杜撰な蘇生
「よく喋って風聞するなー……どんな感じに?」
半ば呆れたと言った様子でアークは頬を搔いてタオルで背中を洗い始めました。
「何やら背中に触れると、後で知る事になるかとよく教えてくださいませんでした」
「ふーん。背中を洗ってくれる様に誘導でもしたのかねー」
と、何故か真実とは違うと俺は思える表情でアークは答えましたぞ。
「お背中を洗いますかな?」
「じゃあお願いするかな。元康くん」
「お任せあれですぞ」
俺はアークの背中を洗ってあげますぞ。
特にコレという問題はありませんでしたぞ。
「ありがとう元康くん。今度は僕の番だねー」
と逆に洗って貰いましたぞ。
その後大きな浴槽へと浸かりますぞ。
思えばアークは別の世界での覗きの戦いを経験しているのですな。
「お姉さん達は入浴を終えたか分かりませんがそろそろですな」
俺は女湯に入ったフィロリアル様達の魅力を引き上げるために動く時ですぞ。
ザバァと湯船から立ち上がって徐に女湯の方への壁へと近づきますぞ。
今回はどんな手で行きますかな?
壁に穴を開ける、壁抜けをしてのぞき込む……壁抜けをするにしても回り込んで覗くのも手ですな。
天井に張り付くのも良いですが……湯船側からのぞき込むのも手ですぞ。
「この先に楽園があるのですぞ。今度ホー君と一緒に覗きに挑戦をしますかな?」
フィロリアル様の中には協力してくださるフィロリアル様もいらっしゃいますぞ。
ブラックサンダーがそれですぞ。
「ブラックサンダーも参加しますな?」
「おう! どこから見るのだ?」
ブラックサンダーは付き合いが良いですぞ。
「わー……堂々とした歩調に思わず言葉を失っちゃうなー」
「ねーねーアークさんってどっちでもないんでしょー? あっちに入らないのー?」
「そうそうー」
「あのね。僕みたいなのは、女湯に入ると角が立つんだよ。だから無難に男湯に入っておけば問題無いのさ」
「ふーん」
「そうなんだー? 猫さんオスメス無いって交尾とかしなくて大変だね」
「好きな子とか作ってもできないんだね」
フィロリアル様達がアークに同情していますぞ。
「あ、でも口で――」
フィロリアル様の口から自主規制しなければいけない言葉が発せられたので俺は意識的にピー音に変換しました。
「うーん……オープンな子達だねーフィロリアルってこうだったね。そういえば、みんな先祖によく似てるね」
アークは困った様に苦笑していらっしゃいますぞ。
先祖……遙か過去に来た方なのでご存じなのでしょう。
とにかく今は覗きですぞ。
そうして壁に触れた瞬間。
ゴン! っと俺が手を触れた場所に合わせて衝撃が走りました。
これ以上の侵入は武力を持って報復するとばかりの音でしたぞ。
く……まだお姉さん達が入浴中だったようですぞ。
「おい……」
「お姉さん達がいらっしゃるようですな。まずは手立てを変更ですぞ。天井に壁抜けして覗きに行きますぞ、ブラックサンダー!」
「わ、わかった」
「うーん。彼と出会ったら意気投合しそうだなー。まあ、尚文くんとラフタリアちゃんと彼女が苦労しそうだけど」
後でアークにお姉さんができれば止めて欲しかったですと注意していらっしゃいました。
「そんじゃ僕はそろそろ上がって涼んでるから、後でねー」
おおう。アークはお義父さんと同じく付き合いが悪いですぞ。
「デュワ! ですぞ!」
俺はブラックサンダーを掴んで天井に壁抜けして女湯の上から覗きを決行する事にしましたぞ。
結果だけで言えばお姉さん達の妨害にあって失敗してしまい、ブラックサンダーと一緒にしばし反省をさせられてしまいました。
やはりお姉さんは守りが固いですな。
めちゃくちゃ怖かったのですぞ。
ある日の夕方に差し掛かった頃ですぞ。
クズが女王と共にお義父さんの元へやってきて主治医の研究所へと入って行きましたな。
俺は寂しくしているホー君に絡んでいると……アークが突然、まるでポータルを使ったかのように姿を現しましたぞ。
「ん? どしたの?」
「ああ、ちょっとね。君の方が向いてる案件だったから呼びに来たんだよ」
「えー……僕が必要なことー?」
アークの言葉にホー君が面倒そうに応えますぞ。
「そんな露骨な態度を取らなくたって良いじゃ無いか」
「まあそうだけどさーで、僕に何して欲しいわけ? 代価は?」
「機嫌が良いんだからその程度で代価を求めない。欲深いなー」
「ぶー」
フィロリアル様が抗議する際に仰るセリフをホー君が述べていますぞ。
一緒に抗議ですな。
「ぶーですぞ」
「いや、ここのフィロリアル達の真似しただけで君まで真似しないで良いから……わかったよ。行けば良いんでしょ」
「んじゃあっちね」
観念したホー君がため息交じりにアークの指さした研究所の方を指さしましたぞ。
俺はホー君の後を追って付いていきましたぞ。
「なんで付いてくるわけ?」
「ホー君の活躍をこの目に焼き付けるためですぞ」
「本当、君って一貫してるよねー……初手の対応間違えたと心の底から思うよ」
などと何やらホー君が諦めたような様子で歩いて行きましたぞ。
「飛べば良いのになんで歩いてる訳?」
「こんな短距離飛んでどうするのさ、歩けば良いでしょ」
「クエクエですぞ」
「君もさー……はぁ」
ホー君の足取りが何故か重いですぞ。
そんなこんなで研究所に行くとお義父さん達とクズと婚約者がいますな。そして女王が椅子に腰掛けておりましたぞ。
「そこの猫に呼ばれて来たけど何か用?」
「ああ、女王の定期検診をしていたらアークがぴったりの人材でお前の名前を出して呼びに行ったんだが……」
「君も一目で分かるでしょ?」
「まあ……若干膿んできてる匂いで分かるけどさ」
と、何やらアークの説明でホー君は状況が分かったようですぞ。
「ホー君教えて欲しいのですぞー!」
「はいはい。元康くんはよく分かって無いみたいだから説明すれば良いんでしょ。その人、何か杜撰な手段で蘇生されたね?」
そういえば女王は赤豚の暗躍で一度タクトに殺され、赤豚本体の力で蘇ったのですな。
クズの活躍で洗脳が解かれたとの話だったですぞ。
「うむ……」
クズが大人しめな様子で頷きますぞ。
「話に聞く方々ですね。よ、よろしくお願いします」
「まー……この時空間を継続した場合だとそうなるか。この基軸で過去改変とかは避けた方が良いわけで……」
女王を何度も見ながらホー君が呟きますぞ。
「つまり僕に処理してほしいわけね」
「そうなるよ」
アークがホー君の質問に頷きました。
おお、ホー君が大活躍する状況なのですな!
「ホー君頑張れですぞ!」
「元康くんはともかく僕を体良く使おうとして……」
「僕がやるより君向けでしょ」
「確かにそうなんだけどねー。しょうがないな。元康くんを含めた人たちに説明すると、相当杜撰な蘇生をされたその人はね、転生者みたいな体は健常、魂だけ腐ってるより劣悪な状態だね。むしろ魂の状態は処理すれば大丈夫。元々の意志が良かったみたいだ」
「魂は問題無いって事ですかな?」
「問題無いって訳じゃないけど適切に処理すればまだ大丈夫ってだけだよ。手が膿んで腐ってる所だけど切ればまだ直るって感じ。転生とかせずに魂が腐ってる奴も世の中にはいるけど、まだ大丈夫だって判断したの」
ほう……女王の魂の状態は良いという事の様ですぞ。
赤豚本体に蘇生されるというのはそれだけ苦しい事なのですな。
「神狩りの不死鳥よ。どうか妻を助けて欲しい……」
クズが深々と頭を下げますぞ。
「はいはい。長く苦しい戦いの果てに君達は主犯を倒したんだ。代価無しでやってあげるからそんな面倒な願いをしないでね。あんまり深々と祈られると代償を求めるよ」
神様扱いされるのって面倒なんだからさーとホー君は愚痴っておりました。
「死者蘇生が許されてる理の世界もあるんだけど、その世界とこの世界じゃ魂の理が違うからね」
「ゲームとかだと蘇生魔法とかあるが……確かにそうだな。実際に死者蘇生は夢だったりするけどアイツがするんだから杜撰なのはわかる」
お義父さんもご理解していらっしゃるようですぞ。
確かにゲームでは死者蘇生が当たり前の様にありますな。




