眠れない猫の白昼夢
「……」
ブラックサンダーは目を大きく開いてその光景を凝視していますな。
「あら、ブラックちゃん。レンちゃんならあそこで食事をしてるわよ」
お姉さんのお姉さんはもう片方の未開封の酒瓶を持って振り返り気味に錬を指さしますぞ。
ブラックサンダーはここで錬の方に体を向けようとした直後バッと尻に翼を回して大きく飛びずさりましたぞ。
「俺様のそばに近寄るなぁあああああ!」
「あら? どうしたのかしら?」
「やめろぉおおおおお!」
そのまま近づくお姉さんのお姉さんから一目散にブラックサンダーは尻を守りながら……逃げて行きました。
一体どうしたのですかな?
ブラックサンダーの叫びで食堂に居るみんなが逃げるブラックサンダーの方へと視線が向かいました。
食事をしていた錬も驚いて顔を上げましたぞ。
「な、なんだ? 何があったんだ?」
「あー……なんつーか、アイツ……分かると笑えるネタをしでかす奴なんだな」
「そこの鳥の所為で激しい勘違いをしちゃったみたいだね。酷いブラックジョークだなー」
「被害者がアイツで良かったような気もするがな……元康、あんまりそれを使って居る所をフィロリアル共に見せない方が良いぞ」
「わかりましたぞ!」
どうやらフィロリアル様にはウケが良くないご様子ですぞ。
「サディナもタイミング悪いな。ワザとなのか?」
「あらー? 何がー? あーブラックちゃん。これをお姉さんがブラックちゃんのお尻に刺すと思ったのね。その発想はなかったわー」
「あったらラフタリアが説教する所だぞ」
「えー……悲しい偶然で片付ける問題なんでしょうかね」
お姉さんが反応に困る様子でホー君を見つめて居ますぞ。
「ふふ、北村くん。君は僕が長いこと忘れられそうに無い位に天然だね。感心するし誇って良いよ」
「ありがとうございますですぞ!」
「もうなんか馴れてきた。諦めた方が良さそうだ」
と、何やらホー君は妥協するような口ぶりでしたぞ。
「それじゃ、じゃんじゃん飲みましょー!」
テンションが高いお姉さんのお姉さんがお義父さん達に飲み比べで再挑戦ですぞ。
お義父さん達は相変わらずルコルの実を食べておりますぞ。
「サディナ。お前も随分と持ってくるな。ルコルの実ってそこそこ値が張るだろ」
「大丈夫よーお姉さんが海で見つけた宝で買ってるから」
「かといってな……まあ、お前が良いなら良いんだが」
「ふふ、尚文くんは彼女をどう思ってるんだい?」
「飲んだくれ」
「あらー」
お義父さんのお姉さんのお姉さんへの評価ですな。
状況次第ではお姉さんの姉と仰るでしょうが現状ではそのような評価なのでしょう。
「ラフタリアちゃんと一番仲が良いのだろうけど、彼女とは割と腹を割って話せてそうだけどね」
「そうよーお姉さん、ナオフミちゃんと仲良しよー。ね? ナオフミちゃん……お姉さんは何時、ナオフミちゃんの部屋に行けば良いかしら?」
「当分先だ。来るな」
「あらー」
「尚文くんとゼ――サディナさんって割とどんな出会いをしても仲良くなれそうに見えるけどどうなんだい?」
ホー君がお義父さんにヘラヘラ笑いながら尋ねますぞ。
「さてな。ラフタリアの姉貴分で保護者を自認してるみたいだしな。妙な念押ししてたがどうなんだ?」
「今のナオフミちゃんならきっと大丈夫よー」
「そりゃ結構」
「でもお姉さんもナオフミちゃんと楽しい時間を一緒したいわねー」
お姉さんのお姉さんはそう言いながらお義父さんに絡んでいきますぞ。
そんなお姉さんのお姉さんをお義父さんは渋い顔で距離を取りつつお姉さんの方へと寄りましたな。
「サディナ姉さん。程々にしてくださいね。じゃないとナオフミ様がパニックになるかもしれないので」
「断る。とまでは言わないと決めたが今すぐじゃないから大人しくしてろ」
「はーい」
「ふふ……」
そんなお義父さん達をホー君は、少々悪いのですが品の悪い笑みを浮かべておりました。
「なんだよ」
「別にーあ、そうそう。ねえ、このルコルの実で話した女の子の話をもう少し猫から聞くのはどう?」
「まあ……知りたきゃ少しは話しても良いけどーあの頃、僕は荒れてたし結果的に酷い事を彼女達にしてしまったからなー」
「人の自慢話より失敗談の方が面白いもんでしょ。惚気話なんて面倒臭いもんだしーま、今の僕は機嫌が良いけどね!」
ホー君は惚気話を聞いても嫌な顔をしない素晴らしい方だそうですぞ!
「元康に絡まれて悪意のある代物を送った奴が何を言ってやがる」
「ありがとうございますですぞ!」
ちなみに俺も若干ほろ酔いなのですぞ。
「僕の方は気にしないで良いからさ。ほら、話してあげなよ。懺悔をさ」
「懺悔って……そうだなー……件の妖魔の女の子が好きになった男の子には秘密があってねーわかりやすく言えば僕が自分の憎悪と怒りの心を懲り固めて作って輪廻の輪に潜ませた存在だったんだけど、紆余屈折あってその子を気に入って僕に反旗を翻してたんだよね。いやー愛と勇気は偉大だね」
「飼い犬に手を噛まれる感じか? いや……分け身に拒絶されるって形か?」
「正確には色々と違うのだけど似たようなものだね。僕は……僕の憎悪を乗り越えて貰いたかったんだと野望が潰えた時に思ったもんさ」
そうアークは自嘲気味にルコルの実を頬張りましたぞ。
「色々とあってその子達に負けてね。長いこと封印された事があったのさ。解こうと思えば出来たけどしなかったんだ」
「話を聞けば聞くほど、魔王みたいな奴だな」
「ははは、否定は出来ないかな。色々と絶望してたんだよ」
「それがなんで神狩りなんてする様になったんだよ」
「そこに至るのにはまだ色々とあるんだけど、知っても面白いかは分からないかなーただ、僕は理不尽を振りまいて笑う傲慢な奴が嫌いなんだ」
「ちなみにね。白黒の過保護な保護者が付くようになるのはそれから先だよ。野望が潰えて弱った所で酷い目にあって地獄を見たんだったねー」
「因果応報だって思ってるよ。ただ……ま、自分を神だとか自惚れた連中を殺すようになったのはその頃からだね。僕とあの子の話はこれくらいにしてさラフタリアさんとサディナさんの二人の思い出話とかするのはどうかな?」
そんな感じでアークはお姉さん達に話題を逸らして行きましたな。
お義父さんも興味のある話だったようで、お姉さん達の村での日々を微笑んで聞いておりましたぞ。
ちなみにお姉さんのお姉さんは本日も酔い潰れましたぞ。
隣町が拠点のパンダも来ましたがドン引きして帰って行きました。
そうして本日も夜が更けて行きましたぞ。
俺はホー君から貰ったプレートを部屋の壁に飾り、夜の散歩に出ますぞ。
今日は月が綺麗な夜ですな。満月ですぞ。
クーとまりんは既に就寝していらっしゃいますな。
みどりはフィーロたんのアイドル活動を盛り上げるためにゼルトブルの商人相手に商談をすると仰ってお出かけしているので帰って来るまで俺も起きていようと思いますぞ。
またも食堂で明かりが灯っておりますな。
遠目で確認するとアークが食堂の隅でぼんやりと一人座って居るようですぞ。
「――俺はね――かなー―――」
ぼそぼそと遠い目をして小声で独り言を喋っていらっしゃる?
「出来れば近づかないで静かにしてあげてくれない?」
どうしたのか尋ねようと近づこうとした所でホー君が声を掛けて来ましたぞ。
何やら普段のお気楽な様子ではなく真面目に俺にお願いしておりますぞ。
「ですが何やら様子がおかしくないですかな?」
「そこは大丈夫だよ。ただ、眠れない猫が上の空でぼんやりとしている時は放っておいてあげてほしいんだよね。あれは白昼夢を見ているみたいな状態なんだ。誰かが近づくと意識が戻ってきちゃうからさ」
「そっとしていて良いですかな?」
「うん……せめてね。まあ……信用してる相手なら結構近づけるし、背中に……いや、これは言わなくていいか。僕から聞かなくても知る事になりそうだし」
どうやらホー君の思いやりのようですぞ。
何やら事情があるようですぞ。
「わかりました。ではお義父さんの方を見回りに行きますぞ!」