遺伝性獣化不全
「さて……」
奴隷達を受領したお義父さんが魔物商人のテントを出て、シルトヴェルトの使者達が待機している裏手へと回りましたぞ。
「勇者様、その……者たちは?」
「サーカスをする上での、見世物枠の連中だ。右からテオドール、シオン、ヴォルフ。まあ、ついでに色々と育ててみようと思う」
「そうですか……幸運な者たちですね。皆さん、その幸運は一生モノですよ」
と、シルトヴェルトの使者は狼男に視線を向けつつ小首を傾げておりましたぞ。
「奴隷商人はいないみたいだね……ふー」
あー疲れたとお義父さんは演技を辞めて声を漏らしつつ三人の奴隷達に微笑みかけましたぞ。
「とりあえず、これから俺は君達の主人をする岩谷尚文だ。故あって奴隷売買とサーカス業をする事になった。できる限り見世物枠にはさせないようにしたい所か」
お義父さん曰く、国の連中の見世物として冤罪を掛けられたので見世物にする運用は内心、イヤなのだそうですぞ。
そうですな。見世物として楽しんだ兵士共は秘密裏に消してやりましたぞ。
「あんまり俺を舐めるようなら相応に罰は与えるが指示に従うのならある程度自由は約束しよう」
奴隷を解放すると言う考えはこの世界基準で言えば推奨されないのですぞ。
愚かな俺はお義父さんにお姉さんを解放しろと迫りましたがな。
「元康くんがフィロリアル達とは話を付けたそうだよ」
「そうでございますか、こちらも馬車の用意は出来ました。では早速出発致しましょうか」
「ああ、候補地の地図も受け取っているから旅をしながら途中途中で稽古を行いつつ開催して行く事になる」
その間に戦力となりそうな者たちのLvを上げて行く事になるだろうね。
と、お義父さんは手慰みとばかりに待機させて大人しくしている狼男の顔をなで回しますぞ。
「くーん」
最初は嫌そうな顔をしていた狼男のヴォルフでしたが、撫でられている内に鼻をクンクンと鳴らしながら気持ちよさそうに目を細めますぞ。
お義父さんは攻撃力がありませんからな。
毛が引っかかって痛いとかも無いとフィロリアル様達が仰っていましたぞ。
とても毛並みを整えるのが上手なのですな。
「ラフタリアちゃん達の体力回復も待つ事になるかな……奴隷売買するときに彼女達に村の子達を見て貰わないと行けないし、それ以外の奴隷も買って奴隷商に届けてる仕事もあるからなぁ……」
曰く、サーカスをしながら貴族達から奴隷の輸送も行うそうですぞ。
輸送中の奴隷の中からお姉さんの村の奴隷を探して買い取る手はずなのだそうですな。
もちろん怪しまれない様に他の奴隷も購入するとの話ですがな。
「何はともあれ準備が完了したら出発しよう。あんまり城下町近隣に居ても稼ぎにはならないって事になるからね」
「わかりましたぞ」
「承知しました」
そんな訳でクロちゃん達を連れて俺達は大量の馬車でキャラバンを作って移動を始めたのですぞ。
翌日ですな。
沢山の馬車をクロちゃん達に引いて貰いましたが数が多い故に移動はゆっくり気味ですな。
食料調達をしなくては行けないですぞ。
「遺伝病か……」
お義父さんがウサギ男の腕を何度も確認してましたぞ。
「ウサギの遺伝病だとどんなモノかと思ったけど……あんまりこの辺りは詳しくないからなー。開帳肢とかかと思ったけど……右腕だけなら軽度なんだよね」
変な角度に曲がっていますからな。
「ぱっと見だと変に折れた骨をしっかり治療せずにくっついてしまったみたいな感じに見えるなぁ。遺伝病ってどんな代物なの? テオドール」
お義父さんがウサギ男に尋ねますぞ。
するとウサギ男は腕に力を入れると……一部分だけ獣化しましたな。
ですが関節が更に変な角度に曲がりましたぞ。
「ぐ……こ、こうして意識無意識関係なく体毛が生えて関節が逆に思う通りに曲がらない様になる……病です」
後に魔物商人から聞いたのですが遺伝性獣化不全という病なのだそうですぞ。
亜人の遺伝子内にある獣人化する因子による体の変化に不全が起こり、骨格の変化が起こる際に一部が人のままで骨折して変な角度で固定化されてしまうそうですな。
それが無意識にも起こってしまい、関節が思うとおりに曲がらなくなってしまうのだとかなんとかですぞ。
しかもこのウサギ男は獣人化の資質が足りないそうで、体の一部だけ変わると言う厄介な症状からこう言った問題を持ってしまったそうですな。
「異世界の人種独自の病なのか……」
ただ、整体をしている内に制御出来ていく様なのである程度克服は出来る病なのでしょうかな?
もしくは勇者の仲間として成長する事で克服出来る病だという事なのだと俺は推測しますぞ。
「なるほど……とはいえ使わないでいるともっと悪化しそうだから軽く整体をするのが良さそうかな」
と、お義父さんはウサギ男の曲がらない関節をできる限り痛くない範囲で曲げておりましたぞ。
「うん。筋肉が強ばってる。まずはストレッチでここを柔らかくしてから……ちょっと強引になっちゃうけど骨を一度折ってつなぎ合せよう。元康くん、回復魔法をその時お願い」
「わかりました」
まだお義父さんは魔法が使えませんからな。
後で俺がお金を工面してお義父さんに魔法書等、魔法が使いやすくなる機材を購入しておきましょう。
物品なら中々バレませんぞ。
一見すると関節技をお義父さんが施している様に見えなくも無いですが、盾が反応しておりませんので整体の範囲なのでしょう。
「テオドール、どうだ? まだ痛いか?」
「いえ……程よいです」
お義父さんが適度にウサギ男の腕の凝った所を揉んで筋肉を解して居るようでしたぞ。
ウサギ男が心地良いのか目を細めておりますぞ。
「くーん……」
ヴォルフがそんな整体中のお義父さんに声を上げていました。
「少々お義父さんにお尋ねしますが、アルバイトなどで整体を覚えたりしていませんかな?」
「いや? さすがに整体の覚えは無いなー。まあ、整体医院と揉みほぐしは違うって位の雑学は知ってるけど」
おや、違うのですな。
中々様になった整体技術なのでその手のお仕事の経験があるのかと思って居ました。
「では何故そう判断してるのですかな?」
「その辺りは学校の保健体育で骨折の固定とかストレッチで学ばない? その辺りから考えて中途半端な整体だよ」
あんまり良い方法じゃ無いかも知れないけどね。
と、お義父さんは仰いましたぞ。
「後は乾燥させた薬草とか煎じてお灸や針治療をして行くのがよさそうかな」
薄らとウサギ男をお義父さんが購入した周回でやっていたのを思い出しましたぞ。
あの時のお義父さんと同じ発想が出てくるのが実にお義父さんですな。
「お灸は親戚の老人がやっててね。針治療は漫画でやってて興味があったから詳しい人にツボを少し教わった感じかな」
どれも浅い知識だよとお義父さんは自嘲しながらウサギ男に施して居ましたぞ。
ちなみに針治療用の針が市場で売られており、お義父さんが盾に入れた所、針治療の技能が出てウサギ男に施していたのですぞ。
「針って所から槍の連想で元康くんの方が上手そうだね」
「もちろん針は俺の武器の範囲ですぞ! なので俺がやりますかな? 何ならそのウサギ男を針山にしてやりますぞ」
「ヒイ!?」
ウサギ男が怯えるような声を出しましたぞ。
安心しろですぞ。
この元康がお前の全身を串刺しにして何故か生きている状態にしてやりましょう。
採掘をする際に表示されるツルハシで叩く場所の様にツボの場所が武器の力で表示されるお手軽針治療ですぞ!




