リスーカステラ
「それでも虎娘はめげないと思いますがな」
虎娘の愛の深さは感心しますぞ。俺もあのようにフィーロたんを何処までも思い続けなければ行けませんな。
最初の世界以外では大人しい挙げ句、俺が近づくと愛の渦と怯えられてしまいますがな。
「押しが異様に強い感じなのかな? 最初の世界のアトラちゃんって」
「そうですな。どれだけ引いても何処までも追いかけるような執念を宿していましたぞ」
あの押しの強さは病んだ豚を連想して、実はちょっと苦手なのですぞ。
ただ、虎娘は病んだ豚とも違う雄々しさがあったので別なのは俺も理解はしておりますな。
「この世界のアトラさんが大人しくて良かったですね」
「そうだね。そんなアトラちゃんの暴走を止めるためにフォウルくんが呼ばれたらしいけど……止められる訳?」
「どうやら虎娘は虎男を煙たがって邪険には扱うそうですが、完全に排除する事は出来ないので足止めに使えるそうですぞ」
「まあフォウルくんとアトラちゃんは仲が良い兄妹だもんね。フォウルくんはシスコンだけど、これまで立派に支えて居たそうだし」
「フィロリアル様達の話では虎男はお義父さんに告白をした事もあるそうですな」
「ちょっと待って、なんか前提がおかしく無い?」
お義父さんがここでストップを要求しました。
「その辺り、分かるような気がしますね。フォウルさん、ペックルになったあなたを浚って行きましたし」
「尚文さんを巡って兄妹で争わせて、その間にラフタリアさんとの生活を維持しようとした可能性も否定出来ませんね」
「ある意味外道か……拒んでも割り込んで来るなら呼ぶのもしょうが無いのかも知れない」
うんうんと錬と樹が食事をしながら頷きますぞ。
「酷いなー……まあこの世界のフォウルくんはそんな様子は無いから良いとしようよ」
「どうだろうな? ペックルの尚文を忘れられないって迫ってくるかもしれないぞ?」
「それを言ったら錬はルナちゃんでしょ? 元の姿に戻れたとしても、覚えられちゃってるから同様でしょ」
「う……」
錬が墓穴を掘りましたぞ。
ですがルナちゃんを喜ばせるには錬にはイヌルトになって貰っている方が良いと俺は思いますがな。
「……この話題はやめよう。樹?」
「なんで僕に振るんでしょうね?」
「突いて来たら何が何でも樹が困る話題に持って行くぞ?」
「そんな念押しまでしましてもね」
「で、話を戻すとしてフォウルくんが俺の世界に来たって事なんだろうけど、それなりに満喫していたって事なんだろうね」
「ですな。土産話として色々とお義父さんの世界の話をしていましたぞ」
これは思い出せますぞ。
「気になるのは料理漫画の世界かどうかですね。最初の世界の僕や錬さんは尋ねませんでしたか?」
「生憎と聞いてませんなー」
少なくとも俺の目の前で虎男に聞いている事はありませんでしたぞ。
出かけている最中の可能性もありますがな。
「く……なぜ聞かないんだ! 俺!」
「ええ! 僕もなぜ!? もっとも気にする所のはずです」
「その世界の錬って精神的に色々と成長と影を持ってるし……樹もなんかあったっぽいから今の二人と違うんじゃない?」
「確かに今のような二人は珍しい気もしますな」
最初の世界の錬も樹も大人しい感じでしたからな。
むしろ錬はエクレアと助手への求愛に必死でしたぞ。
樹は淡々と使命をリースカと行っていた形でしたな。仲が良さそうではありましたがな。
他の世界だと……錬はともかく、樹はここまで元気なのは珍しいですな。
「尚文さんの世界で気になる所はそこだというのに……唯一の手掛かりでしかないですね」
「そう考えると尚文の世界に行ってみたい理由は飯という事になるな」
「あのねー……仮に俺の世界が料理漫画の世界だったとしても、そうなるとますます地味だと思うよ? ゼルトブルで料理勝負とか出来るからこっちの世界で十分じゃない?」
「まあ……尚文さんの料理の腕前に関して異議を唱えるつもりは無いですね。仮にそうだったとして僕は適応できないでしょうし」
「俺たちの中で料理しないのは樹だけなんだから覚えようって発想は無いのかな?」
確かにそうですな。
料理に関してはお義父さんが頂点として、俺が続くでしょうな。錬? お義父さんの包丁が無ければ負けるつもりはありませんぞ。
その点で言えば樹は料理関連はやらない方ですぞ。
ラフえもんから貰ったエプロンで手伝いをしただけですな。
「僕は食べる方なんで良いんですよ」
「はぁ……」
「そんな事よりデザートも作ってくださいよ尚文さん」
「こんな所でデザートまで要求する樹に感心するよ。うどんとか作ったら天ぷらまで求めそうだね」
「確かに良い提案ですね。それでデザートは何が出てくるでしょうね」
この状況下で作るお義父さんのお菓子ですぞ。
「お菓子ねー……うーん。粉は一応ドロップ品にあるけど……」
と、お義父さんは周囲を見渡しながら……樹の顔を見つめましたぞ。
「……」
「な、なんですか?」
「よし」
と、お義父さんは粉を出して水で練った後に丸めて串で刺し、油を塗り俺に魔法で熱せさせて作りましたぞ。
ドーナツかと思いましたが丸いまま、これはきっと沖縄のお菓子であるサーターアンダギーの亜種かと思いましたが球体の半分しか焼き目を付けませんでしたぞ。
「後は元康くん。焦がさないように炎の魔法で火を通してくれない?」
「お任せあれですぞ」
そうして何個もの半分が小麦色の綺麗な……鈴カステラが出来上がりましたぞ。
簡易で形だけ整えたそうでお義父さん曰く、しっかりとした型で作りたかったとの話ですぞ。
たこ焼き用の鉄板があるのが望ましいそうですな。
鈴カステラに砂糖を塗してお義父さんが樹に差し出しましたな。
「はい。樹のリクエストでお菓子を作ったよ。鈴カステラ」
「なるほど」
錬が納得したように鈴カステラを一個頬張りましたな。
「何がなるほどなんですか! なんでここで鈴カステラを?」
「……」
お義父さんが顔を逸らしましたぞ。
俺がカラメルで鈴カステラに目と柄を付けて樹に渡してやりましょう。
「こういうことだな」
錬がササっと剣をお義父さんの愛用包丁に変えて端っこを細工して耳に仕立てましたな。
「こういう事ですぞ」
そう、リスーカである樹にリス顔の鈴カステラをプレゼントですぞ。
「樹カステラですぞ」
「わかっていたことを堂々と見せつけないでください! なんですかこの連係プレイは! 僕への風評被害はやめてください!」
というよりもですね! と樹が口やかましいですぞ。
「尚文さん。なんで鈴カステラを選んだのかに関してしっかり聞きますよ」
「えー……周囲を見てたら何となく?」
「僕の頭を鈴カステラに見立てただけですよね? これに某月面に降り立った11号を模した司令塔をチョコレートで模したアレを載せたらリスーカ鈴カステラとか言う気ですよね!」
「名前は樹カステラで良いだろ。カルミラ島に新たな名産品が生まれたな」
「シンプルにリスーカステラで良いんじゃない?」
「誰が上手い名づけをしろと言いましたか! そんな名産品要りませんよ! 尚文さんも誤魔化さないでください!」
これが最初の世界のお義父さんだったらどんな返事をしたでしょうかな?
何となくはっきり言うような気がしますぞ。
『そりゃお前の頭が鈴カステラに見えたからに決まってるだろ』
と言いそうですぞ。
何よりバレンタインなど記念日には結構手の込んだ砂糖菓子の人形なども作ってくださいましたからな。
昔、フィロリアル様を模した大きなクッキーではありませんな。サブレなども作っておりました。
フィロリアルサブレとして商品開発して売り出しておりましたぞ。
なぜかお義父さんは俺に下さる事が多かったですな。
「尚文さん。皆さんを模したお菓子をリクエストしますよ!」
バンバンと樹が抗議とばかりに音を立てますぞ。
子供ですかな?
「こんな所で望まれてもなー……そんな名産品グッズを作ってる余裕はないでしょ」
「鈴カステラをパッと作って加工して僕の頭っぽくした方々に言われる筋合いはありません!」
くるくると樹が串に刺された鈴カステラを横回転させて抗議するのが印象的な出来事でしたぞ。
最終的にダンジョン攻略が終わったら何か作るという事で納得してもらい、俺達は進んでいきました。