バルーン研究
途中で俺が掘る場所や錬が匂いで道具を色々と見つけてきました。
樹も壁をよじ登ったりしてますぞ。
「大分形になって来たね」
パチッとお義父さんがパズルを嵌めるようにシーラカンスの模型のパーツをはめ込んで作りましたな。
「露骨に何かに使いそうな代物ですよね」
「そうだね。きっとどこかで使う事になるのは間違いなさそう」
「そんでー……なんか出てくる魔物も大分変わって来たね」
「死体とかは出ませんがそうですね」
現在いる階層では色々なバルーンが出てくる階層になっていますぞ。
倒すと煙となって俺たちの武器へと吸い込まれてドロップ品になりますな。
「カルミラ島に原生する魔物以外は煙になってくけど……なんか意味があるんだろうか?」
「本物じゃないとかじゃないですか? あくまでこのダンジョンで再現された幻みたいな感じで」
「ありそうだね」
ちなみにこの階層のボスはイヴルバルーンとウイングバルーン、そしてメタルバルーンですな。
「バルーンもいろんな種類がいるよね」
「ゲームを始めたばかりだと狩るのに適した魔物でありますし、色々といますね」
「そうですな……ああ、懐かしいですぞ」
「なんか元康も思い出でもあるのか?」
「もちろんありますぞ。愚かだったころの俺がお姉さんを賭けてお義父さんに権力で強引で卑劣な決闘を申し込んだとき、お義父さんはマントの下に隠したバルーンを投げつけてダメージを負わせてきましたからな」
今にして思いますが秀逸な手ですぞ。
お義父さんはダメージを受けずにいるからマントの下に常に隠し持っていて、いざって時に取り出して攻撃に使っていたのでしたぞ。
「攻撃手段が無いからこその手ですね、確かによく考えてますね」
「俺たちじゃ絶対に思いつかない攻撃方法だな。むしろ尚文の場合はモンスタープレイヤーキラーが無難な反撃方法か」
「出来るでしょうね。尚文さんが原っぱとかで昼寝してるときに集まってくる魔物を思えば……」
「だからその手の話をするときに答えるけど黙って見てないで追い払ってくれない? いくら怪我しないって言ってもさ」
「あれも盾の勇者の特技なのかと思うな」
「剣の勇者である錬はどうなのかなー?」
お義父さんが錬を仲間に引き入れようとしてますぞ。
「剣の勇者の逸話にはドラゴンと和解するとかあるのでしたっけ」
「ふん、盾の勇者程じゃないさ」
錬があり得ないとばかりに答えますがお義父さんも負けじと挑発気味に錬へ手を上げて言いますぞ。
「ルナちゃんの例があるから錬は否定できないさ」
「く……元康、バルーンの話はどうなったんだ?」
強引に錬が俺に話題を振ってきますぞ。
「バルーンやエッググなどの魔物を俺に纏わりつかせて攻撃してきた話ですな。あのままお義父さんとの戦いで邪魔が入らなかったらどうなっていたのでしょうな?」
お姉さんを取り返すことは出来そうですぞ。あの赤豚が愚かな攻撃をしなければですな。
実に俺は道化でしたぞ。
ただ……動けはせずに急所攻撃を執拗に、お義父さんの攻撃は痛くはありませんがバルーンたちの攻撃は痛かったですからな。
降参は……あの頃の俺はしませんな。かといって膠着状態、お義父さんがする最大限の抵抗ですぞ。
いずれバルーンたちを俺が徐々に倒してお義父さんの手持ちが無くなった結果……お義父さんは経過も重視する方なので、ボロボロの俺の顔と股間を見て満足して負けるような気がしますぞ。
お姉さんはそれでもお義父さんには付いていこうとはするでしょうな。
「元康くんへの嫌がらせに満足してラフタリアちゃんを没収されても内心悔しんだけど、そこそこ妥協しちゃいそうだね」
一矢報いたとお義父さんは我慢してしまうような気がするのは間違いないですぞ。
お姉さんがそれでも付いてくるとしてもですな。
ループが違えどお義父さんですぞ。よくわかっている気がしますぞ。
「その後、サブウェポンとしてバルーン育成始めたりしてね」
「あり得ますよね。元々フィーロさんも戦力欲しさに購入してそうですし」
「バルーンって育てるとどうなるの? やっぱキングバルーンとかになるのかな?」
「ゲーム知識だとそこまで無いですけど……」
「ラトが何か言ってなかったか? バルーンにも伝説のバルーンがいるとかなんとか」
主治医は魔物が専門ですからな。その辺りの伝説なども知っているのでしょう。
「なんか講義してましたね。魔法学園の講義でも聞いた覚えがありますよ。確かバルーンは空を飛ぶバルーンレギオンという群体魔物から分離して地面に降り立つという話です。その頂点に語られる存在がいるとか」
「しっかり育てるとアドバルーンというバランスボール並みになるそうだが……」
そういえばお義父さんの馬車にしばらくアドバルーンが括り付けられていたのを遠目で見た覚えがありますぞ。
「絶滅寸前のバルーンとかもいるそうですね。スネークバルーンと言うそうですよ。なんでもその時期の流行りで乱獲されたとか」
「なんかどんな形をしているのか想像出来るね。蛇っぽいんだろうね」
「曲芸とかで使われる風船ですかね?」
「そうなんじゃない? バルーンアートとかかな? あれってなんかロマンあるよね」
「剣の形にしてチャンバラした思い出があるな」
棒状の風船ですな。
確かにあれは子供心にわくわくする風船ですぞ。
「それ以外に、別の使い道ありそうですよね。こう……形状的に尻尾側辺りが使われるんですかね。薄くてちょうどいいとかあるのでしょうか。破けたら大変そうですけど狩れば手に入ったなら作るより楽そうですね」
「樹、そこは口を閉じておいた方がよくない? むしろ自ら狙って言ってるわけ?」
「なんだ? なんの話だ?」
錬が連想できずに首を傾げていますぞ。
お義父さんがサッと俺だからこそわかる嘘を吐く時の笑みを浮かべて錬に言いますぞ。
「水風船だよ。丁度良さそうでしょ?」
「ああ、なるほどな」
「……」
樹が色々と言いたそうでしたが黙りました。
「バルーンの育成かー……なんか鎖を付けて犬の散歩みたいに持って歩く姿が想像できてシュールだね」
「アドバルーンってかなり浮かび上がりますよね」
「そのまま実験に気球にして乗るとかしたら夢があるよね。ガエリオンちゃんやフレオンちゃんが居ない状況だと空の旅が出来そう」
「降りる手段が必要そうですね」
「樹は逆噴射、元康はプロペラがあるようなもんだから困りそうにないな」
空からの緊急着陸は飛行機に乗った際には考えますな。
頑張れば出来るのは間違いないですぞ。
「伝説のバルーンにキングバルーンもあるそうだが、ヒンデンバルーンって魔物も伝承にはあるそうだ」
「なんか空中爆発しそうな魔物の名前だね。バルーンの進化研究とか奥が深いなー……」
「フィロリアル様も奥が深いのですぞ!」
バルーンよりもフィロリアル様が一番ですぞお義父さん! フィロリアル生産者が足の速いフィロリアル様の研究をしておりましたし、ユキちゃんはその結晶のような方なのですぞ。
「わかってるって、ラトさんが魅了されているのが分かる気がするって話だよ。みんながやっていたゲームだと、バルーンって、この世界でいう所のマスコットモンスターとかなのかな? それともフィロリアル?」
実は気になってるんだよねとお義父さんが尋ねてきますぞ。
「マスコットモンスター扱いではありませんでしたね。どちらかと言えばウサピルがそれでしたか」
「樹の所だとウサピルか」
「錬さんはどうなんです?」
「ピキュピキュだったな。元康はフィロリアルか?」
錬の質問に俺は素直に頷く事は出来ませんでしたぞ。
安易に嘘を吐くことはできますが、誠実にお義父さんにお答えすることではありませんでしたからですぞ。
「非常に答えづらいのですが、フィロリアル様ではありませんな」
今ならフィロリアル様とお答えできるのですが、違うのですぞ。
「樹と同じくウサピルがマスコット枠でしたな」