暴走アトラちゃん
「ともかく分かったよ……ただ、さすがに肉は持ち込んで無いから……迷宮内に居るマゼンタフロッグ辺りから確保するかな」
「お願いしますよ」
「確かもも肉が食えるんだったな」
「……もはや平然とマゼンタフロッグを食材にカウントしてケロッとしてるね二人とも」
召喚された直後辺りの錬や樹だったら出来れば避けたい食材って認識で他の料理を提案していたでしょうな。
そんな訳で料理を始めましたぞ。
ドロップ品にあった盾や剣を調理道具にしての料理ですぞ。
俺が火を出して熱調整ですな。
今回お義父さんが作って下さったのはマゼンタフロッグのもも肉から作ったつみれ鍋とハンバーグ、カレー風味のソテーですな。
「尚文、嗅覚が強くなってるからカレーは避けてくれと言っただろ」
ムシャムシャと錬がソテーを食べておりますぞ。
「こんな状況で催促する錬に気を遣う必要は無いでしょ」
「やはりあっさりとしながら奥深い味わいですね。カエルの肉は鶏肉に似ていると言いますが、尚文さんの手に掛かればやはり気になりませんね」
「一家に一台尚文だな。尚文がいるなら尚文の世界に行くのも良いかもしれないな」
「そうですね。それ以外は新鮮さは無さそうですけど、タイムトラベルした気分で居れば問題ありません」
「問題ありません。じゃないよ。そこに話が戻るの?」
「錬さんの世界に行ってみたいと言ったのは尚文さんでしょ。こっちだって言い返しても良いでしょうに」
これは確かに一本取られたような気がしますな。
お義父さんの世界ですかな……お義父さんの話では俺の世界と殆ど変わらないとの話ですな。
そういえば……。
「一時期虎男がお義父さんの世界に行ったと聞きましたな。何でも虎娘がお義父さんの方の世界でわがままを言うので歯止め役に連れて行ったとの話ですな。帰ってきた時に、お義父さんの世界の話を虎男がして居たのを思い出しましたぞ」
確かそうですぞ。
兄貴の世界に行ってきたと虎男が村の者たちに色々と話をしておりましたぞ。
「フォウルくんが?」
「アトラさんがわがままですか……僕たちの知るあの二人からはまるで想像が出来ませんね」
「だね。俺もあんまり話をした訳じゃないけどアトラちゃんって大人しい子だよね。ワガママってのが全然想像出来ないなー」
「最初の世界の虎娘はかなりアグレッシブでしたからな。虎男と乱闘するくらいには暴れておりましたぞ」
「全く想像出来ん。ループしないと違いが分からない極地だな」
そんなものですかな?
このループのお姉さんと最初の世界のお姉さんの違いもそこそこあるとは思いますぞ。
「ブラックサンダーとクロちゃんくらいには違いがありますかな」
「いや、そっちもわかんないから」
「たぶん、普段の尚文さんと怒らせた時の尚文さん……元康さんの知る最初の尚文さんくらいの差という事でしょう」
「そっちはコウが怒らせた時の態度から想像しやすいな」
「なんか妙な納得されてる」
お義父さんが困ったように頭を掻いておりますぞ。
確かに恐ろしさという所での違いはわかりますぞ。
「交渉事をする際の尚文さんの態度を基軸に考えればギャップは分かりますね」
「人間の二面性だな。オンオフのスイッチが壊れれば完全に別人の様に認識出来るんだろう」
「それで話を戻しますがフォウルさんが尚文さんの世界に行ったのでしたね。どんな話をしていましたか?」
「具体的には料理の味とかリアクションとかが気になる所だな」
錬と樹の質問に虎男の話を聞いている光景が思い出されますぞ。
あの時は……。
「テンションが低めでしたが樹が錬の気にする事を虎男に聞いて居ましたぞ」
「そりゃあ気になるでしょうね。色々と変わってしまっても僕ですから好奇心が疼いたのでしょう」
「俺の世界って変な出来事は無いと思うのだけどなー」
「その辺りはお義父さんの料理を食べ慣れていたし、変な事は無かったと虎男も言ってましたぞ」
料理関連は元々お義父さんが色々と作って下さっていましたし、こちらの世界でも再現された物も多いですからな。
「フォウルさんですからね。僕たちのようにおかしな所に気づけない……いえ、最初から未知の世界な訳ですから分かりづらいのでしょう」
「車に関しては興奮気味に言っておりましたな。沢山走っていて当たり前のようにあって驚いたそうですぞ」
「そりゃあこっちの世界じゃ馬車とかフィロリアルとか乗り物をする魔物が多いから普通の車は珍しいだろうね」
フォーブレイやシルドフリーデンで見かける代物ですな。
「それでフォウルがアトラを止める役をしたという話だが、どんな話なんだ?」
「なんでもー……お義父さんの世界で虎娘は大財閥の令嬢となっており、金に物を言わせてお義父さんとお姉さんの生活に色々と乱入を繰り返していたとの話ですぞ」
この辺りは容易く想像が出来ますな。
「俺は容易く想像出来ますぞ。金持ちの豚との学園生活を何度も経験しておりますからな」
「元康くんなら対処方法とか知ってそうだね」
「今なら本気で面倒だったら罵倒すれば良いだけだと思いますが、豚の尻を追いかけていた頃の俺はー……振り回されっぱなしでしたな」
思えばなんであそこまで面倒な豚と付き合っていたのか実に不思議ですぞ。
思い通りにならないとへそを曲げる面倒な豚なのは間違い無いですからな。
そういえばあの時……お義父さんが俺をじっと見つめて居ましたな。
『元康にはー……聞くだけ無駄だろうな? もっと面倒になりかねん』
『どうしましたかな?』
『何でも無い。お前はフィロリアル共の世話をしてろ』
あの時、もっとアピールしていれば虎男の代わりに俺がお義父さんの世界に遊びに行けたのでしょうかな?
「昔の元康くんの女の子……豚への対応って相当想像しやすい反応だったんだろうからなー……ツンデレヒロインとかの暴力には黙って殴られる優男な対応だろうし」
「今だと迷わず殴り返してボコボコにするでしょうね」
「何処まで命知らずな行動かと俺達が間に入って止める様な事になるだろうな」
「はは、豚は思い通りにならないと暴力に走る生き物ですぞ。へそをすぐに曲げて謝らないと悪い噂を流すでしょうな」
俺じゃ無くてもそんな事をする奴には容赦しない話を何度も聞きましたからな。
「仮に元康くんに、暴走アトラちゃんを俺が説得するならどうしたら良い? って相談したらどう返す?」
ふむ……お義父さんが、と前提が付いておりますな。
俺にお義父さんが虎娘をどうにかしろと仰ったら……お義父さんやフィーロたん、フィロリアル様を命を持ってお守りした虎娘なのでできる限り怪我をさせずに押さえつける方法を模索でしょうな。
問題は最初の世界の虎娘は半透明な幽霊みたいな状態で、生前であったらと限定した場合ですがな。
ですが、お義父さんが事を解決したいとの場合ですぞ。
お姉さんとお義父さんの平和な日々に乱入する虎娘にどう対処をしたらですな。
スケジュール管理でデートする日程を決めても虎娘はお姉さんとのデート日に乱入する程の押しの強さと制御の出来無さがありますからな。
「完全に好きにさせるか、お姉さんと常時一緒の扱いで行動させますぞ」
「……ほぼ放逐か」
「団体行動で賑やかな日常を満喫するのが正解ですな。何かイベントなどの催しがあった際にお姉さんが提案する方を選択して行くのですぞ」
「誰にでもいい顔をして好みのヒロインの方の好感度を上げていく、典型的なギャルゲ主人公の鑑みたいな選択だね」
「きっと何かあって急に大人しくなるか、他の豚が前面に出た頃に不思議と出てこなくなりますぞ」
「専用ルートに入るまで我慢って言ってるみたいにしか聞こえない……」
なぜかお義父さん達がため息をしておりますぞ?
一体どうしたのですかな?