成長率
「とまあ、こんな所ですな」
その日、俺はお義父さんにこの世界の文字を教えておりました。
まずはメルロマルクの公用語ですな。
「なるほど……元康くんの話だと武器の技能でも文字習得は無いんだっけ」
「ですな。少なくともいろんなループを経験している俺でも異世界文字理解は見たことないですぞ」
文字が一発で翻訳できれば良いのですがこれだけは全くありませんでしたぞ。
アークや槍の精霊との会話から今ならある程度は察することはできますな。
おそらく人の作り出す文字に関して場所や時代によって変わるものであり、それをすべて網羅するのは大変という事なのでしょう。
言葉が分かるのは相手の伝えたい意思を武器を通して伝えていると判断しますぞ。
文字というクッションの所為で意思は伝わりづらいものへと変わるのでしょう。
「中々大変だなぁ。俺、そこまで頭良くないし必要にならないと覚えるの悪いからさ」
「大丈夫ですぞ。どの世界のお義父さんも大体覚えていきますからな」
どのループのお義父さんも最終的には文字を覚えておりましたぞ。
ちなみに行く先の国によって覚える文字は異なりますな。
シルトヴェルトに行ったお義父さんはもちろんシルトヴェルトの文字を覚えておりました。
謙虚な態度ですがお義父さんは物覚えは良いと思いますぞ。
豚の中にはいくら教えても赤点ギリギリの奴も居ましたぞ。三日したらすっかりと忘れる馬鹿でしたぞ。
それに比べたら教えたらしっかりと覚えるお義父さんは教えがいがありますな。
「元康くんが教えるのが上手なお陰である程度は覚えることが出来て、俺も驚いてるよ」
「文字の翻訳は無くても言葉は頭で覚えているんだろうと他のループでのお義父さん達が分析していましたな」
「ああなるほど、耳で覚えれば自然と文字も頭に浮かびやすいのかもしれないね」
「そうですな」
「となるとこのサーカスのみんなが使っている言語も意識してみないといけないかもね」
一応メルロマルク国内なのでシルトヴェルトの使者はメルロマルクの言葉を使ってお義父さんに声をかけたそうですな。
「わう?」
ふんふんとヴォルフが勉強中のお義父さんの方へとやってきて匂いを嗅いでますぞ。
「ヴォルフは何処の国の言葉を理解してるんだろうね?」
「ワウ? ヴァウ!」
ヴォルフはよくわからないと言った様子ですが鳴きましたぞ。
「僕も日常会話はある程度は分かりますが、文字となると常に勉強ですね」
で、お義父さんに文字を教えている場にはウサギ男や雑種のリザードマンも同席しておりますぞ。
ちなみにウサギ男は目が悪いそうで眼鏡をお義父さんに買い与えられて勉強時は付けておりますぞ。
「テオは言葉は分かる感じ?」
「ある程度は……ですね。いろんな国に連れられたので、自然とですね」
「そう……」
「シオンはメルロマルクの文字は分かるみたいだね」
「ああ……自分はこの国出身で多少はな」
雑種のリザードマンがウサギ男の問題集の答え合わせを確認していますぞ。
こうして勉強をしていた所でウサギ男も一緒に学びたいと言った顔をしていたのかお義父さんが誘って参加させた所で雑種のリザードマンが添削の手伝いをいつの間にかするようになったのですぞ。
ウサギ男は覚えが早く、大分計算が出来るようになってきました。
俺も多少教えていますぞ。学習能力は中々高いようですな。
文字も最初は怪しかったですが最近は計算も出来るようになってきました。
ウサギ男はどうやら文字を読むのはある程度出来るとの話ですが読める文字を書かせた所、シルトヴェルト方面の文字でしたぞ。
ただ、シルトヴェルトの使者曰く訛りのある綴りなどが見受けられるとかなんとかですな。
どちらかというとシルドフリーデン方面の文字だとか。
それでウサギ男はメルロマルクの文字を改めて習得しているようですぞ。
「言葉は分かるけど文字となりますとね。中々大変です」
ウサギ男が苦笑してましたぞ。
雑種のリザードマンやお姉さんはメルロマルクの言葉は分かるけれどほかの国の言葉はよくわからないとの話でしたな。
お姉さんのお姉さんやパンダは他の国の言葉が分かるのですぞ。
言語の壁はどの世界にもあるという事ですな。
ちなみにウサギ男は魔法の習得もしたいと暇さえあれば練習をしているそうですぞ。
雑種のリザードマンは俺やゾウ、ヴォルフ、お姉さんのお姉さんを相手に稽古している間にウサギ男は魔法の勉強をしておりました。
ふむ……俺の記憶では短剣を持って戦っている姿がありましたが、戦闘スタイルの変更を考えているのでしょうかな。
最近は雑種のリザードマンが戦闘での技術の伸びがよいとの話をお義父さんはしてましたぞ。
確かに稽古を見た限りだと日に日に戦い方が様になっているようには感じますが、まだまだですな。
ただ、それに引き換えウサギ男は積極的ではありませんぞ。
いえ、どうもみんなが寝ている所で自主訓練はしているようですが中々成長していっていないと行った感じでしょうかな。
スタミナをつける為なのかテント周りを何周もマラソンをしていたり、腕立て伏せをしていたりする姿を何度か見ましたぞ。
そうですな……カルミラ島でパーティー交換をした際にお姉さんがしていた光景を思い出しましたな。
お義父さんもその辺りは気づいているのかステータスの確認をしておりました。
俺に教えてくれたのですが奴隷たちのステータスでヴォルフは言うまでもなく高く、雑種のリザードマンも大分のびているのですがウサギ男は他二人に比べるとLvアップでの上昇が低いとの話でしたぞ。
なのでウサギ男は出来ることの模索をしているのではないかという話でしたな。
ちなみにウサギ男の魔法適正は補助寄りの全属性だそうですな。
特化ではない分、長所として伸ばしづらいタイプなのですぞ。なんとも難儀な資質ですな。攻撃の適性は多少あるけれど普通の全属性より劣るそうですぞ。
Lvアップでのステータス上昇も少ない事も含めてどこかで聞いたような魔法適正ですな。
「さてと……少し休憩だね」
「はい」
適度なタイミングでお義父さんがそう提案したので俺と雑種のリザードマンが添削をしますぞ。
「ふー……」
お義父さんは休憩とばかりに奴隷たちのステータスを確認しているようですな。
「では魔法の練習を少ししてます」
ウサギ男がシルトヴェルトの使者が仕入れた魔法書に目を通しておりますぞ。
それから指先で魔法を出す練習に入りましたな。
ポッと指先に火が灯りますぞ。更に水や風、土の魔法の練習をしていますが魔力がずいぶんと低いようですな。
「……最近、お前は魔法ばかりで戦闘稽古をあまりしないな」
ぽつりと雑種のリザードマンがウサギ男に言いますぞ。
「ボクはどう頑張ってもシオンには一歩劣るので出来る手段を増やしたくてね。分かっているんです……Lvアップの伸びがボクは悪いのですよね?」
ウサギ男が念押しとばかりにお義父さんに尋ねますぞ。
お義父さんはどう答えるかとわずかに悩んだ後に苦笑気味に頷きますぞ。
「……そうだね。シオンやヴォルフに比べるとテオのLvアップによるステータスの伸びはよくない……ね」
「……」
雑種のリザードマンは苦笑するウサギ男に向けてやや不満そうに黙って添削をしていますぞ。
「ただ、Lvの上り自体はテオは良い方だよ? 必要経験値が少ないんじゃないかな」




