迷宮カレー
「構造的な目算で描いただけだけどね。ちなみにサクラちゃん達、フィロリアルクイーンやキングって見た目よりも肉の部分は少ないんだよ」
「羽毛が凄いのは知ってますよ。羽で腕を絡ませて降りれない様にする器用な芸当が出来る生き物ですし」
「確かにアレはおかしいな。羽毛が手みたいに物を掴んで中に押し込んで来るんだぞ」
錬がルナちゃんに埋まった時の事を話して震え始めました。
「フィロリアル様は特別な方々なのですぞ」
「元康の戯れ言は無視するとして、浮遊剣も使えたら空中で巧みに食材を切り分けられるに違いない」
「手が増えるみたいで楽なのは間違いないけどさー……こんな感じに」
お義父さんがフロートシールドを出して飛ばして居ますぞ。
一応、気を込めたりすればその分、距離を飛ばせますからな。
「ちょっと高い所とかなら錬や樹、元康くんの足場代わりに出せるよ。元康くんや樹は飛べるから使う必要は無いけど」
「いえ、盾を横に置いて椅子代わりにして頂ければ僕たちは歩かずに行けますので」
「なんで最初からしなかったんだ。尚文、盾を出して座らせてくれ、尚文が歩くだけで良い」
「二人とも楽をしないでくれない?」
「では尚文さんが元康さんのドライブモードにまたがって僕と錬さんは盾に座って付いて行きましょう。それが一番早く移動出来ると思います」
「あのねー……幾ら俺達以外の目が無いからってそんなシュールな格好で移動する状況を考えてくれない?」
俺のドライブモードにお義父さんが跨がり、錬と樹がお義父さんの出した盾に腰掛けて移動する。
中々楽しそうですな。
「割と錬さんの世界に匹敵するSFな移動方法では無いですか?」
「何処もおかしく無いって顔しながら言わないでよね。錬の世界ってそんな乗り物あるわけ?」
「ネットは発達しているけど空飛ぶ車までは無いぞ」
「無いんだ」
「車を飛ばすにしてもいろんな問題があると聞いた」
問題ですかな?
「あー……制空権とかそう言った問題は元より、家屋に何か落ちてくる問題なんかもあってそう簡単に空飛ぶ車とかが一般家庭には来ない訳ね」
「飛行出来る能力者とかが時々空を飛んでますけど、アレは人だから許されているって事ですかね」
「……樹の世界って超能力が当たり前の様にあるから異能力学園モノって考えたけど、どっちかというとアメリカンなヒーローもいる感じかな?」
「なんか例えがわかりづらいですが……超能力で犯罪者を捕らえる者達はいますよ?」
ふむ……なんとなく想像する事が出来ますな。
「なんだかんだ俺達って別世界から来たんだなって改めて認識出来る話なんだな」
「日本と言ってもいろいろな日本があるんでしょうからね。仮定の話としてそういえば尚文さんって弟が居るんですよね。優秀で兄弟仲は良いと言ってましたね」
「うん。俺より勉強も運動も出来る出来た弟だよ。彼女もいる優等生だし」
お義父さんの弟の話ですな。そういえば最初の世界でもお義父さんが時々話題に出す事がありましたぞ。
「最初の世界のお義父さんが再会した際の話をしていましたな。頼み事を断ったら舐めた事言われたとか……さあ、『もっとワガママを言うんだ! いつだって勝負に乗ってやる!』って嬉々として絡んで来てウザかったと言ってましたぞ」
「随分と仲が良い関係だったみたいですね」
「ちょっと突き抜けたくらいには仲がよさそうだな。そういえばアイツも兄弟が居るとか言ってたが……逆みたいで何よりだ」
錬がまた何か安心しているのですぞ。
「平行世界の俺とは言え、弟と逢ったのかー……そういや晩ご飯を頼んでたっけ。アイツ、俺の作ったシチューとか良くリクエストしてたな」
「シチューか……気が合いそうだな」
錬がお義父さんの弟に対して理解を示していますぞ。
俺からすると義理の叔父ですな。
シチューが好きという単語から俺の脳裏では最初の世界で二年歳を取った錬の姿で思い浮かんで居ますぞ。
「尚文さんが作ったシチューですか……尚文さん。ここでお尋ねしますがそのシチューってルー等は使いますか?」
「使うと手抜きするなって家族が文句言うからフォンから作らされたよ。俺としては手抜きでも良いと思うんだけどさ」
「となるとあの味で良いんだな。そりゃあ手抜きを嫌がるだろ」
「ですね」
お義父さんが市販のルーでシチューを作ったらそれはそれで美味しいとは思いますが普段村で作るシチューを考えると味が劣ってしまう可能性を懸念してしまうでしょうな。
「なんで錬も樹も納得してるわけ?」
「人間、高度な味に慣れてしまうと劣った物を口に入れるのが嫌になるものですよ。食べ慣れたとしてもですね」
「元康もそう思うだろ? 手間暇掛けた料理というのは日々の励みになるという事だ」
「そ、そうですな」
お義父さんの為に否定しなくてはいけないような気がしますが、お義父さんの料理が美味しいのは否定してはいけませんぞ。
「そういえばお腹が減りましたね。尚文さん。ご飯にしましょう」
バンバンと樹が歩みを止め、座り込んで両手でテーブルを叩く動作で膝を叩いて催促しますぞ。
「元康さんもそう思いませんか? 尚文さんが手抜きせずに作った料理が一番ですよね」
「あのね樹……そんな雑に催促されてもさ、武器の技能でこの状況下くらいで簡潔に終わらせられない?」
「いやですよ。こんな状況だからこそ現実逃避に美味しい食事をしたいです。僕は浮き輪じゃありませんからね」
「そうだぞ。俺は金槌じゃない」
「まだ気にしてたんだそのネタ……というかそのフリーダムな所はどうなんだろう。うどんとか作ったら天ぷらを要求しそうだよね樹って」
「もちろんですよ。今ならもっと凄い物を期待しますね。アイスクリームの天ぷらとかでしょうかね」
「カレーうどんは勘弁してくれ。鼻がよくなりすぎて食欲が抑えきれないかもしれん」
樹と錬の期待が凄いですぞ。
「俺としては樹は木の実で錬は肉、元康くんは……にんじんか薬草辺りを食べるかと思ったけどね」
「尚文さんは魚ですか?」
「絵的にはその辺りが似合いそうだね。生の魚をそのまま頭から食べるのは勘弁してほしいけどさ」
「ファンシーには見えますけどね。もはや勇者では無く動物のそれですね。僕たちは心は人なので尚文さんの料理を所望します」
「料理」
「料理ですぞー」
この流れには乗るべきですな。
ですがウサウニー姿で人間姿のお義父さんに抱きかかえられるのも悪く無いような気もしますぞ。
きっと最初の世界のお義父さんが事情を知らないなら俺に野菜や根菜を突き出して食べさせるような気がしますな。
……フィーロたんが俺をウサピルだと思って追いかけ回してきそうな気もしますぞ。
「まあ、ダンジョン内で見つかる薬草とか木の実とか事前に武器に入れてあるドロップ品とかで料理は出来るけどさ。元康くんが火を出せるし……さっき錬がカレーうどんって言ってたけどカレーなら元康くんも作るの上手だよ」
お義父さんに褒められてしまいました。
どうですかな錬? お前のお義父さんの包丁コピー技術ではなく自力でお義父さんに褒められていますぞ。
「元康さんって料理に香辛料を良く使うみたいですからね。専門って事ですか」
「適度に使うって意味でね。カレーって香辛料を食べてる側面があるからさ」
「そういえば尚文は大人向けと子供向けのカレーを村の連中に作っていたな」
「辛くないカレーだね。辛みってのは本当は味覚じゃなく痛みでね。あんまり刺激しない香辛料を使えば良いんだよ。ね? 元康くん」
「そ、そうですな」
息を吸うようにお義父さんが俺に聞いてきますがこちらの世界であっさりとカレーを再現出来るお義父さんの技術は相当ですぞ。
場所によってはカレーは勇者伝来という事で製造方法があるわけですが、手近な薬草などで再現をする事は俺では出来ませんな。