メメント・モリ
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
「グア! グアアア!」
解放されたフィロリアル様が驚きのまま走って逃げてきました。
「元康くん、その子を宥めて上げていて。鳥は暴れるのはそれくらいにしてくれない? こっちの分が減る」
アークが俺にお願いをしてきましたぞ。
言うまでも無く俺は逃げ場を探して走っているフィロリアル様に駆け寄り、優しく抱擁しますぞ。
「フィロリアル様、どうか落ち着いてください」
「グアグア!」
ドカドカ! っとフィロリアル様は俺へと蹴りを入れてしまいますが混乱してしまっているのですぞ。
恐かったのですから当然ですな。
この元康を蹴る事で落ち着くのなら幾らでも蹴られますぞ。
「静まれ。今は猫に攻撃に踏み切られないようにしないと、アイツらがこの上なく哀れな結果になるから」
「グア!? グ……グア」
ホー君が小さくそう言うとフィロリアル様は驚いたかと思うと平伏して頭を下げました。
おお……ホー君のフィロリアル様の宥める手腕に感嘆ですぞ。
「わー……なんか元康くんのその子猫みたいな目つき、ちょっとイヤというか緊張感が抜けるからやめて欲しいなー」
「さっきから君、元康くんの一挙一動に振り回されてるね。腐った連中より苦手かな?」
「苦手とは違うんだけどね。説明しがたい感覚だよ。僕に突っ込みをさせるなんて本当に変わり者だよね、元康くん。だからさ、ねえ? 元康くんの為にもお願いだからここは僕に任せてさ」
「何からなにまでありがとうございますですぞ!」
さすがは神狩りの方々なのですな!
「悪いけど……それは聞けない頼みだ」
「何にしても喰らいやがれ! この一撃で死ね! デスダムダムブリッド10式!」
銃の聖武器と思わしき代物を持った奴が俺達に向けて引き金を引きました。
超ダサイネーミングですぞ!
さすが転生者ですな。
センスの欠片もありません。
それをアークは……手を広げるとそこからフィーロたんが持っているツメの眷属器で0のツメを使った時のような代物が大きく展開されました。
眷属器が無いのに使えるのですな。
「武器が認めて居ない即死効果の因果を織り交ぜた代物を放つんじゃない」
バキン! っとアークの攻撃で弾丸は弾かれて跳弾、集まって来た豚に命中し倒れていきました。
「ブヒ――!?」
「ブヒャ!?」
パタっと……命中した豚が倒れましたな。
死んだ様ですぞ。
「な……俺の攻撃を弾いただと!? 話が違うじゃねえか!」
「コイツは俺達相手じゃ無力なんじゃねえのかよ!」
「手が無いわけじゃないって事を理解しろよ。お前等さ、その攻撃が不正そのものだって分かってないとか笑わせてくれる。何より弾いちゃいけないって誰が決めたんだ?」
口調が乱暴になっているアークが軽蔑の視線を送りながら答えました。
お義父さんが避けちゃいけない訳じゃ無いとばかりに攻撃を避ける時を思い出しますぞ。
盾の勇者であるお義父さんは仲間を守る為に敵の攻撃を受け止めますが、自分を狙っているだけなら普通に避けるのですぞ。
「ふ……ふふ、俺達の仲間を殺した程度で調子に乗ってるみたいだが……甘いな」
まだ無事な転生者が魔法を唱え始めましたが、魔法を唱えるのを途中で辞めて驚きの顔になりますぞ。
「な、なんで……なんで蘇生魔法が使えないんだ!?」
「杜撰極まりない賞賛人形を作る魔法を唱えているみたいだけどさ。それを僕が許すわけ無いでしょ? もう煉獄の炎で焼かれて体とのリンクは切断されてるよ」
「お前等が望んでるのはコレか? 死者蘇生をここで許すとでも? お前等が俺に見せつけたのはこういうことだろ?」
ホー君は炎を見せつけ、アークは左手に暴れる人魂を数個浮かせて見せますぞ。
「グアアア……」
フィロリアル様がそんなホー君とアークのご様子に恐怖に怯えていらっしゃいます。
ああ、なんとも恐ろしくも頼もしい方々なのですな。
「クソ野郎が! チッ! まあ良い、お前等を仕留めてそこにいる猫を生け捕りにすれば幾らでも取り返せる! 行くぞ!」
「おう! お前等! 行くぞぉおおお!」
「ブヒィイイ!」
「ブッヒ!」
「俺の力を返しやがれぇええええ!」
転生者共と豚が仲間を呼んで周囲にどんどん奴らの一派が集まり俺達に一斉攻撃をしようとしますぞ。
それをホー君が手をかざすとファイアウォールの様な結界が生成されて奴らの接近と攻撃を阻みますぞ。
「ねえ、猫。何度も言うけど本気でここは僕に任せてくれない? ツケ一つでも良いからさ」
「悪いがそれはできない相談だ。アイツらは自らの罪がどれほどのものなのかを知らない様だからな」
「はあ……残酷な事で。君の地雷を踏み抜いたのが悪いんだけどさ」
ホー君が心の底から嘆くようなため息をしつつ言いました。
「ブヒ!」
「お前等さ、俺が手も足も出ないと本気で思ってるようだが、こういう手があるのを理解しろよ」
アークが自らの左腕に強くツメを立てますぞ。するとブシュっと血が噴き出し、その血が空中で集まって浮かび上がり玉になりますぞ。
その玉をアークは飛ばして飛びかかる豚の口に入れました。
「ブ――ブ? ブブブブアアアア!」
ゴクリと豚はアークの血を飲むと力が溢れ始めました。
魔力が上がっているのですかな?
違いますな……何か、もっと凄い効果が発生している。そう感じるのですぞ。
……もしやフィロリアル様の聖域で見た薬によく似た代物と同じ効果なのですかな?
「は? こっちの能力を上げた……アイツ馬鹿だぜ! お披露目しやがったぜ!」
「馬鹿だけどマジでそんな力を持ってんのか! ふざけた真似をしてるが何が何でも生け捕りにしてアイツらを殺した報いを受けさせてやる!」
転生者共が強くなった豚を見て笑い始めました。
「ブルアアアア! ブ、ブヒャアアアアアアアア!?」
パワーアップした豚がそのまま何か魔法を使おうとした所で、アークを見た直後に大きく後ろに下がり恐怖に顔を歪ませて震えていましたぞ。
「ブ……ブヒャ、ブヒャアアアアアアアアア!」
何やら泣きわめいていますが何なんですかな?
「どうした! おい、しっかりしろ!」
「ブヒャ! ブヒャアアア!?」
転生者共が豚を揺すったりしておりますが豚は怯えた姿をやめることは無く、事もあろうに転生者共へと抵抗しましたな。
「いた!? 何すんだ!」
「てめぇ何怯えてんだよ!」
「ブヒャアアアア!?」
「訳わからねえけど暴れるなら死ねよ!」
転生者が歯向かった豚へと制裁とばかりに各々攻撃をして仕留めようとしましたが、豚は逆再生するかのように傷が治り、怯えたまま震えておりましたぞ。
「死なねえってのは本当みたいだけどこれは一体どういう事だよ」
「知りたい?」
ホーくんが転生者たちをあざける様に言いますぞ?
「なんだてめえ、思わせぶりな態度で挑発すんじゃねえよ」
「知らないというのは悲しい物だね。猫を相手にしておきながらさ……実に愚かだね」
「んだと!? 調子に乗ってるんじゃねえぞ!」
「ま、君たちに教えてあげた方が良いかな。たぶん、猫は止まらないからさ」
君たちへの慈悲だよ。機嫌がいいからね。
と、ホー君はおっしゃいました。
「あのね……猫を相手にする場合、不老なら殺気を少し感じる程度なんだけど不老不死ともなると……恐怖判定をしなきゃいけないんだよね。永遠に失敗するまでね。彼女はその判定に失敗して発狂したのさ」
昔、とある創作神話を題材にしたゲームの正気度のチェックを俺は思い出しましたぞ。
その正気度をサイコロで判定する時があり、失敗すると発狂して使用不可能になるという奴でしたな。
つまりアークを目の前に不老不死となると正気度のチェックを失敗するまでしなくてはいけないと。
「そんな力――」
「とある神を騙る連中がその判定から逃れようと能力を積んだけど無理だったんだ。猫には他に、世界中の負が押し付けられていて積んだ全能の分だけ力が増すからね。最強に対する反存在とは誰が言ったかな。だから能力を書き換えて積むのはオススメしないよ」
「というわけだ。恐怖に怯えて一度死ね」
フッとアークの姿が消え、俺が気付いた時にはパワーアップした豚の首が跳ね飛び、体はズタズタに切り裂かれて転がって居ましたぞ。
『不老不死を僭称する神に我が与える施しは忘却せし警句、愚かなる罪をその身でもって抗え』
「メメント・モリ」
槍を通してアークが放った攻撃が表示されましたぞ。
メメント・モリ……聞いた事があります。
ラテン語で有名な言葉だったはずですぞ。
確か……死を忘れることなかれ、でしたかな?
これはそういう攻撃という事なのですかな!?
ブシューッと時間差で鮮血が周囲に飛び散りました。
「――――!」
パワーアップした豚は首だけになったまま驚きの声を上げております。
そしてそのまま絶命しましたぞ。
ですが恐怖から解放されたような顔をしているようでしたな。
「は?」
「無意味に相手に施しをするはずないだろ」
怒りを高ぶらせた眼光でアークは吐き捨てますぞ。
「猫は条件に合わない相手には赤子でも勝てないけど……手立てが無いわけじゃないんだよね。無理矢理条件に合わせてくるよ。祝福をそのまま受けると碌な事にならない見本だね」
ホー君が俺達にではなく転生者共へと哀れみの目で告げますぞ。
なんとなくですが、アレですぞ。
昔エメラルドオンラインの対人戦の談義で豚から聞いて俺も勉強した要素を思い出すのですぞ。
対人故にエンチャント効果で人特化の武器で来る相手の逆手を取るために別種族判定にするエンチャントをする戦術ですぞ。
アークがしたパワーアップはきっとそのような類いをしているのだと俺は判断しました。
豚に自らの力を与えて狩ることができる状態に昇華させて即座に仕留めるという手間の掛かる方法なのでしょう。
「わかったか? 俺の事を知ってるならこの程度察しろ。馬鹿はお前等だ」
更に人魂を集めたアークが転生者達へ吐き捨てるように言い返しました。
「は、話が違うじゃねえか!」




