メルロマルクへ行け
そうして向かった所は……寂れた村かと思いましたが、そこそこ建物が真新しく豪華な装飾が施された教団の集落へと到着しました。
何やら忙しなく施設内で人々が行動している様ですぞ。
……? なんとなくですが結界のような物が作られていますな。
「おーいるいるって感じだね」
潜伏状態から忍び込んでデストロイを考えている所でホー君とアークが集落を遠くから見つめますぞ。
「何か臭うね」
「臭いますかな?」
「アレだね。監視とかを誤魔化す結界が張られてるのが分かるよ。その程度は、まあ特に問題は無いね。元康くんだって潜伏スキルを使うでしょ」
そうですな。
クローキングランスなどのスキルや魔法を重ねがけして潜伏して活動はしますぞ。
「ま、ここは元康くんの手腕にお任せかな?」
「なに他人任せにしようとしてるの? 元康くんって話ができない相手がいるって話じゃないか」
「その辺りの交渉は猫の君に任せるよ」
ホー君の返事にアークはため息をしながら俺のやや後方に立ちましたぞ。
この距離……ふむ?
「んじゃ、僕が話が通じなさそうな相手の言葉を翻訳して話すから調査に乗り込もうか」
「では行きますぞ。リベレイション・プロミネンス!」
俺は牽制にプロミネンスを唱えて集落の連中に勇者が来訪した事を見せつけつつ集落の門を叩きますぞ。
「槍の勇者である北村元康がお前達の調査に来ましたぞー! 何か不穏な事はしてませんかなー?」
「わー最初から疑ってますって態度で行くのかー」
「そもそもの人材として間違っていると言えるけど……尚文くんの様子から考えて完全に黒な所に元康くんを投入って感じなんだろうなー」
なんて感じに話をしていると集落から案内人らしき奴が出てきました。
「これはこれは、世界を救った四聖勇者の槍の勇者様がこの集落に何のご用でしょうか? 確かにここは過去、かの神を僭称する者を信仰していた者たちと転生者が居ましたが関係者は既に処分された地……勇者様の望む罪人は既におりませんが……」
「本当に残っていないのかの視察に来たのですぞ」
「左様ですか……少々お待ちください」
と、行った感じで案内人らしき奴は一度戻ると何やらヒソヒソと報告をして戻ってきましたぞ。
「ではこちらに」
そんな訳で俺達はあっさりと案内されますぞ。
転生者共が潜んでいるなら何か罠に掛けられる可能性があるので十分に注意は必要ですぞ。
そうして集落の広場に行くと豚が数名出迎えてきましたぞ。
「ブブブブー」
「ブヒブヒブヒ」
「『ようこそ、槍の勇者様。ここを支配していた転生者達は既に処分され、更生の道を歩みし者たちの集落です』『本日は視察に来たとの事ですが疑われるような物はこの地にはないかと思われます』だってさ」
「それを判断するのはしっかりと調べてからですぞ」
豚共がここを統治しているのですかな?
事前調査で分かって居るのはここは処分後にあてがわれた貴族が統治していたという話ですぞ。
「ここを任された貴族を出すのですぞ。コイツですぞ」
お義父さんから渡された映像水晶でここを任された貴族の顔写真を写しますぞ。
「ブブブヒ」
「……『私の父が任された貴族です。父の代わりにお相手いたしますわ。槍の勇者様』だってさ……はぁ」
アークがため息交じりに翻訳してくださいましたぞ。
ホー君もやれやれと言った様子ですな。
「やー……なんて言うかさ、生きながら腐ってる魂ってのは往々にしてあるわけだけど、ここまで腐ってると腐敗臭で鼻が曲がるね。文字通り性根が腐ってるよ」
ホーくん達が黒宣言をしていますぞ。
もう少し小突く必要がありますな。
「豚に用はありませんぞ。お前の親をしっかりと出すのですぞ」
「ブ、ブヒ!? ブブブブブヒャー!」
「『豚!? この私を豚ですって! ……いえ、父は現在体調が優れないのです。ですので私が代理をしております』だとさ」
「聞こえなかったのですかな? 体調が優れなくても、出てこいと言っているのですぞ。何ならベッドで寝てても良いから話をさせるのですぞ」
黒という事ですので、きっとタクトの豚共と同じように世間に顔向けできない状況であるのを代理だとか方便で誤魔化そうとして居るのでしょう。
なので踏み込んでやりますぞ。
下手をすれば親ですらない奴が成り代わっているのは間違い無いですな。
「ブブブ……」
「ブブブ――」
俺が出した映像水晶に写っていた人物を名乗ろうとした……豚が申し訳なさそうによろよろと出てきた所でホー君が指摘しますぞ。
変装用のマスクを付けているようにしか見えませんな。
「ブブ……」
「俺は豚を呼んで居ないですぞ? 父親は何処ですかな?」
何やら訂正しようとしていたので即座に近づいてそいつの頬を槍で素早くひっかいてやりますぞ。
するとバリッと変装が溶けましたな。
「変装でだまくらかそうってのはどうなんだろうね?」
「仕事も杜撰だねー。せめて整形くらいしないとさー。嘘に嘘を重ねるとは、幼稚も良い所だよ。文化レベルか人の質に問題を感じるね。進化論賞を取れそうだ」
ホー君が冗談を仰ってますぞ。
確かに豚は愚かですからな。何も残せずそのまま処される事が全人類への貢献ですぞ。
「というより元康くん相手にその性別で変装は無意味だね」
「そういう意味だと尚文くんの人事が適任だったって事なんじゃない?」
「お義父さんに任せれば万事解決! この元康、命ずるがままに任務をこなすのですぞ」
「おー忠犬だねー。僕に絡まず尚文くんと猫、それとフィーロって子に絡もうよ」
ホー君が俺に気を使ってお義父さん達の心配をしてくださいますぞ。
「HAHAHA! ホー君、遠慮しなくて良いですぞ。俺は気が利く男ですからな」
俺はみんなに距離を取られて寂しげなホー君を見捨てる事ができないのですぞ。
「こう……僕もライトサイドだけど、ここまで明るいと眩しくてしょうがないよねー」
「それが元康くんの良い所でもあるんじゃないかな? なんだかんだ面白がってはいるでしょ、君もー」
「まあねー……」
などとホー君とアークが話し合っているなかで俺は豚に槍を向けますぞ。
「ブヒ! ブヒブヒブ!」
「ブヒブヒブヒ!」
「『おのれ身勝手なクズ勇者一派め! お前等がかの方を倒さなかったらこんな無様な様にはならなかったというのに! その傲慢でここに乗り込んで来たことを後悔させてやる!』『お前のような男がいるから女は輝けない! そんなに迫害が好きなら男同士で迫害しあって居れば良いのよ!』だってさ」
身勝手なのはお前等ではないですかな?
前後の会話が謎ですぞ。
そしてお前は女ではなく豚ですぞ。
ここを勘違いしてはいけません。
そもそも、ただでさえ前科者の集落で信仰を捨てたとの証言を元に見逃してやっていたのに嘘を重ねるのが悪いのですぞ!
「愚かですな。俺は豚には全く容赦せずに屠殺をしますぞ。身の程を知るのですな!」
「なんていうか……これってどっちが正しいのか分からなくなる戦闘じゃない?」
ホー君がアークに顔を向けて仰っておりますが何を言っているのですかな?
豚という生き物は自らの欲望を叶える為にしか動けない醜い生き物なのですぞ!
「そもそもお前に言ってやりますぞ! そんなに輝きたければメルロマルクでしっかりと働けば良いだけですぞ! あそこは働き者に性別の差は与えない事を婚約者が方針としてあげてますからな! まあ……豚は権力は欲しくても責任は取らない怠け者が大半ですがな! HAHAHA!」
怠け豚もそうですが豚という生き物は怠けて好き勝手するのが大好きな汚物なのですぞ。
なのでメルロマルクの貴族は代々公務など面倒な事は男に方針だけ言い渡し、豚は裏で権力を握っているのが多かったとの話ですぞ。
つまり表には顔を出さない豚が大半だそうですな。
もちろんパーティーには我先に顔を出して遊び回っていたそうですがな。
そこに喝を入れたのが女王ですぞ。
クズの威光も利用して次々と改革に手を入れていたのですぞ。
その影響で男も貴族として当主の座を得た者が居たとか。
お姉さんを虐待していた貴族などは元々クズの一派だったとの話が分かっておりますぞ。
過去の戦いで武勲を上げたとかですな。
更に女王はお義父さんの活躍で三勇教が邪教認定となった際、同様に豚共を更迭したとか。




