謎の空間
「鳥」
「はいはい。元康くん。フィーロちゃん。こっちに来て、僕の尾羽でも掴んでね」
「わかりましたぞ」
「うー……わかった」
俺とフィーロたんは揃ってホー君の尾羽を掴みますぞ。
するとホー君はアークの背中に触れました。
「元康くんありきたりな言葉しか言えないけど、がんばって……無かった事になった世界の為に応援してるよ」
それは……メルロマルクに残ってやり直した世界のお義父さんによく似た言葉であり、アークは内緒とばかりに指を口元に当てていました。
「ループする際、元康くんはきっと今夜の事を忘れてしまう。それは君が本来持っている資質によるもの。だけど、いずれどこかで思い出して欲しい。願わくば君の旅に幸が多いことを……」
ザァ……! っと一瞬で景色が変わりましたぞ。
ポータルスキルですかな?
気付くとそこは……延々と地平線まで続く図書館の様な場所に居ましたぞ。
その図書館の様な場所に主治医の工房の様な設備がありました。
周囲を見渡すとホー君しかおらず、上を見ると星々が煌めいております。
妙な場所ですぞ。
ですが、どことなくフィロリアル様の聖域にあった遺跡の最奥部と雰囲気が似てますぞ。
「アークが消えましたぞ!?」
「猫の事は気にしなくて良いよ」
ホー君がそこで本棚に翼をかざすとスッと二冊の本がどこからともなく飛んで来ましたぞ。
「なになにー? 本ー?」
フィーロたんがホー君にお尋ねしましたな。
「うん。ちょっとね」
ホー君が本を広げてサササと何かを書き換え始めましたぞ。
ですが書いた文字が消えて元に戻っていらっしゃる様ですが……あぶり出しのようにも見えますぞ。
一体何をしていらっしゃるのでしょうかな?
「ここどこー?」
「ああ、ここはね。ちょっとした別空間なんだ。時間の流れが静止したね……ここでならどれだけ時間を掛けても歳を取らずに済む場所かな。今回は察知されない場所って事で利用させて貰ってるよ」
「んー?」
「よく分かりませんな。ホー君。これがいずれ知る事なのですかな?」
「うん。僕がぼんやり見た未来では君は必ずここで回し車の解除をする事になるんだったんだよね。まさか一番あり得ない結果でここに来るとは思わなかったけどね」
それは予言に書いてあった事との繋がりですかな?
アークは必ず俺に待ち受ける不幸をどうにかしようとしてくれたのですな。
「ここに勝手に入るには満月か新月の夜に猫がぼんやりしてる時に背中に勝手に開くんだよね。今回は猫に開いて貰ったの。滅多にしてくれないんだからね」
アークの背中に空間の歪みが出来るのですかな?
「ディメンションシールドと言う奴ですかな?」
「違うよ。アレは空間を歪ませるけどここは……そう言ったのとは完全に別、反転世界に該当する所さ。反存在の空間なんでね。君の運命にはプラスにもマイナスにも両方、やらなきゃいけないのさ。何事もバランスってね」
ここでキラキラと……俺の槍が光って勝手に動きますぞ。
「ふふ……因果なものだね。その子は昔、ここで鍛錬を積んだ子なんだよ」
「そうなのですかな?」
「うん。これから長い付き合いになるんだ。いずれ話す時が来ると思うから仲良くね」
仲良くも何も俺が常時使っている槍ですぞ。
ホー君が本を閉じると地面に大きな魔方陣が走って俺とフィーロたんをそれぞれ囲いますぞ。
すると俺の槍とフィーロたんのツメにそれぞれ光が吸い込まれて行き、通じて俺達にも何かが通り過ぎて行きました。
「さて、細工は上々、これで二人は武器とより深く繋がったね。フィーロちゃんは変わらず過ごして、元康くんは……やがて一度脱出した世界へと再度行く事になるよ」
「んー?」
「じゃ……帰ろうか、僕の尾羽をしっかり掴むんだよ」
言われて俺達はホー君の尾羽を掴みますぞ。
すると気付いた時には元の場所に戻って居ました。
ですが、何故でしょうか。眠く感じますぞ。
「おかえり」
「うー……フィーロねむーい」
「色々と元康くん達に施したからね。ちょっと過負荷が掛かっちゃってるか」
「く……ううう」
「家には僕が責任を持って送って上げるよ。だから安心して」
「今夜の事は忘れてしまうだろうけどそれじゃあね――良い夢を……」
と、アークの優しげな微笑みと手を振る様子を最後に、俺はフィーロたんと共に意識が遠のいていったのですぞ――。
翌日、思い起こせば俺は昨夜の事を施された影響ですっかりと記憶から抜け落ちていたのですな。
フィーロたんの方は覚えていたのかアークとホーくんに小声で確認していた様に感じられますぞ。
「それじゃあ、また近くを通ったら遊びに来るね」
みんなでお見送りとなった際にアークは微笑んで手を振っていましたぞ。
「この場所があなた様にとって心地の良い場所であった事が幸いでしたなのー」
ライバルが妙に畏まって敬礼しながらアークを見送っていましたぞ。
俺はぼんやりと手を振っていてライバルに喧嘩を売れませんでしたな。
「うん。君が気に入っているのも理解出来るよ。元康くんと仲良くね」
「な、なんでですなの!?」
「仲良く喧嘩する仲でしょ? 鳥の話だと聖武器にも宿ってたみたいだし、楽しく頑張ってね」
「が、頑張りますなの? 槍の勇者と遊べって事……なの?」
アークの言葉にライバルが首を傾げていましたな。
「まあ……君のお義姉さん、いやお父さんに関しては気持ちが分かるからね。僕も養子の面倒を見てた事あるし」
「三代くらい世話させられたもんね。二代目がヤバかったよねー」
「あはは……ウィンディアちゃんも仲良くね。あんまりお父さんに熱を上げないように」
「はい?」
「なの?」
と言った様子で助手とライバルは情けない親を思い浮かべつつ首を傾げているようでしたぞ。
「僕の方は来れるか分からないけどね。中々面白かったね」
ホー君はまたこれるかわからないのですな。
名残惜しいですぞ。
「元康くんが奇妙な目で見てる……鳥肌の原因はやっぱり君か」
「君は鳥でしょ」
「ナオフミちゃん以外でお姉さんとお酒を付き合える人がいなくなって、本当、寂しいわー」
お姉さんのお姉さんが心の底から名残惜しそうに手を振っておりますぞ。
パンダがそんなお姉さんのお姉さんに眉を寄せていましたぞ。
「そんなに飲み仲間が欲しいならー妹でも呼べば? いるはずでしょ? 猫の弟みたいに、仲が良いか悪かは別にしてさ」
ホーくんがそう言った所でアークがおいおいって顔でホーくんを見ますぞ。
「あら? ラフタリアちゃんかしらー?」
「おっと、それじゃあ何時までも話をしてるのはどうかと思うし、行かせて貰うね」
「うん。じゃあねー」
と、アークが空を指でなぞると穴が出来て、そこへ両者は入って消えましたぞ。
旅立ち方も独特な方々でしたな。と、その時俺は思っていたのでしたぞ。
……
…………
………………
「ここは……」
ふと気付いた時、俺は暗いはずなのに俺自身だけはしっかりと見える不思議な空間におりました。
どうなっているのですかな?
少々思い出しますと……フォーブレイへと向かった時のお義父さん達や錬、樹と平和な日々を過ごしていたのを思い出せますな。
ですが、あれから随分と時間が経っているような気もするのですな。
するとそこで、暗闇からライバルがパタタっと舞い降りて来ましたぞ。
「やあ、北村元康なのー調子はどうなの?」
ん? ライバルが俺の名前をそのまま呼ぶ?
少々引っかかりますが気にせず周囲を見渡しますぞ。
ですがいまいちよく分かりませんな。
「ここは一体何処ですかな?」
「何処だと思う? なの」
何ですかなこのライバルは、俺をどことなく馬鹿にしているのは相変わらずですが目つきがなんとも気色悪いですぞ。
相手をするのも馬鹿らしいのでライバルを無視して歩き出しますぞ。
何処かに出口があるはずですからな。
「ユキちゃん! コウー、クーちゃん、まりんちゃん、みどりー!」
フィロリアル様達を呼びますが返事は聞こえませんぞ。
「フィーロたーん!」
そしてフィーロたんの名前を呼びますが……お返事はありませんな。
一体ここは何処なのでしょうかな?
と、ポータルが使えるかと確認しようとした所で槍が手元に無いのに気付きましたぞ。
「槍が無いですぞ!」
俺は即座にライバルを睨みますぞ。
「俺の槍は何処ですかな!」
「相変わらず君は元気で勢いがあるね……だからこそ面白くもあるんだけど、なの」
なんですかな、その態度は!
ライバルにしては反応が淡泊に見えますぞ。
ですが視線がどうにも気になりますぞ。ライバルにしては俺に親しみを持っている様に感じますな。
「やっとあの日の夜を思い出したからかここまでこれた様だし、多少の変化は期待出来れば良いと思ってるけどどう? なの」
何より言葉遣いがおかしいと感じますぞ。ライバルにしてはとってつけたような「なの」の語尾ですぞ。




