鞭打ちの練習
「なるほどね。クロちゃん、ちょっと難しい言葉遣いが好きな子みたいだからみんな同じだと疲れちゃうか」
「それがクロちゃん達の長所ではありますな。お望みならお任せしますぞ」
お義父さんが是非ともクロちゃんに任せてみんなクロちゃんみたいにしたいと言うのでしたらこの元康、お答えしますぞ。
「いや、大丈夫。これからを考えると元康くんが任せたいフィロリアルの子で良いよ」
「わかりましたぞ」
ユキちゃんはすぐに孵化させて問題は無いでしょう。
既にクロちゃん達、他のフィロリアル様達が居ますので楽しく育って下さいますな。
若干気性の荒い競走羽のユキちゃんはリーダーシップがありますのでこの周回でも色々と期待ですぞ。
「残った二つは?」
「こちらはコウで元気なフィロリアル様ですぞ。安定性は抜群ですな」
コウはどのループでも似たように元気なフィロリアル様に育ちますぞ。
意識して育てない限りは変化は余り無いのですな。それこそ最初に付きっきりで育てたら違いが確認出来るかも知れませんな。
もしくは俺が世話をせずにお義父さんや他の人に任せる等でしょうか。
可能性の模索としてそれも考えねばいけませんな。
そう言えばお義父さんがコウに関してフィーロたんと非常によく似たフィロリアル様だと仰っていた事がありました。
確かに……元気な所はフィーロたんと近い所があるのは否定しきれませんぞ。
性別違いのフィーロたん、いえ……男の子なフィーロたんですな。
ですがお義父さん、そこは違うのですぞ。フィロリアル様はみんなフィーロたんの側面を持っていらっしゃるのですぞ。
「ただ、コウには少々問題がありましてお義父さんを侮る所があって、お義父さんに怒られて恐怖に怯えるお姿を見せる時があるのですぞ」
「俺に怒られるって……そんな怖く無いと思うんだけどなー」
そうですぞ。モグラを鍋にしようと考えたり樹の髪の毛を食べたり等でお義父さんに怒られてしまうのですぞ。
「次にサクラちゃん。この子はフィーロたんになるのですぞ」
「あ、元康くんが探していたフィーロって子になる子だね」
「ですぞ。ですがそのまま育てるとサクラちゃんになるので今回は前回のループで聞いた方法をするために孵化させるのは我慢で保管しておくのですぞ」
コウとサクラちゃんは少しばかり様子見が良いでしょうかな?
下手なタイミングでコウを育てるとお義父さんにお叱りを受けて萎縮してしまいますからな。
お姉さんの友人がいらっしゃるこの周回では問題無いと思いますが何分、お姉さんの友人の衰弱が酷くて不安な所ですぞ。
体力が大分戻ってからが良いでしょうかな?
お姉さんでも問題は無いかと思いますが……何分最初の世界のように凜々しいお姉さんに成長するには色々と大変な経験をしなくてはならず、事前にそれを回避したこのループでは難しいでしょう。
……むしろここはゾウに早めにコンタクトを取り、コウを預けるのも良い手ではありますぞ。
一応考えておきましょう。
で、最も重要なのはサクラちゃんですぞ。
いえ、サクラちゃんはフィーロたん。フィーロたんになるために必要な手順をお義父さん達が考察して下さったのでその実験の為に孵化はまだ先ですな。
「うん。わかったよ。じゃあユキちゃんって子とコウは孵化させるのかな?」
どうしますかな。
ユキちゃんは決定としてコウは……サクラちゃんをフィーロたんにする計画でお義父さん達が考察した実験にコウも参加させますかな?
前回のループでその辺りの考察をした際にループしている俺だからこそ許される、倫理的な問題という事で断念した実験でもあるのですぞ。
具体的にはクローンフィロリアル様計画ですな。
これをしないためにループによる実験なのですぞ。
そう言えばルナちゃんが鍵なのですぞ。
コウもルナちゃんのように色が違うのを確認するべきですかな?
ルナちゃんは藍色のフィロリアル様ですが、最初に孵化させた際には白いフィロリアル様になったのですぞ。
同様に実験すればコウも色を変えれる可能性がありますぞ。
後はそうですな。フレオンちゃんももしかしたら俺が知らず知らずにフィーロたんと同じ影響を与えているとお義父さん達は考察してましたな。
前回のループとフレオンちゃんと再開したループで俺はフレオンちゃんに共通の種類の餌を与えていました。
実験の為にフレオンちゃんは今回、普通のお食事で育てて確認を取るべきでしょうか?
そもそもフィロリアル様には根っことなる部分の性格がループによる際の差として少ない部分と大きい部分がありますからな。
クロちゃんとブラックサンダーが変化の少ない部分がわかりやすいですな。
クロちゃんの方が幼い感じではありますが、言葉遣いは近い物がありますぞ。
逆にフィーロたんとサクラちゃんが同じフィロリアル様だと俺が気づけなかった原因ですぞ。
元気なフィーロたんとおっとりさんのサクラちゃんですぞ。
しかもサクラちゃんは何故か大人のお姿になることもあるので変化が激しいのですぞ。
ここもお義父さん達の助言に従えば幼いサクラちゃんに出来ると言う話ですぞ。
考えが逸れてますぞ。
逆に考えれば大人なコウに育てるにはどうしたら良いですかな?
元康、お前はコウにどんな成長をして欲しいのですかな?
俺がコウに望むのはノビノビと、それでありながらお義父さんに怒られて怯えてしまうようなトラウマが無く育って欲しいだけですぞ。
つまり……変化はそこまで必要無いのですぞ!
「ですな! ユキちゃんとコウは孵化させても良いですぞ。ただ、コウは後ほどお義父さんを侮らないように頼りになる人材に預けるのですぞ」
「そうなんだ。わかったよ。とりあえずクロちゃんの食欲から考えてあんまりフィロリアルを育てると奴隷売買の方で管理が大変になるから程々にして貰えると助かるかな」
「わかりましたぞ!」
そんな訳でユキちゃんとコウの登録を済ませて孵化器を起動させましたぞ。
「お義父さんは何をしていたのですかな?」
「俺は奴隷商人から話をある程度聞いた後、鞭を振う練習を少しね」
お義父さんは魔物商との商談を詰めており、色々と教わるとの話でしたな。
一応鞭打ち等の練習をするとの話でテントの裏手で鞭を持って練習をしているようですな。
「イッ!? うーん……武器として持たないようにするのが中々難しいなー」
お義父さんは武器の制約が発動して何度か鞭を取り落としていましたな。
よし、俺も一肌脱ぎますぞ。物理的に服を脱いで待ち構えましょう。
「お義父さんカモンですぞ」
「なんで元康くん服を脱いで背中を見せながら俺に要求してるわけ?」
「俺も一肌脱ぎますぞ。文字通りですな!」
HAHAHAですぞ!
「元康くんってMなのかな? 鞭打ちを要求とか……」
「何事も練習ですぞ! お義父さん!」
「ちょっと練習してるだけだってのに……」
カモンカモンなのですぞ!
お義父さんが深くため息を吐いた後、鞭を試しに振って下さいました。
やはり俺の読み通りお義父さんの鞭打ちは全く痛みがありませんな。
ああ、懐かしきお義父さんとの決闘の時ですな。
あの時のお義父さんの拳や蹴りは全く痛くなかったのですぞ。
バルーンに噛みつかれた痛みの方がありましたな。
「槍の勇者様は随分と頑丈な様ですが……」
ここでテントの方からシルトヴェルトの使者がそんな俺とお義父さんのやりとりを見ながら尋ねて来ましたな。
「お義父さんですぞ。そのお優しい鞭打ちは朝の爽やかな目覚めに誘う風のような肌心地なのですぞ」
「いや、その表現はどうなの? 激しく虚しくなるんだけど」
「それでありながら心にはピシっと激しい感覚を俺に与えて下さいますぞ。どうですかな? 試しに一発受けてみるのは」
「何で勧めている訳?」
「盾の勇者様は攻撃出来ないと言う話ですからね……少し興味があるので私も一つお願いして頂いてよろしいですか?」
「いや……実験されるとかなり虚しいんだけどね……」
お義父さんは渋々と言った様子でシルトヴェルトの使者の体に向けて一発鞭を充てましたぞ。
「……なるほど、確かにこれは撫でられたような感覚というのは間違い無いですね」
「納得しないで欲しいなー」
「これは間違い無く傷には出来ず優しい鞭打ちでしょう。となると紋様式で鞭打ちに反応くらいにしないといけないかも知れないです」
「芸でするだけだからそこまでじゃないからね?」
あくまでサーカスをする際のデモンストレーションで行う鞭打ちなのだそうですぞ。
「鞭で打った所に赤く着色出来る様にギミックをするのが良いでしょうね」
「うん。その辺りは考えてるよ」
難儀なものだね。と、お義父さんは愚痴っておりました。




