夜の食堂にて
「なんだかんだ色々と経験するもんさ」
何にしても規模がとてつもなく大きい話をする方ですな。アークという方は。
フフ……とアークは微笑を浮かべながら酒の入ったグラスにルコルの実を入れてチビチビと飲み始めました。
「まーそこの猫も昔は面倒な性格をしてたもんねー」
「昔も昔だよ。ちなみに件の女の子は酒の勢いで文字通り男の子を押し倒してね。そこまでしないと察しない程、男の子は色々と理由はあるけど鈍感だったって顛末があってねー……ま、女の子が男嫌いを宣言してたのが理由だけどね」
と、笑っておりましたぞ。
アレですぞ。人の恋路ほど酒の肴になるものは無いって奴ですな。
「それくらい古い……この世界が出来るより前からあるのがルコルの実なんだよ」
「そこまで古い代物なんだな。これは」
「うん」
っとアークは頷いていましたぞ。
「サディナ姉さん。どうやらアークさん達は酔わせる事は出来ないみたいですから程々にしてください」
「あらーわかったわよー」
お姉さんに注意されてお姉さんのお姉さんは引き下がる事にしたようですぞ。
「でもお姉さんのお酒には付き合って貰うわよー!」
「三人で相手すればすぐに酔い潰せそうだな」
「程々にしないと大変じゃ無いかな?」
「元気だねー」
と、お義父さん達はお姉さんのお姉さんの飲み仲間として付き合っておりましたぞ。
そうしてお姉さんのお姉さんを酔い潰した頃、食事を終えてみんな思い思いに就寝する流れになりましたぞ。
人によっては入浴タイムですな。
「お前等は何処で寝る?」
「寝るように出来てないからなー……休むってだけなら何処でも良いよ?」
「僕も睡眠周期的にまだ寝ないから気にしなくて良いよー」
お義父さんの質問にアーク達は各々答えましたな。
寝ないのですかな?
「そうはいかんだろ……とりあえず鳥の方はフィロリアル舎で良いか?」
「あ、酷いなー僕を彼らと一緒にするなんてーあの子達が安眠出来ないぞー」
おお、どうやらホー君はフィロリアル様が緊張して寝付けない様になるのを配慮しているようですな。
「フィロリアル様のホー君は俺の家に来て良いですぞ」
「もっくん!?」
「もーちゃん!?」
「もとやすさん!?」
おや? ホー君に遠慮して距離を取っているクー達が何やら驚きの表情をしてますぞ。
「寝る所にお困りなのですから迎え入れるのが俺の使命ですぞ」
「いや……使命にされても困るんだけど。それとフィロリアル扱いしないでくれない? 不死鳥って言ってるでしょ」
ホー君は連れないですな。
そんなフィロリアル様でも俺は愛して見せますぞ。
「その熱い目線やめて欲しいんだけどな……何にしても大丈夫! 僕は巣を作るのが得意だからさ!」
「やめさせた方が良いよー。文字通り何処からか巣材を持ってきて無駄に大きな家と呼べる位の巣を作るよ。この鳥」
「……何にしても来客用の空き家があるからそこで休んでくれ。面倒そうだ。ただ、汚すなよ」
「汚すわけないじゃないか」
「ねー。そんな訳だから元康くん、お気遣い無用だから」
ああ、残念ですな。
ホー君の香りをもう少し嗅いで見たかったのですが。
「む……鳥肌が」
「君は鳥でしょ」
「お前は鳥なんだから最初からだろ」
お義父さんとアークが揃って指摘しておりますぞ。
そんな訳でお義父さんはホー君たちを空き家へと案内しておりました。
やがて……夜が更けて行きました。
そうして夜も更けた頃、俺は夜の散歩へと出かけると食堂の方で明かりが灯っておりました。
見るとそこにはアークとホー君がいらっしゃいましたな。
「おや? こんな時間にお二方は何をしているのですかな?」
「ああ、元康くんだね。暇だからこうして食堂の方にいるだけだよ。なんか村の子達も君みたいに夜間に色々と出歩いてるみたいだし適度に話相手をね。そこの猫に頼めばミルクを出して貰えるよ」
「尚文くんからは許可を貰ってるよー」
と、アークは食堂のテーブルに……何やら道具を広げてカチャカチャと弄って居るように見えますぞ。
何をしているのでしょうか?
スッと手を伸ばすとネックレスらしき物を握ってフリフリとゆらしますぞ。
すると突如空中に輪が出現しましたぞ。
ふわりと……人魂とも蛍とも言いがたい何かが輪から出て、輪がアークの手に落ちました。
その輪をアークはカチャっと動かすとパーツが取れましたな。
タオルでパーツを洗浄し、宝石のようなパーツを確認したり手をかざしたりと何かをしておりますぞ。
これは細工ですな。
お義父さんがやっているアクセサリー作りみたいですぞ!
きっと神狩り故の作業か何かでしょうな。
俺の持って居る槍の輪バージョンにも見えますが気のせいでしょう。
輪の細工が終わったかと思うとアークは再度ネックレスを持って振ります。
すると輪に光が入っていき消えましたぞ。
ですが順番とばかりに今度は似たように宝石の付いた鐘が現れました。
それを同様にアークはバラシて洗浄作業を続けましたぞ。
「それで元康くん。君は何か用?」
「散歩ですな。寝付けないフィロリアル様が居ないかをチェックしているのですぞ」
「へー君もマメなんだね」
「当然ですぞ。ホー君たちは本当に寝なくて良いのですかな? 健康チェックしますぞ?」
「うん。生活スタイルでね。まだ僕は寝なくても良いのさー」
「僕は元々寝ないから」
寝ないというのが凄い方々ですな。
アークの方はドラゴンの上司らしいですが……そういえば眠らないドラゴンという話を俺は日本に居た頃に伝承等で心辺りがありましたぞ。
きっとそのような性質があるのでしょうな。
「ホー君は眠いのに寝れないなら俺が寝るまで一緒に居てあげても……良いですぞ?」
「いや、そうじゃないから。変に気を使わなくて良いよ」
「はは、元康くんは面白いね。そこの鳥にツッコミやらせるなんてさ」
「酷いなー」
「そうそう、さっき尚文くんも来てたよ。明日の仕込みがあるんだってさ。ラフタリアちゃんとラフちゃんって子が迎えに来て渋々帰ってたね」
お義父さんもそこそこ夜遅くまで起きている方ですからな。
お姉さんが声を掛けて自宅へと戻ったのですな。
「お二人とも寝ないと言っても根を詰めると体に毒ですぞ。休めるときに休んで居て欲しいですな」
赤豚本体のような神を僭称する者を狩るのを生業にしている方々ですぞ。
こういう時こそ休んで頂きたいですな。
「気持ちは受け取っておくよ」
「心配してくれるんだね。元康くん。ありがとう」
アークの顔を上げて微笑みつつ答えるその声音と表情に、俺はやはり激しく引っかかる感覚を覚えるのでしたぞ。
「それでは失礼しますぞ」
と、俺は散歩を終えて自室で就寝する事にしたのですぞ。
それから数日後の朝ですな。アークやホー君は村に良く馴染んでおりますぞ。
賑やかな村での日々をとても楽しげに見つめております。
時々お義父さんの代わりをしてくださったりしておりますぞ。
「ふん! はぁあああ!」
朝の稽古をして居た錬の大きな声がしましたな。
騒がしいので俺はその様子を見に行きますぞ。
大方朝の鍛錬としてエクレアや村の者たちと一緒に稽古をしているのでしょうな。
するとそこには錬とエクレア、ブラックサンダー、そしてアークとホー君がいらっしゃいましたぞ。
老婆やストーカー豚は居ない様ですな。
「もっとやってくれ!」
錬がアークを相手に稽古をしているようですな。
ですが周囲に大量の光る剣が何故か浮かんでおりますぞ。
相対するアークは光る剣を持っております。
何故かアークは王冠を被っております。話によると錬に渡されて被る様にお願いされたそうですな。
「わかったよ。んじゃ行くよ」
アークが光る剣をまるで投げるような動作をすると周囲に浮かんで居る光る剣が錬に向かって縦横無尽に飛んで行きますぞ。
まるで錬が使うハンドレッドソードのように無数の剣が雨のように降り注いで行きました。
「うおおおおおお!」
錬はその光る剣を0の剣で弾いてアークに向かって突撃して行きますぞ。