最悪な罠
「ガエリオンちゃんを含めてドラゴン達は威厳というか怒る姿を全然知らないんだけどさ。精々……ジャックを説得する時くらい?」
ライバルの親は今ではジャックですな。
「今では無様な姿を晒し続けて居るのは間違い無い。この世界のドラゴンは見た目だけだ」
「世間一般では僕たちが最初にイメージするような強力すぎる存在って扱いなんですけどね」
ははは、奴らなんぞ経験値としか俺は思いませんがな。
「気難しいはずのドラゴンが怒らない様に立ち回る事が出来たという事なんじゃ無いですか?」
「ドラゴンだって争いをしたい訳じゃないという事だろうな……ガエリオンは落ち着いてよかったな」
「もはやウィンディアちゃんよりも大人な感じだしねー……」
「そういえばそろそろ再戦するとかウィンディアが言ってたな」
錬が深くため息をしましたぞ。
助手がライバルの親を再度打倒を計画しているのでしょう。
「僕たちからするとドラゴンよりフィロリアルの方が厄介な存在ですよ」
「なんですかな? 何か文句があるのですかな?」
「事の原因が何か言ってますよ」
「ははは……この世界って魔王を倒してハイ、世界は平和になりましたってモノじゃ無かったね」
「時代によってはそうだったって話ですけど、実際はどうだったのかってのはありますよね」
お? これは聞き覚えがありますな。
「一時期勢力を広げたドラゴンを大きなフィロリアル様が倒したとかそういった話があるみたいですぞ」
フィロリアル様の事を調べたり、婚約者が大きなフィロリアル様とフィーロたんやサクラちゃん経由で聞いたそうですな。
「あんまり魔物界隈は勢力を広げすぎるという問題は無いようですね。そもそもメルロマルクじゃ盾の勇者が魔王としてカウントされていた様ですし」
「敵国のシンボルはそうなるか」
「結局は伝える人の主観って事なんだろうね」
「魔物よりも恐いのは実際の人間だってのはこの世界に来て嫌って程見聞きしましたもんね」
なんて話をしながら俺達は進んで行きました。
もちろん、途中で俺達が雑談した際に話題に出たウサピルのボス等とも戦いました。
「いやですぞー! ここでは戦えないのですぞ!」
「グアー! グアグア!」
とある階で俺はお義父さん達に立ちはだかりましたぞ。
そこをお義父さんが俺を羽交い締めにする形で抑え込もうとしてきました。
「尚文さん! しっかりと元康さんを抑え込んで居て下さいね。じゃないと僕たちの命に関わりますし」
「わかってるって! 元康くん落ち着いて!」
お義父さんが俺の両腕を抑え込んでそのまま押し倒して動けない様にしていますぞ。
目の前で広がる光景を我慢しろというのですかな!
「これが落ち着いて居られますかな! 錬、樹! 許しませんぞー!」
そう、今回出てきている魔物はフィロリアル様なのですぞ。
ご機嫌が悪いのか俺達を見るなり飛びかかってきましたが俺はフィロリアル様を相手に戦う事も出来ませんし、フィロリアル様を攻撃する姿を見過ごす事など出来ませんぞ。
説得を試みたのですが耳を傾けて下さいませんでした。
「元康さんも理解して欲しいもんですよ。どうやら島に生息する魔物以外は幻影のような存在という事を」
「単純にダンジョンの構造なんだろうが、俺達にとっては下手な即死トラップなんかよりも厄介な物だな」
「おそろしく厄介ですよ。一気に仕留めますよ!」
「ああ!」
と、錬と樹が各々スキルを放ってフィロリアル様達が消し飛んでしまいましたぞ。
「ぎゃあああああああ! 錬! いつきぃいいいいい!」
倒れるフィロリアル様達に俺は手が届きませんでしたぞ。
そのままフィロリアル様達は煙の様に姿を消してしまいました。
「元康くん? 落ち着いてね? アレは幻影で、倒さないと先に進めないから戦っただけだから、絶対に騒がないの」
お義父さんが俺を抱きしめて落ち着かせようとしていますが、俺は錬と樹をロックオンしますぞ。
錬と樹はそんな俺が何時攻撃してきても良いように構えて居ますな。
ぶち殺してやりますぞー!
「ブラッディウサウニーがこっちをターゲットにしている」
「信者って厄介としか言いようがありませんよ」
「本当だな。どうしてこんな面倒な階層があるんだ」
「正直、この階層が僕たちにとってもっとも危険だったって事になりそうだと断言出来ますよ」
「尚文、元康を抑え込んでおけ。じゃないと今後元康が俺達を殺すぞ」
「わかってるって」
「尚文さん、すいませんね。手っ取り早く元康さんを冷静にさせますよ」
「樹、何か手が、うわ!」
お義父さんを樹が足でぐいっとそのまま俺の方へと押し倒し、顔を接近させましたぞ。
うお! お義父さんの顔が凄く近いですぞ。
「よーし……後の調整は俺がする」
錬がお義父さんの頭を両手で掴んでより俺の顔へと重ねようとして――。
「ちょっと二人とも何しようとしてるわけ!?」
「現状で元康さんを冷静にさせつつこの階層の問題を忘れさせる最善手ですよ!」
「尚文、俺達の為に生け贄になってくれ、もう腐るほどキスはしてるだろ。元康相手にもして冷静にさせろ」
「俺を元康くんの生け贄にさせないでー! うぶ!?」
もふうっとお義父さんの唇が俺の毛皮に埋まりましたぞ。
ここで俺は怒りと混乱でフリーズし、意識が飛んでしまったのですぞ。
「う……ここは……」
気付いた時はお義父さんのフロートシールドの上で寝かされて移動していましたぞ。
しかもロープシールドでぐるぐる巻きにされてですぞ。
「ああ、元康くん気付いた?」
「一体どうなっているのですかな?」
「調子に乗って跳ね回って頭を打って、打ち所が悪くて元康さん、気絶したんですよ」
「そうだ。余裕を見せた割に間抜けにもな」
「フィロリアル様が出る階層で錬と樹が許されざる蛮行をしたような気がしますが……」
「……気のせいじゃない?」
「そうだ」
「そうそう」
うーん……そうだったのですかな?
酷く不快な夢でしたぞ。
俺は小首を傾げながら自由になって歩きますぞ。
「まったく……」
と、お義父さん達が呆れた声を上げつつ俺達の探索は進んで行きました。
そんな道中、キリの良い階層まで来た所ですぞ。
「10階はケルベロスってボスで20階はキメラだったね。30階はシャドウウォーカーって影に潜む魔物だったけどさ」
「階層ごとに出て来る魔物のボスじゃない感じでしたね」
「なんか示し合わせたみたいなボスだったな」
「ああ……確かにね。その辺りも想定しているのか、俺達の武器が記憶した物を再現しているのか」
「本当、武器に登録されるボスとしてはみんな入手してない部位が手に入るから助かりますね」
解放される武器はランダムの様ですが俺以外はダブらない様ですぞ。
「俺はダブりなのしか手に入らないですな」
「元康くんはループしてるからね」
このダンジョンがどんな理由で作られたのか、本当に謎ですな。
「ループ無しで波のボスの武器を手に入れる救済処置的な感じかなー」
「同名の魔物は探せば居るとは思うけどな」
「ついでにドロップ品も狙えるのですから美味しくはありますけどね」
で、ここぞとばかりに行き止まりですぞ。
いえ、正確には土壁がここぞとばかりにありますな。
「元康だな」
「でしょうね。ウサウニーのギミックでしょう」
「掘り掘りですぞ」
ザックザックと俺は掘って行きますぞ。
すると時々ポロッと宝石やジオード等々が出てきましたな。