に樹がムッとしていた。


「しませんよ。良いでしょう。僕たちの武器は共通規格と意識して使えると信じますよ」

「心から信じるのですぞ。ま、出来るか怪しいですが」

「その挑発的な口調は辞めて欲しいですね。不愉快ですよ」


 HAHAHAと朗らかにウサギの元康が笑っている。

 俺への態度は良いのに樹には挑発的だなー……齧歯類のプライドとかなんだろうか?


「ついでにPT機能もあるようなのでPTを結成しておきますぞ」


 ポーンとウサギの元康が何か弄るとステータスアイコンにPT加入申請が表示されたので許可する。

 オンラインゲームのPT結成みたいだな。

 で、ウサギの元康が槍を軽く振り回して……握ると何か俺達の姿が半透明になったような錯覚を覚える。

 気のせいか?


「何にしても休憩はこれくらいにして逃げないといけなくないか?」

「……そうですね。今は一刻も早く逃げないといけませんね」

「地下だしまずは庭の方を出て城門辺りから出られないか確認しない?」

「難しいですか確認しましょうか」

「樹はリスみたいだし壁登り出来そうだな」

「僕だけ出来ても逃げられないでしょうが」

「まあ、そうだな。正面突破が出来るかも考えねばいけない」


 兵士達の足音に俺達は身を隠しつつ一旦庭へと出て城門を確認する。


「まさか獣人が召喚される等とあってはならん! 皆の者! 奴等を必ず殺すのじゃ!」


 ツカツカと王様っぽい人が兵士を連れて城門を牛耳っている。

 もしかしてアレが王様なんだろうか?


「警備が分厚いな。あそこを突破するには無双ゲームの如くいかないと難しそう」

「やりますかな?」


 シュシュ! っとウサギの元康がやる気を見せてるけどさすがに召喚直後、Lv1の俺達じゃ無理だろ。

 そりゃあ串刺しに出来る位に初期の攻撃力があるのかも知れないけどさ。


「いや……やめておこう」

「王道だとこう言ったゲームの城って隠し通路とかあるよね」


 いきなりこんなイベントがあるとしたらゲームだったら別の選択で脱出出来るって流れだ。


「そうですね。ありそうなのは井戸の中とか地下……こっちから出られる可能性はありますよ」

「ではあちらですな。間違いなく地下通路があると思いますぞ」


 と再度俺達は地下の方へと進む事にした。




 で、地下へと進んだんだけど……どうやらここは地下監獄だったようで収監された人々が牢屋の中にいる。

 幸いなのかみんな俺達に顔を向けないけどさ。


「なんか……獣人って人種みたいだね」


 捕まって居る人達の半分は獣の耳が生えた人達が多い。中には完全に動物っぽい特徴を持った人間もいる。

 わー……獣人だ。

 今の俺も似たようなもんだけど。俺達は小さくもなってる。


「むやみに助けるとかしないほうが良いよね?」

「そうだな。いきなり襲われかねないし騒ぎに巻き込まれてやつらに気付かれるのはな」


 息を殺しつつ脱出経路を探しながら俺達は地下監獄を進んで行く……のだけど何時の間にかウサギの元康が先頭に立って進んで居た。

 やがて……ウサギの元康の耳がピクリと跳ねて一つの牢屋を見る。

 スッと半透明だった感じが消えた。

 そしてウサギの元康が牢屋を覗き込む。


「ん? 先ほどから騒がしいが……獣人か? 兵士達に連れてこられたのか? こんな小さな者たちまでこの国の者たちは連行したのか嘆かわしい」


 と、牢屋の中にいる……美人の女性、女騎士って感じの人が腕を鎖で巻かれて吊されていた。

 樹が俺と女騎士っぽい人を交互に見る。


「ちょっと話が出来そうな方ですね。状況を整理するために質問して見ましょうか」

「大丈夫か?」

「牢屋に居る方ですし、僕たちに同情的ですので返答に注意すれば良いでしょう。現状は何が何だか分からない訳ですし」

「そうだな……話をするのは悪く無いと思う。ここは」

「俺に任せてほしいですぴょん」

「元康さんに任せるのは不安ですね。次点の年長者である尚文さん。頼めますか」

「わかった」


 と言う訳で俺が代表として女騎士っぽい人に尋ねる事にした。


「出来れば黙って居て欲しいんだけどさ。俺達、いきなり異世界から召喚されて召喚者達に殺されそうになって命からがらここに逃げてきたんだよね」

「何? それはどういう……いや、お前達、その手に持つ武器は……」

「これ?」


 と言う所でウサギの元康がどうやってるのかコロコロと槍の形状を変え始めた。

 あ、ヘルプで見た。素材を入れると武器が開放されて変更出来るって。

 いつの間に素材を入れてたんだ。


「その特徴は伝承にある勇者……まさか、さっきの騒ぎは獣人が勇者として召喚された!?」

「何やら事情を察して下さったようですね」

「その……俺達、いきなりで命からがら逃げてきたんだ。良かったら色々と教えて欲しいんだ。どうしてアイツら、俺達を殺そうとしたわけ?」

「それは……我が国メルロマルクは人間至上主義の国で亜人は敵として認識しているのだ。そんな中で伝説の勇者が獣人で召喚されてしまったのだぞ。そして勇者は世界を救った偉業があり信仰対象となっている」


 なるほど! つまりこの国は人間こそが正義、そこに信仰対象の勇者が敵種族である獣人として現われた。


「おそらく獣人の勇者が召喚されたと言う事実を隠蔽しようと……」

「納得出来る理由が提示されましたね」

「血眼になって俺達を殺そうとするはずだ」

「かといってどうしたら良いんだろ? 正面から出るのは警備が厳重過ぎて……」

「私がここから出て王に進言……は勇者が獣人では難しいだろう。この国は獣人や亜人にはそれだけ厳しい。私も波で被災した父の領地……亜人との友好の地の亜人を奴隷狩りした者たちを私刑にした罪で捕まっている」


 うわ……結構善玉な人だなこの人。

 本当だったら助けたいけど。


「波って……」


 俺が読んだ四聖武器書と同じ災害の話だ。


「ああ、私の父の領地が波の被害で壊滅したのだ。おそらく世界の危機として勇者召喚が行われる。貴殿たちはそれで呼ばれ……国の都合が悪い種族だったのでいきなり殺されそうになった」


 なるほど……だから俺たちは狙われていて命からがらこうして逃げ回っているってわけか。


「勇者が獣人とはなんとも因果なものだ……他国に勇者を明け渡すのが正しいと思うが国は認められないのだろう」

「その……俺の名前は尚文って言います。あなたは」

「……エクレール。エクレール=セーアエットだ」


 エクレールさんね。 


「こっちに風の流れを感じますぞ。きっと秘密の脱出通路がありますぞ」

「それじゃあ……」

「いや、待て……私を連れて行ってくれないか、貴殿たちの護衛を願いたい。そして女王が帰還するまで待つつもりだったがそうも言ってられないようだ」


 俺たちは各々見合う。


「どうします? 事情はある程度詳しいようですし罪状も悪いように感じませんよ?」

「見た所人間であるようだし、ここを出たとして人里での物資調達ができない状況で彼女が力を貸してくれるなら良いかもしれないな」「問題は人相書きとかいろんな面だけど話によると貴族の娘さんだし協力者とか居るんじゃない?」

「どうしますかな?」


 うーん……イベントの連続だけどちょっとワクワクしている。

 なんか仕組まれたみたいに俺たちにとって都合の良い正しいように見える人が捕まっている感じだ。

 最後の幻想の六作目の女騎士みたいなイメージだし、連れて行っても良いような気もする。


「助けた瞬間裏切られる可能性はあるが……」

「疑っていたってキリが無いですよ。どうせ逃げるしか僕たちには無いのですから」

「そうだね……」

「では助けますぞー!」


 ザクっと元康が牢屋の金属部分を切り裂いてエクレールさんを助け出す。


「感謝する」

「この先に脱出経路があると思うから行こう」

「ああ。私がしんがりを務めよう」


 って訳で俺たちは元康の耳を頼りに地下を進んで行き水路らしき所に出た。

 途中鍵が掛かっているところがあったけど元康が物理的に槍で切断して進めた。


「俺たちが水路に逃げたのを気づかれたみたいですな」


 元康が耳をぴくぴくと動かして察していた。


「大丈夫?」

「まだ遥か後方ですぞ。逃げ切れますな。追いつかれても仕留めるだけですぞ。勇者を舐めるなですピョン」


 あっさりと進めるもんだなーなんて思いつつ元康の案内で俺たちは水路を進んだ。


「この先はお義父さんに運んで貰うと良いと思いますピョン」


 で、明かりが見えるやや流れが急の所で元康が提案してきた。


「ああ、ペンギンの尚文さんが誘導してくれれば行けそうですね」

「俺は嫌だ」


 なぜかここで錬が拒否を示した。


「何故です? あと少しで出られますよ」

「お前らはそこで出ろ、俺は別の所を使う」


 一体どうしたんだ? さっきまで一緒に来る流れだったのに突然?


「泳げないのですなー! プギャーですぞ!」


 元康が腹を抱えて錬を指さして笑うと錬がフルフルと震える。


「違う! 俺は泳げる!」

「……完全に図星を付かれているように見えますよ」

「だから泳げると言ってるだろ! くだらないな」

「だが来た道を戻れば兵士共に遭遇しかねんぞ。私が抱えてやるから大人しくしていろ」

「うわ! 抱え込むな! 俺は泳げる!」

「イワタニ殿、先を任せられるか?」

「わかったよ。じゃあみんな行こう」

「ええ」

「行きますですぞ!」


 っと俺の後を続くように樹と元康が続いた……のだけど樹のほほが浮き輪のように膨れる。


「うわ! なんですか! 勝手にほほが膨らんで――」

「ああもう……運ぶからじっとしててね」

「良い感じに浮き輪になってくれているな」


 エクレールさんが樹を浮き輪として抱えて錬を背負う。

 錬は……濡れたくないとばかりにエクレールさんの肩に乗ってるね。

 そのまま俺たちは水路を泳いで進みきり外へと出られた。


「一体どうして頬袋がいきなり膨らんでしまったのか、散々ですよ」

「どうだ! 俺は溺れなかっただろ」

「錬さん、水が苦手なのは分かりましたから静かにしてください。僕の方が一大事なんですから」

「そんなことより外に出ましたぞ。早く逃げるのですな」


 水路から出た後、エクレールさんが道中で見つけたボロ布を羽織り、その中に俺たちが隠れる形で城下町の中を人目を避けるように進む。

 すると城の方向では兵士たちが厳重な包囲網を展開しているようだった。

 更に……俺たちらしい人相書きの立て札が立てられていた。


「城内に侵入した凶悪な獣人共だ。見つけ次第、報告し何が何でも仕留めるように! こいつらが何を言っても耳にしないように! 城内の人間を何十人も殺した凶悪な奴らである」


 元康と錬が動けないほどに攻撃したけどさすがに殺しては……いなかったはず。

 絶叫を上げた騎士がどうなったかはさすがにわからなかったけど、それでもまだ手当出来る範囲だった。

 異世界なんだし回復魔法とかあるよね?


「エクレールさん」

「なんだ?」

「魔法で回復魔法ってある?」

「ある」


 それはよかった。

 ならあの騎士も死んではいないだろう。


「何にしても急いで城下町から出たほうが良いでしょう。城下町の門が閉鎖される前に」

「そうだね。エクレールさん」

「わかった。みんな私に捕まってくれ。急いで行くぞ」

「行きますぞ」


 で、元康がまた槍を握ると俺たちが半透明になったような気がした。

 そのまま俺たちは城下町の外へと出ることが出来た。


「ここまでくれば一安心……かな」

「そうだと良いが……これからどうしましょうかね」

「私の知り合いの元へと行こう。亜人や獣人への理解が深い父と同じ志の者が居る。協力をして貰えば良いだろう。今は城の者たちも城下町を調査するので精一杯、今のうちに移動すれば問題ないはずだ」

「そうだね。じゃあお願いします」


 こうして俺たちはエクレールさんの案内で移動することになった。




 日が沈んで来て……さすがに無一文という事で人目を避けて野宿をすることに……焚火を前にみんなと雑談をした。

 食事? みんなが遭遇した魔物を倒してくれたので俺が調理してみんなで食べた。

 ナイフは逃げる途中で確保したので使えてよかった。

 ただ、このナイフで俺も戦えると思って握ったら弾かれて盾しか使えないって判明したんだけどさ。


「ふー……串焼きですが思いのほか味がよかったですね」

「途中で見つけた薬草が香草代わりに使えてよかったよ」

「尚文さん。料理の腕がいいですね」

「そこまでじゃないよ」


 パチパチと焚火を前に、不謹慎だけどワクワクしている。

 最初は肝が冷えたけど……異世界に来て冒険してると思うと夢みたいな状況だなー。


「ちょっとトイレに行ってくるですぞ」

「ああ、元康さんは更なる食事ですか、ちゃんと口臭を処理してくださいね」


 樹が元康に挑発まがいの指摘をしている。


「HAHAHA、食べませんぞ? では失礼しますぞ」


 と言って元康はガサガサと出かけて行った。

 かなり長い事帰ってこなかった。


「元康、いったい何をしてるんだろうな?」





「ただいま戻りました。ついでに周辺の調査をしてました」

「ああ……そうだったのか。兵士の気配は」

「無いですぞ」


 それは何より。

 ちなみに後日何をしていたのかというと……まあ、すべての元凶のこいつが少女を助けに行っていたらしい。

 後で紹介されることになる。

 何にしても疲れ切った俺たちは交代で休んで逃亡生活は続いたのだった。

 途中の村で乗り合いの馬車に乗せて貰い向かう。

 幌馬車なんて初めて乗った。

 まだまだ俺たちの逃亡生活は続きそうだけど……どうも俺たちはフォーブレイという国かシルトヴェルトという国に行くのが良いという話になった。

 エクレールさんの話ではフォーブレイに向かうのが良いというけれど、まずはメルロマルクから脱出するのが大事として……俺たちの旅は続いている。

 こうして俺は頼れる仲間と共に最悪だけど楽しそうな冒険が幕を開けたのだった。


 つづ……かない。

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― 新着の感想 ―
結構獣化系のループ好きなのでもっと描いて欲しいです!
[良い点] プギャーすこ
[一言] つづいてほしかったな...
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