匙加減
ゼルトブルにある治療院へとお邪魔しました。
ここは本当に人種の坩堝なので亜人専門の治療院もあるようでした。
前払いで俺が多少支払ってお姉さんの友人を入院させて貰いましたぞ。
とりあえず一安心ですな。
お姉さんも見て頂きました。
お姉さん達が病室でぐっすりと休んで居るのを確認してから別室でお義父さんが俺に問いかけて来ました。
「しかしなんと言うか酷い出来事だったね」
「ですな」
「それで……あの子達は俺達とはどんな関係なの?」
「最初の世界のお義父さんの右腕だったお姉さんですぞ」
「そんなに頼りになる子なの? あんなに幼いのに……」
お義父さんの疑問ももっともですな。
俺もお姉さんが最初から大きい姿しか知らなかったのでしたのでな。
「それはもう立派に成長して下さいますが、それまでに大変な経験をするようですぞ。ご友人も亡くなってしまい、
その絶望の後にお義父さんに出会って成長して行くそうですな」
「あれだけ弱っていたら死んでしまうのも不思議じゃないね。事前に助けられて良かった」
「ただ……波によって既にご両親も死に、生き残った村の者たちも奴隷狩りに遭ってしまって今の立場になってしまったとの話ですぞ」
「それは酷い……もしかして」
お義父さんがお姉さん達を盗み見て声を零しました。
「未来の知識で死ぬはずだった友達を助けられて良かったんだね」
「ですな。まずは治療を優先するのが良いでしょうな」
すると……よろよろとお姉さんが部屋から出てきて俺達へと頭を下げますぞ。
「あ、あの……ありがとうございます」
「ラフタリアちゃん。大丈夫なのかい?」
「わたしはまだ大丈夫……です」
お義父さんがそっとお姉さんを連れて病室に入り、ご友人の所に行って色々と話を聞いていらっしゃる様でした。
本日はそうして過ぎて行ったのですぞ。
俺はその間に金稼ぎとサクラちゃんの卵は元よりユキちゃん達の卵を確保して来ました。
もちろんメルロマルクの宿で待機しているフィロリアル様達とも合流ですな。
シルトヴェルトの使者は知り合いと連絡を取っていたようですぞ。
翌日ですぞ。
「ラフタリアちゃん。夜に叫びだして驚いたね」
「夜泣きが酷いのですぞ。精神的な問題なので治療するのに時間が掛かりますな」
お義父さんと俺は話をする事にしましたぞ。
「それで、ラフタリアちゃん達を助ける事が出来たけど……これからどうしたら良いかな」
ふむ……そうですな。
脳裏に今までとは違う事をしろと言う事が浮かんで来ました。
無難に行くのでしたらここでお義父さんに行商を提案したりして女王の帰還まで無難に過ごすのが良いでしょうな。
樹が非常にウザいですがそれで解決はしますぞ。
赤豚を惨たらしく仕留める機会もありますな。
ですがそれでは今までと大して差がありません。
折角最初にループした世界に再度来られたので出来る事はありませんかな?
「こう……あの弱って居た子、リファナちゃんみたいに今にも死んでしまいそうな子とか居るならできる限り早く助けてあげたいんだけど……」
「さすがに俺もお姉さんのご友人達全ての所在を覚えてはおりませんな。いろんな所に奴隷売買されてしまっているそうですからな」
魔物商や国に依頼してキールやお姉さんのご友人達を集めて行ったのですぞ。
ですがそれも現状では中々難しいですぞ。
かといってしないわけにも行かないですな。
「奴隷として売買……となると奴隷商人にお願いするのが早いのかな? 元康くんに奴隷って聞いてとんでもないと思ったけど、あの子達を助けようと最初の世界の俺は頑張ったのかな?」
「結果的にそうなりますな」
お義父さんは結果的にお姉さんの村の者たちを助ける事になりましたな。
「それなら奴隷を買うってのも……悪い事じゃないのかもしれないね」
「奴隷売買ですか……」
ここでシルトヴェルトの使者が来ますぞ。
「盾の勇者様が奴隷を集めるというのはあまり良い方法でありませんが、現在の状況としては良いのかも知れませんね」
「うん。元康くんの話だとシルトヴェルトに行っても問題が発生してしまうようだし、ラフタリアちゃん達を助けるってのも勇者として良いのかも知れない」
「承知しました」
おや? お義父さんがお姉さん達の為に一肌脱ぐようですな。
「では資金援助を私どもが行うのが良いのでしょうか」
「うーん……元康くんに手伝って貰えば良いかも知れないけど出所不明の送金でメルロマルクに勘付かれかねないからなー」
「ちなみにループ内のお義父さんは最初の世界のお義父さんのように行商をしたのですが善行をしすぎた所為でメルロマルク内で革命が起こってしまいましたぞ」
苦い経験ですな。
「……善行をしすぎてもダメなのか、行商もあんまり良い方法では無さそうと」
「ですな。出来れば行商は避けて欲しいですぞ」
今までに無い方法をして欲しいですぞ。
「うーん……何か良い方法がないかな?」
「ここはアレですぞ。餅は餅屋、魔物商人に聞いて見るのですぞ」
「そう簡単に教えてくれるかな? 変な感じに騙しそうだけど」
「一応どのループでも協力してくれる魔物商人がいるので相談するのが良いですぞ。ただ、お義父さんは舐められないように演技してましたぞ」
「演技かー……まあ、じゃあ少し話をしに行こうか」
「わかりましたぞ」
「私も同行しましょう」
「何処か行くのー? クロもー」
「クロちゃんも来るのですな。では行きますぞ」
という事で俺達はお姉さん達に留守番して貰い、メルロマルクの魔物商の所へと行きました。
魔物商のテントの前に来ました。
「こ、ここに奴隷が売っているの?」
「そうですな。後は魔物の販売もしていますぞ」
お義父さんが唾を飲み込んで拳を握り締めておりますぞ。
「この奴隷商人の組合は聞いた覚えがありますね」
シルトヴェルトの使者も知っている有名な商人のようですな。
まあ、話によるといろんな所にパイプがあるそうなので信用出来る所なのでしょう。
「では入りますぞ」
「わーい」
俺が先頭でお義父さん達とクロちゃんと共に行きますぞ。
「これはこれは、新たなお客様ですかな? ハイ」
「フィーロたん。は既に分かっていますぞ」
「ハイ?」
おっと、癖でフィーロたんを購入しようとしてしまいました。
既にフィーロたんになるサクラちゃんの卵は確保しましたぞ。
「その風貌……持っている武器を察するに槍と盾の勇者様方で間違い無いですかな?」
「……ああ」
「勇者様?」
シルトヴェルトの使者がお義父さんの様子を確認しますぞ。
演技をするお義父さんをよく知らないのですな。
「私どもの耳にした話ではシルトヴェルトの方へと向かうとお聞きになっていましたが当商店にどのような御用でいらっしゃったのでしょうか」
「ふふ、耳が早いな。シルトヴェルトに行って告げ口の様にこの国に報復するのでは面白く無いのでな。国の連中への嫌がらせの為に国外に出た振りをしてやったまでだ」
「ほう! ではどのような目的があるのでしょうか。ハイ」
「素直に話すはずがないだろうが。ここは奴隷を扱っている店と聞いたがどうなんだ?」
「ハイ! 私共の店は奴隷を扱っておりますです。ハイ」
「では少し商品を見せて貰っても良いか?」
「承知しましたです。ハイ! 私共の商品を拝見して頂きますです。ハイ」
と言った様子で魔物商は俺達を案内し始めますぞ。
魔物商のテント内の独特の匂いが鼻につきますな。
檻の中に奴隷が詰められているのですぞ。




