過剰演出
「シルトヴェルトに届けるのは時間と労力、そして距離があると思っただけです」
「全く問題無いですぞ!」
ポータルスキルで一瞬ですな!
「では迅速に奴隷化させましょう。さあ! 馬車にコイツ等を入れて処理をしますよ!」
パンパン! とシルトヴェルトの使者が魔物商の部下を呼んで痺れて動けない盗賊連中を馬車に引き込み奴隷紋を刻む手続きをしていきますぞ。
奴隷化させてシルトヴェルトで売買ですぞ!
「……先ほどの盾を出す魔法……不思議な槍の使い手」
「バウ」
雑種のリザードマンが何やら怪訝な目を向けてますが、おいおい知る事になるのですぞ。
「ぶー」
「ブブー」
「闇の洗礼<ダークシール>の儀式」
フィロリアル様が奴隷化させる事に関して嫌な空気を察していますが必要な事ですぞ。
「何はともあれ出発ですぞ!」
「はーい!」
「わーい!」
と、馬車はどんどん目的地に向かって進んで行きますぞ。
するともぞもぞと俺の懐に入れていたユキちゃんとコウの卵が動き出しました。
「おや? ですぞ」
卵を出して確認ですな。
「なんか独自の効果音が流れそうな台詞だったね」
卵を見たお義父さんが何やら口ずさんでおります。
ジャッジャジャッジャ……と、知っているゲームの効果音のようですな。
そう言えばお義父さんはフィロリアル様の卵が孵化する所に立ち会うと口ずさむ時がありました。
「「ピヨ!」」
ユキちゃんとコウが元気よく卵から姿を現して下さいましたな。
「おー……クロちゃんは真っ黒だったけど、この子とこの子は白に黄色だね」
「ユキちゃんにコウですぞ」
「「ピヨ!」」
元気な声が素晴らしいですぞ。
ユキちゃんとコウは俺に視線を合わせるとそのまま肩に乗って下さいました。
二人の育成も始めねばなりませんな。
「移動再開ですぞー!」
「賑やかになってきたね」
これからどんどん忙しくなって行きますぞ!
まずはフィロリアル様達のご飯が必要ですな!
そこで、馬車での移動の途中にお義父さんが料理をしてくださいました。
俺が魔法でお手伝いすればどこでもお義父さんは料理出来ますぞ。
みんな料理に舌鼓ですな。
本日は狩った魔物の肉を串焼きにした簡素なものですがお義父さんは筋斬りから何まで完璧で、しかも肉の熟成も無意識にしてくださいますので仕留めてすぐでも中々に美味なのですぞ。
「香辛料がまぁまぁ上手く効いたかな」
「いただきます……美味しいです」
ウサギ男が串焼きを曲がってない方の手で持って食べておりますぞ。
雑種のリザードマンも食べてますな。
「これは……贅沢な代物だ」
食事で懐柔しようとしているのだろうとばかりの警戒心がありますな。
購入した直後のキールの警戒心と同じでしょうな。
「はっはっは……バウ!」
ヴォルフはおかわりとばかりに鳴きました。
「はいはい。とはいえみんな食べてるから心許ないかな」
「バウ! バウバウ!」
狩ってくれば作ってくれる? 狩り行きたい! と目がキラキラしてますぞ。
「まだ移動中だから程々にね。それにあっちのフィロリアルのみんなが狩ってきてくれるから大丈夫」
「ごっはん!」
「ごはーん!」
「あれ? クロのご飯消えたー! どこー!」
「食べてたじゃーん!」
「もっと取ってくるー!」
「生でウサピル食べるよりおいしー!」
「まるごと食べるより美味しいー!」
「暴れるウサピルよりおいしー!」
フィロリアル様達もお義父さんのお食事に舌鼓ですぞ!
「なんか……恐い話してるなーあの子達」
「くーん……」
お義父さんがそんなフィロリアル様達を見ておりますぞ。
「フィロリアル様は怖く無いですぞ! みんな元気で食いしん坊なのですな」
「そうなんだろうね。忙しいね」
お義父さんは手際よく料理しておりました。
「さ、食べたならしっかりと働くのですよ」
シルトヴェルトの使者が奴隷達に食べるだけではなく働くようにと注意してましたな。
「んじゃ……少し次のサーカスで行う演目の練習をしようか。本当はあんまり良い演目じゃないんだけどさ」
お義父さんが鞭を取り出して構えますぞ。
「テオドール、シオン、ヴォルフ。これから俺はお前等に鞭打ちをするからできる限り痛がる演技を覚えろ」
「え?」
「は?」
「ヴァウ?」
奴隷達三人が揃って小首を傾げますぞ。
激しく訳が分からないと言った形相ですな。
「まずは実践して見せるのが良いな。これが俺の特徴みたいな短所だ。まあ……テオドールもシオンもLvが低いから多少は痛みを感じるかもしれないがな。とりあえず……反応しないように……」
「お義父さん! 演技の実践の為に俺が打たれましょう!」
「ええ……また脱いでる!?」
「ほら! お義父さん! カモンカモンですぞ!」
お義父さんの素敵な鞭打ちを待ち望みますぞ。
「はあ……わかったよ」
お義父さんが俺の背中に鞭打ちをしました。
全く痛くないですぞ!
シルクを撫でるかの様な心地ですな。
「ギャアアアアアアアアアアアッ! 痛い痛いですぞぉおおお!」
ぐるぐるぐるー! っと転げ回りますぞ。
「いやちょっと痛がりすぎというか、どこのスポーツ選手の駆け引きなの!?」
更に途中で炎を纏って炎上ですぞ。
「うわ!? なんだ!? どこから炎が!?」
その後、炎を散らして爽やかに親指を立てました。
もちろん地面で横になっている体勢ですぞ。
「貴様等もこの様に演技を――」
「しちゃダメだからね。過剰すぎるよ。バレちゃうよ。どんな追加効果だよ。やり遂げた顔されても困るよ」
お義父さんが立て続けに指摘してきました。
ダメですかな? 渾身の演技だと思うのですが。
「はあ……ツッコミが追いつかない。さすがは元康くんなのかな……まあ、元康くんはともかく、一人一人まずは実験ね」
「は、はあ……」
「ううむ?」
「バウ?」
お義父さんは鞭を振りかぶり、ウサギ男に向かって命中させました。
バシ! っと鞭が命中して痛がるような素振りをしたウサギ男でしたが当たった所で小首を傾げましたな。
「えっと……今、当たりました……よね?」
ウサギ男が雑種のリザードマンに尋ねると雑種のリザードマンは頷きました。
それから何度も小首を傾げていました。
お義父さんは若干物悲しい顔をしていますな。
「キャウン……」
ヴォルフだけ痛そうと言った声を上げてますぞ。
「ほら、痛がる素振りをするんだ! それが練習なんだからな!」
「ですぞ! 俺の真似をするのですぞ。もしくはよがる声をするのですぞ! アアン! ですな」
「違うよ!? なんでそこまでボケを繰り返すの?」
「……自分にもお願いします」
検証をお願いするとばかりに雑種のリザードマンがお義父さんに鞭打ちを要求しました。
お義父さんは複雑な顔をして鞭を振いましたな。
「な、なるほど……このような事があるのですか。ですがこの感覚は……」
鞭打ちされた雑種のリザードマンは背を向けながら深く考えこんでしまいますぞ。
もっと真剣に演技をしろですぞ!
「アアンですぞ!」
「元康くん、ちょっと静かにしてて! 性癖を目覚めさせようとしないで! とりあえず……これで俺を舐めたら奴隷紋が起動するから覚悟はしろ」
「わかりました」
「承知はした」
どう反応したら良いのか困惑と言った様子で二名は頷きました。
さて……と、お義父さんはヴォルフへと顔を向けましたぞ
ヴォルフは何でしょうかな。注射を嫌がるフィロリアル様みたいに体をよじっていますぞ。
「行くぞ」
ペシ! っとお義父さんがヴォルフに鞭を振うとヴォルフが激しく痛がる素振りを見せました。
「キャインキャインキャイン! ヴウウウウウ! ガウ!」
直後に憎悪に満ちた表情と犬歯を向けてお義父さんに向かって飛びかかろうとしましたな。
ですが反抗的な態度と行動に奴隷紋が作動して本当の痛みに転がりました。
「ヴォルフの反応が一番良いが……これはちょっと違うな。ヴォルフ!」
「ガウガウガウ!」
我を失ったヴォルフがそれでも許さないとばかりに激昂して暴れ出しました。




