ロードオブアース
しばらくお義父さんが潜って……すると水面が光り始めました。
「プハァ」
やがてお義父さんが水面に顔を出してきました。
「尚文さん。さっき水面が光りましたが何かありました?」
「うん、なんか湖の下の方に大きな穴というか……別の空間の入り口みたいな物があってさ、上に魚と肉のマークがあって、その先にもう一匹ボスが居るみたいなんだよね」
「ボスですか。それはどんな魔物で?」
「んー……角の生えた鯨みたいな魔物だったなーロードオブシーって名前だったよ。もちろん水中だよ。かなり広い特別フィールド」
ビクン! っと錬が震えましたぞ。
「錬さん。何怯えてるんですか」
「お、俺が怯えてるだと! ふ、ふん! 何を言っているのか分からんな」
「……」
俺と樹、お義父さんが黙って錬を見つめますぞ。
当然の事ながら湖を割る等は出来ませんぞ。ダンジョンに入って検証した通りで、ペックルとなったお義父さんが適したギミックなのは変わりませんな。
「とにかく、僕は水に入ると頬袋が膨らんでまともに動けませんし、元康さんも無理なんで錬さん。尚文さんと一緒に戦ってきて下さい」
「尚文、そのボスをこっちまで誘導してこい」
「俺も引き寄せられないかスキルを使ったり近づいて様子を見たけど、フィールドから出ようとするとサッと追いかけてこなくなるんだよね」
さすがお義父さん。事前に検証済みなのですな。
思えば常にお義父さんは色々と検証をするお方でしたぞ。
結果的にコレは錬を追い詰める良い検証でしょう。
「じゃあ元康と潜って一呼吸で仕留めろ」
「突き突きですぞ!」
お義父さんと一緒にボス退治ですな。
「錬さん。諦めが悪いですよ。良いから行ってきて下さい!」
「い、いや! 俺だって魔法に集中して戦闘に貢献は出来ん!」
「俺に捕まって剣を前に構えるなりして持っててくれれば突撃して攻撃するけど?」
おお、お義父さんも錬が戦力外でも戦う術を考えていたのですな。
つまり錬は剣を持って捕まっているだけでお義父さんが通り過ぎて代理的に攻撃をして下さるという事ですぞ。
「そんなに息が続かないのが恐いならさ、さっき倒したボスが露骨に使えとばかりにドロップした着ぐるみを錬が着れば良いんじゃ無い?」
お義父さんがここでペングー着ぐるみを出しますぞ。
この着ぐるみはペックルを模した着ぐるみですな。
「……」
「……そういえばそうですよね。所で僕たちってこんな姿ですが魔物枠なんでしょうかね? 種族変更効果があるみたいですけど」
「どうなんだろうね?」
「俺が試着しますぞ!」
お義父さんから着ぐるみを受け取るとサイズが変わりますな。着れそうなので着用ですぞ。
すると、ペンギン型のフードを俺が被る形になりましたぞ。
「ペックルウサウニー元康ですぞー」
「それで行け! 元康!」
「錬さんの頑ななまでの水に入らないスタンスはある意味尊敬に値しますね。所で僕が装備した場合、頬袋の膨らみを無効化出来ますかね」
樹が寄越せと手を差し出したのでフードを脱いで渡しますぞ。
そのまま樹がフードを羽織って水に入りますが当然の事の様に頬袋が膨らんだのですぐに戻ってきましたぞ。
「……ダメですね。元の種族を優先するみたいで、種族変更は効果が無いようです」
「樹じゃ浮くこと優先されるのか……というか効果が無い感じ?」
「見た目以外は効果ない装飾装備みたいですぞ」
ただのペックル型のフードのようですぞ。
「……」
樹がなぜか錬にペングー着ぐるみが姿を変えたフードを被せますぞ。
「あ……」
ピカっとフードの目の部分が光り始めましたな。
俺と樹とでは何か違うようですぞ。
「何か効果が発生しているようですね」
「そ、そんな効果は無い!」
「嘘はやめてください。その頭部分の目の光で一目瞭然でしょうが」
「そもそもなんで樹は錬に被せた訳?」
「一応検証ですよ。どうやら僕と元康さんは効果はありませんが、錬さんは装備する事で妖精姿だと効果を発揮出来るみたいですね」
錬が俺達に聞こえる音量で舌打ちしましたぞ。
「なんだコレは! 運命が俺に尚文と一緒に潜れと言ってるようじゃないか!」
「ちょっと中二っぽい感じな言い回しだけど……水魔法適性に反応してるのか何かかな?」
「怪しいのはそのフィールドに入る際に見た魚と肉のマークですね。ペックルとイヌルトで戦えという指示なのかも知れないですよ」
「く……」
「という事は……」
スタスタと錬が意識を向けて居た次の階層の方へと近寄って確認しますぞ。
「あっちの次の階層へ行く道らしい方向にはニンジンと木の実のマークがありましたね。どうやら分断して何かに挑むギミックだったようです」
「なんでこの割り振りなんだ! ニンジンと魚で良いだろ! 栄養バランスを考えろ!」
錬が空に向けて叫びましたぞ。ダンジョン内に木霊しましたな。
ニンジンはウサギ、俺を現しているとの判断でしょう。
「武器的に考えると銛とか水中向けの装備がある分、元康さんが適性が高いのですけどね」
「元康くんがペックルだと武器との相性も良さそうだね」
「ままなりませんね」
「くう……」
「まあまあ……錬もそこまで嫌がらずに行こうよ」
と言うわけでお義父さんに背負って貰った錬が渋々湖の中へと潜って行きましたぞ。
「それじゃあ元康さん。僕たちも担当するボスを倒して戻ってきましょう」
「樹とペアよりお義父さんとの方が良かったですがしょうがないですな」
という訳で樹と一緒に先の部屋へと進むとロードオブアースという赤熱したマグマのようなドラゴンらしき魔物が出てきましたぞ。
チリチリと温度が高くて毛皮が焼ける感じがしますな。
「戦闘自体はサッサと終わりそうですね」
「ぐるああああああああああ!」
樹の言葉に応じてロードオブアースが叫び、地面を踏みしめるとアースイグニッションが俺達へと放たれましたぞ。
ほう……俺も同等のスキルを使えるので感慨深い相手ですぞ。
「こっちもアースイグニッションⅩですぞ!」
俺の放ったアースイグニッションでロードオブアースが打ち上げられましたぞ。
「るあああああ――!?」
これだけでも倒したのが分かりますな。
「元康さんだけで倒すのも面白みが無いですね。死体撃ちですけど念の為、イーグルピアシングショットⅩ!」
スターン! っと樹が追撃を仕掛けてロードオブアースは砕けて影となって消えましたぞ。
残されたのは模型のパーツですな。
「こう……武器強化とLvが十分だとヌルゲーですね」
「樹と一緒だと面白みもクソも無いですぞ」
「なんですって? ……まあ別に良いですよ。そもそも状況的に考えて僕はラビット着ぐるみを着ると効果がありそうですけど、その場合どうなるんでしょうね」
「着ますかな?」
ラビット着ぐるみを出してやりますぞ。
すると樹がスクイレル着ぐるみを出してきましたな。
樹を着るみたいで勘弁して欲しいですぞ。
「まあ、検証は後回しにしましょうか。この模型を持って合流しましょう……しかし、なんと言いますか……」
樹が周囲を見渡すので俺も確認しますが、かなり広いフィールドの様ですぞ。火山帯みたいですな。
そういえば大きなフィロリアル様がやっていたという話の人里にはない龍刻の砂時計が感知する波の戦闘でこのような所がありましたな。
最初の世界でお義父さんに任されて挑んだ覚えがありました。
「ボスも倒しましたし一旦合流しましょうかね」
「ですな」
という訳で俺達はその足ですぐに地底湖へと戻って来ました。




