数字遊び
「精霊に手を出した事を命を持って償わせてやる。何をしたかその身をもって理解しろ!」
そう怒鳴るアークの言葉に、俺は思わずビクッとなってしまいました!
いやいや!?
俺が怒られているような気がしてしまうと同時に俺自身がなんでこんなにも反応してしまうのでしょうかな?
「ヤバ!? ちょっと猫、落ち着いて! 僕がコイツ等に聞き出すからさ! 殺すのは後にしてね!」
ホー君がオタオタと焦りながらアークを宥めましたぞ。
「猫を狙う理由はなんだい?」
「あ? お前等に話してどうすんだよ。俺が有効活用して、あの女神を超えた存在になってやるんだよ」
「ああ……なるほど。そっちを教えられてた訳ね。となると猫対策か……呆れたもんだね。あまりにも浅はかだ」
ホー君が納得したように頷きましたぞ。
「ブヒ! ブヒブヒ!」
「グアアア!?」
アークが攻撃を避ける動作をしただけでフィロリアル様の首筋に入る刃が深くなってきております。
「うう……アークにホー君。フィロリアル様が苦しんでおられるのですぞ」
ここで俺はどうしたら良いのですかな?
本来だったらアークに動かないように命令して転生者と豚へと殺意を募らせつつ、アークを一時的に奴らに差し出しフィロリアル様の無事を確保してから取り戻す思考に行き着くはずなのにその考えがしてはいけないと思ってしまうのですぞ。
何故ですかな? アークは神狩りという存在でその程度ではビクともしないはずなのですぞ。
むしろ神狩りなのですからこの程度、すぐに解決するはずなのではないですかな?
という所で錬と稽古していたアークの様子やホー君の説明が思い浮かびました。
どうやらアークは神を騙る連中には強いそうですがそれ以外には……手も足も出ないという話だったかと思いますぞ。
「元康くんのお願いだね。大丈夫だから落ち着いて」
激怒していたアークは俺の方に顔を向けて微笑みました。
ちょっとホッとしますぞ。
俺に怒っている訳ではないのですぞ。ですけどあんまりアークには怒って欲しく無いと言うのが俺の本音になってしまっております。
実に不思議でしょうがないですぞ。
「お前等へのせめてもの慈悲として数字の遊びをしてやる。世界にとって不正なことをした罰則込みでな。存分に抗い絶望しろ。精霊を冒涜した罪は滅よりも重いことを知れ!」
と、アークは背中に光の羽を展開しましたぞ。
「俺も行くぞ! 喰らえ!」
転生者が魔法を唱え始めました。
「おっと」
ホー君が指を鳴らすと俺に何か魔法が掛かりましたぞ。
これは……赤豚本体と戦った際にお義父さんが俺達に掛けてくれた魔法と同じものですかな?
近いような気がしましたぞ。
転生者が何やら俺達に向かって放っていたのがホー君の使った魔法らしき力で目視できますぞ。
「アカシックブレイク!」
詠唱が恐ろしく早く、魔法言語なのは分かるのですが俺には解読できませんでした。
無数の文字が周囲に迸りアークに向かって飛んで行く様に見えました。
が、アークへの攻撃はすり抜けて俺の方へ飛んで来てしまいましたぞ!?
「……」
アークは手を軽く広げて横に指をなぞると飛んで行く文字が弾けて消えましたな。
「何!? 俺の魔法がかき消されただと!? だがその程度で俺の魔法と能力は止められないぞ!」
そこでホー君が深いため息をしましたな。
「君達さー……バカなの? その系統魔法って猫の過保護な保護者が関わってる図書館の力を導く代物だよ? 力を貸す側にお前を殺させろって言ってるようなもんじゃないか」
おや? そうなのですかな?
「ブヒ! ブヒブヒィイイ!」
「喰らえ! ドライファ・アクアスラッシュ! そして必殺の――」
合わせて豚とその配下が魔法の詠唱を終えてホー君目掛けて魔法を放とうとしました。
「おやおや? 猫じゃなくて僕? この流れで? あー、死にたくなければ僕にその手のターゲットはしない方が良いよ? 任意発動の即死を与えた後、能力奪取なのは一目で分かるけどね」
ボワァ! っと転生者が放った何かがホー君に命中する直前に燃え上がって逆に転生者を焼き焦がしますぞ。
「任意発動でよかったね。常時発動だったら今ここに居ないよ。改変まで入っていたら君と関わっていた全てが燃えて塵すら残らない所だったんだ」
魔法も燃え上がって消えてしまいましたな。
同時にアークにも攻撃した者たちが驚きの声を上げてますぞ。
「ギャ、ギャアアアアア!? な、なんだ! お、おれの能力が、ステータスが燃える!? どうなってやがる! おい!」
「俺の能力が……消えた!? どんどん減っていく!? ふざけんなぁあああ!」
「お笑いぐさだな。あれだけ調子に乗ってその様か、これを無様と言わずに何を言うのか……」
温和だったアークが凄く不機嫌に転生者共に侮蔑の言葉を投げかけてますぞ。
「相手にノコノコと能力を話すのは馬鹿がする事とか腐ってる君達は言う事があるけど、今の猫と違って凄く優しくて機嫌の良い僕が説明してあげるよ。君の能力に僕の炎が引火して燃え上がっちゃったんだよ。君がした事は太陽に相応の仕掛けをしてない望遠鏡で覗くような愚行って感じかな」
魔法も同様、僕への攻撃は全て引火して使用者へと跳ね返って燃え広がるんだよね。
と、ホー君はため息交じりに補足しつつ仰いました。
「その能力の異常具合で燃え上がる量が増すんだけど、このままじゃ君は何もかも燃えるね。猫の方を狙った人の能力が消えたのはまた別だよ」
「水の入った桶の底に穴を空ける愚行を自らしたようなものだ。お前等は素直に話さないのになんで話さないといけないんだ?」
アークの言い返しはお義父さんと同じ、目には目をですな。
「馬鹿な! そんなはずはない! 俺の未来視が外れるなんてあり得ない!」
未来視? 何ですかなそれは?
これも能力って奴ですかな?
赤豚本体が授けた力だとは思いますが。
「お前等にとって都合の良い未来だけを見て運命を弄る事を未来視とは……外れているんだから、その能力自体を疑ったらどうだ? 本物は無数に見えすぎて苦悶した挙げ句、見える最悪の未来が外れる事を望むというのに」
「ブヒィ! ブヒブヒ!」
豚がフィロリアル様を人質にして喚きますぞ。
そこでホー君が翼の先を手のように広げると……蝋燭が出現しました。
「さっきから人質を取って偉そうに喚いてるから同じ事をするよ。これ以上、間に入ってきたら死ぬよ? これは君に見やすいように見せている君の寿命の蝋燭さ。吹き消すと死ぬけど良いのかい?」
ホー君の言葉に俺は人の寿命を蝋燭に例える話を思い出しました。
もしかして本当にアレが寿命を現す蝋燭なのですかな?
「君のお仲間の転生者がしていた事に近いかな。仲間って位だし、その力で相手が死んだ所を見た事はあるんでしょ?」
「ブヒィイイ! ブー! ブヒャヒャヒャ!」
豚が蝋燭を出したホー君を嘲笑いました。
なんて醜い豚ですぞ!
フィロリアル様を人質に取るだけでは飽き足らず、フィロリアル様の上司であるホー君を嘲笑など万死に値しますぞ!
などと俺が心に怒りを灯していると……。
「ああそう」
フッとホー君が蝋燭を吹き消すと……。
「ブブ――」
糸が切れたようにフィロリアル様を人質にしていた豚が倒れました。
「ブヒィイイイイイイイイイイイイイ!?」
「な、てめぇえええええ! 何してんだぁあああ!?」
「何って言った通りに火を消してあげただけだよ? 君達さ? 相手を舐めるの、大概にしてくれない? 神を超える強さを持ってるとか自惚れて僕たちに通じると思ってるなら傲慢も良い所だよ?」
おお! ホー君の独壇場ですぞ!
とてつもなく強すぎて俺が見てるだけですぞ。
「ホー君、凄いですぞー!」
「元康くんの野太い声援は全く嬉しくないなー……何より殺意を増した猫が静まりそうにないし……う~ん、面倒な事になったなぁ」




