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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 真・槍の勇者のやり直し
1087/1285

番外編 偽典・ブレイブペックルの冒険

 俺の名前は岩谷尚文、ある日、図書館でラノベを漁っていた所で四聖武器書という本を見つけて読んでいた所、本の登場人物である盾の勇者として異世界召喚という夢のようなシチュエーションに遭遇し、こうして異世界で勇者として活動する事になった。

 ただ……他の勇者とは異なるこの世界のルールに関して何も知らなかった所為で国が用意した仲間が得られず援助金を多めに貰って仲間を探す事になった。

 とりあえず城下町をぶらぶらと歩き、仲間になってくれそうな人を探して歩き回っている内に日が暮れてしまったので宿屋に泊まる事にした。

 本日の収穫は武器屋の親父さんの所で装備を購入してそこそこ仲良くなれたって所かな?

 くさりかたびらを購入させて貰った。

 さすがに寝るときまでくさりかたびらを着けているわけにはいかない。

 脱いで椅子に立てかけておく。


「……」


 銀貨の入った袋を備え付けのテーブルに置いた。

 この銀貨でこれからの行動を考え無いとな……仲間への給金とか色々と。

 少し心もとない気がして落ち着かないのは俺が貧乏人根性でも染み付いているのだろうか。

 徐に観光地に行く日本人の如く、俺は銀貨30枚ほど盾の中に隠す。

 うん。なんとなく安心したような気がしてきた。


 今日は色々あったなぁ。

 ちょっと一人で戦えるかと思って草原に出て魔物、バルーンってのを叩いたんだっけ。

 魔物を倒す手ごたえってあんな感じなのか。

 風船を割っていただけとしか言い様が無いけど。

 ベッドに腰掛け、そのまま横になる。

 見慣れない天井、昨日もそうだったけど、俺は異世界に来たんだ。


 ワクワクが収まらない。

 これから俺の輝かしい日々が幕を開けていくんだ。

 そりゃあ勇者仲間には出遅れているけれど、俺には俺の道がある。

 何も最強を目指す必要は無い、出来る事をやっていけばいい。

 なんだか……眠くなって来たな。酒場の方から楽しげな声が聞こえてくる。

 元康っぽい声や樹らしき奴が雑談をしながら部屋を通り過ぎたような気がした。あいつらもここを宿にしたのかな。


 なんて考えていると……コンコン、と扉を叩く音が聞こえた。

 来客かな?


「はい?」

「夜分に失礼するのですピョン」


 ピョン? なんか変な語尾だな?

 などと思いながら俺は扉を開けるとそこには……いない?


「ここですピョン」


 言われて視線を落すとそこには……二足の足で立つ服を着たサンタ帽子を被ったウサギが片手を上げて挨拶していた。


「初めましてですピョン。俺の名前はウサウニーですピョン」

「は、初めまして」


 あ、あれか? 獣人って奴、異世界だからこういった人種ってのが居るのかも知れない。

 何せ俺はこの世界の事をまるで知らないし四聖武器書に関しても大雑把な概要しか分からない。


「あなたは盾の勇者であるオト――岩谷尚文くんでよろしいですピョン?」


 小首を傾げつつウサウニーと名乗った奴が尋ねて来た。


「う、うん。俺が岩谷尚文だけど……」


 何だろう? 俺に一体何の用なんだ? このウサギの獣人であるウサウニーさんは。

 ヒクヒクと鼻を鳴らして、耳がピクピクしてて可愛げがあるなー。


「俺はオト――尚文くんへ質問しにきたピョン」

「質問?」

「そうですピョン。おと――尚文くんは運命をどう考えて居るピョン?」

「運命……? あったら素敵な事だと俺は思ってる所だけど……」


 こう、異世界召喚ってシチュエーションって実に運命だよな。

 実際にあり得ないからこそ夢があって、そこに運命なんて言葉で彩られたら素敵だと思う。


「じゃあ刺激があるのとないのではどっちが良いですピョン?」

「そりゃあ今は刺激有る冒険がしたいかな」


 だって勇者としてこの世界に召喚された訳だし、波って災害に挑む訳だからな。

 むしろ現在進行形でウサギ獣人のウサウニーと話をしているって状況が刺激に溢れて夢みたいな状況というか……。

 しかし……なんかこの子の声、聞き覚えがあるような?


「わかりましたですピョン。では……これから辛い経験をきっとしてしまうでしょうが覚えて居て欲しいですピョン」

「辛い経験……? 何を覚えて欲しいの?」

「例え何があろうとも俺はあなたの味方ですピョン。それでは失礼しますですピョン」


 と、ウサウニーは一礼して背を向けて歩いて行ってしまった。


「あ……一つ忠告ですピョン。隠すお金は多い方が良いですピョン」

「はあ……」


 と、よく分からない様子で俺は部屋の扉を閉める。

 電波系って感じなのかな……あのウサウニーって奴は。

 なんて思いながら助言通りに盾の裏側に銀貨を更に30枚潜ませて俺は就寝したのだった。




 翌日、俺は気付いたら身ぐるみを剥がされ、部屋に置いてあったはずの金袋を盗まれていた。

 困惑している所で城の兵士達が俺の元にやってきて事情を説明しようとした所で何故か俺を連行するように城へと連れて行かれた。

 そして城では……何故か樹が誰か知らない女を俺に見せないように庇うように前に立っている。


「本当に身に覚えが無いのですか?」


 いきなり樹が俺を詰問してきた。


「身に覚えってなんだよ……って、あー!」


 ここで樹が俺の所持して居たくさりかたびらを着用して立っていたのに気付く。


「お前が枕荒らしだったのか!」

「誰が枕荒らしですか! 尚文さん。まさかこんな外道だったとは思いもしませんでした!」

「外道? 何のことだ?」


 俺の返答に、謁見の間はまるで裁判所のような空気を醸し出した。


「して、盾の勇者の罪状は?」

「罪状? 何のことだ?」


 本当に心当たりが無い。


「うぐ……ひぐ……盾の勇者様はお酒に酔った勢いで突然、私の部屋に入ってきたかと思ったら無理やり押し倒してきて」

「は? 誰お前?」


 本当に心当たりが無い。

 何処の誰だよお前……宿屋の隣の部屋で泊まっていた冒険者か何かか?


「盾の勇者様は、「まだ夜は明けてねえぜ」と言って私に迫り、無理やり服を脱がそうとして」


 樹の後ろに居た見知らぬ女が泣きながら俺を指差して弾劾する。


「私、怖くなって……叫び声を上げながら命からがら部屋を出てイツキ様に助けを求めたんです」

「え? 本気で誰だよお前」


 何のことだ?

 昨日の晩、俺は来訪したウサウニーと少し話をして別れた後はぐっすり眠っていて身に覚えはまったく無いぞ?


「嘘です! じゃあなんでカナンさんはこんなに泣いているのですか!」

「いやマジで誰だよその女! というかそのくさりかたびらは何処で手に入れた?」

「ああ、昨日、みんなで酒を飲んでいるとカナンさんが酒場に顔を出したんです。しばらく飲み交わしていると、僕にプレゼントってこのくさりかたびらをくれました」


 あのくさりかたびらはどう見てもそれは俺のだろう。

 よくわからないがあの女が寝ている俺の部屋から財産と装備を盗んで樹にプレゼントしたって事だよな?

 樹では話にならない。ここは王様に進言するとしよう。


「そうだ! 王様! 俺、枕荒らし、寝込みに全財産と盾以外の装備品を全部盗まれてしまいました! どうかその女を捕まえてください」

「黙れ外道!」


 王様は俺の進言を無視して言い放った。


「嫌がる我が国民に性行為を強要するとは許されざる蛮行、勇者でなければ即刻処刑物だ!」

「だから誤解だって言ってるじゃないですか! 俺はやってない!」


 しかし、この場にいる連中全てが俺を黒だと断定して話を進めている。

 ドッと自分の血が下がっていくのを感じる。

 なんだコレ? 何だよコレ? 何なんだよコレ!?

 身に覚えの無い事で何故俺はこんなにも罵倒されていなきゃいけないんだ?

 パクパクと盗人の女に目を向けると誰からも見られていないと踏んだのか、女は俺に舌を出してあっかんベーっとする。

 ここで俺は悟った。

 そして樹を睨みつける。

 腹の奥からどす黒い感情が噴出していくのを感じる。


「お前! まさか支度金と装備が目当てで有らぬ罪を擦り付けたんだな!」


 樹を指差し、俺はこんなに大きく声が出るのだと自分でもびっくりする音量で言葉を発した。


「はっ! 性犯罪者が何を言っているんですか」

「ふざけんじゃねえ! どうせ最初から俺の金が目当てだったんだろ、仲間の装備を行き渡らせる為に打ち合わせしたんだ!」


 人の金を目当てに仲間の女にこんな真似をさせたんだ。

 言ったもの勝ちだよなこの野郎!


「異世界に来てまで仲間にそんな事をするなんてクズだな」


 錬が俺に向けて冷酷に断罪する。

 何冷静に状況見てるって面してんだよ! 状況をしっかりと見ろよこら!


「そうですね。僕も同情の余地は無いと思います」


 錬と樹が俺を断罪するのに躊躇いが無い。

 そうか……コイツ等、最初からグルだったんだな。盾だから、弱いから、強くないから俺を足蹴にして、少しでも自分が有利に事を運びたい と、思ってたんだ。


 ――汚い。

 何処までも卑怯で最低な連中なんだ。

 考えれば最初からこの国の奴等も俺を信じようとすらしない。

 知ったことか! なんでこんな連中を守ってやらなきゃいけない。

 滅んじまえ! こんな世界。


「……いいぜ、もうどうでもいい。さっさと俺を元の世界に返せば良いだろ? で、新しい盾の勇者でも召喚しろ!」


 異世界? ハ!

 なんで異世界に来てまでこんな気持ちにならなきゃいけないんだよ!


「都合が悪くなったら逃げるのか? 最低だな」

「そうですね。自分の責務をちゃんと果たさず、女性と無理やり関係を結ぼうとは……」

「帰れ帰れ! こんなことする奴を勇者仲間にしてられねえですぞ!」


 俺は身勝手な事をぶちかます錬、元康、樹を殺す意思をこめて睨みつけた。

 本当は楽しい異世界になるはずだったんだ。なのにコイツ等の所為で台無しだ。

 ふと……ウサウニーの顔が思い浮かぶ。

 辛い経験……とはこの事を言っていたのか?


「さあ! さっさと元の世界に戻せ!」


 すると王様は腕を組んで唸った。


「こんな事をする勇者など即刻送還したい所だが、方法が無い。再召喚するには全ての勇者が死亡した時のみだと研究者は語っておる」

「……な、んだって」

「そんな……」


 今更になって錬と樹はうろたえてやがる。

 元康は黙ってこっちを睨んでやがる。

 元の世界に、帰る術が無い?


「このままじゃ帰れないだと!」


 ふざけやがって!


「いつまで掴んでんだコラ!」


 俺は乱暴に騎士の拘束を剥がす。


「こら! 抵抗する気か」

「暴れねえよ!」


 騎士の一人が俺を殴る。

 ガン!

 良い音がした。けれど痛くも痒くも無い。

 どうも騎士の方はそうではなかったようで殴った腕を握って痛みを堪えている。


「で? 王様、俺に対する罰は何だよ?」


 腕を振り回し、痺れを治してから尋ねる。


「……今のところ、波に対する対抗手段として存在しておるから罪は無い。だが……既にお前の罪は国民に知れ渡っている。それが罰だ。我が国で雇用職に就けると思うなよ」

「あーあー、ありがたいお言葉デスネー!」


 つまり冒険者としてLvを上げて波に備えろって訳ね。


「1ヵ月後の波には召集する。例え罪人でも貴様は盾の勇者なのだ。役目から逃れられん」

「分かってる! 俺は弱いんでね。時間が惜しいんだよ!」


 チャリ……っと盾の裏に隠していた銀貨に気がついた所で。


「待てですぞ」


 ここで元康が弾かれた兵士に変わったとばかりに俺の胸ぐらを掴んで突き飛ばしやがる。


「いて! 元康、何をしやがる!」


 っと顔を見ると……何だコイツ? 吐血してる? 口元から僅かに血が垂れているのを拭う。


「あまりにも甘い処遇なのですぞ。この俺がお前に相応しい罰を与えてやりますぞ」

「おお! さすがは槍の勇者、キタムラ殿!」

「何をする気ですか?」

「……」


 元康が尻餅をついた俺へ向けて手をかざしながら……魔法を唱え始める。


『力の根源足る槍の勇者が命ずる。森羅万象を今一度読み解き、彼の者の姿を変えよ』

「フォーフェアリーモーフ!」


 よく分からない言葉を唱えたかと思うと元康の周囲に何か光が集まり俺へと放たれた。


「うわあああああああ!?」


 バフン! っと言う音と煙と共に視界が一瞬切り替わる。


「こ、これは……」

「なんと……」

「おお……」


 何故か元康達が大きく見える。

 一体何をされたんだ? と視線を落すと俺の体がおかしい、手は人とは異なるものに変わって居るし腹ももうもうと毛皮のような物がある。

 更に視線の手前には……くちばし!?

 元康の大きな手が俺の目の前まで迫って来たので急いで逃げようとしたけど足が短く起き上がる前に背中を捕まれてしまった。


「なんだこれ!? 何をした! おい! 元康! 俺に何をしたああああ!」

「罰としてその姿で過ごすのですぞ! フハハハハ! さっさと城から出て行けですぞ!」


 と、元康は俺を掴んで城の外へと出したかと思うと槍の先に引っかけて槍を投擲した。


「グングニル!」

「うわあああああああぁああああああああああ!」


 ヒューン! っと元康が投げた槍に連れて行かれて俺の視界は空高くまで飛ばされて果てしなく飛んで行く。

 あっという間に飛んで行き――どんと地面に叩きつけられた様な衝撃と共に俺の意識はそこで一旦途切れた。





「――起きてほしいですピョン」

「うう……」


 意識を取り戻し、目を開けるとそこには青い空を背景にウサウニーが俺を揺すっていた。


「ここは……」


 ザザーンと……潮騒が聞こえる。

 海が近い……のか?


「大丈夫ですピョン?」

「あ、ああ……お前は、ウサウニーだったか」

「そうですピョン。おとう――尚文くん」


 ふと気になったけどこのウサウニー、俺の名前を呼ぼうとする度に何か言い間違えそうになってないか?

 よろよろと俺は自分がどうなったのか手で顔や体に触れて見る。

 けれど毛皮のようなものが張り付いて居るだけでよく分からない。

 何か……と周囲を見渡しているとウサウニーが手鏡を差し出して来たので受け取り、確認をする。

 するとそこには……サンタ帽子を被ったペンギンが映し出されていた。


「なんだよコレは!?」

「おと――尚文くんはペックルになってしまったようですピョン」

「ペックル!?」

「そうですピョン。そういう種族らしいですピョン」

「そ、そうなのか」

「ですピョン」


 そう言われてもこんな状況受け入れられるはずない!


「元康の野郎! なんて事しやがる! 魔法って奴か!」


 くっそ……いきなり俺をこんな姿にするとはどういう事だ!

 どうしたら元の姿に戻れる? いや、むしろこんな姿……魔物のそれに近いんじゃ無いか?


「ここは何処だ?」


 周囲を見渡すと廃村のような場所だというのは理解出来た。


「メルロマルク国セーアエット領ルロロナ村ですピョン。最初の波の被害で廃村になってしまった場所ですピョン」

「そうか……」


 よくよく確認すると魔物の爪痕や骨等の被害の跡が見受けられる。

 とてつもない災害が存在すると言う事か……。


「一体何があったのですピョン? 事情を教えて欲しいですピョン。俺が力になりますですピョン」


 ウサウニーが俺に事情を聞いてくるので俺はペックルになるまでの経緯を説明した。


「それは大変でしたピョン。何があろうと力になりますですピョン」


 そう言われて、なんとなく心が楽になったような気がする。

 俺が不幸な目にある前から力になりたいと言っていたし、今の俺の状況を信じてくれている。

 それだけで誰も味方がいない、と言う状況から楽になるもんだ。

 けど……こんな世界を救ってやる価値なんて無いんじゃ無いかとも思えるがな。


「ああ……助かる。所で気になったんだが……」


 ウサウニーの姿を見てふと思う。

 サンタ帽子を着用する小動物な姿に共通点が大きく見受けられる。


「俺もおと――尚文くんと同じように魔法で姿が変わってるのですピョン。元の姿に戻るには無実の罪を晴らし、術者に解除して貰うか解き方を見つけるしかないですピョン」

「そうか」


 つまりこのウサウニーも元康の被害者という事か。

 と、この時の俺は特に疑問に思う事無く聞き流していた。

 後にこのマッチポンプ野郎! っと怒鳴りつける羽目になるんだがな。


「こんな姿と冤罪で仲間なんて集めて強くなる事なんて出来やしない……ウサウニー、お前はどうなんだ?」


 冤罪はともかくペンギン姿になって力になってくれる奴なんて存在するのか?

 無理だろ、これで勇者とか冗談にも程がある。


「呪いの影響でお――尚文くんの成長を阻害してしまうので一緒に戦えないですピョン」


 チッ! 勇者同士一緒に戦えないのと同じ要素が混ざってるのか。


「だけど他の所で力になりますですピョン」

「例えば?」

「俺が――尚文くんの採取してきた品々を買い取って売って来ますですピョン。悪名が轟いている尚文くんより俺の方が物を上手く売れると思いますですピョン。他にも色々と物資を持ってくるので買って欲しいですピョン」

「つまりお前が商人として俺の代わりに色々としてくれるって事で良いのか?」

「ですピョン」

「そうか……」


 同じような呪いが掛かっている手前、ウサウニーにこれ以上の無茶な要求は出来ないか。

 手助けしてくれるだけマシか……。


「他にも俺が伝説の武器に関して調べた知識を色々と教えて上げますですピョン。その盾の力を上手く使いこなせば他の勇者よりも遙かに強くなれるようになりますですピョン」

「助かる。さしあたって……まずは食料と金稼ぎ、それとLv上げをしなきゃならないが……」


 何にしてもLvを上げねば話にならない。が、俺のステータスはペックルになっても大きく変化はしていない。

 むしろ弱体化してるのか? Lvは上がってないんだけどな。

 バルーンでもいるなら殴って経験値を稼ぎたい所だ。

 八つ当たりがしたくてしょうがない。

 が……この体じゃ鈍足だし殴ってもな。

 とりあえず盾の内側に隠していた銀貨を取り出してウサウニーに見せる。


「これで何か買えるものはあるか?」

「色々とありますですピョン。リストを見せますですピョン」


 ってウサウニーが買い付け出来る品をリストとして見せてくれた。

 ……わかりやすく銅貨や銀貨で書かれていて助かるな。

 売買に関しても魚とかも買い取ってくれる。

 便利な商人って感じだなコイツ。


「後はこの廃村で使えそうな調理機材を見つければ、生活は困りそうにないか……とりあえず海にでも潜ってみるか、ペンギンだしな」

「俺は薬草などを見つけて来ますですピョン」

「ああ、それじゃあな」


 と、俺はウサウニーに手を振り、海へと飛び込んだ。



 

 ん……おお、さすがはペンギンなのか思った通りに海の中を泳いでいける。

 海の中には魚が居て簡単に捕まえる事が出来るぞ。

 日本じゃ見ない魚だけどとりあえず数匹捕まえては陸に上がって廃村で籠を見つけたので入れて置く。

 盾にも入れた所、新しい盾も解放された。

 釣りの品質アップなどが解放効果にあったので早速変えて行くぞ。


「どんどん泳いでいけるもんだが……」


 泳いで居ると波の被害なのか腐乱した死体などが海底にあってぞっとさせてくれる。

 更に深い所には俺が勝てそうに無い魔物も泳いで居る。

 当面は浅瀬で見つけられる弱そうな魚の魔物辺りに挑んでLvを上げるのが良いのかな。


「後は……」


 俺は魚をそこそこ確保した後、陸地に出て村の周辺を探索する事にした。

 すると……。


「お……?」


 何やら獣の耳を生やした冒険者か旅人なのか分からない奴が俺に気付いた。

 若干警戒気味に構えていると。


「……」


 ダッ! と俺にいきなり詰め寄って抱え込んで走り始めた。


「何をする! 離せ!」

「…………」


 ダッダッダ! っとコレって俺を誘拐しようとしてないか!?

 しかも袋に俺を入れてしばられてしまった。

 いきなり誘拐されるってどういうことだ!

 この世界における魔物と獣耳の生えた人の違いを俺は判断出来ないが、今の俺は獣人とかというより魔物のそれに近い訳なので喋る魔物って事で生け捕りにされてしまっていると言う事か!?


「ぐあ!?」


 ジタバタと暴れて居ると強い衝撃を受けて意識を失ってしまった。





「むふふ……お義父さんの魅惑のお腹ですピョン……」


 気づいたらウサウニーが俺のお腹に顔をうずめていた。

 何をしている。

 ペンギンの毛皮の感触がそんなに心地良いのだろうか。


「大丈夫ですピョン?」


 何食わぬ顔で離れるとウサウニーはそう言った。

 直前の行動は無かった事にするつもりらしい。

 周囲を見渡すと廃村に戻っていた。


「おとう――尚文くん、誘拐されそうになっていたですピョン。どうにか助けましたですピョン」

「そ、そうか助かった」

「本当に大丈夫ですピョン? イヤなら俺に任せて欲しいですピョン」

「そうは言っても頼りっぱなしには出来ないだろ」

「任せて欲しいですピョン。その気になれば俺だけで世界を平和に出来ますですピョン」


 ドンと胸を叩いて誇るウサウニーだけどその姿は非常に心細い。

 ……後に本当に出来るのがわかるし、蹴り飛ばすんだが。


「くそ……どうやら珍獣として捕まって売られかねないようだ」


 人間か獣人かは知らないが人には十分注意しなきゃならん。


「……海なら逃げられるか、とりあえず海を重点的に行くしかあるまい」


 こうしてウサウニーが色々と買い付けをしてきて本日の報告と言った形で生活する事にした。

 ウサウニーに魚を買い取って貰った所、本日の収益は銀貨3枚ほどになった。




 そうして数日後。


「はあ……」


 謎のペンギン化からの魚取り生活を続けている状況をどうしたものか。

 幸いにして盾の強化方法をウサウニーが教えてくれたお陰で頑丈にはなり、深い所の魔物の攻撃を受けてもビクともしないけどダメージを与えられないのでは始まらない。

 精々サルベージと弱い魚を捕ってくるのが関の山か。


「お悩みのお義父さんに俺が商品を仕入れて来ましたですピョン」


 で、ウサウニーは何時の間にか俺をお義父さんと呼ぶようになりやがった。

 どうにも俺がウサウニーの親に似てるそうだ。


「「ピヨ!」」


 しかもウサウニーの頭の上には白いのと黄色い鳥の雛、チョ○ボっぽい馬車を引く魔物の雛を何時の間にか乗せている。


「一体何を仕入れてきたんだ」

「お困りのお義父さんの力になる戦力――奴隷ですピョン」

「奴隷ってお前な……ファンシーな見た目している癖に持ってくるモノがエグ過ぎだろ」

「では紹介ですピョン」


 コイツ、極自然な事の様な面で流しやがった。

 そうしてウサウニーの案内で廃村の一つの家へと案内された。


「まずエントリーナンバー1! 確かラクーン種のお姉さんですピョン。非常に弱って居ますし、寝てると叫ぶパニック症状を患っていますな」

「ケホケホ……えっと、ここは……」

「なんとこの村出身ですピョン」


 ウサウニーが案内した所に居たのはタヌキの耳と尻尾を生やした女の子だ。

 凄く気が弱そう。戦闘とか出来ないだろ。

 しかも風邪気味だ。張り付いた表情をしてて違和感が凄い。


「エントリーナンバー2! そのお姉さんのご友人! こちらも非常に弱っていますぞ。応急手当はしていますが注意が必要ですピョン」

「はぁ……はぁ……ゲホゲホ」


 で、今度はどう見ても病で弱り切っている女の子。

 こっちはマジで大丈夫じゃない。

 薬を服用させて寝かせておけ!


「あなたは……」


 盾の勇者だって名乗っても絶対に信じてもらえないだろうし、今の俺はペックルって謎の生き物。

 事情の説明が面倒すぎるが、どうしたもんだ?

 と言うかウサウニー、持ってくる商品は選べ! 人身売買にしたって限度があるだろ。


「俺はペックルとでも覚えておけ。生憎手助けになるかはわからんが……見捨てるのもな」

「そしてエントリーナンバー3! 遺伝の難病を患っている盲目で歩けない虎娘ですピョン!」

「うう……」


 で、こっちは包帯グルグル巻き。

 ウサウニーよ……お前は俺に一体何を期待しているんだ?

 戦力には到底ならなそうな病人の奴隷を連れてきてどうするんだよ!

 見捨てるのもきついぞ、コイツ等!

 お前は俺に破産でもさせたいのか?


「……何か、とても力強く、優しい気配のするお方だと思うのですが……私はお兄さまとは別に処分されたと言う事ですね。良かった。お兄さまがやっと、私から解放されるのですわね……」


 なんか今にも死にそう。

 本気でヤバそうだし、お兄様って奴がいないぞ。


「おいウサウニー」


 手招きして建物の外にウサウニーを連れ出してフリッパーで小突く。


「あの三人のどこが戦力になるんだよ。どれも瀕死じゃねえか!」


 一応ラクーン種のお姉さんって奴はあの中じゃまともな方だけど他二人は寝たきりだぞ。


「大丈夫ですピョン。お義父さんが魚を取ってきて与えればみんなすぐに元気になって行くのですピョン。でも遅くて不味い魚はダメですピョン。衰弱して死んでしまいますピョン」

「どこの最後の幻想の六作目に出てくる老人だあの子達は!」


 早い魚を捕らえて全員に与えることで元気になって戦力になるってか?

 仲間になった時に弱いキャラクターの成長率が高いというのはRPGあるあるではあるが……そんなゲーム的な要素でアイツらが戦力になるのか?

 むしろ薬草とか高そうな薬とかを与えて命を繋ぐ次元だろ!


「全員の奴隷紋登録を俺がしてあげるのでお義父さんはしっかりと魚を捕ってきて俺に渡して欲しいですピョン」

「お前な……はあ……」


 こりゃあやっていくしかないか。

 冤罪でこんな世界滅べと思ったけど、ウサウニーのお陰で生活自体はどうにかなるし、時々人間に捕らえられそうになると助けてくれるもんな。

 お金で色々と買い付けているし、今は下積み……波が発生するまでに環境をできる限り整えないといけない。

 そう思いながら今日も海に魚を捕りに行き、ウサウニーに渡すと確かに奴隷の少女達は徐々に元気になって来た。

 ラクーン種の少女、ラフタリアって奴はウサウニーの証言通り夜になると叫ぶので宥めるのが大変だった。

 ただ、ちょっと元気になってきた友人のリファナのお陰で村での作業は問題無くする様になった。

 どうやらこの村出身だったというのは本当の様で村の中での作業は真面目に頑張っている。

 そうしてペックルになって一週間と少し経った時の事……。




 その日、海を泳いでいると……。


「あら……?」


 海の奥の方で黒く白い謎の影が一瞬でこっちに近づいて来たのに気付いた。

 そしてその影が……シャチのそれだと気づき、俺の脳裏にとある出来事が浮かんで来る。

 ペンギンの天敵はシャチ。


「ヒ――」


 地上だと鈍足の俺も海の中では素早く動けるから油断していた。

 どうみても俺よりも遙かに早く巨体だ。ボコボコにされて食われかねない。

 いや、しっかりと強化した盾だから逃げ切る事さえ出来るはず!

 逃げるぞ!

 っと背を向けて全力で逃走しようとしたのだが。

 ギュッと捕まれてしまった。

 ……掴む? どうやって? と振り返るとこのシャチ、手と足が付いてる!?

 まさか水に入っている冒険者!?


「くそ! 離せ!」

「あらあらあら」


 直後、バチバチ! っと謎の電撃が体を通り、俺の意識は遠のいて行った。




「う……ここは……」


 またウサウニーが俺を助けてくれたのかと思って目を開けたのだけどそこにウサウニーの姿は無く、見知らぬ洞窟のような場所で俺は目を覚ました。

 思えばウサウニーは地上で冒険者に遭遇したときに物音に気付いて助けてくれる訳で、海にはこなかった。

 更に小型の檻に入れられている。

 く……ここで死ぬわけには行かない。

 村には幼い奴隷の少女が三人と何か最近胡散臭くなってきたウサウニーとフィロリアル達が待っているんだ。

 何が何でも生き延びてやる!

 こうして俺の脱出作戦が開始したのだった――。


April Fools' Day

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― 新着の感想 ―
[良い点] この話続き読みたい(笑)
[良い点] 面白くて普通に続きが気になる。 ついに序盤に虎娘きたぞ!→お兄様放置されてて滅茶苦茶笑ってしまった。
[一言] あ~、シャチのお姉さんか(本編知ってるなら判るあの人)
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