豪雷号
「お義父さん」
「ん? 元康か、お前も入浴か?」
「はいですぞ!」
「覗きはするなよ」
「HAHAHA、お義父さんそれは無理な話ですぞ。俺はフィロリアル様達の為にせねばなりませんからな」
「はぁ……」
フィロリアル様が入浴しているので俺は覗きをしますぞ!
「難点は壁抜けをしないといけない所ですなお義父さん。垣根は用意すべきですぞ」
この銭湯は少々覗きがしづらい構造なのが短所なのですぞ。
ちなみにお湯は魔法の練習と言う事で炎魔法が使える者が沸かしているのですぞ。
俺も時々沸かし役をしますな。
「文句があるならカルミラ島の温泉に行け」
「何にしても入りますぞ」
「はいはい、サディナやラフタリアが入ってるから程々にな」
む……このお二方の場合、覗きをするのは中々の難易度を誇るのですぞ。
お姉さんは隠れて覗くのに気付きますし、お姉さんのお姉さんは壁抜けを察知しますぞ。
覗いている事を気付くのは問題ありませんが覗きを阻止されてはフィロリアル様達の魅力を引き上げられませんぞ。
場合によってはお姉さん達が入浴を終えてからでも良さそうですぞ。
「モー早くはいろー」
「早く早くー」
「プカプカしようよー」
「今行きますぞーではお義父さん、またですぞ」
「はいはい。サッサと行ってこい」
フィロリアル様達が俺と一緒に早く入りたいとリクエストして居るのでお義父さんへの挨拶を切り上げて脱衣所を潜って入浴をする事にしたのですぞ。
覗きをするには機会を伺わねばなりませんな。
「この煉獄の炎で我が身を鍛え上げるのだ。さすれば暗黒の力が我に染み渡る……フフフ」
ブラックサンダーが先客として湯船に浸かっておりますぞ。
「モーくすぐったいー」
「キタキター、洗ってー」
「みどりが後で来るって言ってたけどまだかなー」
などとフィロリアル様達と楽しい洗いっこをしていると……。
「おや? 賑やかな声がすると思ったら元康くん達が入ってたのかー」
と、アークが浴場へと入ってきてこちらに手を振りましたぞ。
「む……」
アークがきた事でブラックサンダーが先ほどの楽しげな独り言を辞めてしまいましたぞ。
「どうしたの? 設定をもっと練って見ると良いんじゃない?」
「せ、設定言うな! 闇聖勇者が来るのを俺はここで煉獄の炎でその身を耐えているのだ」
「煉獄の炎……あの鳥に頼めば出してくれるけど、耐えるにはもう少し元康くんや錬くんと一緒にLv上げをしないと厳しいんじゃないかなー」
「ふ、フ……あまり俺に構わなくて良いぞ」
「錬くんを誘うなら『俺はもう……あの悲しみを繰り返したくないんだ。だから力を貸す事でみんなの明日を闇の力で掴む』とか言うと乗ってくれるんじゃない?」
「そうなのか?」
おや? アークはブラックサンダーに助言をして下さっているようですぞ。
「方向性としてはそんな感じで、後はそうだなー女の子と絡んでるのが妬いちゃうかも知れないけど、そこに割り込むと嫌われるだけだから遠目で応援して暇そうな時に声を掛けると良いと思うね」
「恋愛に現を抜かすのは闇聖勇者としてだらしがないぞ」
「君は村の子に片っ端から声を掛けてるのに錬くんはダメってのはワガママじゃない?」
「うぐ……」
ぐうの音も出ないと言った様子でブラックサンダーはアークに黙らされてしまいましたぞ。
「僕から見ても仲良しに見えるし、もっと仲良くなれば愛羽、ブラックサンダーとか暗黒羽・豪雷号! とか言いつつ乗ってくれるかもよ」
「……良いかも」
ブラックサンダーが楽しそうですぞ。
良いのですかな?
俺もフィロリアル様の好みを全て把握出来ている訳ではないですがブラックサンダーの反応は意外でした。
「錬くんはねーもっと歳を重ねると渋いけどかっこいい人になるんじゃない? 更に男を増してさ。そんな彼が君に跨がって雷雨を背景に巨大な剣を片手に持ちながら現われて敵に向かって雄叫びを上げながら切り伏せるとか……絵になりそうでしょ? 今のうちに気に入ってもらえば良いんじゃない?」
何故か俺の脳内で劇画風の錬が歴戦の渋い剣豪となってブラックサンダーの背に乗り大きな剣を振りかぶって敵を屠る姿が浮かびました。
確かに似合いそうですな。
「ふふふ……」
ブラックサンダーもまんざらでもないと言った様子で笑っておりました。
アークがいらっしゃるという事でホー君を探しますが……いらっしゃいませんな。
脱衣所にいるのでしょうかな?
「お先に入りますぞ。ホー君はいらっしゃらないのですかな?」
「ああ、あの鳥は別の所に行ってるよ。火山でひとっ風呂するってさ」
「なんと、ホー君は火山で入浴をするのですな。規模が大きいフィロリアル様ですぞ」
ライバルや元ライバルは火山で入浴できるとの話をしていた様な気がしますが忘却ですぞ。
きっとホー君の方が凄い入浴をして下さって居ると信じてますぞ。
「今度、微力ながらホー君のお背中を洗う手伝いをしますぞ」
「うん。後で伝えておくよ」
後日、僕の背中を洗おうとしなくて良いからね! と何故かホー君に念押しされてしまいましたぞ。
「そんじゃ僕も体を洗ってお風呂に厄介になろうかな」
アークは浴場の俺達の隣で体や頭を洗い始めましたぞ。
特に汚れているといった様子はありませんな。
毛の生えたトカゲやドラゴンの様な尻尾をしていらっしゃいますが……よく考えると実に変わった体付きをしていらっしゃいますな。
下半身は猫なのですがな。
そんな所でタオルで背中を洗い始めた所でふと、背中の二つの赤黒い痕が目に入りますぞ。
そういえばホー君がアークの背中に何かあるかのような説明をしていらっしゃいましたな。
よく観察するとこの位置は天使姿のフィロリアル様と同じく羽のある場所ではありませんかな?
猫の獣人みたいな方だと思いましたが……もしやこれは羽が毟られた痕か何かでしょうか?
根元からバッサリと切断してしまったような……もしもコレがフィロリアル様だったら何が何でもこんな真似をした奴を俺は命を持って償わさせる程の酷い傷に見えました。
「ん?」
俺の視線にアークが気付いたのか顔を向けますぞ。
「ああ、これ? 前に鳥がべらべら喋ってたでしょ? 弱ってるときに酷い目にあってって話、その時の痕さ」
「それは辛い経験をしましたな」
羽を毟られたのだと俺は確信しましたぞ。神狩りであってもそれは大変な経験だと思いますからな。
「心配してくれてありがとう。元康くん」
そう微笑むアークに俺は……なんとなくですがデジャブのような感覚がしましたぞ。
何故か……ループをしていた頃、シルトヴェルトに向かう途中、潜伏中だった時の記憶が何故か浮かびますな。
「見た目ほど困っちゃ居ないんだよね。羽がなくても飛べるし」
ふわっとアークは体を超能力で浮かせるかのように浮かびましたぞ。
「どうしても必要な時は別の力で羽を展開すれば良いから、こんな感じに」
スッとその背中からアークは……光で構築された翼を出しました。その翼はとても小さく、加減して出しているのは分かるのですが、その翼は0の武器を展開した際の翼版みたいな物にも見えますが……赤豚本体を仕留める際にお義父さんが鎧の背中から出していた翼にそっくりでしたぞ。
「だからあんまり心配しなくて良いよ」
「わ、わかりました」
特に困っていないので治療しなかったと仰っている様に聞こえましたな。
ですが何故でしょうか、なんとなく心配してしまいますな。
何にしてもコレがホー君の後で知る事という事でしょうかな?
ただ、これくらいであそこまで思わせぶりにするのでしょうか?
「ホー君がアークの背中に関する話を思わせぶりにしていらっしゃいました」