振り返らない決意
「尚文くんは結構不器用に友愛を向ける人だけど?」
「俺の知るお義父さんにはアークの様な笑みを浮かべるお義父さんがいらっしゃるのですぞ。何より、この世界のお義父さんとだってアークは重なるのですぞ」
口にしてしまえばますます確信に近づいて来ますぞ。
予言の碑文がコレを突きつけろと言っているのが分かりますぞ。
「俺は……槍の力で平行世界でやり直した事がありました。その時に……いろいろなお義父さんの側面を見てきたのですぞ」
スーッとそこでホー君がフィーロたんとの話を終えたのか戻って来て、俺とアークの両方の声を聞いていました。
「アーク、教えて欲しいのですぞ」
アークとホー君が来てから聞いてばかりな気がしますぞ。
ですが今回の事だけは優しい言葉では無く怒られたとしても教えて欲しいのですぞ。
あのお義父さんは……平行世界でループする条件を満たしてしまった所為で消えてしまったのですぞ。
それはいわば助けられなかったお義父さんに他なりません。
自然と後悔に拳に力が籠り、目に涙が溜まります。
ですが、泣くわけには行かないのですぞ。
お義父さんが仰っていました。
『あくまで元康くんにとって夢のような、死後の世界とも違う場所だっただけ。俺達は言わば夢の登場人物……死とかそういう感覚は無いよ』
夢の登場人物。死は別れではありますが、ホーくん達の話では転生すると言う概念が存在するのですぞ。
知らずに何処か来世で出会えているかもしれません。
ですが夢の登場人物には死すらないのですぞ。
確信を持つとその困った顔は怠け豚の怠けに呆れているお義父さんの顔にも感じられるようになりました。
「君は僕を見て想った、その彼に逢いたいのかい?」
「それは……会えるのならばまた会いたいですぞ。今度こそ、あの世界のお義父さんを救いたいのですぞ。無かった事になったあの世界を……もう一度!」
俺の返事にアークは頷きましたな。
「……元康くん」
「なんですかな?」
「君は覚悟を持って、振り返らない決意……どれだけの別れがあっても後悔しないでいられるかい?」
フィーロたんにしたのと同じ質問ですかな?
「お義父さんとフィーロたんとは絶対に別れませんぞ! この元康、何があろうと忠義を尽くしますからな! 後悔なんて無数に重ねて行くのですぞ!」
「わー開き直ってるー後悔しないかって聞かれて無数に重ねるって答えるとか凄いね! さすがはあの世界の中心点の一つ」
「はは……その決意と返事なら、良いのかな?」
「そっか……決意は、固そうだね。君が口だけじゃないのは分かるよ」
「なるほどなるほど、ははは。いやーこれは中々に面白いね。薄らと可能性は見えていたけどまさか本当にここに至るとはねー」
ホー君がここで茶化すように大きく笑い始めましたぞ。
一体何が面白いのですかな?
「錬くんに始まりサディナさんに続いて元康くんまでも核心を突いてくるとはね」
「錬とお姉さんのお姉さんですかな?」
先を越されてしまっているのですかな?
「いや、錬くんやサディナさんとは違った質問なんだけどね。猫も割と隙があると言うかなんと言うか」
「隙とか勝手に言わないで欲しいものだけどね。はぁ……」
アークが深々とため息をしますぞ。
「ねえ。鳥、フィーロちゃんとの話は出来た?」
「まあね。ほら、そこに来てるよ」
振り返ると俺に遠慮していらっしゃるのかフィーロたんが茂みに隠れるようにいらっしゃいますぞ。
アークがフィーロたんに微笑んで手招きしますが、フィーロたんは俺を見て照れておりますぞ。
「まあ……良いか。フィーロちゃんと元康くんにお願いしてみるのも良いかな」
「なんですかな?」
「君は……この世界に戻るために別れた尚文くん達も大切なんだね」
「当然ですぞ。例え、無いと言われた世界だろうとお義父さんはいらっしゃったのを俺は覚えているのですぞ!」
俺の返事にアークは微笑みますぞ。
「無いけどある……か」
「ふふ……君からしたら嬉しい言葉なんじゃない?」
「そうだね。あるけど無い、無いけどある」
アークが俺の槍に手を添えますぞ。するとスッと……この世界に戻った際に消えていた大きなフィロリアル様の羽が何枚も姿を現しました!
「鳥もちょっと手伝って」
「はいはい。予定変更だね」
「ふむ……フィーロちゃんだとこっちのやり方だと難しいから……あの方法で」
「因果を束ねる方法ね。そうすれば尚文くん達にとって手札は増えるか」
と、何やらアークとホー君が相談をしてからホー君がフィーロたんを手招きしましたぞ。
渋々フィーロたんが近づいて来ますな。
「じっとしててねー……」
「うー……」
「元康くんは僕たちが相手をするからフィーロちゃんはそこでじっとね」
ふわりとフィーロたんに向けて淡く光る糸のような物が優しく覆っていくのですぞ。
「なになにこれー!?」
「大丈夫、そんな変な代物じゃ無いよ。んじゃフィーロちゃん。君の遠い遠いご先祖が僕に連なる眷属だった訳だけど、正式に君を僕の眷属に任命するよ」
大きなフィロリアルの羽とホー君が自ら抜いた羽、そしてフィーロたんの羽が光となってフィーロたんに降りかかりました。
「ま、辞めたくなったらいつでも辞めれるけど、そうなったら尚文くんに付いていくのは諦めてね」
「うー……フィーロ諦めないもん!」
「頑張れー」
「やる気の無い励ましはどうかと思うよ……そんな訳だから精霊達よ。どうか力を貸してー」
アークではなくホー君が声を掛けると……俺が持っている槍が光り、示し合わせたようにどこからともなく杖が出現しました。
これは……転生者が持って居た杖の聖武器という奴ですかな?
「良かった。槍の聖武器も協力してくれる」
「ああ、君が協力してくれるのね。互換がきくかな? 猫」
「はいはい」
と、アークは杖を手に取ると杖先を外して……穂先を付けましたぞ。
その様は槍としか言いようが無い代物になりました。
槍となった元杖はふわふわと浮いた後に俺の槍と宝石部分が重なりますぞ。
バチバチと何かが通り抜けていき、元杖が姿を消しました。
「上手く変換は出来たみたいだね」
「うん。尚文くん達には……気付かれない様にっと」
何やらアーク達がしていらっしゃるようですぞ。
「元々色々としてた訳だけど元康くん達の決意も聞けたから予定変更だね」
「何をするのですかな?」
「そうだね……元康くんに更に聞きたい事があるんだけどね」
「なんですかな?」
「君さ……この世界で平和に過ごして寿命を終えて死んだ後、どうなりたい?」
「それはどういう意味ですかな? 普通に天国や地獄などに行くのでは無いですかな?」
死んだら魂となってあの世とかそう言った所に行くのでは無いですかな?
ホー君が煉獄などと仰っていましたので地獄もあるのでしょう。
「死後どうなるのかは存じませんが、もちろん俺は正常な形で死に……転生とやらがあるのでしたら記憶は全て無くなるでしょうな。出来れば来世でもフィロリアル様と会いたいですがな」
「そっか……じゃあ話した方がいいかな」
なんですかな? 俺の想像とは違うかのような言い方ですぞ。
不吉な予感がしますな。
「ちょっとね。君を哀れに思うと言うか……君が寿命を終えた後、君はまた元の世界、日本で並行分岐する回し車を回す事になるからさ……君の世界の理なんだろうけど大変だね」
「まー世界の理はそれぞれだからね。槍の精霊も死から君を救いつつ引き抜いたって事なんだろうけど……」
「主犯の手口を読み取ると第一指名が呼べない様に他の候補を死なせたみたいだね。目の前の死を見過ごせないのを願う精霊の性質を利用した手口だね」
「どういうことですかな?」
何やらアーク達が不穏な事を仰っていますぞ。
お義父さんに関する話ではないのですかな?




