サーカス
「わー……」
クロちゃんがそっと俺とお義父さんの間に隠れるように入りますぞ。
思えばフィロリアル様は魔物商のテントを苦手にしている方が多いですぞ。
その中でクロちゃんは平然と入っていますが……今になって恐くなってしまったのでしょうか。
思えばブラックサンダーもアークを相手にお話をする際に最初は威勢が良かったですが突然距離を取りましたな。
もしかしたらクロちゃんも同じくよく分からず首を突っ込んで状況の危険を察して距離を取ろうと思う方なのでしょうかな?
危機判断が少しだけ他のフィロリアル様より遅いのかも知れませんぞ。
アリア種のフィロリアル様はサクラちゃんと同じくみんなおっとりな方が多いですからな。
ブラックサンダーやクロちゃんも実はおっとりな所があるのでしょう。
「さて、こちらが当店でオススメの奴隷です」
と、紹介されたのは狼男ですぞ。
「グウウウウ……ガア!」
ガチャン! っと野性味を出した狼男が檻からこちらに雄叫びを上げて威嚇して来ますぞ。
「ふむ……」
お義父さんは警戒をせずに狼男を睨んでおりました。
「これがメルロマルクの奴隷ですか……?」
シルトヴェルトの使者が何度も首を傾げていましたぞ。
お義父さんがどうしたんだ? って不機嫌そうな視線で見つめますぞ。
演技をしているので声を直接掛けませんがシルトヴェルトの使者も察して頷きましたぞ。
「いえ……気のせいでしょう」
「勇者様方はメルロマルクがどのような国なのかは……同行していらっしゃる方から」
「ああ……その辺りは聞いて居る。ここは亜人や獣人を取り扱っているのだろう?」
「そうなりますです。ハイ。そして奴隷とは……」
魔物商は奴隷紋を起動させますぞ。
「ガアアア! キャインキャイン!」
狼男の胸の奴隷紋が起動して転げ回りましたな。
これで大人しくなりましたぞ。
「奴隷紋だったか」
「ご存じでしたか」
「色々と聞いて居る」
「それでは話が早いです。ハイ」
「こいつは幾らだ?」
「何分、戦闘において有能な分類ですからね……オマケして金貨75枚でいかがでしょうか」
オマケして金貨75枚ですかな? 随分と高額ですな。
ただ、届かない金銭ではありませんぞ。
「そうか、他の奴隷も見させて貰おう」
「ではこちらへ」
そう言って魔物商の扱っている奴隷を一巡して来ましたぞ。
「ふむ……こんなものなのか」
「して、どれか勇者様のお眼鏡に叶った奴隷はいらっしゃるでしょうか。ハイ」
「質問をして良いか」
「なんでございましょうか」
「奴隷を使って事業をしようかと考えて居る。何か良いものは無いか?」
魔物商に直接聞くのでしたな。商品を聞いてから尋ねるのですな。
「おや? 勇者様がですか? ハイ」
「悪いか? 俺も国に嵌められたんだ。こんな世界だ、好き勝手にやっても良いだろう?」
お義父さんが魔物商にゾクッとするような濁った目で見つめて答えますぞ。
その眼光に魔物商は若干恍惚とした表情をしておりました。
「おお、勇者様。その瞳、実に素晴らしい資質をお持ちのようだ」
「答えろ」
「そうでしょうな。まずは奴隷を購入して様々な肉体労働を無理矢理させると言うのが良くある手でしょうな。農業から何まで人手が必要なものなら何でも使えるでしょう。船の底で漕がせる等が過去には行われていましたです。ハイ」
他にも荒れ地を無理矢理開拓も行われますです、と魔物商は言ってますな。
「鉱山で掘らせるなどもおすすめでしょうな」
「ふむ……その辺りか」
「後はそうですな。買い付けも兼ねてサーカスキャラバンを運用すると言う手もありますですハイ」
「ほう。サーカスか」
「ハイ。希少な亜人や獣人などを見世物にしたり、曲芸を披露して各地に娯楽を提供しつつ裏で口減らしの者を購入して各地に売りつけると言うのが買い付けの常套手段でございますです」
「誘拐とかにも使われて居そうだな」
「なんと失礼な。私、商売にはプライドを持っております。虚言でお客様を騙すことはあっても商品に嘘は付きません。誘拐や略奪をするのは三流のする事でありますです。ハイ!」
お義父さんが若干呆れているような顔をしましたぞ。
「……確かに、波の影響でそのような蛮行を行った嘆かわしい者が居るのは間違い無いです。ハイ」
ですが魔物商もこの辺りは若干返しが弱いですな。
「ちなみにメルロマルクで人間の買い付けを行う場合は奉公に出すと言う扱いになりますです。ハイ」
「奴隷紋は刻まないが家族に借金が掛かると言う扱いで縛り付けると言った所か」
「そうなりますです。ハイ。場合によっては他国で奴隷として売る事になりますです」
なるほど、人間は奴隷に出来ない問題をこのように解決しているのですな。
相変わらず悪知恵が働きますな。
「ふむ……サーカスか」
「興味がおありで?」
「国の連中は俺を見世物にして愉悦に浸ったんだ、俺も楽しんでも悪くはあるまい? 獰猛な連中を虐げて思い通りに動かす、実に素晴らしいと思わないか、特にさっきの狼男……奴隷紋で転げ回る姿は実に滑稽だったぞ」
くくくとお義父さんが演技の笑いをしておりましたぞ。
お義父さんは嫌いな相手が苦しむ様を見る以外は不快に思う方ですからな。
嫌いな相手の苦しみも少しの間だけでしばらくすると眉を寄せるので心根は優しいのですぞ。
まあ、俺は赤豚とタクトがどれだけ苦しんでも楽しいですぞ。
今から苦しめるのが楽しみでしようがありませんぞ。
なので後ろで俺も邪悪に笑いますぞ。
「勇者様方……」
「んー?」
シルトヴェルトの使者が一歩引いて絶句しているのと、クロちゃんが俺とお義父さんを交互に見て首を傾げておりますぞ。
なのでお義父さんがシルトヴェルトの使者に耳打ちをしますぞ。
するとなるほど、と何度も頷いて合わせて悪そうな笑みを浮かべますぞ。
「ですがサーカスをするにしても目玉となる要素が必要ですからね。私共の商品をお貸しするにしても……」
「その件はある程度、当てがある。クロ、ちょっと元の姿に戻って見てくれ」
「ん? クロの真の姿<闇の稲妻>が見たいのー?」
「ああ。お前の正体<漆黒の爪牙>をここで見せつけて恐れ戦かすのだ!」
「わー! わかったー!」
お義父さんが合わせてくれたのでクロちゃんがノリノリでフィロリアル姿になりました。
ボフンとフィロリアル姿にですな。
「おお!」
「こういう仕掛けがある。もちろん他にも色々と手立てがある。何より亜人獣人共に芸を仕込んで見世物にするのは、メルロマルクではウケが良いのではないか? なんなら俺が鞭で奴隷共をしばき倒す姿でも受けるだろう?」
おや? お義父さんが鞭打ちですかな? お義父さんは攻撃出来ないので痛くも痒くも無いですぞ。
いえ……痛くも痒くも無いので無限に撃ち続けられますな。
となるとメルロマルクの貴族連中の加虐心を無限に満たせられるでしょう。
演技ですがな。
亜人獣人の神である盾の勇者が亜人獣人に鞭を打つその姿……きっとメルロマルクの連中も文句は言えないでしょう。
「初期の費用はもちろん俺自身が確保する。お前は俺の見込んだ奴隷をそこそこ提供、各地で俺が奴隷売買を行って収集しつつサーカスを開く。どうだ?」
「すばらしい! 確かにそれならば成功する見込みはありますです。ハイ! 是非とも協力させて頂きますです。ハイ!」
魔物商が揉み手を始めましたぞ。
成功する可能性を見出したのですな。
「だからやり方をある程度教えろ。奴隷関連の方法もな」
「わかりましたです! ハイ!」
そんな訳でお義父さんは魔物商の所で色々と教わる事になった様ですぞ。
お義父さんが話をするから俺達は好きにしていろと言った様子だったのでシルトヴェルトの使者とクロちゃんと共にテントを出る事になったのですぞ。
ですが俺はその途中で……卵くじのコーナーに立ち寄りました。
すると案の定、卵の文様が光りましたな。




