異界のラブコメ
「いや君がなんで僕に聞いてくるの!?」
それはフィロリアル様みたいな物だからですぞ。
「そこの面倒臭い鳥の方は彼に任せて僕が答えるかな」
「そうだな。たまには役に立つな、元康」
お義父さんに褒められてしまいましたぞ。
この任務、全うしなくてはいけませんぞ。
「ではホー君、教えてですぞー!」
とは思いつつお義父さん側へと意識を向けて置きましょう。
「聞く気ないでしょ! わかったよ。そっちの方の話が終わって更に気になったら教えるからさー」
「そんじゃ話をしていこうかな。前に僕が立ち寄って滞在した、寮母をしていた世界の話をしようかな」
と、アークは旅の合間に滞在した世界の話をし始めましたぞ。
何でも文明基準はこの世界に似た世界だそうですな。
その世界では大きな争いがあってそれから少し経った平和ではあるけど各国がにらみ合いをしているという情勢だったとか。
そんな中で各国が友好と国同士の技術共有、更に次世代への教育などの名目で合同の学園が設立されていたという話ですぞ。
アークはその世界に、性質の悪い連中の駆除へと入り込んだとの話ですな。
力を使えば簡単にあぶり出せて仕留められるのだけどそうすると世界が壊れてしまうような面倒な場所だったとの話ですぞ。
そこでアークは現地のドラゴンに頼んで件の学園の寮母として潜伏したんだとか。
「なんで寮母なんてやったんだ? えっと、アークさんってぱっと見そんな年行ってるように見えねえぞ?」
猫の獣人っぽいのですが年齢に関して俺はよく分かりませんぞ。
ですがなんとなく長生きな方なんだろうって雰囲気はありますな。
「そこはねー生徒として入ると授業とか色々と見聞きしないといけないから時間が取れないんだよ」
「ふーん……でも寮母ってのも忙しそうだけどなー」
「授業に出るよりはすぐに終わるもんさ」
これは熟練者故の迅速な仕事というのが分かりますぞ。
何せ厨房でのお義父さんとの料理を見ていると納得ですぞ。
「まあ結局は講師とかさせられちゃったんだけどね」
「本末転倒だな」
「あはは……教えるのもそこそこやってたからね。世界の理の範囲で知っている事を教えるのさ」
「ほう……お前は何が得意なんだ?」
「んー……僕は錬金術とか魔導学なら結構詳しい方だと思うよ。色々とね」
お義父さんが主治医の居る研究所の方へと視線を向けましたな。
詳しいなら話くらいはさせるかを検討する所でしょうな。
「まあ、これだけだと僕が寮母をしてたってだけの話になっちゃうから詳しく話すね。その学園なんだけど設立されて各国の学生、貴族の子息子女が授業が開始される少し前から集まっていたんだけど随分と変わったイベントが毎晩行われる様になったんだ」
「変わったイベントですか?」
お姉さんが答えますぞ。
「うん。学園の問題として男子寮と女子寮の設備の差がかなり隔たりが学園側の杜撰な管理で起こってしまって男子寮がオンボロの宿舎なのを理由に、とある男子生徒が堂々と覗きをすると女子達に宣戦布告をしてね。賛同した男子生徒と迎え撃つ女子生徒でルールに則った遊びの戦争がね」
男子寮がボロいんだからこれくらい見逃せって事でまかり通っちゃって毎晩賑やかな攻防が行われる様になってしまったんだ。
と、アークがしみじみと言った所で全員呆れるような表情になりましたな。
そして何故かお義父さんが俺を見つめて来ましたぞ。
「二昔前のマンガみたいな展開だな……なんでそんな事態になるのか理解に苦しむが、そこは無視するとして、どこでも似たような女好きというか覗きを好む奴がいるんだな」
「ロマンを追及するって気持ちは僕は分かるなぁー」
ホー君がそのような話に賛同してますぞ。
「俺もフィロリアル様が仰るのでしたら全力で覗きに挑みますぞ!」
なんとなく楽しそうな場所ですな!
「うん。そんな場所だから実践的な戦闘訓練にもなってね。同級生に魔法を教える事になるなんて思いもしなかったって呆れる生徒がいるけど、しっかりと結果を残す事になっていくんだ。その男子寮の寮母を僕がやってたんだよ」
「覗きで戦争ですか……」
ここで虎娘がお義父さんの盾から姿を現しましたぞ。
「実に素晴らしい戦いですわね。私も尚文様と一緒に温泉へ入るため、ラフタリアさんを相手に争いますわ」
「戦う相手がおかしいと思いますよ」
「なんか楽しそうねー女子が男子を覗きに行っても良いならお姉さんもお手伝いするわよ~」
「やめてください」
「……ここでも似たような攻防はあるか。確かにそんな学園の話をするのは面白おかしくはあるだろうが……」
「そんな攻防の中でさ。僕が何故か囮の女子風呂に招かれて件の彼を待ち伏せさせられた事があったなー。普通の女子生徒が安全に入浴するために手伝って欲しいってさ」
「ん? なんでそうなる?」
「誰か入ってると見せかけるための囮だったらしいよ? 件の彼は神出鬼没だったから裏の裏で何個もある温泉の一つに僕を配置した感じでね」
「猫の入浴を見て残念ーって言いたかったって事だね!」
ホー君が親指を立てますぞ。
「そうなんじゃないかな? 件の生徒は騙されたって顔をした直後に生徒全員に大声で僕がここにいるって宣言したら男女揃って集まって来たけど」
「あらーモテモテなのね」
「なんで?」
「なんかみんな僕と一緒にお風呂入りたかったらしい。男子寮の癒しマスコットとの入浴って言われちゃった」
今の印象では到底そうは感じられませんが、確かにアークはマスコットポジションなのは間違いは無さそうですな。
「あー……癒しマスコット枠だったのか、お前」
「僕としてはそんなつもりはなかったんだけどね」
「しかし……ふむ、となるとフィーロと混浴権利を売るというのも手か……」
なんですと! フィーロたんと混浴ですかな!
時々お義父さんとフィーロたんが一緒の温泉に入っているのは分かっていますがその権利を購入出来ると言うのならばこの元康、何が何でも手に入れてみせますぞ!
この元康の決意は揺るぎませんぞ! フィーロたん!
「やー! なんかぞわぞわするー! ごしゅじんさまー! それイヤー!」
俺とホー君から離れた所でお食事をしていたフィーロたんがお義父さんに泣きついておりますぞ。
「ふむ……ダメか。ならキールならば良いか?」
「なんでそうなるんだよ、兄ちゃん! 俺と混浴って誰が喜ぶんだよ!」
「そりゃあ熱心なファンが男女子供関係なくキールとの入浴を楽しみ、キールの体を代わる代わる洗いたがるだろうな」
「ピヨ!」
キールの頭に乗っていたルナちゃんが元気に存在をアピールしますぞ。
どうやらルナちゃんが買い占めの為に頑張るようですぞ。
「俺を洗ってどうすんだよ! 一回洗えば十分だろ!」
「そこは順番って奴だろ。可愛いわんこに戯れたい連中が尽きないって事だな。うん。悪い手じゃないぞ」
「イヤだよ! 俺もそんな順番に洗われるのは!」
キールもここぞとばかりに拒否をしてましたぞ。
「なんと言いますか……どうして集まって来たのかに関してはフィーロとキールくんを例にする事で理解出来てしまいますね」
「だな」
「ちなみに件の男子生徒は凄く優秀な生徒でね。確かな実力が無いとそんな事は認められないよね」
実力は全てを凌駕する。
確かに俺も日本に居た頃に無茶を通した事は星の数ほどありましたな。
「どう聞いても無類の女好きであるのは分かるな。どこぞの愛の狩人の過去の姿みたいにな」
「まあね……やる時はやるから結構モテてたね、彼は」
「顔も良いとかありそうな奴だな……」
ふむ……その人物と俺は確かに仲良く出来そうな気がしますな。
豚にではなくフィロリアル様を理解出来るのならばですがな。
「彼も色々と事情があってね。妹に掛かった重度の病気……いや、呪いを解くために頑張っていたんだったなー」
「お前ならすぐに解除させれそうだがな」
「僕が出るまでも無い問題だったよ。事情を見聞きしてその世界で知り合った人を紹介して解決って訳さ。その後は真面目に勉強してたよ。覗きは相変わらずだったけどね」
と、アークはその学園での日々の話をしておりましたぞ。
現代では世論的に出来そうにない古のドタバタラブコメですね。