アカシックデリート
「いや、さっき無理矢理血を飲ませようとしていた! アレを受けなきゃ良いだけだ!」
「そうだ! さっさと仕留めるぞ!」
転生者は俺とフィロリアル様の方に視線を向けました。
「アイツを操って利用するぞ」
転生者が何やら魔法を使い始めますぞ。
すると文字が浮かび上がり俺達の方へ飛んで来ました。
この文字の飛び方、赤豚本体が俺を殺した時のものだと……ホー君の加護がある状態だと過去の記憶から分かりますぞ。
「また人質を取るか……汚れた連中め。アカシックデリート」
アークが手を広げると奴らの攻撃がまとまって本のようなものが現われて開きました。
そしてアークはその本の一文をツメで削りましたぞ。集からの……連携で相手の力を利用した反撃ですかな?
すると……俺に何かしようとしていた転生者の姿が消えました。
ホー君の加護がなかったら認識すらできない動作だったのではないでしょうか。
この状態は、赤豚本体との最終決戦でお義父さんが俺達に施してくれた加護と同等以上の代物なのでしょう。
「な――!?」
「!?」
「――! いや、なんで? そこにいた――の名前が出てこない!」
「消された!?」
「元康くんを人質にしようとしたからな。お前達がさっきやろうとしたのはコレだろ? 構成情報を弄くるのが大好きだもんな? 気付かせないようにする事も出来たけど敢えて認識させてやってる事くらいわかるよな?」
な? とアークは眼光鋭く、転生者達に挑発しつつ首を傾げております。
「ま、居た事さえ完全抹消するとかもできるが、それは後だ」
「その辺にした方がいいんじゃない? やり過ぎると過保護な保護者が来そうだねー」
ピクッとアークの耳が跳ねましたぞ。
苦手な方なのでしょうかな? どうやらこの手の力を使うと来るようですぞ。
「う……大丈夫。気付かれないはずだから」
「どうだろうね」
怒っていらっしゃいましたが少しだけ冷静になって下さいましたかな?
アークが再度指をなぞると消えた文字が戻りましたぞ。
スッと消えていた転生者が元に戻りましたな。
「あ!? ど、どうなってやがる!?」
「書き換えは逆効果って分かったか? まあ、ここではもう使わせないけどな」
アークが0のツメのような浮かび上がるツメで転生者達を一文字に斬りつけましたぞ。
するとバキンと音を立てて転生者達の何かが切り裂かれました。
「お、俺の能力がぁあああああ!? 消えた!?」
「ふざけんじゃねえぞ! 俺のチート能力を返しやがれ!」
「怒鳴って駄々を捏ねるしかないのかね。君達、無駄に歳を取って赤ん坊みたいになって見苦しいね」
「く……」
「ほらほら、まだ終わっちゃいないぞ」
アークはザシュザシュと転生者達を甚振る様にツメで切り裂いていきます。
「ああ!? 能力が――どんどん消えていきやがる!?」
「や、やめろ! やめてくれ! これが無くなったら――」
「能力頼りのイキってる陰キャでしかないみたいだね。君達。能力が無くなったらコレか、チンピラと陰キャって本質は変わらないよねー」
「自分達は散々他人から奪ってきた癖にそんな事を言うのか……同じように命乞いをした者達の声をお前は聞いたか?」
残忍な笑みでアークは答えましたぞ。
「ど、どれだけ消したところでお前の直接攻撃なんて痛くも痒くもねえよ!」
「聖武器には無数の能力を授ける力がある! この程度ならすぐに取り返してやる!」
駄々を捏ねる転生者達は自らの不利を悟ったのか数歩下がりつつ武器に手をかざしますぞ。
「この状況で逃がすと思ってんのか?」
アークが一歩踏み出しながらそう呟きました。
「まー別世界に逃げても逃げ切れるか分からないけどさ。そもそもここには尚文くん達の設置した結界があるからねー。彼の結界は他とはレベルが違うよ? 君達は根本的に逃げられないだろうね」
お義父さんが仕掛けた結界があるのでしたな。
そういえば赤豚本体みたいな連中が関われない結界が施されていて二度と波の様な出来事は起こさせないとお義父さんは仰っていました。
レベルが違う……アークやホー君に匹敵するレベルに強化されたお義父さんの防御能力はどれ程なのでしょう?
「ま、聖武器を拘束している程度だから猫はこれくらいで済んでるけど……あっちをされたらもっと苦しめる方向に動いてたかな。そういう意味だとまだマシか」
「ブヒィ!」
「おい! 何か手はないのか! このままだと負けるぞ! そうなったら俺達は……企んでいた事が露見して破滅だぞ!」
「あれだけできるって言ったのにこれはどういう事なんだ!? まだ手立てはあるんだよな?」
豚と転生者の仲間の男が転生者達に苦情を述べてますぞ。
「あ、ああ! まだ問題ねえ! お前達と俺達でやればできる相手だ!」
「アイツらはルールがある。そのルールの裏を突けば勝てるはずだ! 猫の力を授ける攻撃は絶対に受けるなよ! あの血玉を飲まなきゃ良いはずだ!」
「悪知恵は働くけど、僕と猫のルール違いを分かって無さそうだなー。祝福を避ければ猫は無力化できると思ってそう。能力をメチャクチャ消されてまだ勝てるって無知も極まるね」
「お前等、ここで自死するならそれ以上は追求しないでやろう」
ドラゴン特有の我とかから来る傲慢な物言いではなく、文字通り不機嫌に且つ挑発的な口調なのですぞ。
「しかし……犯行目的を遠慮せずに覗き見ると分かるけど、あっさいなー……。最強の不老不死になるのが目的って感じだね。最強好きだよね。コイツ等」
「ま、お前等のような連中は馬鹿の一つ覚えに神を超えるとか不老不死とかそう言った代物が大好きだからな」
「何でも見通したつもりになってんじゃねえよ!」
「調子に乗っているお前等を仕留めて俺が最強って事を証明してやる!」
ハッ! っとアークは蔑みの声を上げましたぞ。
「お前等や死を忘れている奴等は揃って自らが最初から持っている大事なモノを捨てる……それが欲しくてしょうがない者がいるとは微塵も思わずに……だから反吐が出るんだ」
「何言ってんだお前! ちゃんと説明しやがれ!」
「まともに人に説明しない。そのくせ相手に説明を求めるのは身勝手だと思わないのか? 何度目だ、この問答は……はぁ」
「神を騙る連中に異世界荒らしとして便利に送り込まれる素晴らしい腐ったお客様達だからね!」
ホー君がここで小粋なジョークを仰ったのだと俺はわかりました。
アークは氷点下の視線をホー君に向けました。
「鳥も俺に迷惑を掛けた元凶の一つだというのにその態度はどうなんだ……?」
「僕達と彼女が押しつけたってのは否定しないけど、それとこれとは別でしょー?」
何やら過去の確執からアークがホー君を責め立てているようですぞ。
「ホ、ホー君は悪く無いのですぞ! 罰するならこの俺を罰して欲しいのですぞ」
「元康くん、意味も分からず庇ってるでしょ! 洒落にならないからやめてね」
キョトンとするアークと俺を思い出したホー君が制止しますぞ。
「元康くんは鳥を庇うんだ。優しいね。彼らとは全然違うから安心するよ」
「お、俺はそんな良い存在ではないですぞ」
そうですぞ……俺もこの世界に来た時は調子に乗っていたのですぞ。
世界を救い、今度こそみんなで楽しくハーレムを築いて生きるんだと思っておりました。
なので完全な意味ではホー君たちの様に転生者共を糾弾する事は出来ないかもしれません。
「俺と奴らとでは何が違うのですかな? アーク、ホー君。教えて欲しいのですぞ」
酷い連中だし何が何でも仕留めねばならないというのは俺は理解出来ますが俺達との違いが時々分からないと思う所もあるのですぞ。
この世界に来た時に思って居た俺の野望をそのまま叶えた連中……とは違うのですかな?
「君は彼らとは根本からして違うけど……表層部だけで言うなら、君が違うのは自分優先ではなく誰かの為に、痛みに共感して怒る事ができる所だよ」
「腐った連中は根本的には誰かではなく自分第一が過ぎる所が大きいかな。怠惰で根が腐ってる癖に飢えた鬼のような所がダメなんだよ。好きなアイドルに体液を送る様な気色悪い奴さ。アイドルが嬉しい訳ないじゃん。気持ち悪い」
「地獄で苦しんで自覚させてから焼かないと煉獄の炎でも反省できない連中なのさ、アイツらは。まさに世界のゴミだね」
アークとホー君は揃って俺の質問に答えてくださいました。
その表情に不快そうな様子は微塵もありません。
「尚文くんから奴隷であるラフタリアちゃんを助けようとしたのは尊い感情さ。色んな要因で歯車が嚙み合わなかったのさ」
「ですがその所為で俺はお義父さんを傷つけてしまったのですぞ」
俺が浅はかで、ちゃんと調べもせずにお義父さんに決闘を申し込んでしまったのは事実なのですぞ。
「尚文くんも君の行動に関してそこまで根には持ってないよ。悪いのは主犯の存在さ」
俺を何処までも利用した赤豚が悪いのだと、アークまでもが仰いますぞ。
それではダメなのですぞ。
俺が信じる相手を間違えてしまったのが罪なのですぞ。




